リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
「あの時は本当に感動したんだ。剛太が急に金髪にしてきて、これだと君も寂しくないねなんて言ってきたから。」
楽しそうに過去のことを話す絵里ちゃんを裏腹に、俺は戦慄していた。
俺は絵里ちゃんの微笑ましい思い出話を聞いて、鳥肌が止まらなかった。
宮崎剛太、予め知っていたつもりだったけど、本当にとんでもない奴である。
絵里ちゃんを孤立させるために行動をとりながら、口ではそんなことを言うなんて......
もはや、宮崎のことは嫌という感情を取り越して、おぞましいとしか思えなかった。
「それは良い話だね...」
それは全く良い話ではない。
どちらかというと、酷い話だった。
本当に酷くて吐き気がするくらい。
だけど、俺は必死に取り繕った。
こんな醜悪な事実を知ったら、絵里ちゃんが傷つく可能性だってある。
だから、俺は何ともない振りをした。
俺はしばらく黙々とその話を聞き続けた。
「他の子とは遊ばずに、私につきっきりで遊んでくれたんだ。」
これは仲田くんと話をしていたあれだ。
パツ菌の症状を本物に見せるために、自ら他の子を排斥したというあれ。
絵里ちゃんの目線だとこれも良い話風に見えるのが本当に恐ろしい。
「絵里ちゃん...確認だけど、宮崎くん以外は金髪に染めてた子はなかったの?」
俺は絵里ちゃんの思い出話が一段落してから、絵里ちゃんに質問した。
すでに絵里ちゃんを孤立させた犯人が宮崎であることは確定している。
だが、俺は念のための確認をすることにしたのである。
ここでちゃんと話を詰めて置かないと、後に言い逃れされる可能性だってあると思ったからだ。
「なかったよ?剛太だけだった。」
「そうなんだ...宮崎くんだけか...」
幸いなことにというか、何というか。
やはり金髪に染めたことがある人は宮崎だけだったらしい。
つまり、絵里ちゃんを孤立させた容疑者は、宮崎しかあり得ないということだ。
「ところで、何で急にそんなことを聞いたの?」
今度は絵里ちゃんの方から逆に質問してきた。
まあ、電話をかけてから何の説明もなく、質問ばかりしているから無理もない話だ。
だけど、俺は事実をそのまま絵里ちゃんに伝えることは出来ない。
「あ、うん?それがね...俺も、金髪にしてみようかなと、思って!」
俺は咄嗟に適当な理由を見繕った。
咄嗟の言い訳ではあったものの、これは別に口先だけのものでもなかった。
絵里ちゃんがあまりにも嬉しそうに宮崎との思い出を語るから、俺としては実際に金髪に染めることも考えたのである。
「ええっ、別にそんなことする必要ないよ?」
しかし、絵里ちゃんはそんな俺の提案をやんわりと断った。
俺としてはこれは意外な反応だった。
「何で?」
俺はそう質問せずにはいられなかった。
絵里ちゃんの反応に少しだけ傷ついたのである。
だけど、絵里ちゃんの次の言葉で俺の心は解かされた。
「英二くんが私の金髪を好いてくれているように、私も英二くんの黒髪がが大好きだから!」
「うっ......」
俺は顔が赤くなることを感じた。
ありのままの俺が好きって、中々ドキドキする台詞である。
やはり、まだこんな風に純粋な好意を向けられることは慣れない。
話題を帰るがてら、今日の一番大事な用事を解決しておくか。
「絵里ちゃん、先程の話もう一度話して貰える?録音がしたいんだ。」
「どうして?」
今回も絵里ちゃんは疑問を提示してきた。
「それがね...うん...」
だけど、今回は上手く理由を思い出せなかった。
俺が言葉に詰まっていると絵里ちゃんがトンデモないことを発言してきた。
「もしかして、英二くんも岬さんみたいな性癖が出来たの?」
多分、宮崎との思い出話を録音したいと言ったことで誤解されたみたいだ。
「それは断じてない。未来永劫そんなことはないから!絶対にない!」
俺は必死にそれを否定した。
岬は俺の恋人だけど、そんな不名誉なことを言われるとは心外だった。
だって、岬の寝取られ癖は完全に俺とは無縁なもので、自ら発露させたものだったから。
「ふふっ、変な英二くん。でも、分かった。」
絵里ちゃんは少し笑ってから、同じ話をもう一回してくれた。
俺はそれを透かさず全部録音した。
そして、電話が終わってからのこと。
俺は宮崎を一刻も早く絵里ちゃんの近くから離れさせたいと思った。
確かに宮崎が俺の敵であるということも理由ではあったけど。
それ以上にこんな危険人物を絵里ちゃんから遠ざけたいという想いがもっと大きかった。
だけど、俺にはそんな力なんてない。
未来の知識を持っているとしても、今の俺は単なる子供にすぎないのである。
悔しいけど、俺では宮崎を絵里ちゃんから離れさせることは出来ない。
だから、俺は他の人の手を借りることにした。
そして、それは漣さんの手であった。
あの蓮さんのことである。
娘に危険人物が近づくことを我慢できる筈がない。
ということで、俺は連さんに電話を掛けた。
「蓮さん、突然の連絡ですみません。明日、ちょっと時間を頂くことって大丈夫ですか?絵里ちゃんのことで直接会ってお伝えしたいことがあります。出来たら、仕事も休んで頂きたいんですけど...」
「英二くん、確かに私は君に絵里のことを任せるとは言ったけど、流石にこの年での結婚は良くないと思う。だから、まだ娘はやれない......」
って、それじゃない。
やるとしても、それはもっと未来の話になると思うから...
今日も相変わらず娘バカを発動している漣さんに俺は心のなかで突っ込みをいれた。
「え?いえ、それではないです。もっと別の意味で重要な話ということでした。」
「別の意味での重要な話?」
蓮さんは俺の話に頭をかしげているようだったけど、最終的に明日休暇を使うことを了承してくれた。
やはり、日頃の行いというものは大事なものらしい。
事情を説明すれば、もっと話は簡単だったと思ったけど。
俺は敢えてそうしなかった。
電話では全てのことを上手く説明する自信がなかったからである。
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その翌日、俺は西之宮家の書斎で蓮さんと対面した。
絵里ちゃん抜きで二人きりで話すということで、絵里ちゃんにはかなり駄々を捏ねられたものの、舞さんが仲裁に入って何とか二人だけの面談が成立した。
「それで大事な話って?」
「はい、一旦これを聞いてください。」
俺は仲田くんと絵里ちゃんの証言の録音を流した。
そして、それを基で俺は蓮さんにこれまでパツ菌について調査した内容を言葉を尽くして報告した。
「これは...!!」
俺の発表を聞いた蓮さんは驚いた表情をした。
まさか、あの宮崎くんが...と呟いていることを見ると、宮崎の外面の良さが伺える。
だけど、それもこれで終わりだ。
俺は畳み掛けるように宮崎の悪行を並べ始めた。
「それともう一つ。俺が絵里ちゃんと始めて会った時、絵里ちゃんは変なことを言っていたんです。恩人には必ず恩を返さないといけないとか言ってました。何でも自分を犠牲にしてまでです。そして、これも宮崎から聞いた言葉だったみたいです。」
「それって、まさか、ガスライティング...?」
これは驚いた。
まだこの時期にはその単語がそこまで広まってないというのに。
蓮さんは検事なだけあってか、まだ世間には馴染みのないガスライティングのことについて知っていた。
これならガスライティングの深刻性について説明をする必要がないから助かる。
「あと、これはちょっと確実なものではないんですけど...」
俺はその言葉を言いかけて、どうしますか?という目線で蓮さんのことを見た。
「英二くん、話してくれ。」
蓮さんは有無を言わさぬ態度でそういった。
俺はそれで今まで暖めていたあの写真を蓮さんに見せた。
それは宮崎家の回りで草とかが切れていた写真だった。
これについては心証だったので、省略することも考えたけど、ついでという感じで見せた。
「これは絵里ちゃんが山で事故に遭った日から2日後の写真です。宮崎くんの家の回りで撮ったもので、こんな風に宮崎くんの家の回りの草が途中で切れていました。ということは、罠を作った人がここのまわりで材料を採取したと思われます。」
「まさか...あの事件も?」
「これはあくまでも心証ですけどね...」
俺はここで宮崎が命の恩という発言をしたことについても話して置くべきかと思ったが、それは流石に証明が出来ないから話さないことにした。
全てのことを聞いた蓮さんは、しばらくその写真をまじまじと睨み付けた。
それはまるで親の敵を見るような目付きだった。
実際は娘の敵というわけだが...
俺は蓮さんと目線が合わないように顔を少しだけそらした。
本当に怖くて仕方がなかったのである。
しばらくした後。蓮さんは顔を下に向けた。
「......」
「......」
そして、そのままでしばらく蓮さんは何も言わず下を睨み付けている。
書斎の中は沈黙に包まれた。
何だか分からないけど、雰囲気がヤバイ。
俺はそのまま何も言えずに、蓮さんが何かの反応を見せることを待つしかなかった。
そして、少し時間が経ってから蓮さんは顔をあげた。
「ひえっ」
こ、怖い...!
俺は連さんの顔を見て滅茶苦茶ビビって、思わず素で情けない声を出した。
そこには普段の爽やかなイケメン顔はどこにもなく、怒り狂った鬼の顔があったのである。
以前、絵里ちゃんと始めて会った日に、蓮さんには険しい表情をされたことがあった。
その時も怖い顔ではあったけど、それは今回のこの顔に比べるとまだ仏のような顔だった。
「英二くん?」
「は、はい!」
蓮さんが静かに俺の名前を呼んできた。
これは迫力が凄すぎる。
俺はこの顔を向けられるだろう宮崎をほんの少しだけ同情した。
「英二くん、悪いけど、少し解決しないといけない用事が出来てしまったよ。だから、今日はもう帰りなさい。」
蓮さんはそう言って、俺にニッコリと笑ってみせた。
まだ、蓮さんには俺に当たらないだけの理性が残っているらしい。
だけど、俺はその笑顔を見て背筋が凍った。
それは確かに笑顔だったが、俺にははまるで肉食動物が歯を見せている姿のように見えたのである。
「わ、分かりました!」
俺はそう言って、頭を激しく上下に振った。
その後は絵里ちゃんとも遊ばずに、すぐに自宅へと逃げ帰った。
俺は蓮さんを絶対に怒らせないことを心に誓った。