※この作品はR-18です。

Holo Quest   作:轟th

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・隠し部屋
 忘れられた遺跡の何処かにある小部屋。
 遺跡が築かれた際に協力したエルフが悪戯心から設けた部屋であり、真正面からの入室は出来ず、第二階層の罠からしか入ることは出来ない。ただし罠に掛かっても必ずしもたどり着ける訳ではなく、『肉体関係のある男女のみ』という条件をクリアしなければ立ち入れない。
 部屋は第四階層と同じ深さにあり、完全な防音と防振により遺跡側から発見することは先ず不可能である。ただ入退室は難しくはあるが、もし出来た場合は第三と第四階層を無視しで最下層へとたどり着くことが出来る。


・賢者シオン
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・女中あくあ
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では、本編をどうぞ。



scene.46

 一方、その頃。

 勇者たち一行は多少時間を要しながらも順調に、第四階層へと到達していた。

 

「ああっ、もう……!」

 

 焦りに満ちた表情を浮かべ、息を荒く吐き出す。

 聖剣を片手にフィールドを疾走し、頭上から猛スピードで迫りくる巨大な金属の塊を屈むように回避する。ごうっ、という空気を引き裂く音に続き、ドゴンッと硬い岩壁に金属塊が突き刺さる。

 

「今度こそ…!」

 

 狙いが外れたと同時に方向転換し、フブキは空間の奥へと目指す。

 奥行きのある回廊、その最奥にある壁と半ば同化するように君臨するのは機械仕掛けの鉄の怪物であった。生物なら誰もが持つはずの下半身は根本から欠落しており、あるのは赤色に怪しく輝く巨大な宝石がはめ込まれた胴体とその上にある頭部のみ。そして胴体から独立して稼働する、二本の腕のみという構成になっている。

 

「てやぁっ!!」

 

 ある程度距離を詰めたところで、下から斬り上げるように聖剣を振るう。

 紅玉目掛けて放たれた一撃は、その眼前に展開される半透明の障壁により阻まれてしまう。

 

「くっ……」

 

 続けてもう一撃、と行きたいところだが、それを阻止せんともう片方の腕が飛んでくる。

 それをミオが離れた場所から放った炎弾が直撃したことで僅かに軌道がそれ、その隙にフブキは敵から距離をとる。

 

「フブキ! 大丈夫!?」

「うん! おかげで助かった、ありがとう!」

 

 後ろへと後退しつつ、心配するミオに向かって返答する。

 そこへ同じように下がってきたおかゆと、バクニもまた合流する。

 

「すまぬ。あの腕を抑えておれんかった!」

「やっぱり、あの障壁が厄介だね」

「けど、ある程度は動きも予測できるようになったよ」

 

 明らかな強敵を前に、しかし彼女たちには何処か余裕があった。

 というのも、彼女らがあの古代の魔像と戦い始めてからすでに、半日以上の時が経過しようとしていたからだ。

 遡ること実に八時間前、四人が第三階層の謎解きを経てこの階層に降り立った時、既に戦闘は始まっていたのだ。ただ魔像と戦っていたのはフブキたちの前を先行していた、リバティ率いる偽勇者一行である三人であった。どうやら彼らも魔像との戦いには苦戦を強いられてらしく、苦戦しているところに合流した格好である。

 そして彼女たちに気付いたリバティは、こういった。

 

『増援か! よく来た、早く手伝え!!』

 

 何か勘違いしている様子だったが、助けを求められた以上は見過ごすことなどできない。

 何よりフブキたちの目的はリバティたちに追い付くことにもあったので、落ち着いて話し合いをする為にも先に厄介そうな敵から排除しようと判断しての行動だった。だが、あろうことか彼らは敵の注意が彼女たちに向けられた隙を見計らって魔像の下にある門を潜って先に階下へと降りて行ってしまったのだ。つまり、体よく利用されたということだ。

 以前にも似たような展開があったことを思い出しながらも、直ぐに後を追おうとしたフブキたちの前に魔像は立ち塞がった。

 魔像は非常に厄介な相手ではあったが、意外にもその攻撃パターンは限られていた。

 先ずは単体で二メートル近い巨大な鉄の塊である浮遊する二本の腕、そこから繰り出される拳撃と横薙ぎの二種類のみ。掴まれたり叩き潰されれば危ない攻撃ではあるが、どちらも予兆があるのでそれを理解できれば避けるのは難しい話ではなかった。

 問題なのは――。

 

「また、アレが来るよ!」

「散開!!」

 

 ミオの警告を受け、フブキが号令を出す。

 それと同時に全員が素早く四方向へと散らばれば、その直後に魔像の胸にある紅玉から光の熱線が放たれる。それは先ほどまで四人が立っていた場所を焼き、光が通った場所にある石材は溶けて煙を上げている。もし生身の人間が直撃しようものなら、絶命すら上げる猶予もなく消滅してしまうだろう。

 

「みんな、大丈夫!?」

「ウチは平気だよ!」

「ボクも大丈夫!」

「同じく!」

 

 フブキの言葉に、全員が無事を伝える。

 仲間の安否を確認できたことに安堵する暇もなく、魔像は既に次の行動に移っている。

 

「やっぱり、魔力照射の前後で障壁は解除されてるみたい」

「時間的に五……いや、三秒ってところかな」

 

 使い魔であるハトタウロスに抱えられたミオが、仲間たちに情報を共有する。

 おそらく動力源と思しき胸部の紅玉は常に攻撃を防ぐ魔力障壁により守られているが、既に何回目かになる魔像の様子を観察したことで規則性を見つけることができた。分かったのは魔像は一定以上距離を空けた対象に向けて魔力照射を放つこと、発射するために魔力を紅玉に収束させる必要があるのでミオのように魔力が見える者には予兆を察知することが出来る。そして何よりも肝心なのは照射前に一度、そして照射後も一定時間、障壁が展開できない空白の時間が生まれる。

 

「あそこに一撃でも与えられれば、間違いなく致命傷に出来る筈だよ!」

「とは言っても、そこを狙うタイミングが難しいんだよね!」

「どうする? 境界まで撤退する?」

 

 飛来する剛腕の攻撃を回避しながら、四人は話し合う。

 そう、彼女たちが幾ら高位に匹敵する冒険者だとしても、八時間も戦い続けるなど不可能だ。にも関わらず戦い続けられているのは、この階層に施された仕組みを利用したからに他ならない。どうやら縦長の形をした第四階層は中間くらいに見えない境界線が存在するらしく、それを越えなければ魔像からの認識も外れるのか敵対行動をとらなくなる。

 気付けたのは偶然だったが、おかげで無理しない程度に戦闘しては安全圏まで撤退して休息を繰り返していた。

 

「ううん、流石にこれ以上時間をかけるのは止めた方がいいと思う」

 

 おかゆからの提案を、フブキは首を横に振る。

 彼女たちがデュラハンたちと逸れてから約一日と半、リバティたちが自分たちに魔像を押し付けてから五時間は経過している。仲間がどうしているかの心配もあるが、それ以上にリバティたちに早く追い付いて彼らが遺物を破壊する前に留めなければならない。何より彼女たちが事前に用意しておいた物資も、そろそろ心許なくなってきていた。

 これ以上、足止めされる訳にはいかない。

 

「分かったよ。ならボクたちで注意を引くから、フブキちゃんは全力の一撃を叩きこんで!」

「任せるのである!」

「が、頑張るよ!」

「お願いします!」

 

 そのやり取りを最後に、各々は行動を開始する。

 バクニとおかゆの二人は魔像の注意を引くべく前へと飛び出し、それが囮とも分からぬ魔像は両の腕をそれぞれに向ける。おかゆは迫りくる拳をその軽やかな身のこなしで躱しつつ、タイミングを見計らっては短剣で腕を斬りつけてていく。対してバクニは拳撃を真正面から受け止めようとはせずに盾を使ってうまくパリィし、お返しとばかりに戦斧を叩きつける。どちらもダメージとしては大したことはないが、両腕を釘付けにするという目的は果たしていた。

 

「水よ、凍てつく絶対の静寂となりて我が前に集え。敵の劫火を阻む、揺ぎ無き氷の城壁となれ」

 

 ミオは後方にて魔法の準備を始め、その傍らにはフブキとハトタウロスが控えている。

 まだ魔法を発動させずに魔力を高めていけば、それを察知した魔像は迎撃せんと紅玉への魔力収束を開始する。これから彼女が為さんとすることは少しでもタイミングが遅れてしまえば、取り返しのつかない大失敗に繋がることになる。その事実に自然と魔力を練る指先がわずかに震え、背筋を冷たいものが走り、喉の奥がカラカラに乾くのを感じる。

 

(ミオ……)

 

 その様子を、直ぐ傍にいるフブキが気が付いていた。

 普段なら声を掛けたかもしれないが、今はあえて彼女の集中を削ぐような真似は避けた。

 ここで彼女を鼓舞するような真似は、親友を信頼していないように思えたからだ。

 そして―――時は来た。

 

「――今っ!」

 

 ミオが巨大な氷塊を前面に展開するのと、魔像の魔力照射は全くの同時であった。

 一見すれば障壁としては十分すぎると思えた氷の城壁も、熱線の前には着弾までの僅かな時間を稼ぐしか出来なかった。それでもハトタウロスがミオを抱えて回避行動をとり、そしてフブキが駆け出すには十分すぎる時間となった。

 魔像の魔力照射を正面から受け止めた氷塊は瞬く間に溶けたが、それは大量の水蒸気となって部屋全体を覆い尽くす。

 

「―――――」

 

 魔像の赤い瞳が、周囲を見回すも、視界の全てが白く染まっていた。

 何も見えなくなったことで反応は遅れ、それは魔像にとって致命的な隙を生むこととなった。

 

「だあああああぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 水蒸気を切り裂き、射出された一筋の矢のごとく、空中の紅玉へ向けて一直線に突き進む。

 もはや両腕を戻して防ぐことは叶わず、障壁の再展開まで残りコンマ数b――

 

 

 

 

 

―――パキンッ

 

 時間すら引き延ばされたかのような静寂の中、放たれた一閃が紅玉を貫いた。

 妖しくも美しかった紅玉の輝きが何度か明滅し、急速に赤黒い濁りへと変わっていく。それに合わせて本体や両腕へと巡っていた魔力の幾何学的な模様が一筋ずつ光を失い、やがて完全に消灯するのに合わせて巨腕が力なく床へと落ちて豪快な重音を立てる。

 正しく動力の切れた魔像の瞳からも色が失せ、ただの冷たい物言わぬ鉄の塊へと戻った。

 薄れゆく水蒸気と沈黙だけが、静かにその場を支配していた。

 

「終わったの?」

 

 誰ともなしに、そう言葉にする。

 至近距離にいるフブキは呼吸を整えながら様子を伺えば、魔像は動く気配を見せない。

 終わったのだと安堵した彼女は剣を引き抜き、そのまま地面へと着地する。

 

「はぁぁ……終わった」

 

 思わず力が抜け、その場に座り込んでしまう。

 そこへ無事だった仲間たちも駆け寄ってきて、全員が再び合流を果たす。

 

「フブキちゃん、怪我はない?」

「おかゆさん。うん、大丈夫だよ。みんなは?」

「ボクは大丈夫」

「小生も同じく」

「ウチもハトタウロスのおかげで平気」

 

 四人とも大した怪我もなく、魔像を倒すことが出来た。

 このまま休息をとりたいところだが、早いところ先に降りたリバティたちを追いかけねばならない。

 

「もうひと踏ん張り、頑張りますか」

 

 そういってフブキが立ち上がった矢先。

 ヂヂッという火花が散るような音が、どこからかしたのを聞き取る。

 

「今の――」

 

 その正体を探るよりも早く、貫かれたはずの魔像が異音を立てて再起動を果たす。

 倒したと思ったのにまだ動けたことに驚きながらも、咄嗟にトドメを刺そうとフブキが動くよりも魔像の方が早かった。

 貫かれた紅玉から溢れ出した赤黒い魔力が爆発的な衝撃波となって吹き荒れ、近くにいた勇者たちを一気に吹き飛ばす。

 

「きゃっ!」

「のわっ!!」

 

 軽く五メートルは地面を滑った四人は、状況を確認すべく魔像を見る。

 魔像は復活したのかと思えばどうやらそうではないらしく、その証拠に彼女たちの傍に落ちている両腕は動く気配はない。ただ罅の入った紅玉から紫電を迸らせながら、魔力照射した時のように魔力を収束させている。

 

「ど、どういうこと?」

「分かんないよ!」

「あの様子……もしかして、暴走してるんじゃないの!?」

「ど、どうしよう……あれは、一体どうすればいいんだい!?」

 

 ミオの推測も確信がある訳ではなく、それ以上にこの場においてどう対処すればよいのか思いつかなかった。

 ただ一つ分かることは、このまま放置すれば厄介なことになるのは間違いないということだ。

 ならば今度こそ完全に破壊して見せる、と一歩を踏み出そうとしたフブキは何かが顔に当たって阻まれる。

 

「痛っ! な、何なの、急に!?」

 

 何か飛んできたのかと思って前を見るが、そういった類のものは転がっていない。

 ならば何かと前に出した手を見れば、それは不可視の障壁に遮られていた。

 

「これは……障壁!?」

「嘘……だって魔像からは軽く数メートルは離れてるんだよ!?」

 

 先ほどまでは紅玉の周囲のみだった魔力障壁。

 それが今や、なんぴとも近付けさせないと言わんばかりに魔像を中心にドーム状に広がっていた。

 

「これじゃあ近付けないよ!」

「……ねぇ、さっきから何で魔像は攻撃してこないのかな?」

「え……?」

 

 ミオは何かに気付いたように、みんなに問う。

 言われてみれば、既に熱線を放つだけの魔力を収束する時間は十分に過ぎていた。

 フブキたちは障壁の前で固まっているのだから、解除すると同時に発射すれば回避するのは難しいのに攻撃してこない。

 これはどういうことかと、全員は改めて魔像の方へと視線を向ける。

 

「―――――」

 

 魔像は今なお、魔力収束を続けている。

 首筋や胴体は小規模な爆発を起こすが、それでも構わずに紅玉へと魔力を蓄積させていく。

 

「どうしちゃったのかな、もしかして壊れた?」

 

 魔像の行動の意味が分からず、おかゆは首をかしげる。 そんな彼女の横にいたミオは何かを察したのか、徐々に顔を青ざめさせていっている。

 

「どうしたの、ミオ?」

「……あの、確証がある訳じゃないんだけど……あの魔像は臨界を待ってるんだと思う」

「臨界?」

「えっと、その……あれ以上魔力が溜まったら……ば、爆発しちゃうと思う」

「……ば、爆発!?」

 

 ミオの説明に、思わずフブキは素っ頓狂な声を上げる。

 彼女の話によると、この世のあらゆる物質には全て容量が定められており、それ以上を詰め込むことはできない。コップに容量以上に水を注ぎこめば溢れた分は縁から流れ落ちるが、ああいった魔石のように密閉された空間では余剰分を外に逃がせず、その結果として容器そのものを破壊する。

 

「ち、因みに爆発の威力とか分かるの?」

「えーっと、親指サイズの魔石なら分厚い鉄製の扉をこじ開けるぐらいは出来るかな」

 

 小指程度で、その威力というのなら、あれほどの紅玉ならどれほどになるか。

 それは考えるだけ恐ろしい限りだ。

 

「は、早く何とかしないと!?」

「破壊するのである! ぶごっ!!」

 

 勢いよく飛び出したバクニは、障壁にぶつかる。

 この壁を突破することは生半可なことではなく、それ以前に時間がかかり過ぎる。

 

「だったら逃げないと!」

「無理だよ! 今からじゃ、とても間に合わない!!」

 

 今からでは、このフロアから脱出することも叶わない。

 例え第四階層から逃れて爆発の直撃を避けられたとしても、彼女たちがいるのは地下深くの遺跡の中。そんな場所で大規模な爆発が起きようものなら、この古い遺跡では耐え切れずに崩壊を招き、即死を免れたとしても生き埋めか有毒ガスにより生存しての脱出は不可能なことだろう。

 

「な、なんとかならないかな?」

 

 おかゆの悲痛な問いに、返す者は居なかった。

 その間に魔像は暴走状態により破損しながらも魔力を溜め続け、その結果として不吉な音が辺り一面に木霊していた。

 

(ここで終わるの? まだ旅の最中、魔王どころか誰にも看取られることなく、こんな地下深くで?)

 

――諦めたくない。

 

 フブキの脳裏に浮かんだのは、それだけだった。

 でもこの状況を打開する術があるのか、何か自分にできることがあるんじゃないか思考を巡らせる。

 

 

 

 

 

――アンタさ、魔法の訓練……ちゃんとしてる?

 

 そこでフブキの脳裏に蘇ったのは、賢者の言葉だった。

 どうしてこの土壇場で思い出したのが彼女のことだったのか分からないが、どうしてか思い出させる。

 あれは賢者の邸宅を訪れ、そこで夢の中で彼女の訓練を受けた時のことだった。

 

『魔法、ですか?』

『ずっと聖剣しかつかないけど、魔法も使わないと伸びないわよ』

『えっと、私って魔法が使えるんですか?』

『……呆れた。自分の適性も分かってないの?』

『な、なんかゴメンなさい……』

 

 呆れた様子の彼女に、申し訳なさを感じながら頭を下げる。

 ただフブキとて幼少期には魔法を使うことに憧れ、魔法の適性を見るための計測器を試したこともある。しかし城で用意された測定機に手をかざしてみても反応はなく、自分には適性はないのだと悔しくて悔しくて涙も流していたのに。

 

『はぁ……まぁ、今の世の中に出回っているのは簡易的なのだから分からなくても無理はないかな』

『簡易的、ですか?』

『一般には魔法は四つの系統に大別されるけど、本当は五つ目の系統があるのよ』

『どうして今は五つ目が知られていないんですか』

『簡単な話よ。その系統に属する魔法の担い手なんて滅多にお目にかかれないからよ』

 

 扱える者が限定されすぎて、歴史の表舞台から自然と消えていったというのはごく当たり前のことだった。

 

『わ、私がその五番目の系統の使い手ってことですか?』

『間違いなくね』

『お、教えてください! どんな魔法が使えるんですか!?』

『知らないわよ』

 

 ばっさりと、切り捨てられる。

 思わず唖然とするフブキに対して、シオンは論文を話すように続ける。

 

『まず大前提として、五つ目の系統は司るのは特定の個人にのみ許された唯一無二の魔法のことよ』

『特定の、個人?』

『例えば天才な大魔導士であるシオンちゃんは、【時】を操ることが出来るわ』

『時……時間、ですか?』

「その通り。シオンはプリティだけど、これでもアンタよりお姉さんなの。分かる?』

 

 もし仮に賢者が自分の時間を止める、あるいは緩やかにしているなら幼い容姿も納得できる。

 そしてシオンが【時】を操れるのであれば、彼女がフブキに教えたところで同じ魔法を習得することは決してできないことになる。

 

『アンタがどんな魔法を使えるかは、アンタにしか分からない。けど、これだけは覚えておきなさい。五番目の系統はこの世の概念すら打ち破る力、全ての例外であり、あらゆる法則を歪めることが許された魔法――超越を司る黄魔法ってことを』

 

 

 

 

 

 気が付けば、フブキは立ち上がっていた。

 そして何かを考えるより先に、スッと右手を前へと――障壁の向こうにいる魔像へと構えながら魔力を籠める。

 

「ふ、フブキ?」

 

 隣から心配してミオが声を掛けるが、その声すら彼女には届いていない。

 誰もが固唾をのんで見守る中、遂に臨界を迎えた魔像の紅玉から目も眩むほどの光があふれ出す。それは視界を焼き尽くすほどの純粋なエネルギーの奔流であり、魔像の体躯を中心に球状の爆発が急速に拡大し、周囲のすべてを飲み込んでいこうとする。おそらくは瞬き一つの間に、世界は白銀の光に呑み込まれることになろう。

 そんな僅かの刹那――。

 

「――あ、ああああああああっ!!」

 

 溢れ出たのは、魂の底からの叫び。

 同時にフブキの掌からも解き放たれた光が、轟音と共に迸った。

 

 

 

 

 

 すべてが、一瞬の出来事だった。

 目も開けていられぬ程の白銀の輝きが収まり、ミオたちは恐る恐る目を開け、最初にしたのは生存の確認だった。

 あまりの眩しさに瞼を閉じていても白く塗り潰された視界は直ぐには回復しないため、頼りになるのは耳と感触のみであった。

 先ずは手を何度か開いては閉じを繰り返し、それから顔や身体中を触って異常がないのを確認する。続いて耳を澄ませれば、例え見えずとも仲間たちの息遣いを感じることが出来る。その様子から彼らも自分と同様に、五体満足なのが分かる。

 

「み、みんな。無事……?」

 

 最初に声を掛けたのは、ミオだった。

 全員から大丈夫という返事が返ってくると、四人は仲間たちの安否を互いに確認できて安堵する。それから少しして視力が徐々に回復し、ようやく状況を確認できるようになった全員が眼前を確認した。

 

「―――――」

 

 誰もが言葉を失った。

 何しろ先ほどまで自爆しようとしていた魔像の影も形もないばかりか、魔像のいた周辺の壁や天井が不自然に削り取られている。いや、おそらくそれは自爆時に発生したエネルギーにより抉り取られた痕跡なのだろうが、問題なのはそこではなかった。

 誰もが言葉を失ったのは、天井に空いた穴があったからだ。

 それは彼女たちがいる位置から斜め前、丁度魔像があった地点を経由して、まっすぐに穿たれている。それも壁を少しへこませた程度なんて生易しいものではなく、どこまでも続く一本の隧道となって突き抜けた穴だった。どこまでも、どこまでも延びる穴、終点が何処なのか定かではないが、最奥に見える小さな光の点のような輝きはもしかしなくとも地上へ繋がっているのではないかと思ってしまう。

 いや、そうとしか考えられなかった。

 だとするなら、彼女たちは自分たちが今、地下のどれくらいの深さにいるかは分からないが、地上までどれほどの岩盤があるか。それを自爆する敵を消し飛ばしただけでなく、地上までぶち抜くなんて普通の魔法では不可能だ。

 

「ふ、フブキ……い、今のって」

 

 困惑した様子で、ミオはフブキへと振り返る。

 訊ねられたフブキも、何と答えたら良いのか分からずに沈黙していると。

 

「Damn, that's insane.Never thought a golem could get blasted in one hit—that 'Thunderbolt' was pure hype!」

 

 何処からともなく、聞いたこともない言葉が聞こえてきた。一同は何事かと辺りを見渡せば、四人から少し離れた場所の空中に佇むように浮かぶ一人の人物を見つける。

 それは背の高い、美しい桃色の髪をたなびかせた女性だった。

 精巧な人形を思わせる人間離れした美貌は、フブキたちの整った容姿とは明らかに一線を画す、神の手によってのみ創られ得る完璧な『絶世の美女』がそこにいた。その身にまとう漆黒に赤いアクセントが映える刺々しくも美しい闇の装いではなく、白を基調とする装いと相応しい場所だったのなら思わず跪いてしまいそうな程の神々しさがあった。

 

「Wonder how long it’s been since anyone stepped foot in these ruins. What, like two hundred years or something?」

 

 また先ほどと同じように、女性は言葉を紡ぐ。

 ただフブキたちには聞き覚えのない言語の為にその意味を理解することは出来なかったが、少なくとも敵意はないようだ。

 そこでようやく、女性は意思の疎通ができていないことに気が付く。

 

「Wait, hold on………アー、アー、コレデ、ドウデスカ?」

 

 彼女の口から紡がれたのは、フブキたちにとって聞きなじみのある言葉だった。

 ただ完ぺきに喋れないのか少しばかり拙さは残るが、それでも会話ができる範囲ではあった。

 

「あっ、はい! 聞こえます」

「ヨカッタ、分カッテモラエタミタイデ」

「えっと、あなたは?」

「ワタシ? ワタシハ、森カリオペ。コノ遺跡ヲ管理スル、者デス」

「管理人? えっ、あの……さっきの魔像、壊しちゃってごめんなさい」

「気ニシナクテ、イイデスヨ。最期ニアノ子モ役目ヲ果タセマシタカラ」

「あっ、はい……って、そうだ! 急がないと!!」

 

 座り込んでいたフブキは、慌てて立ち上がる。

 先ほどのフブキの魔法や管理人の存在で頭からすっぽ抜けてしまったが、自分たちは先を急いでいるのを思い出した。

 

「鏡ノ心配ナラ、No problemデスヨ」

 

 カリオペはそう言って、地面へと降り立った。

 まさかの言葉に、思わず下に降りようとしていた四人は思わず立ち止まる。

 

「えっと、どういうことですか?」

「ソレハ下ニ降リナガラ説明シマス」

 

 そんな訳で、カリオペを含めた五人は第五階層へと通じる階段を下りていく。

 

 

◆

 

 

「あの、森さん? 聞いてもいいですか?」

「ハイ。ワタシノコトハ、カリオペト呼ンデクダサイ」

「あっ、分かりました。えっと、それでカリオペさん、鏡の心配はないっていうのは?」

「皆サンノ倒シタGolemハ、アノ扉ノ門番デスガ、侵入者ヲ試ス役割モアリマス」

「試す、っていうのは?」

 

 カリオペの話を要約すると、以下の通りであった。

 魔像ことアビス・ゴーレムは第五層へと通じる扉の前にて侵入者の立ち塞がるが、実はリバティたちがやったように倒さずとも隙を見て下を素通りすることもできる。そこだけ見れば構造的な欠陥に思えるが、ゴーレムを倒さずに階段を下りていくと罠が作動する仕様になっている。罠と言っても危険なものではなく、強制的に地上まで転移させるというものであった。

 既に踏破してきた道を辿って潜りなおす、というのは決して簡単なことではない。

 先ず苦労して数日もかけてようやく辿り着いたゴール直前で振りだしに戻されるのは、精神面に途方もないダメージをもたらす。また地獄のような行軍を何とか乗り切れたとしても、また同じ場所で転移させるのではという疑念を生み、それはパーティの士気を下げることになる。

 次に物資の問題、補給の得られない地下遺跡ではあらかじめ用意しておいた水分や食料をかなり消費することになる。この遺跡ではゴーレム以外に敵対勢力は出現しなかったので武器や防具の消耗は殆どないが、少なくとも同等の食料などは買い直さなければならない。

 普通ならそこで諦めるが、彼らは遺物の破壊という役目を果たせば勇者として認められる―――そう思い込んでいる以上、再び潜り込んでくるのは明白であった。とは言っても、彼らがフブキたちに追い付くことはないが。

 

「なら、急がなくても良さそうだね……」

「カリオペさん、私たちの仲間が落とし穴に掛ったのですが……その、無事なんでしょうか?」

「コノ遺跡ニハ命ヲ落トスヨウナ罠ハ基本的ニアリマセン。チナミニ、落チタノハドコデスカ?」

「えーっと、第二階層です」

「Ah,ソレナラ最下層デ合流デキマスヨ」

「本当ですか!? 良かった……」

 

 その知らせに、フブキは心底嬉しそうに胸をなでおろす。

 後ろにいる三人もまた三者三葉の反応ながら、安堵したのか表情は綻んでいる。

 

「鏡ハ、ソノ先デス」

 

 階段を降り切ると、目の前には大きな両開きの扉があった。

 扉が開け放たれた様子はなく、またよく見ればその前の床には魔法陣が彫られているのが分かる。おそらくはそれこそがリバティたちを地上へと強制送還させた代物であり、そして現代では失われた転移の魔法陣の紋章なのは間違いないだろう。もし仮にここに研究者がいたならば、失われた古代の記憶が眼前に蘇った光景に狂喜乱舞したことだろう。

 ミオも興味こそあれ、今はそちらを優先すべき時ではないので素通りする。

 

「あ、あれが……オクルトゥスの、鏡」

 

 二十五㎡ほどの、今までと比べても特に小さな部屋。

 少しばかり薄暗い部屋の中央、そこには台座の上に安置された正円の形をした直径三十㎝ほどの鏡があった。神代の遺物とは思えないほどにシンプルなデザインをしており、金色の縁にはこれといって装飾は施されていない普通の鏡に見える。

 

「これが、写した者の真実を暴くとされる鏡」

 

 目の前まで近づいてのぞき込むが、何の変哲も無い鏡だ。

 少ししてミオが荷物から清潔な布を差し出してきたので受け取り、万が一にも汚したり傷つけないように慎重に包み込んでから台座から外し、そのまま自身の荷物の中へと収納する。

 無事に目的を果たしたところで、フブキはカリオペへと振り返る。

 

「それで、カリオペさん。私たちの仲間とは、どこで合流できるのですか?」

「奥ノ壁カラ出テキマスヨ。一方通行ナノデ、向コウカラ開クノヲ待ツシカナイデスガ」

 

 ならば待つしかないと、四人はそれぞれ休息をとる。

 仮にも遺物が祭られていた場所で不敬になるのではと思われるかもしれないが、ゴーレムとの戦闘で疲弊した彼女たちにはこれ以上の体力的な余裕はなかった。何より管理者であるカリオペも特に指摘する様子はないので、四人にそうして暫くの腰を下ろして待つ。

 

「カリオペさん、そういえば最初に現れた際に何か言ってましたよね?」

「Year! アレハ見事ナThunderboltデシタネ!」

「えっとぉ?」

 

 何と言ったのか、聞き取れなかった。

 カリオペは少し興奮しているようだったが、フブキの様子にごほんっと咳ばらいを一つする。

 

「ンンッ、アナタノ黄魔法、『天雷』ハ中々ニ壮観デシタヨ」

「天の、雷……」

「天雷ハ、勝手ニワタシガソウ呼ンダダケデス。デモ、アノGolemヲ消シ飛バシタ光景ハ、マサシク天ヲツク青白クカガヤク雷光ソノモノ」

 

 どうやらカリオペがフブキの魔法を見て、命名したようだ。

 ただ、どうしてだろうか、名前付けられたからか、フブキの中で何かがしっかりと形になり、今度ははっきりと感じ取れた。

 

「……私の魔法、天雷」

 

 そう口にしてみて、確かに納得できる。

 それから暫くすると第五階層の奥の壁が崩れ、その向こうからデュラハンたち三人と合流することが出来た。仲間との再会と遺物の回収という二つを成し遂げた一行は、地上までカリオペに送り届けられ、無事に帰還を果たすことが出来た。

 

 




・グリム・ガーディアン
 種別:アビス・ゴーレム 種族:機兵 危険度:Ⅳ
 体力:7759 魔力:3325 総合戦闘力:11084

 第四階層にて侵入者の前に立ち塞がる番人。
 大昔に古代の技術で作られた遺物ながら現代もほぼ完璧に機能しており、最下層へと通じる道を塞ぎ続けている。防衛圏内に踏み込んだ者は誰であろうと例外なく、排除しようと迎撃活動を開始する。
 限りなく完全な形で現存する貴重な一体であるが、かつては地上の至る所で見かけることもできた量産品であった。因みに魔力照射の度に防御壁が暫く途切れていたが、これは経年劣化による不具合であり、本来は僅かな間しか障壁が消えることはない。

 見た目的な部分は兎も角、ゼルダの伝説の「ゴードン(風のタクト)」やスターフォックスの「アンドルフ」といった作品の敵を参考にしています。


クリック? クラック! また今度。

フレアの立ち絵が適してる?(あるいは好み?)

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