南西に位置する縦長の大陸を支配する黒の領土。
強大な軍事力を有する大国であり、膨大な数の常駐軍を維持するために厳格な徴兵制度によりすべての健全な帝国民は一定期間の軍役を義務付けられる。最低三年付けば解放されるが、望めばそのまま正規兵として雇用してもらうことができる。なお、責務を全うすれば国から手当てがつく。
帝都は白い蒸気と、不気味に蠢く歯車と管で支配されている。街中に張り巡らされた真鍮の管からは常にプシューと白い湯気が吐き出され、昼夜を問わず人工的な明かりが幻想的な霧の中に沈んでいる。
設定ミスで昼に投稿できてなかった。
※悪魔の騎士・デュラハン
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悪魔の騎士・デュラハン(兜無し)
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では、本編をどうぞ。
「あそこが帝都……え?」
港町を出発して数日、勇者一行は帝国の首都が見下ろせる丘へと到着していた。
これまでの道中、幾つもの街を見てきたが、帝都は他の国とは抜きんでて異様としか言いようがなかった。
まだ街の輪郭も定かではない距離から、進行方向の空にだけ異様に巨大な「白い入道雲」のような塊がモクモクと立ち昇り、動かずに居座っていることには気が付いていた。ただ、その時点では単に珍しい現象かと思っていたが、近づくにつれてそれが大きな勘違いであったということを思い知らされることとなる。
すり鉢状の盆地全体を覆いつくす純白の雲海。
その煙を突き破って聳え立つ黒鉄の塔群から吐き出され続ける白煙、それが帝都全体を雲の如く覆いつくしていたのだ。普通であれば風に流されて霧散するのが、その白い塊の規模を維持し続けているということは生成が絶えず行われているからに他ならない。
港町で知り得た方向と距離、それから簡易的な領土の地図がなければ存在に気が付かずにいたことだろう。
「……えっ、合ってるよね?」
「ああ、間違いないはずだ。距離的に、あそこに間違いない」
心配になるフブキに、デュラハンは頷く。
五人とも帝国は軍事に傾倒していることは理解していたが、想像を斜め上に上回っていた。
立ち往生していても埒が明かないので五人はそこから更に一時間ほどかけて歩いたところで、煙の向こう側に帝都の城壁があることに気が付く。ただ煙を切り裂くように立ち塞がるのは優雅さなど欠片もない、無数の太い鋲で溶接された光を一切反射しない無骨で無機質な漆黒の鉄壁。見上げる程に巨大な黒鉄の装甲には、まるで血管のように太い管が網の目のように這いまわり、随所からプシューッと高圧の蒸気を吐き出している。余所者を歓迎する気など微塵もない、さながら存在そのものが兵器のような建造物。
フブキたちは、その圧倒的な黒い壁の足元で、完全に言葉を失っていた。
「………何処から、入ったらいいんですかね?」
「………あれ、じゃないか?」
指さした先、五人のいる場所から少し離れた場所に何かが見える。
近付いて確認してみれば、確かに入り口らしき巨大な漆黒の鉄門があるのが分かる。
ただ全員がそこに近づくのを躊躇したのは、門の左右に立つ、生身の人間とは思えない異様な影が存在していたからだ。門の両脇に佇むのは外壁と同じ漆黒の装甲を持つ、見たこともない重装甲兵だった。
頭部をすっぽりと包む鉄兜とガスマスク状の防具――その目元にある二つの丸いレンズが、不気味な赤色に怪しく明滅している。時折、「プシューッ……」という重い排気のような音が、装甲兵から聞こえてきている。
それでも恐る恐る近付いて行けば、無機物な赤い目が彼らを捉える。
『止マレ』
くぐもった、人の声が響いてくる。
どうやら見た目こそ恐ろしいが、どうやら中にちゃんと人が入っているようだ。
『コノ先ハ、帝国首都『ローゲル』。此処ヲ通リタクバ、身分証ヲ提示セヨ』
「み、身分証……こ、これです!」
胸元から、鎖の付いた認識票を取り出す。
門兵は全員分のを受け取るとトレイのような物に置き、それを門の脇にある小窓から中へと入れる。そこで何が行われているのかと窺っていると、『承認完了』という声が響いてくるのと同時にトレイが返され、全員が認識票を受け取って元に戻す。
『通行ヲ許可スル。ヨウコソ帝都ヘ』
プシューッと高い排気音が鳴り、続いてガコンッという重々しい駆動音が響く。
ゆっくりと分厚い鉄の城門が内側へと引き込まれていき、ようやく五人は帝都へと足を踏み入れることが叶った。
ただその内側は外観と同様に、見たこともない光景が広がっていた。
「中も……やっぱり煙っぽいね」
街全体が真っ白な煙に包まれており、遠くまで見通すことは不可能となっていた。
今彼らがいるのは恐らく大通りと思われるが、 如何せん視界が悪いので少し離れた場所にある店の看板が微かに見える程度である。そこかしこからガコンガコンっと規則的な音や、排気の音などが響いており、音源が何処かさえ特定することは難しい状態となっていた。
「とりあえず、今は宿屋を探しましょう。話はそれからですね」
「そうだね、まずは一晩休んでからかな」
取り合えずの方針を決めた一行は、まとまって周囲を探すことにした。
下手に手分けしてしまえば合流するのは難しいとの判断だったが、冒険者を含めて外からやってきた人間を通す以上は必ず宿屋は門からそう遠くない場所にあるというのも理由の一つではあった。ただ本当に視界が悪いので店の前まで行っては看板を確認し、違ったら次の店に移るという作業を行っていたので目当ての建物を見付けるのに小一時間は要することとなった。
「いらっしゃい」
「あの、泊まりたいんですが……」
「五人かい? うちだと四人部屋と二人部屋しか用意できないよ」
「それで構いません。お願いします」
「あいよ」
五人を出迎えてくれたのは、恰幅の良い夫人だった。
フブキが代表して受付を済ませ、それぞれの部屋の鍵を手渡される。
「食事はどうするんだい? 外で食べるよりかは安くしとくよ」
「お願いします」
「にしても、アンタ達……観光かい? それとも商売?」
「いえ、冒険者ですので……」
「冒険者ねぇ……そう言えば、何日か前にも同じように宿泊していった三人組がいたねぇ」
女将の言葉に、全員が三人組の正体を察する。
特に警戒している訳ではないが、一応念のために彼らの動向を訊ねておく。
「その人たちは今も泊っているんですか?」
「それが宿泊した翌日には出て行ってね、それ以来戻ってきてないんだよ」
「何処に行ったのかも分からないんですか?」
「出発の時に聞いてみたら、『皇帝陛下に会いに行く』とか言ってたよ」
今頃どこに居るんだろうねぇ、と女将は首を傾げる。
それ以上踏み込むのは止め、適当に話を切ってから五人はその場を後にした。
今晩の宿も確保できたことなので、五人は今後について話すべく四人部屋の方へと集まる。
「これから私たちは赤の領土を目指せばいんですよね?」
代表して、フブキが皆に問いかける。
縦に長い黒の領土を真っ直ぐに北上し、それから東に向かうことで赤の領土へと陸路で渡ることが出来る。言葉にすれば酷く単純のように聞こえるが、実際にはそう簡単ではないことをデュラハンは説明する。
「そうだが、問題がある。ミオさん、この大陸の地図を出してくれないか?」
「分かったよ……はい、これ」
「ありがとう」
ミオが港で買っておいた地図を受け取り、それをテーブルに広げる。
現在一行がいるのは地図の南側に位置する帝都であり、赤の領土はそこから北東の方角に位置している。
「この地図、おかしくない? この横に横断しているのは関所か何かだと思うけど、そこから北側は何でこんなに点が細かく散りばめられてるの?」
「フブキ。その横に伸びてるのは関所じゃなくて、魔物の侵攻を防ぐ北壁だよ」
「それから北壁から上は一年を通して雪に覆われているんだ」
「えぇ~、雪が降ってるの? ボクぅ、寒いの嫌だなぁ」
雪と聞いて、おかゆが露骨に嫌そうな顔をする。
それは彼女だけでなく、フブキとミオも寒いのは苦手なのか似たような表情をしている。
「少なくとも、ここで確りと準備をする必要があるな」
「何を用意したらいいのかな? 分厚い毛皮の服とか?」
「その辺り店の店主なり、あるいはここの女将が知っているかもしれないな」
「なら夕食の時に聞いてみようか」
「さんせ~い♪」
とりあえずの話し合いを終え、一先ずは解散となった。
それから暫くして夕食の席のこと。
「えっ、北上できない?」
女将の出してくれた料理は大変満足の一言であった。
それから世間話ついでに話してみると、驚くべき返事が返ってきた。
「いや、全く出来ないってことはないと思うけどねぇ……」
「どういうことですか?」
「元々は定期的に解熱剤の材料である『氷晶花』の採取や、防寒着に使われる毛皮の調達なんかしてたんだけどね。少し前から皇帝陛下が北壁を超えることを禁止するようになっちまったんだよ。おかげで商売上がったりだってボヤいてる話も聞いてるね」
「そんな……私たち、どうあっても北壁を越えないといけないんです!」
「あたしに言われても仕方なんだけど……方法があるとしたら、皇帝陛下に直訴するしかないね」
「えっと、皇帝陛下って人にはそんな簡単に会えるんですか?」
ミオの問いに、女将はきょとんとした表情を浮かべた後に豪快に笑う。
「アッハハ! そんな訳無いさね。仮にもこの国で一番偉い人なんだ、アタシらでも謁見するなんて無理な話さ!」
「ですよねー……」
「まぁ、伝手でもあれば話は別だけどね」
伝手、と言われて全員の視線がフブキに向けられる。
国は違えど一国の姫である彼女であれば、あるいはと期待の眼差しを向けられている。
「さ、流石に面識はないかなぁ……お父様なら出来たかもしれないけど」
そう申し訳なさそうに、フブキは答える。
公国の時のようにそう都合よく物事が運ばないのが現実であることを痛感する。
「まぁ、明日はギルドの方に顔を出して情報を集めてみるか」
「そうだね。何か別の案が出てくるかもしれないし」
食事を終え、五人は再度部屋へと戻ることとなった。
北上を前に思わぬ障害が立ち塞がったが、これまで何とか乗り越えられてきたことから無意識とは云え、誰しもが「どうにかなるだろう」と楽観視している節が少なからずあった。
◆
翌日、その考えが酷く甘いものであると思い知ることとなる。
手段を問わず、何とか北上する手段はないかと色々と情報を集めてみたが、無理という結論だけが判明した。
「北壁は端から端に伸びていて隙間はなし」
「監視も二十四時間二百五十日、休みなしだって」
「検査も厳しく、顔なじみであっても徹底的に確認が行われる」
「積み荷も一つ一つ調べられるのである」
「当然、内部にはネズミ一匹入ることは不可能」
「……詰んでる、これ?」
その日一日で得た情報を並べていくにつれて、五人の顔色は曇っていく。
どう足掻いても北上は叶わず、かと言って引き返した所で何も意味を成さないことから、文字通り行き詰ってしまった。
どうしたものかと考えあぐねる一行に、そろりそろりと忍び寄る影があった。
そして――。
「だぁ〜りん!」
「っと!」
デュラハンの背後から、彼の背中に飛びつく。
突然のことに驚きながらもそれを受け止め、後ろを向いてその人物を確認する。
「……フレア?」
「えへへ、来ーちゃった♪」
はにかんだ笑みを浮かべるのは、ハーフエルフの不知火フレア。
まさかの人物の登場にフブキたちは驚きを隠せない。
「不知火さん!? どうしてここに?」
「あははっ、久しぶりだね! 再会できてあたしも嬉しいよ」
フレアはデュラハンから離れると、フブキたちにも挨拶をする。
白の領土で出会ってから暫く経つが、あの時と変わらない明るさを湛えている。
(いや、以前よりも遥かに強くなっているな)
実際に数値を見ている訳ではないが、彼女の纏う雰囲気は変わっている。あの時点で冒険者として中堅あたりに位置する力量だったが、今は少なくともフブキよりも上なのは間違いはなさそうだった。
兎も角、立ち話も何なのでギルドのロビーの片隅にあるテーブルへと移動する。
「それで、不知火さんはどうしてここに?」
「うん。あれからあたしなりに色々と考えて、もう少し世間と関りを持とうと思って森を出たの。あんまり近くだとまた引き籠っちゃいそうだから、思い切って黒の領土まで来てね」
「えっ、私たちより後に旅出たのに、先に到着したんですか?」
フレアの発言に、フブキが疑問を口にする。
確かに自分たちは寄り道こそ何度かしているが、ここまでちんたら旅してきた訳ではない。にも関わらず、自分たちを追い越しただけでなく以前よりも強くなっているのはどういうことなのだろうか。
「あれ、知らない? 転送装置」
「………何ですか、それ?」
その言葉に、誰もが首を傾げた。
確かに人や物を遠くへ送る魔法は存在するが、既に人間側には失われて久しく、恐らく使えるのは賢者ぐらいなものだ。
何やら状況を察したフレアは周囲を見回して話が漏れないかの確認をした後、声を潜めて説明をする。
「空間転送装置ってのは、人材や物資を遠方に送ることのできる古代の遺物なの。これは各国のギルド本部に設置されていて、使えば徒歩なら数ヶ月を要する国境を越えた移動を「一瞬」で可能にするんだ。ただ好き勝手には使えないし、使用するにも色々と条件が設けられているの。それとこのことは秘匿事項だから、基本的には白銀級以上の冒険者にならないと教えてもらえないし、口外することも禁止されてるから皆も言っちゃダメだよ?」
ここで彼女が口外していることを指摘するのは、恐らく野暮なのだろう。
「そんな便利なものがあるなんて……」
「じゃあ、フレアさんは白銀級だったから、それを使って黒の領土まで?」
「話せば長くなるけど、帝国に飛んできた時はまだ青銅級だったんだ。ただ転送装置のことは昔に聞いたことがあったし、白の領土のギルド長とは旧知の中だったから色々と条件を飲む代わりに無理言って使わせてもらって……今に至るって感じ」
「ち、因みに今の等級は?」
「白銀級だよ」
ほらっ、と言いながら胸元から銀色に輝く認識票を見せる。
冒険者の等級は一人前と称される青銅級までは努力すれば誰でも昇り詰めることが出来るが、努力や生半可な覚悟では白銀級になることは不可能だ。ましてや黄金級ともなれば天からの寵愛、あるいは時代を揺るがす偉業でも成し遂げなければ先ず不可能と言われている。それを短期間で等級を上げたことから、かなりの修羅場を乗り越えてきたのだろう。
「それで、皆はここで何をしていたの?」
「ああ、実は……」
フブキは自分たちの置かれた現状について説明をする。
北壁を突破できず、困り果てていたことを話すとフレアはうんうんと頷いてから口を開いた。
「普通にフブキちゃんが王様の所に会いに行けば良いんじゃないの? 仮にも世界を救おうとする勇者なんだし」
「それはちょっと避けたいかなって……外交的に変な言いがかりとか付けられたくないので」
「そうなの?」
「私、これでもコーンフィールド王国の姫太子なので」
もしフブキが只の勇者だったのなら、あるいは正面突破を選んだかもしれない。
彼女は知らないことだが、帝国の皇帝は非常に野心家であり、世界征服を目論んでいるのは各国の代表も察してはいた。ただ彼の王は極めて冷静なリアリストであり、闇雲に進行してくることはないが、フブキの正体が知られては政治的、あるいは戦略的に捕縛される恐れはあるので不用意な行動は出来ない。
「あー、そっか。因みに相手はフブキちゃんが王女様だってことは知ってるのかな?」
「……どうでしょう? 直接お会いしたことはないですが」
「んー………あっ、確実じゃないけど思い付いた」
「えっ、本当ですか!?」
「うん。ただ悪いけど、また明日にしてもらっていいかな? 会わせたい人がいるから」
「? 分かりました。お願いします」
内容は知らないが、打開案が出たことにフブキたちはひとまず安心する。
フレアは明日の昼頃に迎えに行くと言い残してギルドを出て行った。
◆
翌日、フブキたちは昼頃にギルドを訪れた。
ドアを潜るや否や、職員の方には話が通っていたのか、五人は奥の個室へと通される。秘密の話し合いや他人に聞かれたくない話などをする場所として用いられることが多く、きっちりと窓とドアを閉めておけば外に内容が漏れることはない。また盗み聞きしようと閉まっている戸のドアノブに手を掛ければ、大きな音が鳴る仕組みになっているので部外者の存在にもいち早く気付ける仕様になっている。
そんな部屋で暫く待っていると、ガチャッと音を立てて部屋の扉が開く。
「お待たせ~」
「不知火さん!」
「ほら、入って入って」
そう言いながらフレアは部屋に入り、その後ろから更に誰かが入ってくる。
フードを目深く被っているので顔は見えず、外套を羽織っているので体型も分かり辛いが背丈からして女性だろう。
「不知火さん。あの、そちらの方は?」
「彼女は――」
フレアは途中まで言い掛け、何かに気付いたのか言葉を止める。
それから同行者の腕を引っ張って隣に越させてから、フードをばさりと捲れさせる。
「彼女は白銀ノエル。帝国が誇る白銀騎士団を束ねる団長だよ」
名前:白銀ノエル 種族:人間 職業:聖騎士
体力:8140 魔力:904 総合戦闘力:9044
「……ふへ? 騎士、団長?」
「うん、そうだよ」
鸚鵡返しのように呟くフブキに、コクリと彼女は頷く。
誰か協力してくれるであろう人物を連れてくるとは思ったが、まさか国としても重要な人物とは思いもしなかった。
「あの、不知火さん。なんで急に騎士団の団長さんを? それに、どうやって知り合ったんですか?」
「帝都に来て少しした頃に、偶々入ったお店で席が隣になって。そこから何だかんだあって意気投合し、今に至る感じかな。それでノエルを連れてきた理由だけど、皇帝も認めている騎士団長からの進言だったら無碍にされたりしないかなって思ったから」
「そうなんですね。その、白銀さんはどうして私たちに協力を?」
フブキに訊ねられ、ノエルは黙り込んでしまう。
どう切り出したものかと悩んでいる様子だが、少ししてようやく口を開く。
「みんなは皇帝陛下がどんな人物か、知っちょん?」
「え? えっと……」
チラッと、フブキが視線をデュラハンに向ける。
期待されている上、特に自分が答えても問題ないと判断して代わりに答える。
「皇帝はもともと、非常に野心的な人物だ。少なくとも五年前の大敗北を喫するまでは四国を統一し、世界の頂点に立つことを豪語していたらしい。今でも軍事力を高めることを続けていたが、少し前から様子がおかしいと宿屋の女将から聞いている」
「そうなんよ。なんというか、今までの陛下とは違うんよ」
「違うと言うと?」
「んー……騎士団にも率先して魔物を狩るんを止めさせ、北壁でも向かっちくる魔物を押し返すのが主で、それ以上攻め込まん。それに食ん好みも変わっちょって、大好物やった料理には一切手を付けずに生肉を好んでる。他にも陛下が長年可愛がっちょった愛馬や猟犬が、彼が近づくだけで狂うたごつ怯え、激しゅう吠え立つる」
「………なるほどな」
話を聞き、デュラハンは目を閉じて腕を組む。
はた目には考え込んでいるように見えるが、実際には違っていた。
(確か帝国の攻略には月影が動いているんだったか)
事情を知っているだけに、彼には容易に想像できた。
帝国への侵略を任されている知の月影旅団は、武の夜叉兵団とは異なり諜報活動や暗殺といった裏方の任務を得意としている。今回の月影の作戦内容をデュラハンは知らないが、おそらくは魔物の誰かが皇帝になり替わっていると推測できる。動物の行動も、本能的に魔物の脅威を察してのこと思えば当然と言える。
「なんかなし、皆にはお城まで来ち陛下のことを調べち欲しいんよ。わたしは立場上、表立っち動くこたあ出来んけん」
「だが、どうやって中に入る? 幾ら上が怪しいからとて、堂々と招き入れられるとは思わないが?」
「そこはあたしも考えたんだけど、皆には旅の芸人のフリとかしてもらうのはどうかな?」
突然のフレアの発言に、誰もが首を傾げた。
芸人としてならば確かに多少の融通は利くだろうが、そもそも帝都の城にそのような者が入れるのだろうか。
「そんな簡単に城に入れるのか?」
「そこはわたしの紹介、として入ってもらうよ。それに、今は旅の踊り子も逗留してるから、怪しまれんち思うよ」
「なら俺たちが注意を引いている間に、おかゆが裏で調査するのが無難だな。もし危険があれば即時撤退だ」
「りょーかい!」
ビシッ、とおかゆが敬礼をする。
「それで、作戦決行はいつにする?」
「早い方が良いから、数日中には入れるよう手配しておくよ」
「了解だ。なら俺たちはその間に、何かしら芸が出来るようにしておかないとな」
「えーっ! 本当に何かやるんですか!?」
デュラハンの言葉に、フブキが驚きの声を発する。
それは声こそあげなかったが、ミオも同じであった。
「芸って、私そんなことやったことありませんよ!?」
「安心しろ。俺も出来ん。ただ注意さえ引ければいいからな、例え酷評でも問題ない」
「いや、そうかもしれませんけど……」
不安げな表情を浮かべるフブキ。
しかし話し合いは淡々と進んでいき、今後の予定について取り決めが終わる。
それからは皆で芸の練習に励み、何とか形にすることができた。
◆
同時刻、皇城のとある一室。
そこには皇帝と呼ばれる男と、それから小柄な女性の姿があった。
場面だけ見れば王が夜伽の相手を部屋に連れ込んでいるだけだが、その立場は明らかに逆であった。
女性の方は豪奢なベッドに腰掛けながら足を組み、皇帝はその前で跪いて首を垂れている。
「それで? 潜入して暫く経つけど、経過はどうなの?」
「はっ、ご報告いたします。北壁についての調査ですが、現在までに抜け道等は確認できておりません。また結界の動力炉はやはり北壁の最深部に設置されているらしく、破壊するには内部に潜入するしかございません。また常駐している兵士の数は約三万ほどですが、出入りする者は誰であろうと厳重に検査が行われており容易に踏み込むことは出来ません」
「ふぅん……」
膝を折る皇帝に冷ややかな視線を向けながら、少女は口を開く。
「潜入からそこそこ経つのに、その程度しか分かってないの?」
その声に込められているのは、呆れである。
ただ本人が思った以上の圧が籠もっていたのか、皇帝はビクッと身体を震わせた。
「も、申し訳ありません! い、今しばらくの猶予を頂ければ、必ずや北壁の突破口を見付けます故……!」
「なら良いわ。それと、アンタの正体は気付かれてないでしょうね?」
「う、疑っている者もおりますが、今のところは気付かれてはおりません」
その回答に、少女からの視線が外れる。
そのことに皇帝は安堵から息を吐く。
「そう言えば、偽りを暴くっていう鏡についてはどうなってるの?」
「そちらについては調査は完了しております。この帝都より北西に進んだ場所に、森におおわれた奥にある遺跡に眠っているようです。ですが人間どもの用いる結界とは比べ物にならないほど強力な結界で守られており、魔物では立ち入ることは叶いませんでした」
「つまり、魔物じゃ運び出すことも破壊も出来ないってことね」
「……面目次第もございません。で、ですがご安心ください! 本日、勇者を自称する者が城に来られました。奴らをうまく利用すれば鏡を破壊させることが出来るやもしれません!」
焦りから声を大きくする皇帝。
しかし少女はそれを気にする様子はなく、寧ろ満足気な表情を浮かべている。
「そう、なら良いわ。それより本物の勇者も、この帝都に来てるというのは本当?」
「は、はい。門兵からの報告で勇者一行が来たと、昨夜報告が上がっております」
「じゃあ勇者たちを城に招き入れなさい。理由は何でもいいわ」
「は? 何故そんな真似を……」
捕縛ならいざ知らず、どうして招くのかと。
その真意が分からず、困惑する様子の皇帝に少女の冷たい眼光が向けられる。
「は? このアタシに意見するの?」
「し、失礼しました! 仰せの通りにいたします!」
「そう。せいぜい頑張りなさい」
少女はそう言い残し、忽然と姿を消す。
一人っきりになったところで皇帝が安堵した瞬間、部屋の扉の方で微かな物音がする。
「誰だっ!?」
ギラッ、と鋭い目つきで音のした方を睨む。
僅かに開いた扉の向こう、暗闇の奥に誰かの人影が確かにあった。
「ヒッ……」
その人影は小さく悲鳴を上げ、その場から逃げ出そうとする。
だが、それよりも早く一瞬で距離を詰めた皇帝は隙間から手を伸ばし、目撃者の首を鷲掴みにすると部屋の中へと引きずり込み、そのまま片手で保持したまま持ち上げる。部屋の戸は独りでに閉まった上で、何人も立ち入れぬように鍵が勝手にかかる。
覗き見していたのは、この城に仕えるメイドの一人だった。
「貴様、さっきの話を聞いていたな?」
「ガッ、は……も、申しわげ、ございません」
人間のものとは思えぬ力で首を握りしめられ、骨が軋む音がする。
息苦しさに悶えながらも、メイドは何とか許しを請おうと懸命に言葉を紡ぐ。けれども皇帝の険しい表情が和らぐ様子はなく、寧ろその目は見るからに冷酷なものとなっていく。
「いいや、目撃者は許しておけぬ」
圧迫される頸椎の悲鳴を聞きながら、メイドは死を覚悟して目を固く閉じた。
だが、訪れたのは骨の折れる音ではなかった。
皇帝は掴んだ腕を引き寄せ、彼女の顔を己の前へと引き据える。
――みちち、と。
湿った、肉が裂けるような深いな音が響く。
何の音かと思わず目を開けば、皇帝の年相応に薄く刻まれた皺が、口の端から頬に耳元に向かって伸びているのが見える。いや、薄暗くとも至近距離から見たことで、それが皺などではなくミシミシと裂け開いていることを理解する。
人間の骨格ではありえない角度まで広がった巨大な口。
裂け目からは鮮血が吹き出すこともなく、ただ粘着質な唾液と、無数の鋭い牙が覗く黒い洞窟のような口腔が露わになる。人間の皮膚の破片をぶら下げたまま、その「口」は男の頭部を覆い尽くせるほど巨大に開かれた。
「ひ、あ――」
喉から漏れた小さな悲鳴は、即座に途絶えた。
女の視界は、皇帝の裂けた頬の内側へと丸ごと飲み込まれたからだ。直後に彼女の意識は途絶え、暫くは不快な音が室内に響いていたが、やがて何も聞こえなくなった。
◆白銀ノエル
年齢:18歳 性別:女性 身長:158㎝(105K) 適正:戦棍
装備:破砕の戦棍、神聖銀の胸甲、聖印の凧型盾
帝国が誇る白銀騎士団の団長。
常人の数十倍の密度と柔軟性のある筋繊維密度を先天的に持っており、これにより人間を遥かに超える力を発揮することが出来るが、非常に燃費は悪いので数人前の料理も平らげられるくらいの大食漢。
なお、胸筋は魔法の防具で抑えられて尚、大きさを隠し切れない。
言わずがな、通常衣装の団長です。
体質については、いつぞやのPVでドラゴンの尾の一撃を受け止め、更にはぶん投げたことから人間ながら普通とは違うということで付け加えました。
クリック? クラック! また今度。
フレアの立ち絵が適してる?(あるいは好み?)
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Aの画像
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Bの画像