リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
テストの問題を全て解き終えての一眠りでした。
その時、まるで時間についてある真理に悟ったみたいな感覚がしました。
何か宇宙の根幹について悟った!という感覚だったけど、起きてみたら完全に忘れていました。
時間が時間なだけあって絵里ちゃんとの遊びはなしだったけど。
大まかな流れは前のお泊まりととほぼ同だった。
風呂についても同じく今回も一番風呂を頂いた。
焼肉屋に行ったせいで、俺も風呂に入りたかいとは思ったけど、シャワーで何とか我慢した。
「おやすみなさい。」
俺の次に絵里ちゃんが風呂に入ってからのこと。
少し早いかなと思ったけど、俺はすぐに部屋にいくことにした。
今夜のことで色々と考えを纏めるために、一人の時間が欲しかったからである。
「ああ、瑛二くん、おやすみ!」
「牧田くん、おやすみ。」
そんな俺を蓮さんと舞さんは上機嫌な挨拶を返してくれた。
二人もすっかり酒が回って来ているのか眠そうにしている。
どうやら、この二人は酒が弱いみたいだ。
それから俺は客間へと足を運んだ。
「客間、客間と」
俺が客間に入っていくと、フカフカそうな布団が俺をむかえてくれた。
どうやら、俺が洗っている間に舞さんが用意してくれたみたいだ。
「相変わらず飾りっ気のない部屋だよね。」
俺は二回目になって、やっと部屋の感想を口から漏らした。
そこまで大きくない部屋に一つ布団だけがぽつりと置かれている。
それ自体がこの部屋が余り使われていないことを物語っていた。
「まあ、西之宮家に今までお客さんがなかったという証拠なんだろうけど、あ、植木鉢が増えている!」
申し訳程度の植木鉢が窓際に増えている。
前回、この部屋を俺に使われたことで少しでも飾ろうかという気持ちにでもなったのかな?
俺はしばらく植木鉢のお花を眺めた。
「これは俺のためなのかな?」
まるで西之宮家が俺を認めてくれたようで、中々良い気持ちだ。
この調子だとまた今度ここに泊まる時はものが増えてそうだな。
「それはさておき。」
俺は明かりを消した.
そして、布団の中に入った。
「ふわふわで気持ちいい。」
普段はベッド派だから、たまにはこう言ったものも悪くない。
しばらく、ふわふわを堪能してから、俺は一人で考え事を始めた。
「世界Cでのことで、長期戦になるかもと思っていたけど、まさかここまで過去改変が起きないとは。」
世界C、俺と岬が同じ公立中学に入った世界のこと。
俺はその世界から逃れるために、1ヶ月くらいの時間と努力を要した。
世界Cでの脱却は俺が勉学に励む必要があったからである。
「いくら、俺がこの過去改変のメカニズムを知らないと言っても、これは可笑しい気がする。」
今までの経験上、俺の未来に大きな事件があったときは、必ず過去改変が起きていた。
それは世界A、B、Cでも変わらない法則だった。
これはタイムマシンの説明書にも書かれている事実であった。
「蓮さんの宣言が俺の未来に影響を与えてないということか?」
自分で言ってみたけど、それはないと思った。
絵里ちゃんの攻略において一番の鬼門は蓮さんの鉄壁防御だった。
それが消えたからには、俺が絵里ちゃんを攻略することが更に簡単になったということだ。
というと、俺の未来には絵里ちゃんが俺の隣にいるという話である。
そして、絵里ちゃんが俺の味方になることで変わる未来がある。
「宮崎による中学校のイジメ事件。」
この事件は世界Dの俺にかなり多くの影響を及ぼしている。
世界Dの俺はこれでしばらく人間不信になって、学校にも行ってない時期があった。
これは絵里ちゃんが宮崎の味方になっていたことが原因で引き起こった事件だった。
「つまり、絵里ちゃんが俺の味方である限りは決して起こらない事件だ」
だから、絵里ちゃんが俺の味方に近いであろう今なら、その事件が消えた新たな未来が、世界Eができていても可笑しくはない。
しかし、今の俺の頭の中にはそんな記憶はなかった。
過去改変が起きてないから当たり前であるけど。
「だから、俺は絵里ちゃんがまた宮崎にガスライティングされたと判断したけどな…」
今の絵里ちゃんを見るとそんなことはなさそうだった。
最近の絵里ちゃんは自分の欲望(性欲)に充実で宮崎の誘いを無視することも多々あるくらいだ。
だから、絵里ちゃんが再びガスライティングされるというのは無しだと考えてもいいだろう。
「となると、イジメ事件はなくなるはずだけど…」
それだけでも、俺の人生は大きく変わることは目に見えてわかる事実だった。
世界Cでの俺はそのイジメ事件の後遺症が酷かったからな。
しばらく、人間不信になって、家族や岬と美鈴以外の人とは会話をしなかったくらいだ。
「だとしたら、何で過去改変が起こらない?」
俺と絵里ちゃんとの仲は過去にないくらいに最高で、蓮さんとの関係もいい。
一応、可能性として、蓮さんによって絵里ちゃんと離されるのもあり得るとは思った。
だから、蓮さんの信頼を得ることが過去改変のトリガーだと思っていたのである。
まあ、蓋を開けてみたところ、過去改変は引き起こらなかったけど。
「何で過去改変が起こらない?」
俺はしばらく原因について考えてみたけど、結論は出なかった。
それで俺は今までの経験を振り返ることにした。
「今までの世界のことか…」
世界Aでは美鈴の通話。
世界Bでは岬を名前だけ書いても受かるような中学に入れようという俺の決心。
世界Cには成績表と父のメールで過去改変が起こった。
どれも一つ大きな事件があった時には必ず過去が変わっていた。
「今回のことが大きい変化ではないとでも言うのか?」
そんなことはないと思う。
あの娘馬鹿の蓮さんが俺に絵里ちゃんを任せると宣言した。
俺に家に泊まることを薦めてくるくらいに信頼した。
これはあの宮崎にさえもできなかった快挙であった。
「だけど、過去改変が起きてない。そもそもの話、世界Dでは既に過去改変が起こっていても可笑しくない事件がいくつも起きているんだよな…」
世界Dはその期間が長かっただけあって、今まで俺が経験したどんな世界よりも、俺の未来に影響がありそうなことがたくさんあった。
例えば、俺は佐藤葵を救って、初めての友達を得たこと。
「これが一番分かりやすい変化だな。」
普通に恋人が一人増えているからね。
それに俺はずっと葵の友人として残ると誓っている。
その時点で俺と葵が一緒にいる未来の世界が作り出されているべきだった。
「それに中村のこともあるし。」
世界Dでの俺はイジメによって岬と美鈴以外の人間関係が全滅していた。
だから、俺に新たな友人が出来ただけでも過去改変があるべきだった。
どの世界の記憶でも佐藤葵と中村太一という人間は存在していない。
その二人に会った時点で俺の過去は変わるべきだった。
「そもそもの話、それよりもっと前から過去改変が起こっているべきだった。」
俺があの山で絵里ちゃんの命を救ったあの日。
この時点で俺は宮崎の計画を全て台無しにしている。
「ここで過去改変が起こってなかったから、俺は宮崎のことを過大評価したんだよね。」
宮崎の全ての計画が頓挫したにも関わらず、過去改変が起こってなかった。
だから、俺は宮崎に全てを覆すくらいの能力と才覚があると思った。
「だけどな…」
よくよく考えてみると、今の所、宮崎が俺を出し抜いてきたことは一度ともない。
罪の擦り付けとか、ガスライティングとか、恋愛相談とか。
ゾッとするような瞬間は何度かあったものの、実際に宮崎が俺を出し抜いたことは一度もない。
「もしかして、宮崎はそこまですごくない?」
一瞬そんなことが頭を過ぎる。
しかし、俺はすぐにその考えを振り払った。
「いや、何もかも油断が一番いけない。そこはかもしれない対応で行こう。宮崎は天才かも知れない。そして、今だに全てを覆す策略があるかも知れない…」
実際、俺という凡才が宮崎の対応ができている理由は、あくまでも宮崎のことを全て疑う心持ちがあったからにしかすぎない。
俺は凡才で、宮崎は天才だ。
それはだけは変わらぬ事実だ。
「宮崎に対するスタンスはそのままにするとして…あとは普通に寝取られ作戦を実行するしかないよね…」
俺は宮崎に対するスタンスと計画を改めて確認した。
当面は以前と同じく宮崎がすごいという仮定で事を進める必要がありそうだ。
「それはさておき、本当に過去改変が起こらない理由って何だろう?」
そこから俺の悩みは更に深まった。
今のところ答えが出ない問題というのはわかっている。
でも、絵里ちゃんが来るのはもっと遅い時間帯だった。
今の時間は特にやることもなかったから、俺は考えごとを続けた。
寝る前ということもあり、考えごとはかなり捗るように見えた。
「でも、宮崎がそこまですごくないと仮定したとして、何で過去改変が起こってないんだ?逆にすごいと仮定して、どうやったら、過去改変を起こらないよう出来る?」
考えがグルグルと回りに回って、自分でも訳の分からない禅問答みたいなものを繰り返した。
宮崎が凄かろうとすごく無かろうと、過去改変が起こっていないという現実だけは変わらない。
俺はどうやったら、過去改変を引き起こせるかについて、ずっと思考を続けた。
これだけ材料が揃っているのに、未来が変わらない状況というのはどういう状況なのだろうか?
そんなにも宮崎はすごい人間なのか?
俺の全ての努力を無に返すくらいに?
「…。」
当たり前なことに答えは出てこなかった。
ぐるぐると雑念が頭をめぐり続ける。
全てが一つの決められた結末に向かっているなら、その結末はどういうものなんだ?
「全てが…一つに?」
何かを掴みそうだけど、ギリギリで掴めないような感覚がもどかしさを増していく。
しばらく、一人で思考を続けてみても答えは出なかった。
やはり、俺という人間は凡才に過ぎないみたいだ。
それでも諦めずに
「はああああむ」
俺は堪らず大きくあくびをした。
しかし、眠いな。
焼肉を食べすぎたみたいだ。
食後の眠気でどんどん頭がぼんやりしてくる。
「絵里ちゃんが来るまで我慢しないと…ふああ…」
恐らく今日も絵里ちゃんは来るだろう。
そう思った俺は必死に眠気に耐えた。
その間も俺の思考の波は止まらなかった。
まるで何かを掴みかけそうな感覚と抗えない眠気で頭の中でぐるぐると格闘している。
「無に…?むに…?むに…むにゃむにゃ」
うわごとのように気になった言葉を一人呟いたけど、どんどんと意識が消えていく。
後半はほぼ寝言なようなものになっていく中で、俺は何かが頭の中で閃くような感覚がした。
「!?」
まるで宇宙の真理にでも気づいたみたいな全能感が頭を過ったと思えば、いつしか俺の意識は闇の中に溶け込んだ。
蓮さんの信頼を得たということで、折り返し地点になりました。
それで過去改変について触れる話になります。