サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
「薬草を探しているんだ」
喉が渇いているのか自分の声が掠れていることに気づく。血の匂いと硝煙が混ざった空気を吸い込むと肺が痙攣しそうになった。
「暴走する血を抑える薬になる植物が、この辺りにしか自生していないらしい」
「ほう」
赤頭巾の隙間から覗くグリムの瞳孔が僅かに広がった気がした。その小さな体からは想像できないほど鋭い目つきだ。
「なるほど……しかし貴様らも随分と深入りしたものだ。この森は最近“奴ら”が増えていてな」
猟銃の銃身を軽く叩きながら彼女は首を巡らせた。まるでそこに何かが潜んでいるかのように。
「奴ら?」
「魔物だよ」
言葉に淀みがない。まるで毎日その名を呼んで暮らしているかのようだ。
「この森には古くから住み着いている。特に月の満ち欠けと共に活性化する個体も少なくない」
「……へぇ」
エンペラの血が反応する。未知の存在に対する警戒心か好奇心かはわからない。ただ背筋がゾワリとする感覚だけが確かだった。
風が木々を揺らすたびに赤頭巾の端っこがヒラヒラ舞う。その下に隠れたグリムの横顔を窺い見るのも躊躇われた。なぜなら彼女の指は今なおトリガーにかかりっぱなしだったからだ。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
銃口はピタリとこちらの眉間に向けられているのに声色だけは妙に落ち着いている。
「なんであんな深みまで入り込んだ?ここは一般人立ち入り禁止区域のはずだが」
「そりゃぁ――」
軽く笑おうとした唇が歪む。視界の端で狼の死骸が血に濡れた毛並みを晒している。
「薬の材料探しててさ。特別なハーブとかそういうやつ」
「ふむ」
短く唸りながらグリムは銃を下ろさない。その代わり赤頭巾の端から片目だけを覗かせて俺を値踏みするように見つめてきた。
「貴様らみたいな若造が命懸けで探す代物じゃないと思うがねぇ?」
「……色々事情があんだよ」
つい舌打ちが漏れそうになるが堪える。今この状況で感情的になるのは不利だとわかってるからな。
「エンペラ星人の血を制御する薬だ。普通の病院じゃ作れないくらい特殊な成分が必要なんだよ」
グリムの片眉がピクリと跳ねた。
「エンペラ……?」
森全体がざわめくような寒気を感じた。足元では狼の亡骸が微かに動いている。血溜まりに浸かりながらも死の寸前まで呻いていた痕跡があった。
「…………」
赤頭巾の奥からこちらを射抜く視線には殺意も怒りもない。ただ冷静な分析が滲んでいる。
「唯我太郎」
唐突に名前を呼ばれて反射的に身構えた。
「お前の出自について訊くつもりはない。が――」
銃口がゆっくりと動いて俺の足元を狙う。もし今しゃがみ込んだら間違いなく膝関節が吹き飛ぶ位置だ。
「この森には古来より禁忌とされる領域がある。そこへ踏み込む者は皆、“魔物の糧”になる」
「魔物……」
再びエンペラの血が疼く。未知の存在への警戒と興奮が絡み合うような奇妙な感覚だ。脳裏に閃くイメージは炎に包まれた遺跡と赤い涙を流す像だった。
「その領域に用があってきたというなら――」
グリムは猟銃の銃床を肩に当てたまま俺を睨んだ。
「覚悟しろ。私はグリム。魔物専門の狩人だ」
その声には恐れも驕りもなく純粋な職業意識だけが宿っていた。
「最近この辺りで狼型の魔物が増えてな」
グリムは猟銃の薬室に新しい弾薬を詰めながら淡々と言った。指先の動きは洗練されていて一切無駄がない。
「本来ならこんな標高の低い森には寄り付かない連中だ。高地の凍てつく洞窟や岩陰を好むはずなんだが――」
赤頭巾の端が微かに揺れた。風かと思ったが違う。地面から立ち昇る生暖かい瘴気のようなものに反応しているようだ。
「群れが一気に押し寄せた痕跡があった。おそらく北方の山岳地帯で何か起こったんだろう」
「……何か?」
俺は自然と腰を落としていた。エンペラの血が微かに震えている。
地面が波打つように揺れた。最初は微弱な振動だったが、すぐに立っていられないほどの大地震に変わる。
「来るぞ!」
グリムが叫ぶ。足元の地面が隆起し、亀裂が走った。噴火するマグマのように土砂が噴き上がり、その中から奇怪なシルエットが現れる。
「なんだこりゃ……?」
俺は思わず呟いた。地中から這い出したそれは植物の蔓のようでいて、しかし明らかに意志を持って動いていた。蔓の先端は牙を剥いた爬虫類の頭蓋骨のような形状に変化し、腐食した鉄のような鈍い光沢を放っている。それらが数本まとまって樹木ほどの太さの束となり、次々と地上に躍り出る。
「なんたらっていうのか?」
「魔樹だ」
グリムが簡潔に答える。その目は爛々と輝き、赤頭巾の下の口元が吊り上がっていた。愉悦と憎悪が混ざった歪んだ笑みだ。
「大地の養分を吸い尽くし、破壊衝動だけを残した成れの果てだ。昔はもっと小さかったが、最近はどんどん狂暴化してる」
魔樹の蔓が鞭のようにしなる。地面を抉り、近くの岩を粉砕する音が耳をつんざく。その断面からは緑色の粘液が溢れ出し、酸のように蒸気を上げた。
「おいおい……こいつら一体何しに出てきたんだ?」
「餌を探してるんだろうよ」
グリムは猟銃を構えたまま前に進み出る。彼女の赤頭巾が風に煽られて翻る。その瞳は完全に狩人のものになっていた。
「魔物も魔樹も、どちらも同じ穴の狢だ。生きてる限りどこまでも侵食する」
「まるで俺みたいだな」
俺も拳を握りしめた。エンペラ星人の血が滾り始める。皮膚の下で血管が脈打ち、熱を帯びていくのがわかる。
「唯我太郎!」
グリムが怒号を浴びせた。その声には苛立ちと警告が混ざっている。
「それはなんだ」
「分からない、だが」
「どうやら、俺がなんとかしないといけないかもしれないな」
そうして、俺はアーマード・ダークネスを呼び出す。
以前とは違い、既に上半身が完全に具現化していた。
それと共に、こちらに迫る植物に向かって、俺はその槍を振るう。
「ふむ、大型の魔物を想定していなかったが、そういう事ならば」
グリムは、その手に銃を迫る狼を撃ち抜く。
「雑魚はこちらに任せろ」
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア