青の領土と黄の領土を繋ぐ海底のトンネル。
沿革誌が残されておらず、メモ書き程度の資料や口伝でしか伝わっていない為に詳細は分からないが、凡そ三百年前――初代勇者の時代に掘られたとされる。
深さ五十メートル、海底部百キロ、全長二百キロにも及ぶトンネルは当時の最先端の技術で作られたとされている。水底に沈んでいるので確認できないが、実はトンネル部を覆うように軽量かつ高耐久なコンクリートで補強されているので内部で多少問題が起こっても崩れる心配はないとされている。
投稿が遅れてしまい、申し訳ない。
本当はトンネル編を書き終えたかったが、今回の部分だけで文字数が一万を超えており、更に残りを書こうとすると長くなり過ぎてしまうので切りのいいところで分割することにしました。
では、本編をどうぞ。
そして時間は飛び、勇者一行は再びカルボン遺跡を訪れていた。
ただし今回は夜叉兵団と事を構えるつもりはなかったので、日が沈んでから森を抜けて遺跡までやってきた。月明かりはあるのでランタンなしでも歩くことは出来るが、逆に云えば闇に紛れることは出来ないので出来るだけ物音を立てないように慎重に進む。
「ミオさん、海底トンネルの入り口は何処にあるのか判明しているのか?」
「えーっと、ちょっと待ってね」
ミオはローブのポケットから、折りたたまれたメモ紙を取り出す。
そこには彼女がまとめておいた海底トンネルに関する情報が書き記されていた。
「海底トンネルの入り口は今はもう封鎖されていて、普通には見えないみたい」
「当然と言えば当然か。下手に開けておいて、入られても面倒だからな」
「その肝心の入り口があるのが……この辺りだって」
ミオの案内の元、四人が辿り着いたのは神殿の残骸だった。
かつては荘厳な姿を見せていたであろう遺跡は見る影もなく、今や折れた柱や割れた石床しか残されてはいなかった。
「神殿の……跡地か」
「ミオ、こんなところに本当に入り口があるの?」
「図書館で見た資料によると入り口を封鎖した後、その上に神殿が建てられたって書いてあったよ。ただ何分古いから……正確な場所についてまではわからないけど」
「……仕方ないよ。手分けして探そうよ」
四人は手分けして、跡地を調べていく。
壁も天井も残されていないとはいえ、奥行きは軽く五十メートルはある敷地から隠された入り口を見付けるのは骨の折れる作業である。更には崩落した柱や石造の残骸などが散乱していて、探索をすることすら一筋縄ではいかない状態であった。とは言っても探索しないという選択肢はなかったので、四人は地道に探し続けていた。
「うわっ!」
短い悲鳴に続き、ガラガラッと崩れる音が響く。
何事かと振り返れば驚いた様子のミオと、その側で土煙を上げる瓦礫があった。どうやら調べるために何げなく触ったことで、絶妙なバランスを保っていた遺跡の一部が崩れたらしい。
「ミオ、大丈夫?」
「うん、騒がせちゃってごめんね?」
「古いところだからな、不用意に触らないよう気を付けよう」
それから更に一時間ほど経ったが、それらしい痕跡は見つけられなかった。
元より広い範囲を四人で作業しているのだから、そう都合よく探せるわけがないのだ。
「……ねぇ、ふと思い出したんだけどさ」
休息を取っていると、フブキが口を開いた。
何かと思いながら三人の視線が、彼女に向けられる。
「物語とかでよくある設定なんだけど、地下への入り口とかって簡単に見つからないよう説教壇や石造の台座なんかの下に隠されてることが多いみたいなんだよね」
「あー……」
そういわれて、何げなく視線を神殿の奥の方へと向ける。
そこには説教壇のようなものはなかったが、かつて立派な石像が置かれていたであろう円形の台座が鎮座していた。石像は足元を残して崩れてしまっていて役目を終えても尚、台座だけはその場所に残されていた。彼女の言う通り、確かにその下に階段などの出口があってもおかしくはないように思える。
「……可能性はあるな」
「でも、あの辺りも調べたけどそれらしい仕掛けはなかったよ?」
「もしかしたら古すぎて、壊れているのかもしれない」
「ってことは、人力ってってコト?」
「力作業なら小生の役目である!」
バクニが率先して立ち上がると、台座の方へと向かう。
残りの三人も遅れながら腰を上げ、そちらへと足を運ぶ。
「ふんぬぬぬっ!!」
先に台座の元まで近寄ったバクニは、台座に手をついて力を込めていた。しかし幾ら勇者一行の中で最も力があるとは云え、彼一人では軽く数トンはある台座を動かすのは不可能であった。顔を真っ赤にしながら頑張ってはいるが、流石に無理があるので三人も協力する。
「ミオさんは魔法でこの台座を浮かせてくれ。床との接点が少しでも減れば楽になる筈だ」
「分かった。頑張ってみる」
「それから力を上げるバフを掛けた状態で、俺たち三人で協力して台座を押す」
「了解!」
「し、承知したのである!」
それからデュラハンは自分を含めた三人に肉体強化のバフをかける。
それぞれが位置についたのを確認すると、ミオが台座に向けて浮遊の魔法を掛ける。
「せーのっ……!」
タイミングを合わせて、三人で押す。
先ほどはビクともしなかった台座がズズッと擦れる音を響かせながらゆっくりと動いていく。
「あと……少し……!」
「ぐぅっ……ぬおぉぉぉっ!!」
最後の一押しを終えると同時に、台座を動かすのを止める。
呼吸を荒げる仲間を労いながらデュラハンが台座のあった床を確認すれば、あからさまな階段みたいなものはなかったが、周囲の床とは少しばかり色が違う石材がはめ込まれていた。デュラハンが膝をつきながら指で床の境目をなぞっていくと、指を差し込める程度の隙間が見つけられた。そこに指を差し込んで力を込めてみれば、厚みこそあれ石板は一人でも持ち上げることが出来た。
蓋となっていた石板を退かせば、ぽっかりと空いた真っ黒な縦穴が現れる。
「これが、海底トンネルに通じる入り口か」
「……これ、随分と深そうだね?」
「ちょっと待ってくれ」
デュラハンは魔力を込めれば明かりを発する石を取り出す。
光を発する石を縦穴の中へと落としてみれば、あっという間に底へと到達してコン、コン、コォォォンと、まるで太鼓を叩いたかのような空虚で長い反響を響かせた。どうやらそれ程深くはなく、それでいて降りても水たまりに落ちるという心配もなさそうではあった。
「これなら大丈夫そうだな」
「であらば、小生から先に降りよう」
「頼めるか」
「任されよう」
安全性を考え、バクニが先に降りることとなった。
縦穴の壁面を削って作られた足場を使って降りていき、足が地面についた彼は落ちていた光源の石を拾い上げてから周囲を見回す。一先ずは安全であることを確認できると、上を見上げて三人に向かって叫ぶ。
「大丈夫である! 降りてくるのである!」
「ミオさんとフブキさん、二人が先に行ってくれ。俺は最後にここを閉めながら降りる」
「え? 閉めちゃうんですか?」
「開けっ放しにして、魔物が入ってきたらバックアタックを受ける恐れがある。それに夜叉兵団もくる可能性もある以上、ここを見える状態にしない方が安全だ」
「なるほどぉ」
それからミオ、フブキの順に降りていく。
最後にデュラハンは縦穴に入りつつ脇に置いてある石板を引き寄せ、きっちりと蓋をしてから降りていく。
◆
縦穴を降り立つと、そこは四平米ほどの小部屋となっていた。
室内にはこれといった物はなく、古い木製の扉があるだけのシンプルな空間だった。扉を確認すれば長い間日にも当たらずにいたのかひび割れや日焼けはなく、非常に古いにも関わらず原形を留めている。ただ無傷という訳ではなく、扉の底や金具の周囲などは湿気で少しばかり柔らかくなっているのが分かる。
慎重にリング状の引き手に触れ、ゆっくりと引けばギギッと音を立てながら扉が開かれた。
「これは、階段?」
デュラハンの後ろから覗き込んだフブキが声を漏らす。
扉の向こうにあったのは、地下へと通ずる螺旋階段であった。階段の幅は大人二人が並んで降りれるくらいはあり、天井もそれなりの高さがあるので閉塞感は感じない。ただ光源となるようなものが一切ないので暗闇が広がっており、まるで奈落へと繋がっているような不気味な雰囲気が漂っていた。
「……降りるか」
そうしてデュラハンが一歩を踏み出そうとした瞬間、ぎゅっと光源の石を持っているのとは反対の手を誰かに掴まれる。顔だけを後ろへと向ければ、顔を蒼褪めさせたミオが目に入る。どうやら彼女が無意識に目の前にあったデュラハンの手を掴んだのだ。
「あっ、あの、ウチ……その」
「……バクニ、悪いけど明かりを持って先に進んでくれ」
「うむ!」
デュラハンは道具袋から短い棒を取り出し、その先端に石をはめ込んでからバクニに渡す。
光棒を手にしたバクニがずんずんと螺旋階段を下りてゆき、その後をミオの手を引きながらデュラハンが続き、フブキは殿を務めるように最後尾をついてくる。
地下へと通じる長い長い螺旋階段は荒い岩盤を直接削って作られたのか表面は不均一で滑らかさは感じらず、光が当たると不規則に拡散と反射して不気味な雰囲気を醸し出している。また地上の新鮮な空気とは異なり、地下に進むにつれて冷たく、それでいて湿気が肌にまとわりつくように強くなっている。合わせて湿った土の臭いと、独特な黴臭さが混ざり合って鼻腔を刺激してくる。
そんな中を、足音を反響させながら四人は階段を下る。
「うぅ……」
そんな中、ミオはかなりびくついていた。
知らなかったが、どうやら彼女は怖いものが苦手なようだ。
「ミオさん、大丈夫だから。普通の階段だから」
「で、でもぉ……」
「あー、ミオはこういうホラーが苦手だからね。動きが制限されるけど、付き合ってあげて?」
「問題ないけど、これだとこの先持たないな」
まだ螺旋階段を降り始めて一、二分程。
後どれくらい続くか分からないが、今から恐怖しているようでは海底トンネルを抜けるまで気力が持つかも怪しい。
「……ミオさん、この海底トンネルについて調べた情報を教えてくれないか?」
「………え?」
「ここの成り立ちや、何か伝えられている話とかあれば聞きたい」
「……わかった」
その提案にミオは首肯し、ぽつりぽつりと話し始めた。
この海底トンネルは今から約三百年ほど前、当時の最先端技術を結集して作られたものだったと云われている。その時代はまだ海路は開拓されておらず、造船技術も未熟な上に海上での航行は魔物による被害も多かったのだ。なばら無理に孤島との交流を無理にする必要はないのではと思われたが、その当時は黄の領土でしか採掘出来ない特別な鉱石があり、それを運搬するために建造されたのがこの海底トンネルだったとされている。
当時は頻繁に使用されていたようだが、やがて海路で運搬できるようになれば使う機会もなくなり、終いにはその存在自体も忘れられて今に至る。
「というのが、残されてた資料の内容だったよ」
「つまり、百年単位で放置されていると」
「少なくとも、青の領土側から使用された記録はないみたい」
「成程……と、どうやら下についたみたいだな」
降り始めて数分、それまで続いていた閉塞感から解放される。
螺旋階段を下り切れば、そこは入り口の小部屋とは比べ物にならないほど広い空間が広がっているようだった。バクニが持っている光棒を掲げても、なお全貌を把握できないくらいには広いことが分かる。近くの壁には打ち捨てられた木箱が幾つか放置されているだけで、他に目ぼしいものは見当たらない。更に自分たちが下りてきた階段とはだいぶ離れた場所に、おそらく物資運搬用の昇降機と思われる装置があることに暗闇でも問題なく見通せるデュラハンだけが気が付いていた。
「……さっきの話からして、ここは運んできた物資を一時的に保管する場所なんだろうな」
「随分と広いね」
「ぬぅ、これでは何処へ向かえば良いのか分からぬ」
「いや、おそらくあっちだな」
「あっち?」
デュラハンが指さした方には、確かに奥へと通じる石のアーチがあった。
ただ他の三人はバクニが光棒を向けることで、初めてその存在に気が付いたようだった。
「あっ、本当だ」
「あのく君、よく行き先が分かったね?」
「……床の方を見てくれ」
「床?」
三人の視線が床へと向けられる。
そこには古くなった枕木と錆びたレールが設置されているのが見え、それはアーチの方へと続いている。おそらくは物資の運搬用に使われていたのだろうが、残念ながらトロッコらしきものは見当たらない。もっとも、あったとしても錆びついていてまともに使えなかっただろうが、それでも道しるべとしてレールは役立つことだろう。
「それじゃあ、出発する?」
「うーん、休息を取ってからの方がいいと思うよ。この海底トンネルは海を渡っているから距離も長くて、普通に歩いて行っても二日は軽く掛かると思うし」
「見た限り、この辺りは魔物の気配もなく安全ではあるな」
「休みは必要である!」
「なら休憩を挟んでから、出発しよう」
その後、四人は携行食で腹を満たし、それぞれ仮眠を取った。
休息を終えた後は再び光棒を手にしたバクニが先頭に立ち、その後方にデュラハンとミオが並んで続き、最後尾をフブキが追う。ミオは相変わらず暗闇を怖がっている様子だったが、先ほどまでと違って幾分余裕が出ている様子だった。
「もう長いこと使われてないトンネルだから真っ暗と思ってたけど、想像より明るいね。どうしてかな?」
「ああ、それは壁や天井から生えてる輝光石が理由だ」
「輝光石?」
「あれだよ」
デュラハンが指さした方を見れば、確かに壁や天井からぼんやりとした光を発する水晶のようなものが自生しているのが分かる。一つ一つの光量は決して強くはないが、それが幾つも集まることで幅が軽く五メートルはある海底トンネルの中を照らし出していた。これなら光棒に頼らずとも、足元が悪くても何とか済むだろう。
「あのく君が出した石に似てるね」
「殆ど一緒だな。ただ俺の使っているのは魔力を光に変換するのに対し、あっちは魔力をエネルギーとして内部に蓄えて時間をかけて光に変換する。利便性としてはこちらの方が使い勝手がいいが、あれも需要はあるから時間があれば採取して売却してもいいと思うぞ」
旅の軍資金として、手近にあるものを幾つか採取していく。
そうしながら四人はトンネル内をマイペースに進む。
「それにしても、こんなトンネルを海底に作るなんて凄いねー!」
「三百年も前となれば、今よりも魔法に関する技術は高かったとされているからな。同じ魔法でも全く違ったものに見えたらしいぞ」
「むっ! 皆、敵襲である!」
和気藹々と雑談に興じていると、バクニの警戒を告げる声が響く。
前方からは勇者一行……いや、久しぶりのご馳走を前に涎を垂らしながら襲い掛かる魔物の姿があった。それは見たこともない種類だったが、四人は慌てることなく武器を構える。そこからの道中は、幾度となく魔物のの襲撃を受けながらトンネルを奥へと進んでいく。
やはり人の寄り付かない海底トンネルは独自の進化を遂げた魔物の巣窟となっていようで、独特の光沢を持つ外殻に包まれた巨大な蜘蛛や目と腕のある巨大なキノコといった見たこともない魔物が徘徊していた。ただトンネルの中という制限された空間故に数に物を言わせて攻めてくることもなければ、魔物同士も仲間ではないので協力するどころか互いに殺し合うことも珍しくなかった。
むしろそういった魔物同士の衝突を利用し、無駄に体力を消耗を避けながら四人は歩く。
◆
「いやぁ、随分と進んだね」
トンネルの中を歩き始めて、既に二日が過ぎた。
もっとも、地下では日と月の動きは見えないので実際の時間がどのくらいか分からないので凡そではあった。それでも足の疲労度具合から海底トンネルを七割ぐらいは進んできたことは、四人とも経験から予想出来ていた。
「しかしこうも暗闇が続くと気が滅入るであるな」
「そうだね。独りだったら、とてもじゃないけど持たないよ」
定期的に休息を取っているが、時間の経過も分からない仄明るい閉鎖的な空間にいるというのは生物にとってストレスとなる。更には地下特有の重く湿った、黴臭い空気は生理的な不快感をもたらし、普段以上の疲労感も相まって気が滅入りやすい。
「感覚的に明日?には抜けられそうだね」
「あれ? ねぇ、みんな! 前に大きな岩が見えるよ」
フブキが前方を指さしながら、そう伝える。
見れば未だ距離こそ離れているが、確かに軽く二メートルはあるのが分かった。
「む? これは落盤であるか?」
「それだったら、このトンネルが崩落しているから違うよ」
「………」
デュラハンにだけは、その正体に気が付いた。
それは一見すれば不自然に隆起した黒曜石の塊のように見えたが、それがただの岩でないことは直ぐに理解できることだろう。全身を覆うのは古びた青銅のような鈍色の光沢を持つ鱗、そこに長い年月で付着した苔がその巨躯を岩のように擬態を与えている。しかしズシン、ズシンッと地響きのような音を立てながら動く様から、それが確かな生命体であることを告げていた。
それは下げていた巨大な頭部をゆっくりと持ち上げ、岩めいた顎を開けば暗い口の奥から熱を孕んだ湿気と硫黄のような臭いが漏れ出していた。眼窩の奥では琥珀色の瞳が鈍く光を捉え、一切の感情を排したかのように獲物を見据える。
種別:ベドラック・ドラゴン 種族:地竜 危険度:Ⅲ
体力:5262 魔力:1315 総合戦闘力:6577
――■■■■■■ッ!!!
ビリビリと、空間を揺さぶるほどの咆哮が響いた。
脳内を直接殴られるかのような衝撃に、思わず両耳を抑えながら顔をゆがめる。
暫くして治まるが、まだ脅威は過ぎ去っていない。
「な、何であるか、この面妖な魔物は!?」
「た、多分ワニって生き物じゃないかな!?」
「……いや、違う。こいつは、ドラゴンだ」
「ど、ドラゴン!? ……って、なに?」
デュラハンの発言に、フブキが首を傾げる。
地上で、それも比較的に平和な白や青の領土でドラゴンを目撃する機会など先ずなく、生粋のお姫様であるフブキが知らないのも当然と言えば当然だった。だが元より冒険者として噂の耳にしたことのあるバクニや、研究の知識として知っていたミオは息を吞んでいた。先ずこんな場所で遭遇することを想定していない、極めて危険な魔物だ。
「ドラゴンって言うのは、最も獰猛で危険な魔物だ」
「種類も数多く確認されていて、まだ未確認のことが多いって本で読んだことがある」
「熟練の冒険者でも、落命する危険のあると聞いたことがあるぞ」
「ど、どうしよう。大人しく退散した方がいいかな?」
「……ムリ、だろうな。あの感じ、完全に俺たちを餌として認識している目だ」
「ですよねー!」
駄目もとの問いに否定を返されてしまい、フブキが悲鳴に近い声をあげる。
一方でドラゴンは頭を持ち上げるように大きく息を吸い込み、その仕草の意図を読み取ったデュラハンは大声を張り上げる。
「全員今すぐに、俺の背後へ!」
デュラハンの警告に、三人は身体が弾かれたように背後へと飛び退いた。
ほぼ同時、ドラゴンが巨大な口を限界まで開けば喉の奥、炉の奥底で燃え盛る白熱の鉄のように鈍い橙色から眩い白色へと脈打つ。
そして、轟音と共に、それは放たれた。
炎のような明確な色彩はない。だが、その口から迸った見えない奔流は空間そのものを捻じ曲げ、溶かし去るような灼熱の激流だった。ブレスの直撃を受けた周辺の岩壁は一瞬にして赤熱し、ボロボロと崩れ落ちていく。もし真正面から直撃を浴びようものなら見えない熱の津波にのまれ、瞬く間に骨まで灼き尽くされるだろう。
「――っ、全員無事か!?」
「も、問題ないよ!」
「こっちも無事!」
「小生も大丈夫である!」
ドラゴンのブレスは、デュラハンが寸前で展開した風の防御膜により防がれていた。
ただ直撃を避けられても、ブレスの直撃を受けた空間は無事では済まなかった。壁や床は長時間赤熱状態となり、ブレスによって発生した熱気は離れていても蒸し暑く、何もしていなくとも汗が自然と流れ出る程だった。
「一旦下がるぞ。これではまともに戦えない」
「う、うん」
これ以上踏みとどまるのは危険と判断し、四人は一度引き返すことを選択する。
幸いにも、ドラゴンはその場から動く気がないのか、追ってくることはなかった。
「さて、どうする?」
「ここまできて、尻尾を巻いて逃げ出すってのは格好悪いし」
「敵前逃亡など戦士にあるまじき行い! 奴の首級を取るまで諦めぬである!」
「でも、あのブレスは厄介だよ。あの感じ、直撃を避けられても高温の中で戦うのは無理があると思う」
「下手に壁や地面に触れようものなら、火傷しちゃいそうだったよ」
「火傷で済めばいいがな。兎も角、ブレスの対策を取らないとまともに戦えもしない」
「うーむ、小生は考えるのは苦手である」
バクニは腕を組みながら、頭を悩ませる。
それでも思考を放棄しないのは、彼なりにどうすべきかを考えているんだろう。
「あのくさん、改めてドラゴンについて教えてくれる?」
「説明をすると長くなるから、ここにいる個体に限定して話す。見てこそ巨大なトカゲのようだが、その鋭い爪と牙は生半可な防具など容易く貫通する。そしてブレスをまともに食らおうものなら、灰すら残さず消滅することになるだろう。開けた場所ならいざ知らず、この限定された空間では避けることは先ず不可能だろう。ここまではいいか?」
「うん」
「次に防御力だが、こちらもかなり高い。比較的柔らかい腹からならば刃も通るが、相当な力を込めなければ筋肉に阻まれることになる。だが厄介なのは鱗に覆われた背側、まるで全身を金属の鎧で覆っているようにも見えるが、実際のところ殆ど同じだ。多分、バクニが全力で戦斧を叩きつけたとして傷をつけるどころか、逆に刃毀れするくらいには硬い」
正しく「守りは硬く、攻めは鋭い」を体現した怪物――それがドラゴンなのだ。
デュラハンからの説明を聞き、益々打ち倒すのが生半可なことでないことを思い知る。
「それにしても、あのく君は随分と詳しいんだね? ウチなんて本の内容しか知らないから……」
「……まぁ、冒険者としての情報収集は大切だからな」
そう曖昧に返す。
実際にはグルメな魔王様の舌と腹を満足させるために、様々な魔物の肉を調べた末の結果に過ぎなかった。特にドラゴンといった強い魔物の肉は大層気に入られたらしく、何度か討伐依頼を受けて捕獲したりしたこともある。もっとも過去の事を語ることは出来ないので、こうやって誤魔化すことしか出来ないが。
「さて、改めてブレスをどうするか考えよう」
「何か策はある?」
「そうだな……例えば物理的に口を開けられないようにするなんてもあるが、そうするには動きを封じて接近する必要になる上に口を開けられないよう丈夫な物で縛る……これは現実的ではないから却下だな」
「それに一度撃たせなくとも、二回目も同じように防げる保証はないし」
「ブレスを吐く器官を傷付けない限り無理じゃない?」
「……いや、不可能ではないな」
「えっ?」
フブキの呟きに、デュラハンが頷く。
彼は自身の荷物をガサゴソと漁りながら、話を続ける。
「見た限り、あのブレスは高温のガスになっている。そこへ火なんかを近づければ、引火して一気に燃え上がるだろうな」
「でも高温に耐えられるってことは、体内の熱への耐性も高いんじゃないの?」
「ただ燃やすだけだと何とも言えないが、それが爆発物だったらどうだ?」
「それなら期待できるけど……ウチたち、そんな物持ってないよね?」
「確かに爆弾はない……が、代用できるものならある」
そう言って、彼が取り出したのは見覚えのある瓶。
それは以前ギルマスから貰った度数の高い、ヴォトカと呼ばれる酒だった。
「これはアルコール度数が高いからな、こうして瓶の口に適当な布切れを確りと詰め込む。後は外側に出ている布の先端に火をつければ完成だ」
慣れた手つきで、デュラハンは火炎瓶を作成する。
これをドラゴンがブレスを吐く前に口腔へと投げ込むことが出来れば、大爆発することは間違いないだろう。
「ただ問題なのは、誰が投げるかだが……」
「無論、それは小生の役目である!」
「タイミングは一度きり、ドラゴンが顎を大きく開き、ブレスを発射させようとする瞬間のみだ。少しでも遅れてしまえば火炎瓶はブレスの熱と圧力で壊れ、逆にお前自身が強烈な炎に巻かれることになる。それと火炎瓶を確実に口腔深くに到達させるために、至近距離からの投擲が求められる。極めて危険な役目だ……それでもやれるか?」
「愚問なり」
デュラハンの警告に、バクニは戦意を滾らせる。
その姿は正しく勇敢なる戦士であり、彼を仲間に選んだフブキたちには先見の明があったようだ。
「改めて作戦を伝える。バクニはドラゴンは息を吸い始めたら至近距離までダッシュ、奴が顎を開くのと同時に投擲。成功の可否を問わず退避する」
「心得たのである!」
「次にミオさんは魔法で土の壁を幾つか作ってくれ。バクニの進路の妨げにならないよう、脇の方にだ」
「わかった」
「最後にフブキさん」
「はいっ!」
どんな役目を任されるのかと期待に満ちた目で見つめる。
しかし予想とは裏腹にデュラハンは穏やかな声音で告げる。
「後方で待機かな」
「……え」
「作戦が成功したら前に出て戦ってもらうけど、それまでは待機だな」
「むー……分かった」
自分だけ明確な役割がないことに若干不満を感じつつも、今は自分の出番ではないと悟って納得する。
四人は再びドラゴンと対峙する位置まで戻ってくれば、先程と同じように巨体は微動だにせず道を塞ぐように居座っている。洞窟の主たるドラゴンからすれば人間程度、取るに足らないと近づいてくるまで反応するつもりもないようだ。
デュラハンが火炎瓶の芯に火をつけ、それをバクニに手渡す。
それから出来るだけドラゴンの距離を縮めようと近づいていき、残り十メートルほどまで進んだ所で。
「―――」
むくっ、とドラゴンが鎌首をもたげる。
相手がこちらに意識を向けたのを見て、デュラハンは仲間に合図する。
「ミオさん! バクニ!」
「分かった! 大地よ、隆起してわが身を守れ!」
「承知っ!」
ミオの詠唱の直後、トンネル内の地面がせり上がり、柱のような土壁が幾つもそそり立つ。
それらの障害物を利用してバクニは距離を小走りで詰めていき、視界を遮られたドラゴンはキョロキョロと視線を泳がせる。だが、自分に接近してくるバクニに気が付くと、手っ取り早く排除しようとブレスの体勢に入る。大きく息を吸い込み、やがて目の前の獲物を焼き尽くさんと顎を開き――。
「バクニ!」
「ぬおおおおっ!!」
振りかぶった火炎瓶を、全力投球する。
ドラゴンは急に口内に異物が入ってきたことで反射的に飲み込んだ直後。
―――どもぉぉぉんっっっ!!!
ドラゴンの体内越しに、爆発音が周囲に響き渡る。
口からブレスどころか黒煙を吐き出し、やがてズシンッと音を立てて頭部が大地に沈む。
「……やった、やったのである!!」
困難な作戦を成し遂げたバクニが雄たけびを上げる。
土壁に身を潜めていた仲間たちも、警戒しつつドラゴンの方へと近づいてくる。
「大手柄だよ、バクニさん!」
「これぐらい当然である!」
「それで……これ、死んだのかな?」
「どうだろうな。まぁ、首を刎ねた方が確実だが……」
そんな風に話していると。
白目を剥いていたドラゴンの瞼がピクピクと動き、やがてズガンッと前足を地面に叩きつける。そしてゆっくりと持ち上げる頭部に、誰一人として言葉を発することが出来なかった。
「……」
「……」
「……」
四人が呆然としている間に、ドラゴンは体勢を立て直す。
先ほどまで爬虫類のように細かった瞳孔が大きくなり、その眼には明確な敵意と殺意が宿っているのが分かる。口の端からは変わらず黒煙が漏れていたが、食いしばられた牙からはギシギシときしむように擦れ合う音が聞こえてくる。
明らかに、ドラゴンの怒りが頂点に達しているのだと理解できる。
「もしかしてだけど……」
「……最悪な予想が当たってしまったかな」
「これ、戦わないといけないパターンだよね」
「それしかないだろうな」
命にまでは届かなかったが、厄介なブレスを吐くための器官は潰せた。
こうなったら、正面から討伐する他にない。
「さて、みんな。改めてやるぞ!」
「お、おぅ!」
「任せて!」
「任せられたである!」
改めて、勇者たちが武器を構える。
◆タコマ・ギャロッピング
年齢:25歳 性別:女性 身長:161㎝ 適正:棍棒、魔法(黒)
装備:聖者の杖、みかわしの服、幸運の耳飾り
体力:708 魔力:2834 総合戦闘力:3542
偽勇者の仲間である女僧侶。
誰もが認める美貌の持ち主であり、悪知恵の働く演技派でもある。
頭の回転が速く、鋭い観察眼で偽勇者一行の機能的な中核を担っている。
イメージは、某漫画の欲望に素直な女スパイ。
あちらと同じくお宝に目がなく、宝石に囲まれて生きたいと思っている。
なお、美貌に反してスタイルに関しては正反対である。
クリック? クラック! また今度。
フレアの立ち絵が適してる?(あるいは好み?)
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