基本の四系統のいずれにも属さず、それらを根本的に凌駕する第五の魔法。
扱える者は勇者や賢者といった特別な者らに限定されるが、担い手はここ百年現れていないので記録として残っているだけで、その存在をきちんと把握している者はほぼ皆無に等しい。
黄魔法は他の系統と違って何の魔法を使えるかは定まっておらず、完全に担い手の素質によって変化するので一概にこれと断言できない。また他系統の魔法と違って鍛錬で覚えられる訳でもないので、素質はありながらも発現できない者も少なくはない。
ただし、発現出来たのなら他の如何なる魔法も追随を許さないのは確実。
・剣士リバティ
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・僧侶タコマ
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・魔法使いリバティ
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では、本編をどうぞ。
「ん~~……っ! 久しぶりの朝日は格別だぜぇ!!」
地上へと戻ったフブキは、大きく伸びをする。
数日とはいえ長いこと薄暗い地下遺跡の中にいたので、思わず日の光の眩しさに目を細めながらも全身で浴びるように両腕を開く。他の面々も同様の反応を示しており、今回の遺跡探索が肉体だけでなく精神的にも大変だったか如実に表していた。
因みに、ここまでカリオペの好意で転移させてもらったが、周辺にリバティたちの姿はない。
「それで、これからどうしようか?」
仲間たちへ振り返りながら、フブキは訊ねる。
オクルトゥスの鏡を手に入れたのは皇帝に成りすましている魔物の正体を暴くのに必要だからであり、入手したから終了というわけではない。むしろこれからが本番であり、今すぐにでも皇城へと乗り込むのが一番ではあるが全員が大なり小なり疲弊している状態ではまともに戦うことも難しいのは明白だった。
「一先ず、皇都に戻ろう。最初に取った宿できちんと休息をとり、そして忍び込むなら夜間がいいな」
「どうして夜間なの? 休んだ後なら日中でも良くない?」
デュラハンの提案に、おかゆが首をかしげる。
それに対し、彼は指を二本立てる。
「理由は二つ。一つは真正面から出向いた場合は謁見という形になり、皇帝に対して鏡を向けるのは難しいからだ。そもそも破壊するように依頼されている状況では、暴く前に破壊される恐れがある。第二に、皇帝の正体を暴いた後は間違いなく戦闘に入るが、謁見の間といった場所だと無関係な人間もいて巻き込む恐れがある。だからこそ夜間に忍び込み、それこそ寝所に乗り込むが望ましいからだ」
聞かされた説明に、全員が納得する。
何も知らない城の人間を巻き込むのは、フブキたちとしても避けたい状況ではあった。
方針も決まった一行は帝都へと戻るべく、遺跡の前から移動を開始する。幾らまだ日が高いとはいえ野営もせずに強行軍に近い形で行動を開始したのは、万が一にも遺跡から戻ってきたリバティたちと鉢合わせることによる面倒を避けたかったからだ。休むとしても遺跡の目の前ではなく、せめて直ぐに見付からないぐらい距離を稼ぎたかったのだ。
行きは森の入り口まで馬に乗ってきたので一日程でたどり着けたが、徒歩ともなれば休息も込みで戻るのに三日を要した。行きに使った馬たちは残しておくと魔物の餌食になる恐れがあったが、きちんと訓練された個体だったので離せば勝手に帝都まで戻るようになっている。因みに遺跡の入り口で置いてきたノエルの装備は回収済みである。
朝方に帰り着いたフブキたちは直ぐに宿をとり、疲労困憊だったのもありすぐさま泥のように眠りについた。ノエルだけは立場上、皇帝への報告する義務があるので城へと戻っていき今回の内容について話すことになる。また彼女には他にも色々と手配してもらうので、もうひと踏ん張り頑張ってもらうことになっている。
そうして勇者たちが目を覚ましたのは昼過ぎ、それから食事や準備を整えてから夕方にまた軽く仮眠をとり、次に起きたのは夜空に星が煌めく時刻。
「行くぞ、みんな」
全員が普段の装いの上から、闇に紛れるマントを纏って秘密裏に宿を抜け出る。
そのまま予め教えられていた人目につかないルートで皇城へと向かうが、正面の門は当然ながら固く閉ざされている。更には蒸気動力鎧甲のマキナを身に纏った兵が複数おり、見付からずに素通りするのは難しいのは一目瞭然であった。ただ、それは全員が承知のことだったので、忍び込むための手段は用意してある。
「あそこだ…」
五人が向かったのは裏手、物資が運び込まれる裏門だ。
ここにも本来であれば正門程でないにせよ警備が常駐しているが、ノエルの手引きにより無人の状態になっている。念のために裏口が見える物陰で身を潜めていれば、少しして扉から出てきた誰かがランタンを掲げて合図を送ってくるのが見える。それを確認してから近づいていけば、扉の所にいたのはフレアであった。
「ごめんね、遅くなって」
「大丈夫だよ。それより、そっちはどう?」
そそくさと城内へと入り、移動しながら会話をする。
普段は常駐する警備の兵がいるが、通路には彼ら以外に人っ子一人としていない。
「うん、問題ないよ。皇帝には謁見の間に待機してもらっているし、巻き込まれないよう非戦闘員は退避してもらってるよ。それから変な邪魔が入らないよう、お城の兵たちもノエルから下がってもらうように指示を出してるから騒ぎになっても直ぐには駆け付けないことになってる」
「上々だな。フレアはそのまま、ノエルと一緒に待機しておいてくれ。もし戦闘音に気付いて衛兵たちが駆け寄ってくる、あるいは戦闘の余波で巻き込まれそうな奴がいたら救助したり退避させやってくれ」
「りょーかい! あっ、謁見の間はこの通路の先だから」
ビシッ、とフレアは敬礼をして去っていく。
その背中が見えなくなるまで見送ってから、フブキがデュラハンへと訊ねる。
「あのくさん。どうやって皇帝を誘導したんですか?」
「それほど難しいことじゃないぞ。ノエルから、『城下で不審な者を捕らえたのですが、何やら皇帝の秘密を知っていると騒いでいる』って伝えてもらっただけだ。ついでに『内容は夜に、皇帝の前でのみ話す』って付け加えてぐらいだな」
「そんなので本当に、敵が釣れるの?」
「実際に釣れたから、こうして向かってるんだろう」
おかゆの言葉に、笑って応える。
意外かもしれないが、秘密を抱えている者は得てして内容が漏れることに敏感に反応する。
普通なら浮浪者が街中で「皇帝の正体は魔物だ」と叫んだところで、酔っ払いの戯言だろうと一蹴されて終わり。周囲の通行人も、鼻で笑うか無視して通り過ぎるのが関の山だ。ただ路傍の石だったとしても、当の本人からすれば不安要素は欠片程であっても排除したいと考えるのはごく普通なことであった。
そうしている間に、一行は謁見の間へと通じる扉の前までたどり着く。
「入る前に、もう一度確認するぞ。おそらく入ったら皇帝として何か言ってくるかもしれないが、全部無視してフブキさんは鏡を使って相手の正体を暴け。その後はそのまま戦闘に突入すると思うから、例えどんな魔物だとしても対応できるよう心構えはしておけ。おかゆは部屋に入らずに後方で待機、場合によっては牽制をしてくれ」
「はい!」
「りょーかい!」
「それじゃ、行くぞ」
フブキたちが部屋の中へと入っていくのを、おかゆは後ろから見送る。
扉をデュラハンが開け放ち、前衛であるフブキとバクニが前に、それからデュラハンとミオが続いている。
夜の謁見の間は前回訪れた時と違って部屋の中央にあった巨大な円卓と椅子はなく、蝋燭と燭台の数もかなり少なくなっている。それに伴い室内の明るさも落ちてはいるが、左手にある窓から差し込む月明かりにより磨き抜かれた大理石の床に格子状の光と影を落としている。壁際には前回はなかった重たそうな誰かの石像や、様々な武器が王の武威を誇示するように置かれている。
そんな部屋の最奥、壇上に鎮座する玉座に皇帝の姿はあった。
「企みもそこまでです!」
皇帝を指さし、フブキは高らかに宣言する。
それに対して皇帝は慌てる様子もなく、不思議そうな表情で訊ねてくる。
「これはこれは勇者殿と、その御一行。このような夜分に、一体どのようなご用向きかね?」
「惚けないでください! 皇帝陛下のフリをしている貴方の正体を暴くために来ました」
一瞬の沈黙を挟み、皇帝はニヤリと口元を歪めた。
それは人間のものとは思えない程、醜悪な笑みだった。
「我はこの国を統治する者、アウルス・フラヴィウス・マグヌスであるぞ」
「これを見ても、まだそんな戯言が口にできますか!」
そういってフブキは荷物袋から鏡を取り出し、皇帝へと突き付ける。
それを直視し、皇帝の顔色が変わる。
「そ、それはオクルトゥスの鏡! 破壊していなかったのか!?」
「さあ、鏡よ! 鏡面に映りし者の真実の姿を!!」
鏡から眩いばかりの光が迸る。
かざされた鏡面に映っていたのは、もはや人間の男ではなかった。
そこにあったのは、鋭い牙を剥き出しにする黄金の獅子。
「う、ぉ、おおおおおおおおおおおっ!!」
鏡を直視した皇帝は隠すように、両手で顔を覆う。
指の隙間から漏れ出す苦悶の声とともに、その輪郭がグニャリと不気味に歪み始めた。
最初の変化は指、内側からの圧力に耐えかねて皮膚が裂け、その隙間から毛並みのようなものがはみ出してくる。豪奢な衣装は内側からみちみちと重厚な音を立てて膨張する骨格と筋肉に引き千切られ、露になった皮膚に走る亀裂が全身に及んでいた。やがて人間の皮膜を破って荒々しい黄金の毛並みが吹き出し、鋼のように鍛え上げられた巨大な肉体が姿を現す。だが何よりも異様なのは、背後から背後からは更なる「腕」が骨肉を押し広げて蠢くように生え出でてきたことだった。
「―――」
偽りの皮を完全に脱ぎ捨てたそこに立ち聳えていたのは——四本の筋骨隆々たる腕と鋭利な漆黒の爪を持つ、全長三メートルを超す威風堂々たる巨獣だった。 紫の魔石が嵌め込まれた重厚な装飾具を、四本の腕と両足に光らせている。
狂気と絶大な殺意を孕んだ黄昏色の瞳が、爆発的な咆哮とともにこちらを射抜いた。
「みぃ~た~な~!!」
先程までとは異なる、腹の底に響くような咆哮。
巨大な体躯の魔物に驚きこそすれ、これまで幾多の困難を乗り越えてきたフブキたちは怖気づくことなく各々が武器を構える。
それに魔物は跳び上がって壁際まで移動すると、そこに飾られていたツヴァイヘンダー、バトルアックス、ハルバードを三つの手にそれぞれ掴んだ。何故か残りの手には何も手にしないが、そんなことは些末でしかなかった。何しろ普通なら人間が両手で持って扱う武器を片手で、それも三種類も構えているのだ。つまりそれら全てに注意しなければならないのだ。
「我が名はアスラン! 魔王軍が誇る三軍団が一、月影旅団の猛将なり! 貴様らの首、我が主に捧げる!!」
ここに、戦いの火ぶたが切って落とされた。
◆
それは正に激戦だった。
獅子の魔物、アスランの攻撃は猛攻と呼ぶに相応しいほどに激しいものだった。
頭上から振り下ろされるバトルアックスの一撃は大理石の床を軽々と粉砕し、床石が破片となって周囲に飛び散る。それを避け切ったかと思えば、今度はツヴァイヘンダーが大気を引き千切るように横薙ぎにする。更にはハルバードの一撃が、空間に穴を穿つが如き鋭さで繰り出される。
そんな嵐のような攻撃にさらされ、勇者たちは何とか凌いでいた。
「ぬぅっ!!」
「っぶない!」
バクニは二撃目を斧で防ぐも弾かれ、フブキも最後の一刺しを転がるように躱す。
分かっていたこととはいえ、今までに経験のしたことのない連撃に彼女たちは苦戦を強いられていた。
おまけに――。
「いっけぇぇっ!!」
後方からデュラハンとミオが、それぞれ魔法による援護を繰り出す。
アスランは三メートルはある巨躯にも関わらず、素早い身のこなしで攻撃を回避してしまう。外れた攻撃は壁や床といった関係ない場所ばかり破壊していくだけで、たてがみの一本すら傷つけられないことに、やり場のない気持ちが募っていく。
戦いが始まって未だそれほど経過していないが、苦戦を強いられていた。
「どうした、勇者の力はこの程度か!?」
焦れるフブキたちに、アスランは挑発するように吼える。
侮られていることに気付きながらも、フブキは歯を食いしばって堪える。
「ハハハッ! 勇者など恐るるに足らず!!」
「ぐぬぬぬっ!」
「バクニさん。今は堪えてください!」
そう言葉にしながらも、フブキも打開する術を見出せずにいた。
戦況は拮抗しているように見えるが、実際にはアスランの方へと少しずつ傾いており、このまま打開策を見出せなければ全滅するのは明らかだった。だが、どうしたものかと敵の攻撃を必死にしのぎながら周囲を見回していれば、敵を挟んだ向こう側にある石像が傾いていることに気が付いた。
おそらくは目標を失った魔法により根元部分が壊されたのが原因だろうが、今はそんなものを気にしている暇はない。そう意識の外から外そうとした矢先、遂にバランスを崩した石像が前のめりに崩れる。
ドスン!!
重厚な大理石の破砕音と同時に、地響きが揺れる。
崩落した巨大な石像が直撃したのは、魔物の背後にしなやかに伸びていた黄金の尾だった。
「ガ……ッ!? ギ、ニャアアアァァアアァァアッ!?」
咆哮とも悲鳴ともつかない凄絶な叫びが謁見の間に轟く。
神経が集中している尾を圧し潰されたことによる、筆舌に尽くしがたい激痛がアスランの全身を襲う。それは人間で例えるなら足の脛、あるいは足の小指をぶつけたような痛みだろうか。そんな激痛に三メートルの巨躯が激しく痙攣し、三本の手から全ての武器が床へと取り落として大きな音を立てる。
「……い、今です!」
「承知!」
絶好の機会に、二人は同時に駆けだした。
アスランは尻尾を台座の下から引き抜こうとするが、力が入らないのか手こずる。
「むんっ!!」
「ハアアァァァッ!!」
バクニの一撃がアスランの四本ある内の一つを切り落とし、フブキの一閃が胸部からわき腹にかけて切り裂く。
初めて入ったダメージに、魔物は叫び声をあげる。
「がああっ!? お、おのれ……人間風情がぁっ!!」
身体に走る痛みよりも、人間に傷を負わされた事実に怒りを露わにする。
凄まじい咆哮を上げると未だに尻尾の上にある瓦礫を押しのけると、追撃しようとするフブキたちから逃れるように大きく跳び上がる。一本の腕で深手を負わされた傷口を抑えながら、彼女たちが簡単に届かない奥の壁に爪を突き立てるように身体を固定する。そうして唯一武器を持たずにいた手を彼女たちへと向ける。
「火よ、猛き焔よ、我が手に集いて槍となれ」
アスランの手に、炎の塊が灯る。
人の拳大ほどだった火球は徐々に大きくなっていき、薄暗かった室内をまるで真昼のように照らすほどに燃え上がる。あんなものをまともに受ければ只では済まないのは明らかだが、かといって部屋の外に逃げようものなら敵をみすみす取り逃がすことになってしまう。それは絶対に避けるべきであり、ここで決着を付けなければ後々の面倒になる。
「――っ!」
気が付けば、フブキは前へと駆け出していた。
その行動を魔法が放つ前にトドメを刺そうと考える無謀なものと考え、アスランは嗤いながら魔法を放つ。
「全ての敵を撃ち滅ぼせ!!」
放たれるは燃え盛る巨大な火球。
もはや回避することは間に合わぬ状況で、しかしフブキの心には微塵も恐怖はなかった。
少しも速度を緩めることなく劫火へと迫り、手にした聖剣を真っ直ぐに振り下ろした。
「はぁっ!!」
裂帛の気合いとともに振り下ろした剣の一閃。
剣が触れた箇所を起点として火球は左右へと切り裂かれ、二つへと分かれてフブキの後方へと通り抜けていき、そのまま壁に命中してすさまじい爆音を上げる。その凄まじい熱風にフブキの身体は晒されるが、体勢を崩さずに敵目掛けて突っ込んでいく。
「―――」
目の前の出来事に、アスランは言葉を失った。
まさか奥の手として取っておいた魔法が、こうもあっさりと破られると思わず、その事実を受け入れられずにいた。
それは短い時間だったが、致命的な隙となったのは明らかだった。
「なっ……!?」
反応できた筈の攻撃に気付かず、後れを取った。
壁に爪を突き立てていた腕が飛んできた風の刃により切断され、支えを失ったアスランの肉体はそのまま落下を始める。
そこへ高らかに跳び上がったフブキが突っ込んでいく。
「な、舐めるなぁぁぁっ!!」
「でりゃああああっ!!」
アスランは何とか身体を捻り、残った腕でフブキへと斬りかかる。
大理石すら軽々と貫く鉤爪の一撃を紙一重で躱し、目前に迫った巨体目掛けて聖剣を振るう。
「ば、馬鹿な……こ、この我が」
それがアスランの今際の際立った。
頸を切断された獅子の頭部が、ずるりと床の上に転がり落ちる。
それに遅れて巨躯もドサッと音を立てて崩れ、やがて戦利品を残して消え去る。
残ったのは勇者一行と、戦いの余波によりボロボロになった室内だけであった。
◆
その後の話。
戦闘音が止んだことで駆け付けたノエルたちと合流し、更に集められた儀典長を始めとした重鎮たちに改めて皇帝の正体が魔物がなりすましていたのだと説明をした。元から怪しいと気付いていたので、特に皇帝暗殺といった容疑を掛けられずに済んだ。
そこから城にいる者を総動員して城を上から下まで徹底的に捜索したところ、皇帝の居室から通ずる隠し部屋の先で本物のアウルス皇帝を発見された。ただ彼が囚われていた隠し部屋は簡易的な牢屋のような、粗末な藁布団が敷かれているだけの部屋で放置されていたせいか衰弱しきっていた。幸いにも医師の見立てでは安静にすれば大事に至らず、暫くは静養していれば大丈夫だろうというのが分かった。
勇者一行も問題を無事に解決できたということで、宿に戻ることとなった。
本当は今すぐにも北へと旅立ちたいところだが、まだ皇帝から正式に北壁を越える許可が貰えてないので帝都で待機することとなった。
「……もうじき雪原地帯か」
ある日の夜、部屋で一人荷物の整理をしていたデュラハンは、ふとそんな独り言を零す。
魔物――その中でも生身の肉体を持たない彼にとっては雪などあってないようなものだが、共に行動する仲間たちは違う。
極低温下では大半の生物の活動に著しい制限がかかり、代謝や反応が極端に低下し、更には生命活動すら停止する危険もある。
勇者一行も厳しい環境の前では無力でした、では自分を信頼してくれる魔王陛下に顔向けできない。
そうならないよう確りと準備をしなければ、と考えていると部屋の戸がノックされる。
「ん? 誰だ……はいはい」
「あ、あのくさん……」
誰だろうと思いつつ、ドアを開ければそこに居たのはフブキだった。
何やら少しばかり緊張している様子に気付きながらも、何事もなかったように問いかける。
「なんだ、何か用か?」
「あの……お話があるんですけど、今時間空いてますか?」
チラッと室内をみる。
室内には自分だけ、同部屋に泊まるバクニは居酒屋に行っていて不在。
「構わないが……下に行かないか?」
「分かりました」
宿屋の一階にある、簡易的な食堂で二人はテーブルをはさんで向かい合うように座る。
宿の女将がエールが並々注がれた木製のジョッキを置き、奥へと下がったのを見届けてから口を開く。
「それで? どうかしたのか?」
「いえ、その……別に悩みがあって相談したかった訳じゃないんです」
「そうなのか?」
「はい。ただ、もうじき、この旅も終わるのかと……思ったもので」
「ああ、そうだったな……」
どういう結末を迎えるにせよ、もうじき旅は終わりを迎える。
本来の彼の立場を考えれば、こうして同じ席で言葉を交わすことも二度とないだろう。
本来ならば喜ぶべきところだが、何故だか少しだけ心にぽっかりと穴が開いたような、そんな感情を覚えた。
「あのくさんは、どうなんですか?」
どうなんですか、と唐突に訊ねられる。
突然のことに理解が追いつかないでいると、フブキは言葉を続ける。
「この旅が無事に終わったら、どうされるんですか?」
「どうって……何がだ?」
「国に戻ったらあれをやりたいとか、何処かに行きたいとか、そういうのはないんですか?」
「………考えたことがないな。そういうフブキさんはどうなんだ?」
「私は……これでも一国の姫ですからね。戻ったら、また王太女として公務に戻るだけです。多分、ミオも宮廷魔導士として仕えてくれることになりますから……ただ、今みたいに自由に動けることは少なくなるでしょうね」
「そうか……」
それはデュラハンにも分かる。
こうして勇者として旅立つことにならなければ、フブキは次期女王として今も国に残っていたことだろう。公務に追われる日々が続き、やがては同国か他国から王配として誰かと結婚することになるだろう。国王がどう考えているかは分からないが、おそらくは好きでもない相手と政略結婚するのだろう。
「……俺も」
「え?」
「俺も、そう変わらないな。実は話してなかったが、俺はさるお方に仕えていてな……与えられた役目が終われば、またあの方の元に戻ることになっている。別にそれを窮屈だと感じたことはないが……俺も、自由なのは今の内だけだな」
「そう、なんですね……」
フブキは、何とかそう返事をする。
互いに身分は異なれど、似たような立場という事実に何とも言えなくなる。
「……このまま」
「ん?」
「このまま、みんなで旅が続けられたら良かったのに……そう思っちゃうんです」
「フブキさん」
「なーんて! ちょっと、不謹慎でしたよね。勇者にも関わらず、うっかりうっかり」
たはは、と誤魔化すように苦笑しながら、後頭部をさする。
デュラハンはそれを責めることも、ましてや否定することもなかった。
二人は互いにエールを飲みきるまで、そうして過ごすのであった。
◆アスラン
種別:スラッシング・レオン 種族:獣王 危険度:Ⅳ
体力:9699 魔力:4156 総合戦闘力:13855
皇帝になりすましていた魔物。
魔王軍が一つ、「月影旅団」に名を連ねる武闘派を自称する猛将。頭は切れる方ではあるが後方から指揮する軍師系ではなく、どちらかと言えば前線に立って部下を引き連れて敵軍へと突撃するのが性に合っている若干の脳筋より。
武の夜叉兵団ではなく、知の月影旅団にいるのはトワを心酔しているため。今回の潜入にういても自分が不向きと頭では理解していたが、彼女の役に立ちたい、認められたいという一心から志願している。
イメージはアベル伝説に登場する「シーザーオライオン」。
ただ、今考えたら千年戦争アイギスの「ガオレオン」の方が合っていたかもしれません。
クリック? クラック! また今度。
フレアの立ち絵が適してる?(あるいは好み?)
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