リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
それから数日後のこと。
俺は西之宮家に呼ばれた。
そして、この数日間あったことを蓮さんから説明された。
何でも、俺が日常を送る間に全ての事態が終わったみたいだ。
宮崎は、ここではない遠くの地方へと引っ越しすることになったとのこと。
ちょっと、急展開過ぎると思ったけど、これは蓮さんの尽力あってのものだった。
蓮さんは俺が宮崎のことを告発したその当日から、既に行動を開始したらしい。
しかも、長期休暇まで使ってまで。
「やはり、蓮さんってすごいや。」
俺はそうとしか言えなかった。
それからの蓮さんの行動力は凄まじかった。
蓮さんはその日の内に宮崎を家に呼び込んで、お話という名の尋問を行ったみたいだ。
通常だったら、先ずは親御さんを通して話を進めるところだろうけど、今回は事態が事態なだけで、宮崎から直接話を聞くことを優先したとのこと。
しかも、その際は検事のテクニックを惜しみ無く使って、宮崎から話を聞き出したみたいだ。
そのせいか、流石の宮崎も全ての犯行を認めた。
「あの怖い顔に加えて、検事のテクニックを十全に活用されたら、俺でも全部あらいざらい話しちゃいそうだからね。」
俺は先日の蓮さんの顔を思い浮かべて身震いした。
大人の意識を持つ俺でも恐ろしいというのに、それを単なる子供である宮崎がそれに耐えられる訳がなかった。
その結果、宮崎はガスライティングの件と、山の上の罠を作った犯人が自分だということをゲロった。
だが、宮崎の犯行はそれだけではなかった。
「まさかとは思っていたけど、あれも宮崎だったとはな...」
厳しい尋問の過程の最中で、宮崎は絵里ちゃんの証言以外には存在が見えていなかった、絵里ちゃんの背中を押した犯人が自身であることも告白した。
何でも宮崎が絵里ちゃんの背中を押した理由は、俺が罠を壊したからということだった。
「何とも理不尽な話だよ...」
もちろん、最初はそんなつもりはなかったらしい。
だが、俺に毎日のように罠を撤去されて焦りが出ていたとのこと。
それで今回の機会を逃せば絵里ちゃんが罠に掛からないと思った宮崎は、衝動的に絵里ちゃんの背中を押したと供述していた。
そして、宮崎は元々の計画としては、すぐに自分で絵里ちゃんを助けることだったようだ。
だけど、それも俺が現れたことで出来なくなったのである。
だから、次善策として蓮さんたちを呼んで来て、俺を犯人に仕立てようとしたのである。
「本当にとんでもない奴としか言えない。」
まさか自分が好きな相手である絵里ちゃんに直接手を出すと...
それも一歩間違っていれば、絵里ちゃんの命は本当に危険だったのである。
前にも言ったけど、俺にしてみれば、考えることも出来ない話だった。
そんな好きな相手の命を脅かす行為が出来る宮崎は本当に異常者だ。
ちなみに、蓮さんによると、宮崎の絵里ちゃんへの好意は本物だったみたいだから、尚更のことだった。
正確に言えば、その好意は所有欲に近いものだったらしいけど...
閑話休題、宮崎の全ての犯行や計画を把握した蓮さんはそれを持って、宮崎の両親に話をつけた。
最初、宮崎の両親は戸惑っていたらしいけど、息子の凶行の証拠を全部突きつけられて、それが本当だとわかったらしい。
蓮さんはそれを持って、宮崎の両親に他の町へと引っ越しと、然るべき機関での相談を要求したみたいだ。
その二人は少し渋ったらしいけど、このことを不問にすることで、何とか受け入れたとのこと。
因みに宮崎の凶行を不問にした理由は法的措置を取れない年齢だったからとのこと。
通報するだけなら、宮崎が無罪放免になるだけで、宮崎を絵里ちゃんから隔離することも難しい。
だから、蓮さんはそれを逆手に取った。
宮崎両親に宮崎の再起の可能性があることを匂わせて、引っ越しを強要したのである。
そうすることで、蓮さんは宮崎の両親から引っ越しをするという言質を取った。
「本当に蓮さんはすごいな。」
全てのことを聞いた俺はそうとしか言えなかった。
こうやって、俺の長い戦いは蓮さんの参戦による完膚なき勝利ということで幕を引いた。
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西之宮家から出てきてから、俺は呆然としていた。
「本当に…全てが終わったのか…?」
全てのことが終わったと思って、俺は少し放心状態になっていた。
数ヶ月に渡る宮崎との戦いが終わったという事実に、何だか脱力感のような物を感じていたのである。
それで俺は絵里ちゃんの家の近くの公園に一人で座って、その謎の脱力感を噛み締めていた。
まるで大仕事を終わらせた後のサラリーマンにでもなった気分だ。
嬉しさと謎の虚無感が俺の胸の奥でせめぎあっていて、何だか凄く変な気持ちだった。
これで宮崎は二度と絵里ちゃんに近づくことさえ出来ないだろう。
これは紛れもない俺の完璧な勝利と言っても過言ではない。
過言ではないけど…
「だとしたら、これは一体どういうことだ?」
俺はそう言いながら何もない自身の手首を触る。
未来ではタイムマシンがあるその場所である。
こんなにも完璧な勝利を収めたというのに、未来改変が起こる気配は全くなかった。
俺にとっては未来改変こそが勝利の証のようなもの。
だけど、それがないということは…
「まだ俺が勝ってないとでもいうのか?」
そんな筈はない。
俺は頭をフリフリして、その考えを振り払った。
これが勝利ではないなんて誰も言えないくらいは、完璧な勝利だったはずだ。
それだけは確かに言える。
なのに、どうして俺はこのままなんだ?
「うううん...わからない...」
俺はその場に座り込んでしばらく悩んでみたけど、これと言った正解は出てこなかった。
「ふうう…」
俺は溜め息を吐いて立ち上がった。
このまま、ここに居ても変わることは何もない。
そう思った俺は上原家に戻るべく駅へと足を運ぶことにした。
我が帰るべき場所へと。
「これからはどうしたものか…」
帰り道でも俺はそのことを考えた。
だけど、全く答えが分からなかった。
まあ、答えのない問いだから当たり前ではあったけど。
それでも、今までは一つの大きな目標だけを目指してきた。
だけど、これからはそんなものはない。
本当に自分の人生を一からやり直す以外は方法がないのであった。
それはそれで悪くないようにも思えたけど、そのことを考えると何だか、一歩一歩の歩みが重く感じられる。
「でも、何も手段がないからな......」
今まで通り、頑張って、勉強して、岬たちと人生を謳歌する、か。
それはそこまで悪いことではない。
むしろ、良いことではある。
だけど、目的を失くした俺が、ちゃんと今までのように人生を走りきれるかが少し不安だった。
まあ、やるしかないなら、岬のためにも、他の恋人たちのためにも頑張るつもりではあるけど...
不安なのは仕方がない。
「不安だな......」
俺は口でもその不安を吐き出した。
俺が色々と未来のことを考えている内に、俺は何時しか駅に着いていた。
何時も通り、改札を通過して、流れるようにホームに立つ。
そこで、俺はふとあることを思い出した。
「そういえば、まだ宮崎はこの町にいるんだったな。」
宮崎のことである。
他の町に引っ越すとしても、引っ越しはそこまで急に出来るものではない。
引っ越しというものにはある程度の準備が必要だった。
引っ越し先の用意とか、引っ越し業者の手配とか、色々と手の掛かることが多い。
だから、蓮さんによると、宮崎はまだこの町にいるとのことだった。
「まあ、絵里ちゃんの心配はしなくて良いかな。」
あの蓮さんがいるからね。
宮崎は絵里ちゃんに接近なんて出来ないだろう。
今日も蓮さんは仕事を休んで、絵里ちゃんの見守りをしているとのことだった。
少なくとも、宮崎が町を去るまではずっと仕事を休むらしい。
本当に娘煩悩なお父様だなと改めて思った。
だけど、この場合はそれで助かったとも言える。
これで絵里ちゃんの心配はする必要がない。
絵里ちゃんの心配は...
「宮崎は今何をしているんだ?」
俺がそんなことを考えていると、ホームにアナウンスが鳴り出した。
「まもなく、1番線に通過電車が通過します。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください。」
それは急行電車通過のアナウンスだった。
この駅は安全スクリーンとかがないから危ないんだよなと考えながら、俺はアナウンスにしたがって。後ろに下がろうとした。
だが、それは叶わなかった。
「お前、お前さえ、いなければ!」
後ろから急に大きな声がしてから、俺の体に大きな衝撃が走ったのである。
俺はその衝撃で体がくるんと回って後ろを向くようにして、線路へと引き込まれていった。
俺はそこでやっと自分は死ぬんだなということを悟った。
そのせいかは分からないけど、そこからはまるでスローモーションのように、世界がゆっくりとした動きで動いているような感覚がした。
自分の精神だけが世界から切り離されたような感覚に俺はどこか非現実感を感じる。
これが走馬灯という奴なんだろうか?
そう思って、俺は時間が遅くなる中で俺を突き飛ばした犯人の顔を確認した。
というか、俺を線路に突き飛ばした奴は宮崎だった。
ああ、しくじったなと思った。
俺は宮崎の異常性を舐めていたのである。
宮崎は自分のためなら、好きな相手の命も脅かせる奴だ。
そんな奴にとって、仇である俺を殺すなんて容易いものだろう。
そして、遅まきながら、俺はそこでやっと宮崎の奥の手というものを悟った。
宮崎の奥の手は俺を殺害することだったのである。
そういえば、宮崎と関わってからは過去改編が全くなかったなと思えば、それもこれが原因だったようだ。
確かに俺が居なければ、俺の未来もなくなる。
そうすると、変わる未来も居なくなる。
過去改編が起きなかったのは、そういうことだった。
つまり、俺が宮崎から絵里ちゃんを奪い取ろうと決心した時。
この展開は既に確定していたのである。
どんな形でも俺が宮崎に殺害されるという未来が。
そこまで考えてから、俺はこの走馬灯の中で必死に何とか体を動かそうとした。
だが、当たり前だけど、それは叶わなかった。
体は鉛のように重くて、思うようには全く動いてくれなかった。
それから、何回も同じことを繰り返したけど、体は全く動かなかった。
この走馬灯という奴は、ただ単に認識だけが引き伸ばされているだけで、体の制御等は出来ないようだ。
まあ、それが出来ていれば事故で死ぬ人なんていないか。
俺は一人でそれを納得した。
もちろん、そうしている内にも、俺の体はゆっくりと電車のところに突き飛ばされて行く。
そうか、俺は死ぬのか。
ああ、これが俺の終わりか。
何とも呆気のない終わりだ。
だけど、俺にはこれがお似合いだったかも知れない。
世界Aで自分の人生を大事にしなかった俺には...これがお似合いかもな。
俺は俺を睨んでいる宮崎のことを見つめた。
その顔は憎悪に満ちて、醜く歪んでいた。
何ともひどい顔。
口の動きからしてざまあみろとか言っているようだ。
最後に見るのが、こんな顔なんていやだな。
岬、美鈴、葵、絵里ちゃん。
ごめんな。
本当にいやだけど、認めるしかなさそうだ。
これから俺は死ぬんだと。
名残惜しいことと未練でたらたらだけど、これ以上、俺にはどうすることも出来ない。
俺は仕方なく、そのまま目を閉じてくるだろう衝撃に備えた。
「駄目!!」
そして、女の子の悲鳴が聞こえてから、俺の体にまたもや大きな衝撃が走った。
もちろん、この後も話は続きます。バットエンドなんて許さないんだから。
※ちょっと修正点があったため、再投稿しました。申し訳ございません。