リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
夏休みに入って3週目になる木曜日のこと。
俺はすっかり慣れ親しんだ公園の中で中村のことを待っていた。
「もう夏休みの三週目になるのか…」
木曜探偵団の活動だけでいえば、これが4回目になる。
時間の流れというのは驚くほど早い。
その反面、過去改変が起こるのが物凄く遅い。
これだけ過去を掻き乱しているというのに、全く過去改変が起こる気配が見えなかった。
この直近の過去改変でも1ヶ月くらいで何とかなったというのに、今回は2ヶ月という時間が過ぎたにも関わらず、音沙汰が全くない。
「すっかり夏休みをエンジョイしていたから気づかなかったけど、これってかなりヤバくないか?」
現状からすると、過去改変が起こらない方が可笑しいと言えるくらいには大幅に過去が変わっている。
この世界は世界Aどころか、世界Dとも大幅に乖離がある過去になっていた。
しかし、そんな状況の中でも過去改変が起きないという今の現実に俺は焦りを感じていた。
「宮崎は今の現状からも逆転が出来るというのか?」
そんな筈はない。
俺は心の中でその可能性を否定した。
俺が見た宮崎は確かに優秀で、悪巧みの天才ではあった。
しかし、今の現状を変えれる程の能力を持っては居ないように思えた。
宮崎は確かに強敵ではあったけど、年相応に普通な一面を持っていたのである。
彼は三手先を読むことは出来ても、すべてのことを読むことは出来なかった。
「だから、俺でもまだ対応が出来ている訳で…」
そんな彼が今の現状を変えるためには、超常的な手段がない限りは不可能そうに思えた。
「まさか、宮崎にもそんな不思議パワーがあるとでも言うのか?」
俺は何もない自身の手首を凝視した。
まさか、宮崎にも俺のタイムマシンのような手段がある?
考えるだけで身震いがするような恐ろしい状況だった。
それが本当だとしたら最悪な事態なのは間違いない。
「それは…多分ないよな…」
だけど、俺は直ぐにその可能性を頭の中から排除出来た。
もちろん、可能性だけを考えたらあり得ることかも知れない。
だが、現状から考えたらそれはあり得ない話だ。
本当に宮崎がそんな手段を持っていたなら、俺よりは遥かに頭の良い宮崎がこんな風にやられっ放しであるはずがない。
閑話休題。
「超常的な力ではないとしても、宮崎には未来改変を防ぐ手段があるということは確かだ。」
彼が意識的であれ、無意識的であれ、そんな手段を持っているというだけは確かだった。
今の所それがどんな物かは知らないし、俺には想像も付かない。
ということは、俺には何も出来ないと言うことだ。
「今は元の計画通り、絵里ちゃんから宮崎を完全に離れさせることに集中しよう。」
俺がそう結論を出した時だった。
「おい!相棒!」
俺を呼ぶ声が聞こえた。
その声の正体は俺が待っていた中村だった。
俺は中村の声で現実に取り戻された。
「中村、おはよう。え?その格好どうしたの?」
俺は中村に挨拶を返しながらも、服装のことを聞かざるを得なかった。
何と言うか中村の今の格好は物凄く独特だったのである。
中村は前回の反省を活かしてなのか、普通の無地の白いTシャツに鹿撃ち帽を被っていたのである。
「何だよ。これってお前が言い出したことだろう?帽子だけでも探偵感が出るって言ってたじゃないか!」
ちょっと不満そうに言う中村。
そうだっけ?そうだった。
確か先週の別れ際にそんなことを言った覚えがある。
「それはそうだけど…」
だけど、こんな感じになるとは思わなかったからね。
半袖白Tシャツ、半ズボンに暗い色の鹿撃ち帽って…
帽子だけが浮いてて、中々類をみないファッションである。
この感情を一言で言い表すと…
「ダサっ!」
俺は我慢ならずに本音を吐いてしまった。
ーーーーーーーーー
それからは本当に大変だった。
顔を赤くした中村が家に探偵コートを取りに言い出して大変だったのである。
このままでは前回みたいになるかも知らない。
それに普通に中村の健康にも悪いからとのことで、俺は必死にそんな中村のことを説得した。
そして、30分の戯れ合いの末。
「ごめんって、だから、コート取りに行くのはやめよう?代わりにアイス奢るからさ。」
何とかアイスを奢ることで許して貰うことに成功したのである。
「2個、いや、3個だ!」
「分かった。何なら今買いに行く?」
「その話乗った!」
とういうことで俺たちは近くのコンビニでアイスを買ってきた。
そして、アイスを食べながら木陰の中で何時もの報告会に入る。
「ぷはあ、冷えぇぜ!やっぱ夏はアイスに限る!それで今回はだけど、今日は良いニュースと悪いニュースがあるぜ。相棒はどっちのニュースから聞く?」
中村は何時もの手帳を捲りながら話を始めた。
前回同様買い物のメモが書かれている。
挽肉に豆腐、唐辛子か…
昨日は麻婆豆腐を食べたと言ったところか?
「相棒どうした?」
中村は俺が何の反応も返さないことが気になったみたいだ。
「うん?いや、どっちから聞くか悩んでただけだよ!」
俺の反応に中村は納得したようだ。
危ない…バレるところだった。
俺としては中村の買い物メモを密かな楽しみにしていたからね。
果たして中村はこれをいつ気づくのか楽しみである。
それはさておき。
「じゃあ、良いニュースからで頼むよ。」
俺は特に意味はないけど、良いニュースの方を選んだ。
「良いニュースね。相棒にはちょっと悪いけどよ。」
俺には悪い?
じゃあ、悪いニュースではないのか?
俺は中村の発言に頭を傾げる。
しかし、続いての言葉を聞いていればそこまで悪い話でもなかった。
「ちょっと調査が上手く行きすぎている。俺が出した噂のせいで皆んな協力的でさあ。ここ一週間の間でかなり調査に進展があった。」
「それのどこが俺に悪いってわけ?」
全然悪い要素はなさそうだけどな…
「うん?だって、相棒が直接調査出来ないだろう?」
ああ、そういう意味か…
中村はこの調査のことを面白いものとして感じている傾向があるからな。
中村にとっては一人だけ面白い所を独占したという感覚になったのかも知れない。
「じゃあ、悪いニュースの方は?」
俺は残りの情報の方を確認した。
「噂の源を特定出来たのかも知れない。」
「そうなの!?」
俺は驚いて大声を上げた。
これは良いニュースじゃん。
これのどこが悪いニュースと言うわけ?
まさか、これ以上調査が出来ないからという理由じゃないよな?
「そいつはは仲田というんだけどな…」
何と名前まで調査が済んでいるらしい。
これは直ぐにでも特定が出来るのではないか?
「もしかして、先に見つけちゃったって感じか?」
俺は中村に聞いた。
中村の調査力ならそれもあり得ると思ったからである。
しかし、中村は頭を横に振るだけだった。
「いや、それが…見つけられていないんだ。」
「え、マジで?」
これは意外なことだった。
今までの中村は名前だけで、何人もの身元を特定した実績があった。
そんな中村が身元の特定に失敗するとは…
「マジもマジだ。幾ら探して見てもその仲田という奴は見つからなかった。」
これはどう言うことだ?
もしかして、他の学校の奴だったとか?
それだったらまだわかるような気がする。
「もしかして、他の学校の生徒じゃないの?」
「いや、それは違うみたいだぜ。彼について証言した生徒は口を揃って、彼がうちの学校の生徒だったと言っていたんだよ。」
中村は過去形を使って、仲田の現状を伝えてきた。
「じゃあ、もしかして、転校をしたとかなの?」
「それも違うみたいだ。」
俺の言葉を中村は否定した。
くっ、これでも違ったか。
じゃあ、一体何だといんだ?
俺は一体全体がどうなっているかが分からなくなった。
中村はそんな俺を見て、潮時か…と言った後にビシッとキメ顔をした。
そして、中村はゆっくりと口を開いた。
「他の子たちが言うには、その子はある日突然消えたみたいだぜ。」
「え?消えた?」
俺は中村のとんでもない発言をそのまま復唱した。
何と言うかそうするしかなかった。
人が急に消えたなんてあり得ない話だし、実際に起きたとなると普通に事件である。
「そうだぜ。俺が話た奴は全員そんなことを言っていた。皆んな入学式の時、仲田の名前を確かに見たらしいけど、いざ入学してみると、仲田はいなかったみたいだ。それに転校したなら、普通に先生とかが言うだろう?仲田に関してはそういうことも一切なしだったって。だから、皆んな急に消えたって言ってたな。」
あまりにも怪談じみた話である。
しかし、現実の中でそんなことが発生するはずがない。
幽霊とか怪異があるはずないからな!
…ないよね?
俺は自身の手首を見て少し不安になった。
「確かにそれは悪いニュースだな…」
ううう…頭が痛くなる話である。
見ていた刑事物のドラマが急に怪談にでもなった気持ちだ。
宮崎のことも心配というのに、その上にこんな謎謎みたいなものがブッ込まれるとは思いもしなかった。
今日は本当に地道な調査だけのつもりだったと言うのに…
「だろう?」
中村はそう言って、食べ切ったアイスの棒をゴミ箱に投げ入れた。
俺はその姿を見て思った。
これはもっと多くのアイスが必要だな、と。
「中村。」
「なんだ?」
中村は急に俺に呼ばれて、俺の方を向いた。
「お前はこの話信じるのか?」
俺としてはこの謎めいた話について全く見当がつかなかった。
だから、俺は中村の意見を確認した。
「どうだろうな?やはり、調査して見ないとわかんねえ。」
「そうか…」
中村の曖昧な話に俺は再び頭が熱くなることを感じる。
これが知恵熱という奴か。
どの人生でも初めて感じる感覚である。
まさか、俺が知恵熱を出すまで何かを考えるようになるとは驚きだ。
「なあ、中村。」
「おうよ!」
調子の良く答える中村。
何とも元気な奴である。
「アイス食べない?」
「え、先食ったばかりじゃん?」
俺の提案に中村は難色を示してきた。
だけど、その返答は聞かないよ。
兎に角、今は冷たいものを食べたい感覚だから。
「良いから、良いから。」
俺はそう言って中村を強制的に連れてコンビニーに向かった。
それからはいつも通りではなく、仲田の探索ということで調査を始めた。
だが、仲田のことを知っている奴は、皆、口を揃えて中村が言った通りのことを話たのである。
俺はその日だけで、5本ものアイスを食べるしかなかった。
大体摩訶不思議な出来事って勘違いな時が多いでよね。
私は常にそういうことを経験していたりします。
一人で消えまくるスマホの謎。
あなたには解けますかね?