※この作品はR-18です。

Holo Quest   作:轟th

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先ず最初に謝罪を。
前回は投稿できなかったことを、申し訳なく思う。
理由としては私用で一週間ばかりパソコンに触れられない状況におり、全く執筆できない状態にありました。Hシーンはないのでカロリー的には書きやすかったのですが、間に合いそうになかったので無理に投稿するのを諦めました。
更新は変わらず続けていきますが、今回のように急に定期?投稿ができない場合もありますが、それでも付き合って頂けると幸いです。


では、本編をどうぞ。


scene.32

 一方その頃、試練を受けに向かったフブキ。

 老若男女を問わず、村人たちがひっきりなしに声を掛けられながら、それらに愛想笑いや適当に返事をしながら溶岩洞に辿り着く。前回はミオを救出するためにろくに見向きもせずに中に入っていったが、彼女の背丈よりも少しばかり低い二本の小ぶりの石柱がひっそりと立っていた。

 そこには華美な装飾も、権威を示す文字もない。

 ただ長い歳月に洗われ、角の取れたその石柱は、まるでそこが聖域へと続く門であることを、無言で告げているようだった。

 

「……大丈夫かな、ミオ」

 

 これからお願いをしに行くというのに、フブキの心配はミオのことだった。

 付き合い自体は長いので彼女が発情期を迎えるのはこれが初めてではないので、特効薬が存在しない以上は自然と治まるのを待つしかない。今回に関してはベリアルから打たれた毒もあるので、その影響で長引く可能性はあるが……少なくとも彼女のためにしてやれることはない。それでも気に掛けるのは、あの宿にはデュラハンがいるからに他ならない。

 別に彼を疑っている訳ではないが、女性関係については少々……いや、かなり緩いのは事実だ。

 くれぐれも部屋に入らないように念を押したので、大丈夫だろうと思いつつ、フブキは溶岩洞の中へと進む。

 

「今回は……明るい?」

 

 光源なくとも普通に歩ける程度には、洞窟内は照らされていた。

 村の人たちはあんな真っ暗な中で供物やら何やらを奉納しに来てたのかと思っていたが、どうやら普段は違ったようだ。

 そんなことを考えながら洞窟の奥へと進んでいけば、前回ベリアルと戦った広場へと辿り着く。

 

「………は?」

 

 そこで目にした光景に、フブキは思わず声を上げる。

 奥の壁に設置された祭壇、その手前で一人の女性が優雅に何かを飲んでいるではないか。

 それは正に喫茶店のテラスで午後の一服を楽しむ女性そのものだが、ここは大精霊の祭壇が安置された溶岩洞の中なので場違いなことこの上ない。そんな余りに現実から乖離した光景に、脳の理解が追い付かずに思わずポカーンと阿呆面を晒すこととなる。

 とそこで、フブキの存在に気付いたのか、女性が顔を上げてこちらを見る。

 

「Ah、来ましたネ。待ってましたヨ」

「えっ……あの~、どちら様でしょうか?」

 

 女性はカップを置くと、ゆっくりと立ち上がる。

 身長はフブキよりも額一つ分は高く、動いた拍子にたぷんっと揺れる彼女とは比べ物にならない豊満な双丘。腰はくびれ、臀部も健康的に大きく張っており、四肢はすらりと伸びている。比べること自体が烏滸がましいと思えてしまう程の美女に、何をする前からフブキは負けた気分になりそうになる。

 

「Hee-hee、この姿では初めてですネ。でも、会うのはこれでニドメなんですヨ」

「ニドメ……二度目?」

 

 女性の言葉を、フブキは鸚鵡返しする。

 少なくとも彼女の覚えている限り、こんな魅惑的な女性と出会った覚えは一度たりともないと断言できる。となれば初対面の可能性が最も高い訳だが、相手は明らかに自分のことを知っている様子だ。

 

「ま、まさか……大精霊様、なんですか?」

「Yes、大正解デース!」

 

 フブキが恐る恐る尋ねれば、女性はニヤリと笑って肯定する。

 自分で口にしておきながら大精霊が人の姿を取れることも驚いたが、ましてやこんなに綺麗な女性であるなど思いもしていなかった。なので驚きの余り、その場で固まってしまう。そんな彼女に対して、大精霊は自らの対面に用意された椅子を示す。

 

「そんな所に突っ立てないで、そちらに座るといいデスヨ」

「あっ、はい……し、失礼します」

 

 促されるまま、フブキは椅子に腰掛ける。

 座って見て気が付いたが、目の前にある丸テーブルは黒曜石で出来ているのか表面は鏡面のように磨き上げられ独特の光沢を帯びている。更に椅子も厳密には何か鉱物のようだが、その割に臀部に痛みや不快感はなく、それどころか本当に石かと疑いたくなるほどに座り心地が悪くない。

 

「どうゾ」

「あ、ありがとうございます」

 

 差し出されたカップを受け取る。

 カップは陶器製であるようだが、金の紋章と宝石で彩られたティーカップには職人が丁寧に彫刻したものだと素人目にも分かる逸品だ。ティースプーンからソーサーまで全てが一流品で統一されており、王家の姫として最高の待遇を受けていたフブキでも思わず目を見開く程である。

 それをおくびにも出さないように気を付けながら、カップに口を付ける。

 一口含んでみれば、上質な紅茶の香りとその甘さが舌の上で踊る。何ヵ月ぶりになるとは云え、使われている茶葉もまた最高級品だと容易に推察できた。まさかこんな都会からかけ離れた山奥で味わい深い紅茶に一時の幸福を感じながら、それでも本題に入るべくカップを置く。

 

「大精霊様」

「Yes、分かっていまス。貴方は聖剣を覚醒させる方法を知りたいのですヨネ」

「はい、今のままでは魔王はおろか、魔王軍の幹部にすら勝てません」

「……いいでしょう。私の試練に合格することが出来れば、貴方に聖剣の真の使い方をお教えしまショウ」

 

 ようやく、これで堂々と勇者として名乗れる。

 いや、元より勇者は彼女以外に居ないのだが、これで肩書としてではなく名実ともに勇者として立つことが出来る。

 

「どのような試練でしょうか?」

「Wait。先ずは、これまでの貴方の歩みをお聞きしまショウ」

「これまでの……ですか?」

「Yes、貴方がどのようにして勇者として旅立ち、ここまで来たのか。何を見て、何を聞き、そして何を感じたのカ」

 

 どういう理由か、大精霊はフブキの旅路に興味があるようだ。

 少々意外な内容に思案する彼女だが、大精霊が望むのであれば断る理由はなかった。

 

「分かりました。それではお話します」

「Please、ゆっくりで構いませんカラ」

 

 フブキはこれまでの旅路を思い出すように話し始めた。

 王城の宝物庫、そこに台座に突き刺された形で安置されていた聖剣を偶然にも引き抜いたこと。

 それを切っ掛けに城の外を自由に見てみたい、という前からあった願望を叶えるために勇者として旅だったこと。

 魔物との初めての戦いは、これまでの訓練とは比べ物にならないほどに緊張したこと。

 人ではないとはいえ、魔物の命を奪ったことに小さな罪悪感を覚えたこと。

 夜叉兵団の団長と刃を交えた時は、圧倒的な強者との実力差に本当に死を予感したこと。

 その団長と言葉を交わしたことで、魔物とは本当に分かり合えないのかと考えるようになったこと。

 守るべき人たちに騙され、仲間が魔物の生贄にされかけたこと。

 

「最初は勇者としての使命感なんて全然ありませんでした。ただ、王家の者として民を守らないといけないとは思っていたんです。もしかしたら旅の最中で芽生えるかもって思っていたんですけど……でも、気が付いたら魔王を倒すことが本当に正しいことなのか分からなくなってしまって」

 

 そう語る少女の表情は、憂いに満ちていた。

 

「昔の私は、何も知らなかったんです。魔物の脅威さえ取り払うことが出来れば、本の少しでも他人に優しくできれば世界はきっと平和になるはずだと――そんな甘い考えを信じて疑わなかったんです」

 

 何も知らずに平和ボケしていた訳ではない。

 ただ、周囲の人々から向けられる「本物の愛」に包まれて育ったフブキは、だからこそ「人間が持つ善性」を誰よりも信じたかったのだ。

 それが、現実を知らない小娘の浅はかな考えだと、この旅を通じて彼女は痛いほど理解した。

 

「I see、……今は、どうですカ?」

「……まだ、答えは分りません。この村の人たちに騙されたことにショックを覚えましたし、ベリアルが居なくなったと諸手を挙げて喜ぶ彼らを見て同じように笑い合えることなんて出来ません」

「Uh-huh、……Thank you、話を聞けて良かったデス」

 

 フブキは自身の想いを包み隠さず打ち明ける。

 もしかしたら勇者として不合格だと言われる可能性もあったが、それでも後悔はなかった。

 

「OK、では試練を初めまショウカ」

「えっ?」

「フブキさん、勇者も人なのでス。他の人間のように迷イ、悩み、時には選択を誤ル――それは当然のコトでス」

「でも……」

「But、どれだけ厳しい選択でモ、正解も分からナイ時でも、貴方は選ばないといけまセン」

 

 俯いていたフブキは、顔を上げる。

 いつから席を立っていたのか、大精霊はとても慈愛に満ちた視線を向けてきていた。

 

「貴方は勇者なのだかラ」

「私は……」

「それでも迷った時ハ、自分の心に従いなさイ」

「自分の、こころ……」

「頭は間違えてモ、心は違えなイ」

「心は、違えない……」

 

 大精霊の言葉を、噛み締めるようにフブキは繰り返す。

 何故かその言葉はすっと、胸に落ちたような気がした。

 

「Now、聖剣を覚醒させる方法は、とても簡単デス」

 

 そう言って、大精霊は右手をスッと上げる。

 フブキの視線がそれを追えば、そこに見覚えのある剣が浮いていることに気が付く。

 青い柄、金の鍔、そして月の光を宿したような白銀の刃。

 それは紛れもない聖剣であり、自分が愛用している物であるのは明白だった。

 

「……えっ!?」

 

 やや遅れて、フブキは慌てて自らの腰を確認する。

 そこには鞘だけを残し、納まるべき聖剣は消えており、大精霊の手元にあるのは間違いなく聖剣であった。

 

「い、いつの間に……」

「Don't worry。直ぐに返してアゲマス」

 

 大精霊は聖剣を持ったままフブキから数歩ほど離れると、振り返ってから聖剣を岩床へと突き立てる。剣先が突き刺さった剣は、彼女が手を離しても倒れることなく自立する。

 

「ここまで来て、聖剣を抜いて下さイ。それが、試練デス」

「えっ……それだけ、ですか?」

「Yes、簡単デショ?」

「はぁ……」

 

 想像していた試練とは余りにもかけ離れたもので、フブキは少々困惑する。

 こんな容易なものが果たして本当に試練なのだろうかと思わず疑っていれば、それが表情に出ていたのか、大精霊が察してしまう。

 

「Hmm、ご不満なようデスネ……では、趣向を凝らしましょうカ」

 

 パチンッ、と左手の指を弾く。

 その直後、岩床の至る所から炎が、火柱のように噴き出してきた。変化はそれだけに留まらず、人知を超えた超高温に焼かれて頑丈な筈の岩床が一瞬で赤く変色していく。みしり、と大地が断末魔のような悲鳴を上げたかと思えば堅固な岩肌はたちまち形を失い、どろりと融けた岩の塊へと姿を変えた。業火の勢いに押し出されるようにして新しく生まれた熱い溶岩は、まるで生き物のようにうねりながら四方八方へと這い滑っていく。

 

「っ!」

 

 フブキは慌てて席を立ち、更には黒曜石のテーブルの上へと避難する。

 それでも留まることを知らない赤黒い熱の津波は広間の床をじわじわと浸食し、やがては触れるものを焼き溶かす融けた岩の海で埋め尽くしていった。足場として残っているのはフブキが立っている元はテーブルだった場所と、そして聖剣が突き立てられた浮島の二つだけとなった。

 

「ちょっ、熱い、熱いです!」

「Oops、早く試練を突破しないと熱さで倒れてしまいまス」

 

 宙に浮いたまま、大精霊は涼しい顔をしながらそう告げる。

 確かに岩床を埋め尽くす溶岩の熱気はすさまじく、立っているだけで額から汗が流れ、そして滴り落ちた雫は地面へと落ちる前に蒸発してしまう程だった。こんな場所に長居すれば、数分と立たず脱水症状で倒れてしまう。しかしフブキのいる場所から聖剣までは優に五メートルはあり、ジャンプすれば届かない距離ではないが、少しでも怖気づくか着地時にバランスを崩してしまえば溶岩の海にダイブすることとなる。もしそうなれば、文字通りジ・エンドだ。

 

「……い、行きます」

「Ah, that reminds me、ジャンプする前に、アレは気にした方が良いと思いますヨ」

 

 飛び出す寸前で、大精霊が警告する。

 出鼻をくじかれてつんのめりそうになりながら、彼女が指差した方向――フブキから見て右側へと視線を向ければ、そこには天井から吊るされた檻が見えた。更に良く目を凝らしてみれば、その中には誰かが囚われているのが分かり、そしてそれはフブキにとって掛け替えのない人たちの顔だった。

 

「ミオ!? みんなも!!」

 

 これまで共に旅をしてきた仲間たちが、何故か檻に囚われていた。

 向こう側の声は聞こえてこないが、檻の中から何かを必死に叫んでいるのが分かる。

 思わずそちらに向かおうとするフブキを、大精霊が制する。

 

「Halt! 動いては、なりまセン」

「こ、これはどういうことなんですか!?」

「言ったはずデス。これは、試練だト」

 

 試練、そう確かに今は試練の最中だ。

 だが、この状況が何を意味しているのか理解できず、フブキは困惑の表情を浮かべる。

 

「Anyway、試練の内容を説明しまス。これは、ココロの試練。貴方は聖剣カ、あるいは仲間のどちらかを選択しなければいけまセン」

「どちらかを……選ぶ?」

 

 聖剣と檻、それぞれの前に長くはないが、道が出現する。

 フブキのいる場所から、まるでVの字のように両方へと岩の道が伸びる。

 

「Yes、聖剣を選ぶナラ、あの檻は溶岩に沈みまス。仲間を選ぶナラ、台座は崩れまス」

「そんな……!」

 

 まさかの内容に、フブキは言葉を失った。

 それは名実ともに勇者として立つことを目指す彼女にとって、これ以上ないほど非情で、あまりに残酷な二択だった。

 聖剣か、あるいは仲間か――どちらを選んだにせよ、片方は確実に失われる。

 正解なんて存在しない、まるで世界の理そのものが牙を剥くような理不尽で、不条理な天秤。

 

「わ、私は……」

 

 聖剣という名の強大な力を手にするという大義の為なら、多少の喪失など仕方のないことかもしれない。だが、仮に仲間の命を犠牲にしてまで得た力で成し遂げた魔王討伐という偉業に、心の底から歓喜することなどできるだろうか?

 

「はぁ、はぁ……っ」

 

 大切な仲間を見殺しにできないという私情を優先し、聖剣が失われれば誰が魔王を討つというのか。

 彼らとならどんな困難も乗り切られる自信はあっても、代償に世界の何千何万の見知らぬ民草に死を宣告するようなものである。

 

「決められまセンカ?」

 

 大精霊が問うてくる。声色こそ優しくあったが、その瞳の奥にある紫色の輝きは、一切の容赦なく勇者を値踏みしていようであった。

 足元をじわじわと侵食していく溶岩の海から立ち昇る肺を灼くような硫黄の臭い、全神経を押し潰すような残酷な問いがフブキの心の奥底を激しく揺さぶった。心なしか溶岩の嵩が増してきており、どちらを選ぶにせよ早く答えを出さなければ彼女の身体まで灼き尽くされてしまう。

 

「どちらが正しいのか、間違っているのか――それは誰にも分からナイ」

「うっ、あぁ……!」

 

 目の前の景色が歪み始める。

 聖剣を選び、手にした力を以て魔王を討伐し、勇者としての役目を果たす。

 仲間を選び、己の無力さを受け入れて、誰かが代わりに魔王を討つことを祈る。

 どちらが正解なのか、いや或いは正解などないのかもしれない。

 

「ぐっ……私は……私、は……!!」

 

 歯を食いしばり、拳を握り締める。

 どちらかを決断できなければ、ここで死ぬだけだフブキが何もできずにいたとしても、大精霊は助けない。どちらを選ぶにせよ犠牲が伴い、どちらを切り捨てるにせよ、そこには必ず後悔と苦悩が待ち受けている。出来ることなら、今すぐに全てを投げ出したいが、勇者と言う立場がそれを許さない。選ぶしか、ないのだ。

 

「私は、私は……っ!!」

 

 全身を蝕む焦燥感、燃え滾る炎、決断を迫る静寂の嵐。

 そんな極限状態の中で、フブキは必死に頭を働かせ、最適な答えを求め、求め………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――頭は間違えても、心は違えない

 

 

「……あっ」

 

 ふと、先程聞いた大精霊の言葉が脳裏によぎる。

 そうだ、どうしてこんな簡単に気が付かなかったのだろうか。

 

「……決めました」

 

 どちらが正解か、正解がないのであれば悩むだけ無駄だ。

 どちらを選んでも正しくないのなら、自分が胸を張れる選択をすればいいのだ。

 

「スゥ……てりゃああああっ!!」

 

 息を深く吸い、気合を込めてフブキは飛んだ。

 彼女が選んだのは――仲間の入った檻へと続く道だった。

 

「Oh? それが貴方の選択、なのですカ?」

「はい……私は、聖剣よりも仲間が大事です。これは嘘偽りない、私の本心です」

「では、貴方は魔王を倒すことを諦めたのですカ? 世界を救うことを投げ出すのですカ?」

「違います!」

 

 鋭く、フブキは否定する。

 そんな彼女の視界の端で、聖剣の突き刺さった浮島が崩れ、その剣身を溶岩の中に沈めていく。かつて混沌と恐怖で支配した魔王を討ち滅ぼし、世界を救った聖剣はもはや他の誰かの手に渡ることも、それどころか再び日の目を見ることもなく溶けて完全に消えていく。手にした者に天下無双の力をもたらす、神代の遺物はフブキの選択により消滅してしまった。

 それに思うところはあれ、フブキは未練を振り切るように大精霊を真っ直ぐに見つめる。

 

「私は、誰かに褒めてもらいたい訳でも、死体の上に築かれた血塗れの玉座に座りたい訳でもないんです。ただ、みんなと笑顔で明日を迎えたいから苦しくても頑張っているんです。その聖剣を手に入れて魔王を打倒して世界を平和に出来たとしても、そこに仲間がいてくれなきゃ意味がないんです」

 

 そう、難しく考える必要なんてなかったのだ。

 聖剣を台座から引き抜いたときは勇者に選ばれたのだと舞い上がったが、もしかしたらアレは何か間違いだったのかもしれない。魔王を倒すことよりも仲間を優先する自分は、勇者として何処か間違っているのかもしれない。それでも、何度繰り返すことになっても、白上フブキの答えは変わらないだろう。

 

「それに、そんな聖剣なくたって世界の一つや二つ、私が救ってやりますよ!」

 

 胸を張り、フブキはそう高らかに宣言する。

 その言葉を聞いて大精霊は暫くの間無言だったが、やがて小さく微笑む。

 

「Respekt。合格デス」

「……えっ?」

 

 それはどういうことか、そう訊ねようとした矢先。

 フブキは自分の手に何処からともなく光り輝く粒子が集い、そして何かの形を成そうとしているのに気が付く。その輪郭は次第に大きく、長くなっていき、やがて光が収まった時には彼女の手には一本の剣が握られていた。それは溶岩に飲まれ、この世から消滅した筈の聖剣であった。

 

「せ、聖剣!? で、でも、どうして……」

 

 思わぬ事態に、フブキは困惑する。

 失われた聖剣が手元に現れたことにも驚きだが、これまでと手に伝わる感覚は明らかに別物だった。何が違うのかと訊ねられれば明確に言葉にすることは難しいが、それでも一言で言い表すのであれば「纏っている気配」だろうか。これまでの切れ味の良い頑丈な剣でしかなかったが、今のこれは魔を滅する刃といった表現が適切だろう。

 振るわずとも聖なる武器の名に相応しい力が宿っているのが分かる。

 

「聖剣とは、チカラなのでス」

「……?」

「手にした者に、強大なチカラをもたらす聖剣。それは使い方次第では世界を救うことも出来れバ、逆に世界を滅ぼすことも出来るでショウ。故に担い手に求められるのはチカラを手にしても溺れることのない、強い信念を備えた人物なノデス」

「強い、信念……」

「貴方の祖先……先代勇者もそうでしタ。出会った時の彼も、貴方と同じように悩んでいましタ。いつも悩んでばかりの意気地ナシ……だからこそ、あの子は世界を救った本当の勇者になれたのです」

 

 遠い昔を懐かしむように、大精霊は語る。

 過去を見ている瞳が再びフブキを見れば、紫紺の瞳には慈しむような深い温もりが宿っている。

 

「大切なものが何か分かっている貴方なら、きっと大丈夫でス。自分の信ずる道を進みなさイ」

「はい!」

 

 フブキは力強く、頷く。

 この力があれば仲間の足を引っ張ることも、あんな光景を二度と見ずに済む。

 

「みんなっ! やったよ、わたし……」

 

 喜びに満ちた表情で仲間の方を振り返ったフブキは、その姿勢で思わず固まる。

 そこには確かに仲間が捕えられた檻が吊るされていた筈なのに、いつの間にか影も形もなくなっていた。別に檻が石床の上に降ろされた訳ではなく、そもそも最初から存在していなかったかのように何処にも見当たらないのだ。いや、それどころか石床を埋め尽くしていた溶岩までもが、跡形もなく消え去っていた。

 

「あ、あれ? み、みんなは? それに……溶岩もなくなってる」

 

 周りにあった全てが、まるで幻のように消え失せたとでもいうのだろうか。

 彼女が混乱していると、大精霊が口を開く。

 

「安心しなさい。貴方の仲間ハ、健在でス」

「えっ?」

「言ったでしょ、これはココロの試練だト。貴方の見た全てが、私の見せた幻だったのでス」

「……っ!!」

 

 大精霊の言葉に、フブキは愕然とする。

 確かに思い返してみれば、檻の中にいた仲間たちの様子も何処かおかしかったが、それを抜きにしても足元を埋め尽くしていた溶岩までもが幻覚だったとは思えなかった。皮膚を焼くような熱さも、鼻を突き刺すような刺激臭も間違いなく本物だと五感が訴えていたのを覚えている。それらが全て、大精霊により見せられていた幻とは俄かには信じがたいものであったが、実際に体験した事実に彼女は只々驚愕するしかなかった。

 

「ど、どうしてこのようなことを……」

「人は弱い生き物でス。虚飾の仮面を被りながら容易く嘘を口にしながら、心の内では醜い欲望で満ち溢れている。けれど命に危機に瀕した時、あるいは極限まで追い詰められた瞬間、その仮面は剥がれ落ち、むき出しの本性が露わになりまス。これまで幾度となく見てきましタ。チカラに溺れ、オモイに溺れ、その果てに身を滅ぼしてきた者たちヲ」

「大精霊様……」

 

 試練の意味を知り、フブキは言葉を失う。

 あの時、限定的とはいえ覚醒した聖剣からもたらされた力、全身を駆け巡る波動は確かに絶大と呼ぶに相応しいものであった。あれほど大きな力を突然手に入れれば誰だって酔いしれ、自惚れて少し無謀な精神状態にさせるだろう。あの高揚感は酒を飲んだのとは比べ物にならず、麻薬中毒者がその快楽から抜け出せずに沼に嵌まるようなものと同じだろう。

 

「わ、私は大丈夫でしょうか……」

「Take it easy。貴方の側には、力になってくれる仲間がいまス。それに忘れないで下サイ。貴方は、一人ではありません」

「ありがとうございます……ところで、大精霊様のお名前は何というのですか?」

 

 大精霊からのお墨付きをもらい、フブキは安堵する。

 そこでふと、名前ではなく大精霊と言う肩書きで呼んでいたことに気が付いたのだ。

 

「名前……そう言えバ、久しく呼ばれていまセンでしたネ」

 

 言われてみればそうでしたと、大精霊は少々悩む。

 本当に久しく名前など聞かれてこなかったので、名乗ることすらしてこなかった。

 おかげで思い出すのに、少しばかり時間を要する。

 

「……そう、確か私の名はキアラと言いましタ」

「キアラ様」

「フフッ、こうして名を呼ばれると思い出しまス。先代勇者のことヲ」

 

 昔を懐かしむように、キアラは目を細める。

 そんな彼女を見て、フブキは自分の祖先の話が聞けるかもしれないと期待する。

 

「あの……」

「話してあげても構いまセンが、そろそろお帰りになった方が良イ。もう夕方ですヨ」

「えっ? 嘘、そんな時間なんですか!? やばっ、早く戻らないと!!」

 

 どうやら話と試練で、思った以上に時間が経過していたらしい。

 元々ミオが心配だから出来るだけ手早く済ませて急いで帰ろうと考えていたのを思い出し、フブキは慌てて聖剣を鞘に収める。

 

「あっ、あの、ありがとうございました!」

「Good Luck。貴方の旅路に幸おおからんことヲ」

 

 そうキアラが微笑み、そして炎に巻かれるように姿を消す。

 それだけでなく、溶岩洞の中は以前と同じくらいの暗闇に包まれており、キアラが使っていた大理石のテーブルと椅子もなくなっていた。もしかしたら自分は長いこと幻覚を見ていたのではと錯覚しそうになるが、それでも手元に残る聖剣から感じる力強さから全てが夢でも幻でもない現実だったとフブキは実感する。

 

「本当に……ありがとう、ございました」

 

 その場に立ち止まって、フブキは再び礼を述べる。

 そして今度こそ本当に急いで宿屋に戻るべく、急いで来た道を戻っていくのであった。

 

 




◆キアラ
 年齢:■■歳 性別:女性 身長:165㎝(95G) 適正:不明
 装備:‐

 大精霊が人の形を取った姿。
 歴史上、彼女の姿を見たことがある者は数える程度のみ。
 なお、この姿で首都へと降りて探索しているのは彼女だけの秘密である。

ゲストとして登場していただいた、何処かの不死鳥。
TASTY衣装をイメージしながら書きましたが、ドレスの方が良かっただろうか?
因みに、語頭に英語を度々入れてますが、これは私がよくセリフを書く際に「あー」「ほうほう」「うーん」を好んでつけるのを英語風?に無理やり入れたものです。実際に、向こうの人がどうするかは知りません。


クリック? クラック! また今度。

フレアの立ち絵が適してる?(あるいは好み?)

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