リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
海は俺が思っていたよりずっと楽しい場所だった。
母なる海は俺の中で干からびていた童心を完全に復活させてくれたようで。
その時だけは未来の事情のことなんて完全に忘れて遊んでしまったくらいだ。
「まだ体が気だるいかも。」
そして、その影響は凄かった。
無限のようだと思っていた子供特有の体力でさえも、未だに疲れが残ってしまっている。
それは岬と美鈴も同じようだった。
大人の美鈴はもちろんのこと、岬さえもダウンしているくらいだった。
俺も今日は休もうかと思い、葵と絵里ちゃんに電話をいれようと思った。
それで携帯を取ろうとしたその時。
急に電話が鳴り出した。
「え?誰だろう。」
そう思った俺は携帯の画面を確認した。
そして、それを見た瞬間、俺の体に纏わりついていた気だるさが一瞬で散った。
そこには竹原先生と発信者が表示されていたのである。
まさか、このタイミングで竹原先生から電話が掛かってくるとは思ってなかった。
果たして、竹原先生は仲田さんの許可を得られたのだろうか?
「うう...少し緊張する...」
まあ、実を言うとそこまで期待はしていない。
だけど、これで緊張をしないというのも、また無理な話だった。
俺は心臓がどくんどくんと跳び跳ねることを感じる。
だが、このままいても電話が切れるだけだ。
俺は緊張を解くため、意味もなく何回か咳払いをしてから、恐る恐る電話に出た。
「もしもし?竹原先生ですか?」
「ああ、そうだ。英二くん、久しぶり。」
竹原先生は軽い感じの声で挨拶してきた。
声の感じからして、何か重い話をしようとしている空気はなかった。
ということは、俺も緊張を解いて大丈夫なのか?
まさか、こんな雰囲気から、急に断られるとかないよな?
「はい、お久しぶりです。」
俺は竹原先生に挨拶を返した。
それから本題に入る前に、俺たちは軽めの近況トークを交わした。
話を聞いてみると、何でも竹原先生はこの夏休みの間、かなり忙しかったようだ。
そんな中でも俺のために、絵里ちゃんのために、仲田さんの連絡を追ってくれたとは...
それこそ、こんな近況トークで忙しい原先生の時間を費やすのが申し訳がなかった。
俺は早速本題に入ることにした。
「本当にありがとうございます。それで...その結果はどうなりました?」
「ああ、仲田さんから許可が出た。住所を教えても大丈夫だって。」
「本当ですか!?」
俺は喜びでベッドから飛び上がった。
実は頼んでいる俺さえも、まさか許可が出るとは思わなかったからである。
普通に考えたら、見ず知らずの子供から住所を教えてと言われたら、断るだろうからな。
だから、これは本当に思わぬ収穫だった。
「ああ、俺が仲田さんに事情を説明したら、許しが出たよ。住所については後でメールで送るよ。」
「本当にありがとうございます!」
俺は再び竹原先生に感謝の挨拶をした。
本当に見ず知らずの子供である俺のためにここまでしてくれるとは思ってなかった。
もう、この人の前ではありがとうという言葉しか発せなかった。
「それと、仲田さんの連絡先も一緒に送るから、仲田さんのところを訪問する前には、ちゃんとそこに連絡をして、失礼がないように挨拶をしてから向かうこと。分かった?」
「もちろんです。」
俺は二つ返事で答えた。
さすが、竹原先生。
最後まで完璧である。
俺はその後、竹原先生に言われた通り、仲田さんのところに連絡をした。
どうやら、竹原さんが渡してくれた連絡先は父親の連絡先だったようで、男の人が電話に出た。
「はじめまして、急な連絡で申し訳ございません。俺は牧田英二と言います。竹原先生の件で連絡させていただきました。」
「ああ、君がその...話は聞いているよ。何でもうちの息子がトンデモないことをしたらしいね。」
とんでもないことか。
確かにそうだけど、まさか、それを加害者の父親である仲田さんがそういうとは思わなかった。
この人もちゃんとした大人のようだ。
だけど、俺としてはそのトンデモないことをどう反応すべきか分からなかった。
同調したい気持ちはあったけど、だからと言って、同調し過ぎると相手の気を悪くする可能性だってあったのである。
少し悩んで見ても、俺の頭では良い言葉が思い浮かばなかった。
だから、話の流れをぶったぎって、俺は無理矢理本題に入ることにした。
「この度は無理なお願いを受けていただいて、ありがとうございます。それで本日、仲田さんのお宅に伺いたいのですが、大丈夫ですか?」
「うん、それで大丈夫。息子には俺からも話しておくよ。」
ちょっと無理矢理な話題転換だったけど、仲田さんはあっさりと俺の訪問を快諾してくれた。
しかも、仲田くんにも話を伝えてくれるとのこと。
これで入れ違いとかにはならなさそうだ。
「ありがとうございます。」
俺は素直に感謝の意を伝えた。
まあ、これで仲田さんとは話がついたという訳だけど。
俺としてはどうしても一点気になるところがあった。
「ところで、なんでこの話を受けてくれたんですか?」
そう、本当なら仲田さんにこの話を受けるメリットなんて皆無だ。
何故彼は見ず知らずの子供に住所を明かすことを許可したのか気になったのである。
そんなこと普通はしないはずだ。
「実は今回のことは俺から息子を叱ることで終わらせようとしたんだ。」
「へえ、そうなんですね。」
俺としてはそっちの方が当たり前な反応だと思った。
どちらかというと、この件が特殊過ぎるケースではあったのである。
「だけど、どうも息子が一向に話を聞いてくれなくてね。」
「話を聞いてくれない?」
ふむ、それはどういうことだろうか?
俺はさらに詳しい事情が気になった。
だけど、それは叶わなかった。
「それがね...って、牧田くん、すまないけど、これで切るよ。はい、今行きます!」
という声とともに、絶妙なタイミングで電話が急に電話が切れたのである。
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それから俺は葵たちとの約束を取消して、仲田くんの家へと向かうことにした。
途中で中村を呼ぶことも考えたけど、中村はまだ家族旅行中とのこと。
中村は非常に残念がっていたけど、それなら仕方がない。
俺は結局一人で仲田家に向かうことにした。
「これは単純調査で見つからないことも当たり前か。」
数駅くらいの範囲へと引っ越していたら、単純調査でも見つかっていただろう。
だけど、仲田家は俺の町から10駅以上はなれた場所にいた。
それも乗り換えとかもする必要のある位置。
多分、GPSがなかったら俺も到底到着出来なかったと思う。
実際に俺も数回か電車をのり間違えたのである。
そんな中でも、俺は駅務員さんたちに助けを求めながら、何とか仲田家のある駅へ辿り着くことに成功した。
「やっと着いた...」
時間にすると約1時間半。
昨日の海の疲労も合間って、すでに疲れが溜まってきた。
だけど、まだまだそこで終わりではなかった。
仲田くんが住んでいるマンションは駅から、徒歩で20分は歩かないと行けない距離だったのである。
本当に疲れてもう動きたくなかった。
だが、俺は何とか絵里ちゃんのためということで、重い腰を上げた。
「思ったよりも結構時間が掛かったな。」
しばらく歩いた後に、俺はやっと仲田くんが住んでいるマンションにたどり着いた
GPSは20分と言っていたけど、実際には大体30分弱という時間が掛かった。
子供の歩幅ということもあり、もう少し時間が掛かったみたいだ。
まあ、GPSは大人の歩幅を基準にしているからな...
色々とあったものの、俺は何とか無事にそのマンションに到着した。
「ここの202号室...っと」
俺は竹原先生に貰ったメールを皆ながら、部屋を探した。
マンションということもあり、部屋はすぐに見つけた。
俺は部屋の前で少し深呼吸をした。
そして、ある程度心が落ち着いたタイミングで俺はドアベルを鳴らした。
ピンポンと音が響いて、インターホン越しで声が聞こえた。
「あの...どなたですか?」
中から男の子の声が聞こえてきた。
まあ、状況からしてこの声が仲田くんということになるのだけど...
何というか俺が思っていたのとは違い、かなり内気な感じの声だった。
俺はインターホンに向けて自己紹介をした。
「あの、俺は牧田英二と言います。今日は仲田くんに会いに来ました。」
「あ、父さんが言っていた...」
彼はそう言ってから、扉を開いた。
扉の向こうから現れたのは、声のイメージ通りに内気そうな男の子だった。
その子はこの状況が大変気まずいのか、扉を開いてからも特に自分からは何も言い出せずに俺を見ているだけ。
そのままにしておいたら、何時まで経ってもこのままになりそうだった。
だから、俺は仕方なく改めて自己紹介をして状況を進行させようと決心した。
「俺は牧田英二。はじめまして。」
「僕、仲田康平。は、はじめまして。」
仲田くんは一応自己紹介をしたものの、それっきり何も言わなくなった。
本当に内気な少年だな...
自己紹介からして、この子があの仲田康平くんということは間違いないらしい。
「...」
しかし、この子が仲田康平くんか...
これが絵里ちゃんの学校生活を滅茶苦茶にした奴...
何というか、当たり前なことだけど、仲田くんの姿は俺の頭の中のイメージのものとは大分違っていた。
俺としてはもっとこう意地悪なガキ大将というイメージをしていたけど。
目の前の男の子はそれとは全く違う見た目をしている。
本当の仲田くんは噂を広めるどころか、内気でちゃんと話さえも出来そうにない子だった。
「うっ...」
俺がじっと彼のことを観察していると、仲田くんは俺から目線をそらした。
本当にこのままでは何も始まらないなと思った俺は無理矢理話を進行させることにした。
「一旦、中に入ろうか?」
「う...うん。」
普通なら家主がいうべきことを俺が言うことにしたのである。
それでやっとのこと、仲田くんは俺を家にいれてくれた。