※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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猫姉妹の時間

壁際から眺める姉妹の沈黙は鋼鉄のように重く冷たい。ガラス張りの応接室に夕陽が差し込み二人の影を床に長く伸ばしている。だが互いの姿を認めようとしない彼女たちの間には見えない壁が立ちはだかっていた。

 

黒歌は窓辺に佇んで外を眺めている。濡れた黒髪が肩に流れ落ちる様は幽玄の美しさだがその横顔に浮かぶのは憂いと困惑ばかりだ。何度も深呼吸して言葉を探している気配が伝わってくる。琥珀色の瞳が揺らぎ一瞬こちらを見るもすぐに視線を逸らしてしまう。

 

一方の白音は入口近くに固まって微動だにしない。小さな身体から立ち昇る威圧感はまさに猛虎だ。普段は隠している獣の本能が剝き出しになり短く刈られた白髪から覗く額には血管が浮き出ている。白魚のように細い指先が白磁のテーブルを軋ませている。握り潰さんばかりの握力で。

 

「……」

 

最初に声を発したのはどちらでもなかった。沈黙が続く程に応接室の空気は凍りついていく。俺は咳払いすら躊躇われるほど張り詰めた静寂に包まれた。

 

五分経過──いや十分は過ぎただろうか。永遠にも思える時間を破ったのは黒歌の微かな足音だった。ヒールなしの裸足の指先がカーペットを踏みしめる音さえ耳障りに感じるほど静謐な空間だ。

 

「白音……あのね」

 

震える声で妹の名前を呼ぶ黒歌の背中には恐怖と悔恨が滲んでいる。肩甲骨の尖りが痛々しい。まるで罪人のように俯きながら振り返った彼女は胸の前で握り締めた両手を見つめている。

 

「やっぱり……怒ってるよね」

 

その問い掛けは祈りにも似て哀しげだ。黒歌の顎先が微かに震えている。唇から漏れる息遣いが哀愁の旋律を奏でる。長い睫の先に宿る涙滴が夕陽に煌めいていた。

 

「……」

 

白音は答えなかった。どころか一層苛烈な視線で姉を射抜いている。氷雪のような眼差しの奥底には灼熱の憎悪と同等以上の愛惜が渦巻いていることを俺は知っている。

 

十秒の空白。

 

「どうして……何も言わずに消えたんですか?」

 

漸く絞り出された白音の声は怨嗟に塗れていた。澄んだ響きにも関わらず刀剣の如く鋭利な棘が含まれている。

 

「私も一緒に連れてってくれればよかったのに……置いてけぼりにして……」

 

その言葉が終わらないうちに黒歌の喉から嗚咽が零れた。白磁器のように白い肌が見る間に蒼褪めていく。爪先まで血の気が引いて透明にさえ見えるほどだ。

 

「ごめん……ごめんなさい……」

 

泣きじゃくる姉の姿に白音は。

 

応接室の照明を落として窓からの月光だけにした。人工的な白さではなく柔らかな銀色に包まれた室内はまるで舞台装置のようだ。白音の鋭い爪が机を裂きかけたところで俺は片手を上げた。

 

「まあまあ」

 

仲裁に入るのは得意じゃない。特にこんな劇場型修羅場では。でもやらざるを得ない理由がある。黒歌の才能と小猫の忠誠心──二つの戦力は今の俺にとって喉から手が出るほど欲しいピースなのだから。

 

「双方の気持ちも分かるさ」

 

俺はゆっくりソファに腰を下ろす。皮張りの座面が軋んだ音を立てた。

 

「黒歌は妹を守りたかったんだろう? 命賭けてまでな」

 

黒歌がしゃくりあげながら小さく頷く。化粧崩れした頬に涙の跡が幾筋も走っていた。

 

「だが小猫からすれば裏切り以外の何物でもない」

 

今度は白音が唸るように鼻を鳴らした。背中で揺れる尾が苛立ちを表すように鞭のようにしなる。

 

「当たり前です! あの日から私はずっと──!」

 

「誰も聞いてくれませんでした」

 

悲痛な訴えが胸を刺す。そうだ、誰も助けの手を差し伸べなかった。それがどれほど孤独か理解できるのは同じ境遇を味わった者だけだ。

 

「分かってる」

 

俺は敢えて軽く応じた。深刻さを見せすぎると本質が霞むからだ。

 

「だから今ここにいるんだろう? お互いが」

 

黒歌が泣き腫らした顔を上げる。まだ涙の膜が張った琥珀色の瞳が微かに光る。

 

「でも……償えるのかな……私なんかが……」

 

その自信なさげな声に胸が締めつけられる。彼女は根っからの罪悪感に支配されている。まるで迷子になった仔猫みたいに。

 

「簡単じゃないさ」

 

冷たく突き放すように言い放つ。それでいい。安易な慰めは傷を深くするだけだ。

 

「でも選択肢は二つしかない。一生悔やんで逃げ回るか──」

 

俺は黒歌を見据えた。月光に透ける彼女の肢体は幽鬼のようでどこか艶めかしい。

 

「贖罪の機会を掴みに行くか」

 

その言葉に黒歌の息が止まった。やがて細い肩が震え始める。

 

「私……できることなら……どんな罰でも……」

 

嗚咽混じりの宣言。勇気ある言葉だ。少なくとも迷いながら前に進もうとしている。

 

対照的に小猫は無言のまま拳を握りしめている。怒りと失望と喪失感が煮えたぎっているのが分かる。

 

「白音」

 

俺は正面から彼女を見た。冷たい夜気が肌を刺す。

 

「お前の怒りも当然だ。ずっと裏切られてきたと思ってたんだろ?」

 

「……はい」

 

掠れた返事には底知れない憎悪が澱んでいる。

 

「だから──責任を持ってください」

 

唐突な要求に俺は片眉を上げた。小猫の漆黒の瞳が狙撃兵のように俺を捕捉する。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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