※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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裁判前に

黒歌の瞳が揺れる。月明かりに照らされた彼女の顔は儚く脆い硝子細工のようで、今にも砕け散ってしまいそうだった。

 

「……うん」

 

か細い返事が震えていた。

 

俺の指が黒歌の肩に触れた瞬間、彼女の全身が硬直するのが伝わってくる。過去のトラウマがまだ鮮明に刻まれているのだ。

 

「怖がらなくていい。今日はただ話を聞きに来ただけだ」

 

優しく囁きかける。だが自分の言葉があまりにも空虚に響いて虚しくなった。

 

彼女は俯いたまま唇を噛み締めている。牙のように尖った犬歯が柔らかな口唇を裂きそうで危うく見えた。

 

「私の罪を……もう一度掘り返すの?」

 

搾り出すような声が夜気を切り裂く。そこに込められた無数の痛みが胸を抉った。

 

「そうだ」

 

即答せざるを得なかった。甘やかすことで彼女を救うことなどできない。むしろ傷口を広げるだけだと分かっていたからだ。

 

「だって……私は白音を……」

 

続く言葉が霧散する。彼女の黒い尾が床を叩くように揺れ動いた。激しい感情の波に抗おうとする本能的な仕草だ。

 

「知っている。だからこそここで向き合わなければならない」

 

俺の声が冷たすぎる。それを自覚していても感情を曝け出すことができなかった。彼女を救うためには冷静さを保たねばならない。

 

黒歌が顔を上げた。その瞳に映るのは恐怖と諦念と、ほんの僅かな希望の欠片だ。

 

「妹との暮らしを捨てる覚悟はあるか?」

 

訊ねた瞬間、彼女の表情が歪む。瞳孔が大きく開き、顎が小さく震えた。まるで世界の終焉を告げられたかのように。

 

「そんなこと言われたら……わたし……どうしたらいいの……?」

 

嗚咽混じりの囁きが宙に溶けた。彼女の背中が丸まり始める。長く伸ばした黒髪が瀑布のように垂れ下がり顔を覆い隠した。

 

黒歌の爪が無意識に床を掻く。鋭い鉤爪が木材を抉り火花が散った。それは怒りなのか哀しみなのか定かではない。

 

「時間が欲しいよね」

 

「……うん」

 

かすれた声で黒歌が答える。その間も俺の視線は彼女から離れなかった。逃げ場を奪うようで心苦しいが大切な局面なのだ。

 

「じゃあ」

 

一歩近づくと黒歌の全身が強張る。距離を詰められるのを恐れているのだ。彼女の本能が攻撃されるという幻想に囚われている。

 

「これが最後のチャンスになるかもしれない」

 

言い切った言葉に黒歌の首が微かに上下した。ほとんど確認できない程度の動きだ。

 

「……わかった」

 

長い沈黙の末に絞り出された承諾。その響きは枯れ枝が折れるように脆く弱々しかった。

 

「・・・どちらしても、分かっていた事だから、あの時から」

 

「黒歌」

 

「それを、こうした形でも良いからしてくれた太郎には感謝している。だけど、もしもの時は一緒にいてくれる」

 

その言葉に対して、俺は。

 

「あぁ」

 

そう、返事する事しかできなかった。

女王は誰にする?

  • アルファ
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