※この作品はR-18です。

Holo Quest   作:轟th

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・認識票
 冒険者ギルドに登録した者に与えられる身分証。
 冒険者のランクを示す指標であると同時に個人を証明する身分証である為、ギルドの仕事を受けない人間であっても登録している場合が殆どである。なので誰しもが常に首から金属製のプレートの付いたチェーンを首から下げている。
 全員が共通して赤錫(見習い)としてスタートし、ギルドでのクエストの達成率や魔物の討伐数等と言った各人の行跡を考慮してランクは上がっていき、黒鉄<青銅<白銀<黄金といった順に上がっていく。ある程度の実績を積むことで一人前(青銅)として認められ、重要度の高い仕事も回してもらえる。
 なお、冒険者ではなく身分証としては灰鉛のプレートになっている。


では、本編をどうぞ。


scene.3

 白の領土・コーンフィールド王国の王都から北西の方角にあるジンク村までは、徒歩で移動するには約四日を要する。旅に慣れている者や気ままな一人旅であれば三日目の夜には辿り着くことも出来るかもしれないが、魔王討伐の旅は数か月、あるいは一年はかかる長旅となる。最初から飛ばしていては最後まで持たないということで、気長に旅をしようと四人は最初の日の夜に話し合って決めていた。

 そういった理由から、勇者一行は徒歩でゆっくりと進んでいた。

 長旅なら馬車を用意した方が大量の物資を運搬することができ、悪天候時には屋根があれば雨風をしのぐことも出来る。更には自分の足ではなく馬が運んでくれるので身体的な負担は少なく、体調がすぐれなかったとしても停滞せず旅を続けられる。

 しかし、馬車を維持するにはかなりの手間――馬用の餌や水、更には馬車本体の整備などが必要であり、それなりの費用も掛かってしまう。そして何より問題なのは馬車というのは遠目からでも目立つ存在であり、魔物だけでなく野盗からの襲撃に遭う危険性が潜んでいる。

 なので別で護衛をつける商人や貴族、あるいは街から街を繋ぐ乗合馬車でもない限り普通の冒険者が馬車を使用することはあまりない。

 事実、街道では幾度となく魔物の襲撃を受けた。

 魔物と言っても白の領土に出現する個体の危険度はそれほど高くはなく、武器があれば赤錫の冒険者でなくとも相手に出来るハザードⅠが殆どだ。稀にハザードⅡの目撃情報もあるが、幸いなことに勇者一行の前にそれが現れることはなかった。

 

「ふぅ……これで最後であるか」

「……どうやら、そのようですね」

 

 最後の魔物を討伐し終えたバクニは、戦斧に付着した血を払いながら呟く。

 周辺を確認したデュラハンが、それに同意する。

 

「流石に城下町を離れると、魔物の数も多くなるね」

「でもゴブリンやスライムだから、そんなに大変じゃなかったよ」

 

 ふぅ、と息を吐くフブキ。

 流石に素人という訳ではないようだが、僅かに汗がにじんでいるのが見える。

 

「今日はこの辺りで野営するか?」

「むっ、小生としてはもう少し進んでも問題はないが……」

「ウチとしても賛成です。そろそろ日も暮れてきますし……」

「よーし! じゃあ、ここをキャンプ地とする!」

 

 こうして三日目の野営の準備をする。

 パーティといっても男女の分別は必要なのでテントをバクニが二つ張り、その間にフブキとミオで夕食の準備を進め、デュラハンは周辺の警戒を兼ねて焚き火の薪となる枝木を集めるという体で森の中へと入っていった。

 野営地点から見えない所まで来たところでデュラハンは自らの影をブーツの先で二度叩く。

 

「出てこい」

 

 その呼びかけに応じ、デュラハンの影が蠢く。

 影から這い出てきたのは一羽の烏――彼が使役する使い魔が出てくる。

 

「これを陛下に」

 

 デュラハンは懐から水晶玉を取り出す。それは勇者一行の現状と今後の予定、それから実力に関する彼の所感を記録したものだ。烏は水晶玉を呑み込むと一鳴きして飛び立ち、そのまま魔王城のある南西の方角へと羽ばたいていく。

 

「よし」

 

 それを確認したデュラハンは野営地点に戻った。

 テントの前では、ミオが焚き火の前で夕食の準備をしていた。

 

「あのく君、おかえり」

「遅くなりすみません」

 

 今日の夕食はシンプルに味付けされた肉と、携帯用調理器具で煮込まれた野菜スープ。

 野営ともなれば乾燥肉や硬いパン、後はビスケットやチーズといった日持ちする保存食による簡素な食事が定番だ。食料に余裕があれば贅沢な食事が出来るかもしれないが、最低限のものしか食べられない場合もある。男だけのパーティであれば食事なんて呼べるようなものはなく、ただ腹を満たすための作業と成り果ててしまう。

 しかしミオは料理が得意らしく、こうして夕食に簡単ながら手料理を用意してくれている。流石に料理については口出しできないが、全てやってもらうのは気が引けたのでデュラハンとバクニは他の力作業や雑用を引き受けている。

 

「二人は?」

「ああ、フブキたちはあっちだよ」

 

 ミオが指差した方を見れば、手合わせしてる二人の姿があった。

 勇者といっても未だ覚醒していないフブキの実力は高くはなく、こうして時間があるときにはバクニが稽古をつけている。フブキは果敢に攻めているが、バクニの盾により防がれている。分厚い守りを突破できないことへの焦燥と疲労感から動きが乱雑になっていき、その隙をつかれてバクニの戦斧に薙ぎ払われて尻もちを搗く。

 

「にゃっ!」

「甘い甘い! 降参するであるか?」

「もう一本!」

「うむ、何処からでも掛かってくるといいい!!」

 

 てやーっ、とフブキは再び斬りかかる。

 その様子を尻目に、集めてきた枝木を一カ所に降ろしてから地面に腰を下ろす。

 

「そう言えばミオさん、前から聞きたいことがあったんだが」

「ウチに答えられることなら」

「いや、難しい内容じゃなくて、面接した時にどうしてあんな薄着だったのかと」

「ぶっ!」

 

 予想していなかったのか、ミオは吹き出す。

 ケホケホッ、とせき込んでから呼吸を整えてからデュラハンの方を見やる。

 

「い、今さらそんなことを聞く!?」

「気にはなっていたんだが、聞くタイミングを逸していたんだ」

「うーっ……そのまま思い出さないでいて欲しかったよ」

「そんなに言い辛いことなら、無理は聞かないが」

「……ううん、そう言う訳じゃないの。えーっと、あんな露出の高い服を着ていたのは、仲間として一緒に旅をする冒険者を選別する為だったの」

 

 思い出して改めて恥ずかしいのか、少し顔を赤らめながら説明をする。

 元より一緒に旅をする仲間は前衛と後衛の男性、計二人を勧誘することを決めていたが、仮にも勇者のお供である以上は変な人間を誘うわけにはいかなかった。更にはフブキやミオではもし押し倒されようものなら、為す術もなく凌辱される未来も有り得た。

 そこでミオが囮として煽情的な服を着て希望者たちの前に立ち、その段階で鼻を伸ばしたり露骨な態度を取る者を弾いて行った。残念ながら殆どの冒険者は下心ありなのが明らかであり、そうした態度を取らなかったのはデュラハンとバクニの二人であったのだ。

 

「ワザとらしい、とは思ったけど、そういうことか」

「試すようなことをしてごめんね?」

「事情を鑑みれば、寧ろ当然だから気にしないさ」

「バクニ君は頬を赤らめながら顔を逸らしてたけど、あのく君は無反応だったよね。もしかして……ウチって、そんなに魅力なかった?」

「ん? ミオさんは十分、可愛いと思うぞ」

「か、かわいい……え、えへへ、そう思ってくれるなら嬉しいな」

 

 ミオは少しはにかみながら、鍋をかき回す。

 それから暫く稽古は続いたが、フブキは結局一本も取ることが出来ず今日の訓練は終わった。

 

「二人とも、お疲れ様」

「くぅ、今日も一本も取れなかった……」

「ハッハハ! 勇者殿もまだまだですな!」

 

 悔しがるフブキに、豪快に笑い飛ばすバクニ。

 その隣でミオは夕食を皿によそい、全員に手渡していく。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう、ミオ」

「ありがとうございます」

「かたじけない! いただこう!!」

 

 そこから四人は食事を始める。

 和気藹々と食事をする傍ら、デュラハンは勇者一行について思い返す。

 勇者という職業は、フブキから聞いた話によれば万能タイプらしい。能力値としては前衛職に引けを取らないながら、後衛職を補うことも出来るようだ。ただ、まだ成長途中なので現状は魔王軍の軍団長の足元にも及ばない。

 次に魔法使いのミオはフブキの旅に付いてきただけあって、魔法の腕前は王宮でも随一と称される程らしい。今のところ見る機会には恵まれていないが、一番得意な火の魔法はかなりの威力を放てるとか。

 次に戦士のバクニ、彼は典型的な戦士だけあって筋力や頑丈はずば抜けて高い。欠点としては考えることが苦手な脳筋なので単純ではあるが、決して馬鹿ではないので教えればきちんと理解できる。ただ嘘でも簡単に信じてしまうところはあるが。

 それから食事が終わり、この後について話すこととなった。

 

「ごちそうさまでした! じゃあ、今日の火の番はどうする?」

「小生たちが引き受けよう」

「いつも通り、俺と交代するで良いのでは?」

「うむ! 勇者殿とミオ殿は先に休むといい」

「じゃあ、お言葉に甘えて休ませて頂きます」

「おやすみ~」

 

 フブキとミオは自分たちのテントへと引っ込んでいく。

 デュラハンはバクニと暫く他愛のない話を続け、その後は適当なところで交代で火の番をすることとなった。

 

 

 

 

 翌日、一行はジンク村に到着した。

 村はそれほど大きくはなく、木造の簡素な家々がまばらに建っており、農作物などを収穫している村人の姿が見える。規模としては決して大きくはないようだが、それでも生活にゆとりがあるのは彼らの様子を見れば明らかだった。今は収穫期の真っ盛りなのか多くの村人は野良仕事に精を出しており、冒険者装いのデュラハンたちに注目する視線はない。ただ、気になるのは見掛ける子供の姿が、少しばかり少ない気がするが。

 

「のだかで、穏やかな村だね」

「そうだね」

「うむ。実にのどかな村だ」

「ここだけ見たら、魔王の脅威なんか嘘みたいに思えるよ」

 

 ジンク村は平和そのものだった。トラブルに対応する兵士は常駐していないようだが、それでも村の周囲を簡素ながら木の柵で囲っており、どうやら外からの外的への対策は最低限は実施している様子だった。

 最初にここまで道中で消費した分の物資を補充したいところだが、全員少なからず疲弊していることもあって先に村で唯一の宿屋に行って休むことにする。幸いなことに辺境の村だけあって客室は空いており、男女別々で部屋を取ることが出来た。そうして部屋に貴重品以外の荷物を残し、四人は宿屋の一階にある食堂へと移動する。

 適当に食事を注文し、今後の予定を話し合う。

 

「それで、これから小生たちはどうするのだ?」

「青の領土に向かうんだよね?」

「そうだね。でも、ここから軽く十日は掛かるんだよね。途中、村らしい村もないし」

 

 ほら見て、とミオは持ってきた地図をテーブルに広げる。

 次に勇者一行が向かうべきは隣国のヴァイツェン公国の首都になるのだが、直線距離だけで見てもコーンフィールド王国からジンク村までの二倍以上はあり、実際に山や森を迂回するので実際に歩けばそれぐらいの日数は要するだろう。そうなれば物資もそれなりに必要となり、単純な食糧ならロックバイソン(牛肉)やホーンラビット(兎肉)等のドロップ品で補えるが、他の全ては賄えないので用意する必要がある。

 ただ、食事を抜きにしても長期の野営は精神的にも肉体的にも疲弊してしまう。

 

「えぇ~! そんなにベッドで寝れないの!?」

「確か、隣国との国境沿いに関所があったと思うが……」

「それなら小生も耳にしたことがある。隣国との関係が悪かった頃に建てられたもので、今ではもう手入れもされず使われていないとか」

「じゃあ、そこで休息を取れるの?」

「雨風をしのげる場所、としては問題ないと思う。ただ、バクニが言ったように管理されていないから老朽していたり、あるいは盗賊なんかが根城にしている可能性もあるから注意は必要だが」

「はーい、お待ちどうさま!」

 

 と、そこへ注文した料理が運ばれてくる。

 話が途切れてしまったが、折角の料理が冷めてしまっては勿体ないと全員が食べ始める。やがて全員がある程度食べ終えて一息ついていると、酒場に入って来た誰かが四人のテーブルへと近付いてきた。

 

「お食事中の所、申し訳ありません」

「ん?」

 

 見れば、それは初老の男性だった。

 誰かの知り合いだろうかと全員が顔を見合わせるが、誰も知らないといった様子だ。

 

「失礼ながら、どちら様でしょうか?」

「お初にお目にかかります。儂は村長をしておりますトタンと申します。失礼ながら、皆様は勇者一行で間違いないでしょうか?」

「何を隠そう、私こそが勇者である白上フブキである!」

 

 バッと立ち上がり、勇者であることを示すように腰に手を当ててポーズを決めるフブキ。

 ただ、顔にご飯粒が付いているせいで、色々と台無しであるが。

 

「それで、我々に何か御用ですか?」

「はい。実は皆様にお願いがあり、声を掛けさせて頂きました」

「立ち話も何ですから、座ってください」

「すみません」

 

 勧められて椅子に座ったトタン村長は、事情を説明し始めた。

 半月ほど前、村に暮らす子供の一人が体調不良を訴えたことから始まった。最初は単なる風邪か何かだろうと話半分にしか聞かなかったが、魔法による治癒を施した子供の体調は日に日に悪化していった。しかも他の子供にまで同じような症状が現れ始めてしまい、これは何か良からぬ病気にでも罹ったのではないかと不安になった。村の医者に診てもらったところ原因が分からず、教会の神父からは「呪いかもしれない」とまで言われた。

 

「ちょっと待って欲しい。村長、申し訳ないが俺は僧侶であって賢者ではない。だから解呪の魔法は覚えていないし、また猛毒の解毒もできない。それに旅を始めたばかりだから万能薬、なんてものも持っていないんだ」

「ああ、いえ違います。原因には見当がついているのです」

 

 変に期待されても困るので断ろうとするデュラハンに、トタン村長は首を横に振った。

 そこでどういうことかと、続きを聞くこととなる。

 

「話は変わりますが、儂には倅が一人おりました。これといって特徴のない、垢抜けない感じの息子でした。若者なら誰しもが冒険者になって一財産築くことを夢見るのに、村のことを第一に考える真面目な、自慢の息子でした。そして女っ気のなかったアイツが、『好きな人が出来た』と儂に言ったのは三カ月ほど前のことでした」

「それは……良かったのでは?」

「そこだけなら儂も喜べたのですが……息子が惚れたのは、ダークエルフだったのです!」

 

 ダンッ、と感情のままにトタン村長はテーブルを叩いた。

 ダークエルフ、それは黒曜石のような肌と血のように赤い瞳を持った人間嫌いの種族。エルフとは違った妖しさを持つことから、こうした伝聞でしか情報が伝わらない村などでは「魔王の尖兵」「悪魔の眷属」「災いの兆し」といった忌むべき存在として広まっている。確かに一部のダークエルフは人間嫌いから魔王に与しているが、殆どのダークエルフはそうではなく、エルフと同じように森の奥で静かに暮らしているが、それを知る者は少ない。

 

「ダークエルフと言ったが……それは誰からか、直接聞いたのか?」

「いえ、聞いておりません。でも儂は見たのです! あのエルフにあるまじき褐色の肌に、血のように赤い瞳……あれは間違いなく伝承に聞いたダークエルフに間違いないんです!」

「村長殿、落ち着かれよ」

 

 激昂するトタン村長をバクニが宥める。

 どうやら彼もまた、ダークエルフに関する伝承を信じている質のようだ。

 

「それで、息子さんはどうしたんですか?」

「すみません……儂は息子を諭そうとしました。しかしアイツは『彼女は悪い存在ではない』と聞く耳を持ちませんでした。それどころか『交際を反対するなら村を出て行く』、とまで言い出したのです。そこで儂は考えを同じくする村の者を何人か率い、そのダークエルフを排除することにしたのです」

「……それは、どうやって?」

「儂は息子の名前で手紙を出し、あの女が来たところを襲い掛かることにしたのです。下手に近付けば正気を失うと考えたので、茂みから弓矢を一斉に射かけました。油断していた女は反応が遅れて無数の矢が命を奪う……はずでした」

「……はずでした、とは?」

「息子が女を庇ったのです。どうやら儂が闇討ちしようとしていることを何処かから聞きつけたらしく、儂らが息子の存在に気付いた時には全てが手遅れでした。あっという間に息子の身体は矢で射られ……おそらく即死でした。そしてこと切れた息子を抱き留めながら、あの女は儂らを仇を見据えるような目で睨んできて叫んだのです」

 

『赦さない! お前等の村を、家族を、友を、全て滅びてしまえ!』

 

「そう叫んで女は、息子の遺体と共に森へ消えました。その後、何度か捜索したのですが何も見つかりませんでした」

「……つまり、村長は村に蔓延している病が、そのダークエルフが原因だと?」

「それしか考えられないのです! お願いします、どうか……この村を救ってください!!」

 

 涙ながらにそう叫び、村長は頭を下げた。

 

「落ち着いてくれ、村長。因みに最初に罹患した子供だが、何か見たか言ってなかったか?」

「……いえ、特には。森の奥で真っ赤な薔薇を見たとしか」

「成る程、ありがとう」

 

 それから村長が帰った後、四人は顔を合わせてどうするかについて話すことにした。

 

「それで、どうする?」

「どうするって……皆はどう思ってるの?」

「小生は難しいことは分からぬが、本当に村の異変はそのダークエルフが関係しておるのか?」

「どうだろう? ダークエルフは呪術に精通している、って聞いたことはあるけど」

「いや、俺は別に原因があると考えた方が良いと思う」

「どうして?」

 

 デュラハンの発言に、フブキは首を傾げる。

 もし本当にダークエルフの女が村への復讐を考えたのなら、この村はとっくの昔に滅ぼされているからだ。エルフは見た目だけでは年齢を推測することはできないが、単独で故郷を離れている時点で相当の実力者なのは間違いないだろう。

 こんな辺境の、ろくに戦力もいない村では一夜の内に壊滅している。

 と思ったが、デュラハンは疑われないように答える。

 

「さっき村長が言っただろう? 『褐色の肌』って」

「あっ」

 

 彼が言わんとする意味を察したのか、ミオが声を上げる。

 

「そっか、もし本当にダークエルフなら肌の色は真っ黒だ!」

「おそらく村長の息子が惚れたのは、肌が日焼けしたか何かのエルフだろうな」

「じゃあ、村の異変と、エルフの件は全く無関係?」

「それは断言できないが……もし対処するなら調べた方がいいな」

「じゃあ、明日は先ず近隣の森を調べよう! そのエルフのお姉さんに会ってみたいし!」

 

 動機は兎も角、明日の方針が決まった。

 

 

 

 

 翌日、勇者一行は朝から調査を開始した。

 彼らの目的はあくまで魔王討伐であり、ここで時間を掛ける訳にはいかなかったのでバクニとデュラハンの班と、フブミオの班とで二手に分かれて森の中を調べる。この森に出る魔物もそこまで強くないので、戦力を二つに分けても問題ないと判断したからだ。無論、緊急時は迷わず撤退するなり合図を出すなりと、無理をしないことを徹底した上でだが。

 

「あのく殿、どう思われます?」

「……どうとは、具体的に言うと?」

「そのエルフが関係ないのなら、村の異変は何が原因と思われますかな?」

「そうだな……考えられる要因は二つ。一つは本当に未知の病原菌が蔓延している。こっちの場合は本当に俺たちじゃお手上げだ」

「ふむ。して、もう一つとは?」

「……魔物が原因」

「と申されると?」

「昆虫系の魔物の中には毒を使うものもいる。例えば蛾なら毒鱗粉を散布することで、それを吸った子供たちが毒に侵されて倒れるとか。話を聞いた限りでは罹患しているのは子供ばかり……大人には一人も出ていない。以前、医者から聞いた話によると、子供は大人に比べて病気への耐性が弱く大人よりも症状も重いらしい」

「なるほど」

 

 デュラハンの返答に、バクニはふむふむと頷く。

 などと尤もらしいく語っているが、実を言えばデュラハンには凡その見当はついている。

 子供が罹患した病の原因は、デモンローズと呼ばれる大きな花を持った食肉植物だ。森の奥にひっそりと生えるその花は一見すると美しい薔薇だが、花から漂う芳醇な香りには微弱な毒素が含まれており、これを吸い込んだ者は風邪のような症状が出る。この毒の厄介なところは初期段階では倦怠感や咳嗽だけで、実を言えば大人なら放置しておいても時間を置けば快復する。下手に回復魔法を掛けようとすると毒は活性してしまう上、次の病原菌となって周囲に感染が拡大する恐れがある。その段階まで来てしまえば、治すのには万能薬かデモンローズの花弁を煎じた物を飲まなければ治すことは出来なくなる。

 因みにデモンローズには遠く伸ばした蔓に宝石のように輝く赤い実をつけるのだが、その甘美な誘惑に抗えずに口にすると激しい痙攣を引き起こし、こちらの毒は直ぐに対応しないと呼吸困難などで死に至る。その毒性は猛毒に分類されるので並みの解毒魔法では治療できず、一般的な毒消し薬でも治すことは出来ない。

 

「むっ、上手そうな果実である」

 

 などとデュラハンが考えていると、バクニが突然そんなことを言い出した。

 視線を追ってみれば、今まさにデモンローズの実を食べている戦士の姿がそこにあった。

 

「あっ」

「むむっ! 中々に美味である!」

 

 注意する間もなく、バクニはデモンローズの実を食べ続ける。

 そして暫くすると。

 

「うっ!」

 

 ドサッ、とバクニの巨体がその場に倒れた。

 慌てて駆け寄るが既に意識はなく、目の焦点は合わず、全身から脂汗が噴き出している。

 

「……どうするよ、これ」

 

 このまま放置すれば、バクニは確実に死ぬ。

 デュラハンの使命は、勇者を成長させた上で魔王城に辿り着けさせること。それ以外は例え途中で死のうと問題ではないが、このまま死なせるのは流石に不味い。その原因が例え自業自得だったとしても。

 

「何て説明すればいいのやら」

 

 念のために、デュラハンは借りた男の知識を探るが、猛毒の解毒は覚えていない。

 これは諦めるしかないと判断し、勇者たちに何て言い訳するかと考えていると。

 

「動かないで」

 

 スッ、と背後から首筋に刃が押し当てられる。

 気配は感じなかったが、いつの間にか後ろを取られたらしい。

 僅かに振り返って背後の人物を窺えば、フードを目深く被っていて顔を見えない。ただその手には細身の剣が握られており、返答次第では容赦しないと態度がそう表していた。

 フードの人物――おそらく女性が口を開く。

 

「村の人間じゃないね?」

「……冒険者だ。村長から、村で起こっている異変について調査に来た」

「ふーん……それで、そっちの人は?」

「そこに転がってる実を食べて倒れてる」

「なら、何で介抱してあげないの?」

「……これは、おそらくデモンローズの実だ。毒消し薬じゃ治療できない。この猛毒を治す魔法も覚えてないから、どうしたものかと考えていたんだ」

「へぇ、良く知っているね。なら、これを使うと良いよ」

 

 スッ、と剣が下げられると、今度は小瓶が差し出される。

 それを受け取りつつ、訊ねる。

 

「これは?」

「解毒剤。飲めばデモンローズの毒は消えるよ」

「……助かる」

 

 栓を抜き、瓶を口の中に突っ込んで何とか薬を流し込ませる。

 

「随分と、躊躇なく飲ませるんだね? 毒とか疑わないの?」

「毒にせよ何にせよ、何もしなければ彼は死ぬ。それに毒薬を渡す意味もない」

「ふぅん」

 

 暫く様子を窺っていると、苦悶に歪んでいた表情が和らいでいく。

 

「貴方のおかげで、連れを助けることが出来た。改めて礼を言わせてくれ」

「別に気にしないで、助けられる手立てが目の前にあるのに見殺しにするのは気が引けただけ」

「そうだとしても、貴方の善意がなければ確実に死んでいた」

 

 解毒は出来たが、バクニは未だに意識を取り戻さない。

 流石に魔物の出る森の中で目覚めるのを待つわけにもいかず、僧侶としての立場からすれば一度村まで戻って容態を観なければならない。

 

「俺はこれからコイツを連れて一度村に戻る」

「そうだね。解毒できたといっても、今日は静養した方がいい」

「そうさせてもらう。風よ、我が前に集いてこの者を運びたまへ」

 

 収束した風が、バクニの肉体を持ち上げる。

 巨漢とは云え持ち上げるだけならデュラハンにも出来るが、僧侶がそれを行ってしまえば疑われてしまうのは明白であった。そんなことに言い訳をするのは面倒なので、大人しく魔法での運搬を選んだのだ。

 デュラハンは改めて謎の女性の方へと向き直り、頭を下げた。

 

「名前を未だ言ってなかった。俺は牧氏あのく。この礼は必ずさせてもらう」

「……名乗るほどじゃないわ。それより、早く戻った方がいいよ」

 

 そう言い残し、女性は森の中へと消えていく。

 デュラハンはそれを見送ってから、バクニを連れて村へと戻っていった。

 




◆大神ミオ‐魔法使い
 年齢:16歳 性別:女性 身長:160㎝(89D) 適正:魔法(赤)
 装備:魔力の杖、魔導士のローブ、守護の髪飾り

 勇者の幼馴染。
 魔法使いの家系の出、昔から研究一筋で生きてきた。
 腕前が立つことも然る事乍ら、フブキが心配でついてきた。

イメージは世界を救った某エルフの某弟子の少女のような感じ。
よくある魔法使いの服装を考えて貰えれば合ってると思います。


ではクリック? クラック! また今度。

簡易マップ(ドット自作)見たい?

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