※この作品はR-18です。

リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する   作:霧江

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思い込み

俺たちは家に入ってリビングで向かい合うように座っていた。

これも実は仲田くんの提案ではなくて、俺が提案したものだった。

俺としても他人の家で、こんなにでしゃばった真似はしたくなかったけど、本当にこのままだと何時まで経ってもそのままな気がしたのである。

 

「...」

 

現に向かい合って座っている今も仲田くんは口を開けるどころか、俺から目線を逸らすことで必死になっていた。

俺はそんな仲田くんを見かねて、俺から話を進めることにした。

 

「あの、仲田くん?仲田さんに話は聞いていると思うけど、今回、俺がここに来た理由って知っているよね?」

 

「ううう...。う、うん。」

 

俺はなるべく優しい感じの声で仲田くんに質問した。

以前、竹原先生にも言ったけど、俺は別に仲田くんを罰するとかそう言う意図があったわけではなかった。

だから、俺はなるべく穏やかな感じで話を始めた。

 

「仲田くんは何でそんなことをしたの?」

 

「何で...って、うっ。」

 

仲田くんはそこで言葉につまった。

どうやら、緊張してちゃんと声が出ないようだった。

これでは話が出来そうにない。

ということで、俺は話を掘り下げる前に、仲田くんの緊張を解いてあげることにした。

 

「仲田くん、ジュースとか好き?」

 

「へ?あ、うん。」

 

俺はそう言って持ってきた紙袋からジュースを取り出した。

そして、それを仲田くんに渡した。

仲田くんは急な俺の行動に驚いたようだったけど、そのままジュースを受け取った。

 

「遠慮せずに飲んで良いから、どうぞ。」

 

「あ、ありがとう...」

 

仲田くんは手元のジュースの蓋を開けてそれを一気に飲み始めた。

大分、喉が乾いていたように見える。

因みにこのジュースは仲田さんへのお土産だった。

仲田さんはあんなにも無理なお願いを聞いてくれたのである。

それでさすがに手ぶらで家に上がるのは申し訳ないと思ったので、買ってきたものだった。

俺は仲田くんがジュースを飲み終えて、少しした後にまた話を始めた。

 

「一応、誤解を解いておくか。」

 

「誤解?」

 

「うん、誤解。」

 

俺は仲田くんににっこりと笑って見せた。

ただし、これは逆効果だったようで、仲田くんは少しびくんとなっていた。

俺はそれを見なかったことにした。

 

「別に俺は仲田くんに怒りに来たわけではないんだ。」

 

「ほ、本当に?」

 

仲田くんは信じられないといったばかりに俺のことを見てきた。

まあ、そんな状況での訪問だったら、普通は怒られると思うよな。

それだとこの態度もある程度は理解出きるかも。

 

「うん、だから、言ってほしいんだ。仲田くんは何でそんな噂を流したの?」

 

「あ、あの時は...本当に何も考えてなかったから...」

 

俺はその発言を聞いて一瞬イライラした気持ちになった。

こいつは何も考えずに絵里ちゃんの学生生活を台無しにしたといったのか?

絵里ちゃんが大の鈍感少女で無ければ、もっと大事になっていたはずだ。

今回のことは本当に運が良かっただけのことだった。

それなのに、こいつは...!

 

「ふうう...」

 

俺は竹原先生とのことを思い出して、何とか沸き上がる怒りを深呼吸をして押さえた。

今日の俺は怒りに来た訳ではない。

そのことを何度も頭の中で唱える。

しばらくして、心の落ち着きを取り戻した俺は、仲田くんにもう一度質問することにした。

なるべく、優しい声を出すことを心掛けて。

 

「何で何も考えずにそんな噂を広めたの?」

 

「怖かったから...」

 

怖かった?

仲田くんから飛び出して来た意味不明な発言。

どうして自分で作った架空の病院菌で怖くなるのだ?

俺は本当に仲田くんが分からなくなった。

 

「怖かったというのはどういうことなんだ?」

 

「パツ菌に感染すると思ったから...」

 

「はあ?」

 

「ひっ!」

 

仲田くんの発言に俺は思わず不機嫌な声を漏らしてしまった。

仲田くんはそんな俺の声にびっくりして怯んでしまった。

こいつはこの期に及んでもまだそんなことを...

これだけ我の弱そうな奴なのに、未だに絵里ちゃんのことを貶めようとしている。

到底信じられないことであった。

 

「そんなものはいないよ?」

 

俺は落ち着いた振りをしながら言った。

顔ではにっこりとした表情をしていたけど、声ではいらいらを隠せてはいなかったと思う。

俺は一瞬しまったと思った。

これでまた仲田くんが塞ぎ込んで話が途切れてしまう恐れがあったのである。

だけど、話は途切れなかった。

それどころか仲田くんは全く引き下がらずに、自己主張を始めた。

俺はここで何故仲田さんが俺を家に招待すると決めたのかを思い知った。

つまり、これだったのである。

仲田くんがこの主張をするだけで、全く話を聞かないからだ。

 

「あるもん!」

 

「ないよ。」

 

俺はきっぱりと彼の主張を切り捨てる。

しばらく、そうやって仲田くんと俺の幼稚な口喧嘩は続いた。

俺が何回もないと言ったというのにも関わらず、仲田くんはあると一点張り。

俺はいよいよ本当にただ感情に任せて怒鳴りそうなになった。

だけど、そこで俺は可笑しいところに気付いた。

 

「...」

 

それを皮切りに俺の熱は急激に冷めた。

何で仲田くんはこんなにも激しく反発をし始めたのか?

今まで見た彼の人柄からして、こんなことはおかしいように見えたのである。

俺は何故仲田くんが急にこんな反応を見せるたのかについて真剣に考え始めた。

そのために仲田くんのことをじっくりと観察し始めた。

 

「うっ...何?」

 

急に俺が黙りこんだことで、仲田くんは少し戸惑ったようだ。

俺はそんな仲田くんをじっくり見ながら、再び口を開いた。

 

「パツ菌なんてないよ。」

 

「む、あるもん!」

 

そう言い切る仲田くん。

あり得ないことだけど、どうにも俺には彼が真実を話しているように見えた。

もちろん、現実にはパツ菌なんて実在しない。

だけど、その上で彼の言葉が真実だとしたら...

それは思い込みから来るもの...

俺はそこで始めて彼が何故そんな主張をするのかを聞く気になった。

 

「仲田くんは、何でパツ菌があると思ったの?」

 

「僕、見たから...」

 

見た?

これまた不思議な話である。

パツ菌なんて実在しないというのに、それを見た...か。

俺は仲田くんの顔をじっと見つめた。

ふむ、やはり、嘘をついているようには見えない。

彼は本当にそのことを見たみたいだ。

 

「分かった。信じるよ。」

 

「本当に!?」

 

それでやっと仲田くんの表情も少しは柔らかくなった。

どうやら、彼にも積もりに積もったものがあるらしい。

 

「うん、だから、その見たって話をもう少し詳しく言ってくれる?」

 

俺の言葉に仲田くんは過去の話を始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから俺は仲田くんの話を傾聴した。

話を聞いてみてわかったけど、仲田くんは大の話し下手だった。

仲田くんの話は話がちぐはぐで分かり辛い。

それに順番とかも前後していた。

それでも、仲田くんの話を纏めてみるとこうだった。

幼稚園の時、仲田くんは絵里ちゃんに近づいた子が金髪になる姿を見たらしい。

それからは人気者だったその子がある日急に金髪になって、他の子たちが寄り付かなくなったとのこと。

それでパツ菌は実在していると思ったらしい。

 

「ふむ...そうなんだ。」

 

話しを終えた仲田くんはスッキリした表情をしていた。

この話をしたのは俺が始めてとのこと。

父親にも話そうとはしたものの、聞き入れて貰えなかったとのことだった。

まあ、それは仲田くんの話し下手が原因だと思うけど。

閑話休題。

俺は仲田くんの我執を破る前に一つ質問してみることにした。

 

「仲田くんって髪染めって知っている?」

 

「え?知っているけど...」

 

知っているらしい。

にもかかわらず、パツ菌なるものを信じるとは...

つまり、これは子供特有の狂信だった。

知識が足りない時に吹き込まれたことを無条件的に信じるあれ。

多分、仲田くんが髪染めについて知ったのは、パツ菌の事件があった後のことだろう。

 

だから、その事件と髪染めの関係性について気付かなかったということだ。

だって、仲田くんの中ではパツ菌はすでに病気として成立していたから。

これで先ほどの怖かったという発言も納得が出来る。

ということは、仲田くんは本当にパツ菌があると本気で信じて、その噂を流したのだということになる。

 

「仲田くん、それってただ髪を染めただけじゃない?」

 

「え、でも...」

 

それを聞いても尚、仲田くんはああ!ってならなかった。

多分、パツ菌のもう一つの症状が原因なのだろう。

俺はそんな仲田くんの我執を完全に粉々にするため、次の一手に出た。

 

「確か、パツ菌に掛かった人は、友達からも家族からも無視されるんだっけ?」

 

「そう...確かにあの子もそうだったし。」

 

「ふうん、その人って仲田くんと仲が良かったの?」

 

俺の言葉に仲田くんはしばらく考えてから答えた。

 

「別に良くなかった...」

 

「そう?それだと仲田くんはその子が一人ぼっちになったとは分からないよね?」

 

「そ、そうだけど...でも、幼稚園では誰とも遊ばなくなったもん。」

 

ふむ、それは確かに不思議な話ではある。

人気者が急にぼっちになるか...普通ならあり得ない話である。

だけど、この話しに出てくるその子とやらは、妙に自主的なところがある。

パツ菌とやらが流行ったところで、急に髪を染めて来ているし...

そういう、意図を持った人がいるとしたら、こういう可能性だってあるはず。

 

「それってこうも考えられない?その子が他の子と遊ばなかったら?急にぼっちになったとも見れるだろ?」

 

「た、たしかに...」

 

仲田くんは俺の話を聞いて何かを考えているらしかった。

ふむ、これは後一押しかもしれない。

そう思った俺はポケットから携帯を取り出した。

 

「仲田くん、インターネットって知っている?」

 

「話なら聞いたことある...」

 

話なら、か、仲田家は子供にネットをさせない主義みたいだ。

でも、仲田くんはネットのことの知識はあるとのこと。

それだと話が早い。

俺は仲田くんにスマホを見せた。

 

「あ、スマホだ...羨ましい...」

 

「あ、うん。」

 

仲田くんは俺に羨望の眼差しを送ってきた。

別に自慢するためではなかった俺は、適当に仲田くんを反応を流した。

でも、スマホも知っているなら、それで良い。

俺はネットでパツ菌を検索して、仲田くんに見せた。

 

「ほら、ネットでもパツ菌ってものは出てこないよ?」

 

「本当だ...」

 

俺はそれからも色々な検索方式でそのパツ菌を検索して、仲田くんに見せた。

例えば、髪の毛の色が変わる病気とか、友達がなくなる病気とかだった。

一応、一部症状が似たような病気とかは出てきたけど、パツ菌は当たり前なことに出てこなかった。

因みに友達がなくなる病気のところは匂い関連の病気だった。

それらを一通り見た仲田くんはやっとパツ菌が世の中にはないことを認めた。

 

「ううう...恥ずかしい。」

 

仲田くんは顔を赤くした。

自身の過去の行動に羞恥心を感じたらしい。

そして、しばらく時間が経った後は、仲田くんは急に涙目になった。

 

「俺のせいであの子が...」

 

話しぶりからして、今度はちゃんと反省をしているらしい。

まあ、ちゃんと反省しているなら、それで良い。

今はそれより大事なことがあった。

ここまでの話でわかったことがある。

仲田くんは話してないけど、仲田くんの話し方からして。

確かに噂を広めたのは仲田くんだけど、仲田くんは噂の発生源ではない。

ということは、噂の発生源は別に存在していた。

そして、それはこれまでの話しを聞いたところ、噂の発生源は明白だった。

ということで、俺は仲田くんに最後の質問をすることにした。

 

「仲田くんにパツ菌のことを教えた人は、金髪になった子だったりしない?」

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