リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
夏休みに入ってから俺は慌ただしい日常を送って来た、
葵の自己肯定感を上げたり、美鈴の本音を聞き出したりとここ一週間だけでも色んなことをしてきた。
その過程で岬がまたもや倒錯的な性癖を目覚めたという悲しい事件もあったけど、全体的に有意義な時間だったと言えるだろう。
俺がそんな有意義な時間を過ごしている間に、いつの間にか夏休みは二週間目に突入した。
これでもまだ1ヶ月近くの時間があるという時日に俺は戦慄した。
本当に夏休みさまさまである。
「ふう…今日も暑い…」
俺は公園のベンチに座ってで一人呟いた。
日陰の中だというのに、周りの空気のせいかそこそこ暑かった。
俺は仕方なく先程買ったばかりのスポーツドリンクを体のあっちこっちに当てたりしてなんとか暑さを紛らわす。
冷たいペットボトルの感触が肌に伝わってくる。
「はあ、ちょっと涼しい。生き返る…、こういう日は家の中で過ごすのが一番というのに。」
俺は少しばかり現状について不満を漏らした。
でも、これも仕方のないことだった。
今日は夏休みに入って、二度目になる木曜日。
つまり、木曜探偵団の日だった。
今の所、宮崎に反撃できる有一な手段である木曜探偵団の活動を外すという選択肢は俺にはなかったのである。
それで、今暑さを我慢しているところだったけど…
「よう、相棒!」
後ろから急に声が聞こえる。
中村の声だった。
今日は相棒か…またなんの映画やら…
「中村、一週間ぶり、おはよ…う?」
俺は普通に振り返って挨拶を返そうとしたけど、それは叶わなかった。
俺は中村の格好を見て固まるしかなかった。
何と中村はインバネスコートに鹿撃ち帽を被っていた。
そう、世界で一番有名な探偵の格好だった。
俺は開いた口を閉じられなかった。
「どうだ!格好いいだろう?」
中村は自身の格好を自慢するように俺に見せつけてきた。
どうやら、服の感想を言って欲しいみたいだ。
「…。」
しかし、俺は感想を口にすることはできなかった。
中村はそんな俺を見て、少しだけ眉を八の字にした。
「何だよ。何か言えよ。」
少し不機嫌そうにいう中村。
中村の顔の作りはそこそこいいし、こういう服装は確かに似合っている。
確かに様にはなっているけど…でも、そこじゃないんだよな…
こんな天気にそれはないぜ…
「お前、今30℃超えてるけど…?その、暑くない?」
「はあ?暑いに決まっているだろう!」
「暑いんかい…」
中村は何を馬鹿なことを聞いているんだい?という感じで言った。
流石の俺もこれにはツッコミを我慢できなかった。
いや、馬鹿はお前だから…
なんだこいつって感じだけど、このまま続けていても埒が明かない。
俺は素直に服の感想をいうことにした。
「はあ、普通に格好良いよ。似合ってるね。」
「へへ、だろう?」
俺のため息混じりでの賞賛にもかかわらず、中村は上機嫌になった。
よっぽど自分の新しい服装が気に入っているみたいだ。
これ以上服についてああだこうだする気はない。
ないけど…でも、これだけは言っておかないと。
「今日はずっとその格好のままでいる気か?さっきも言ったけど、今日は30℃超えだからな。」
「当たり前だろう!探偵ならこれだからな!」」
何が当たり前だか知らないけど、中村はノリノリにそう言い切って、自身の胸元をポンポンと叩いた。
俺はそんな中村のことを理解することを諦めた。
「後悔しても俺は知らないからな。」
「後悔なんてするものか!」
中村は調子のいい声で啖呵を切った。
しばらくしてから、俺たちは直ぐに何時もの探偵活動家を始めた。
前回の引き続きということで、俺たちは手始めに佐野さんにパツ菌のことを吹き込んだ加藤さんという人を探しに行った。
結局はその加藤さんという人も噂を広めた犯人ではなかったけど。
それは何時ものことだ。
俺たちはその後も噂の源を続けた。
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俺たちがこの活動を始めて1ヶ月。
1ヶ月という時間はかなり長いものである。
それこそ、俺たちの活動が噂になるくらいは長かった。
「やけにかみんな協力的だと思ったら、そんなことになっていたのか…」
色んな人と会って、話して、仲良くなり噂の源を確認する。
そういう活動の特性上、いつの間にか俺たちは絵里ちゃんの町でちょっとした有名人になっていた。
それにこれが友達のための活動だったという点もアピールポイントの一つになったみたいだ。
結果的に俺たちの活動に協力的な人も大分増えた。
その結果、今日の活動はいつもより順調だった。
皆、すんなりと自分にその噂を広めた人物のことを快くゲロってくれたのである。
中には頑張れと応援してくれる子もいた。
だけど、首尾自体は前回とほぼ変わらなかった。
「暑い…、今の俺はメチャクチャ後悔している…」
「コート脱いだらいいだけなのにな…」
それは案の定、中村のせいだった。
中村は服装のせいか、ものすごい量の汗をかいていたのである。
だから、俺はこまめに休憩をとるようにして、適宜に水分を補給した。
流石に友人がこんな馬鹿なことで死ぬのはみたくない。
中村はそんな俺の心を知っているかどうか、ベンチに座って呑気にコートをパタパタしている。
「だから、俺、言ったよな?ほれ、受け取れ。」
俺はそう言って中村に冷たい飲み物を渡した。
中村は俺が渡した飲み物を一気に飲み干す。
因みにこれで中村が飲んだお水は3本目になる。
「ぷはあ、生き返る。サンキュー。」
それで中村はやっと復活した。
半袖の俺でも暑いというのに、長袖の中村がさらに暑いことは当たり前だ。
「だから、この気温で長袖はやばいって。」
「うう、でも探偵といえばこの服装だから…」
相変わらず妙なところで拘りを見せる中村。
また、何かの映画で影響されているのだろう。
だからと言って、夏にコートはやりすぎだと思うけどな。
「その探偵本人でも、日本の夏を実際に味わったら脱ぐと思うよ。そのコート。」
俺は中村の横に座って、軽口を叩いた。
日本の夏は蒸し暑いからね。
それにその探偵はフィクションなんだし。
中村はそんな俺の言葉に自身のコートを見て何かを悩み始める。
やっと、脱ぐかどうかまでは悩む段階にはなったみたいだ。
「これ以上は我慢できない。くっ、でも、探偵は…」
しばらく一人で悩んだ中村だったけど、結局はコートを脱いだ。
コートの中は汗でびしょびしょになっているし、中のTシャツもびしょ濡れだった。
見るだけでも気持ち悪そうだ。
「くうう、風が染みてくる。涼しい。」
「すごい汗の量…どんだけ我慢してたんだよ。」
俺は呆れるしかなかった。
この状態のままで何時もの調子で動いていたら、中村は倒れていただろう。
適宜に休憩をとって良かったと俺は心から思った。
こいつも一応友達だからな、倒れるのは見たくない。
俺は念のためにまた近くの自販機で飲み物を買ってきて中村に渡した。
中村はまたもや一気飲みでボトルを空にした。
この状態で調査を続けることは無理そうだと判断した俺は中村と休憩がてら雑談をすることにした。
「それで、その服は急にどうしたんだよ。」
一応、映画絡みだと思って聞いてなかったけど、話題になるだろうと思って俺は中村に服装の話題を振った。
「俺たち木曜探偵団だろう?だから、探偵関係の映画を見たわけよ。そしたら、殆どの映画でこの服が出てきてさ。探偵といえばこの服装だと思ったわけ。それでママに強請って買ってもらった。」
ママって…大分疲れているみたいで、普段は俺に見せないような素が出てきているな…
しかし、俺の予想とは因果関係が逆だったな。
俺の予想としては映画から影響されて服装を準備したと思ったけど。
中村から聞いた限りは、自分が探偵団だからそういう映画を見て、探偵らしい服を見繕ったみたいだ。
中村の中で探偵に対する興味というものがさらに強まったみたいだ。
「そう?というか、探偵映画ってそんなに数あるの?俺はあんまり見た覚えとかないんだけど。」
「国内のものとか洋画とかを合わせたら、結構あるぜ?俺が見ただけでも5本くらいで、因みにこの服装はそのうち3本は出てた。」
「へえ。そうなんだ。」
映画でもそんなに数があるとはな。
そういえば、ミステリー小説とかは本屋でも本棚が出来るくらいは人気なジャンルだったけ。
俺は横目で見ただけで読んだことはないけど。
「そうよ。全部面白かったけど、中でも俺はハッタリ探偵というものが面白かった。」
「別に俺は聞いてないけどー」
急にあらすじまで話出す中村に俺は少しだけ抗議した。
映画の話になると何時もこうなんだから。
別に聞いてもいいけど、こいつは止めないといつまでも映画の話を延々と続ける。
何時ものようなエアコンの効いている部屋ならいざ知らず、こんな場所でそれは避けたい。
「いいじゃん、聞いてくれよ!手短に話すから!」
やけにしつこいな。
中村が話したがりなのは何時ものことだけど、一回断ったらやめるんだけどな…
なんでこんなにあらすじを言いたがっているんだ?
俺はそんな仲村の態度が気になった。
「分かった。だから、引っ付くな。濡れるから!」
「よっしゃ!今度は注意深く、しっかりと聞いてくれよ!」
中村はそういう前振りを残して映画のあらすじを語り出した。
ハッタリ探偵はアメリカの映画で、あの有名な探偵をリスペクトした作品だとか。
ふざけているタイトルに反して、かなり作り込まれたミステリーみたいだ。
主な内容は探偵がハッタリを駆使して、殺人犯の富豪を追い詰めるストーリーになっているとのこと。
その過程でハッタリ探偵は富豪の屋敷の中に自分に都合の良い噂を流して、屋敷の人たちを自分の味方にした。
外部からの噂を使って、屋敷という閉鎖された空間で味方を作る。
そして、その味方たちを活用して犯人の証拠を掴むという内容だった。
「って、お前それは…」
そのあらすじを聞いた俺は戦慄した。
信じられないことにこの映画のあらすじは今の状況にすごく酷似している。
今日、俺たちが会った子たちは全員俺たちに好意的だった。
まさかと思いながら仲村の顔を見た俺は驚くしかなかった。
「ふっ、気づいたか?」
中村はドヤ顔をしてそう言い出した。
まるで、全てが自分の意図通りと言った顔で、である。
確かにそれが事実ならこのドヤ顔も納得できる。
俺は到底信じられなくなって、中村に再度確認した。
「本当に?」
短い一言だったけど、それだけで中村には言葉の意味が伝わったみたいだ。
恐らく、中村は俺の反応を予想していたのだろう。
中村は俺の問いに即答してきた。
「本当。」
「まじ?」
「マジもマジ。」
そう答える仲村の顔は真剣そのものだった。
「でも、どうやって?」
俺は到底信じられなくなって、中村にやり方を問いただしてみた。
だが、中村はそれも予想していたようで、滞りなくスムーズに答えてきた。
「こういうのって、自分で噂を広めるのは良くないからね。牧田、里中って覚えてるだろう?その里中たちに俺たちの噂を広めるようにお願いしたぜ。」
里中は確か俺がパツ菌について調査し始めた時会った男の子である。
彼が罪滅ぼしがてら手伝ってくれたとのことだった。
そうやって、俺たちに好意的な噂を広めることで、調査の過程で必要な、仲良くなるという工程を省いたとのことだった。
何というか朝とは別の意味で開いた口が閉じられない。
それもいい意味で。
知ってはいたけど、今回のことを聞いた俺は認めるしかなかった。
こいつは探偵になれる。
いや、探偵以外の職になるのが勿体無いくらいだ。
「お前、凄いな。」
俺は素直に感心した。
「だろう?俺もそう思うわ。」
中村はそんな俺の褒め言葉に、また先ほどと変わらないドヤ顔で答えた。
全く先ほどと同じ感じの笑顔だったけど。
気のせいか、頭の上の鹿撃ち帽が先ほどより少しだけ似合って見えた。
今日スイッチ2が来るみたいです。