※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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瞳の悪魔

 突然、空気が歪んだ。

 

 天界の空が、まるで墨汁を垂らしたみたいに黒紫へ濁り、強烈な圧が降りてくる。

 俺は反射的に構えたが、周囲の天使たちは状況を把握できないままざわめき、混乱していた。

 

「な、何だ!? 空が……裂けている!?」

「魔界の召喚陣……? いや、こんな規模……見たことがありません!」

 

 次の瞬間――“それ”が落ちてきた。

 

 巨大な一つ目。

 その周囲を取り巻く、数えきれないほどの無数の眼。

 どろりとした肉塊のような体を揺らしながら、ガンQは天界の大地に着地した。

 

「ひっ……! あ、あれは魔物なのか!?」

「分類不能――まさか、天界の管理外存在!?」

 

 天使たちは恐怖で後退りし、武器を構えながらも震えていた。

 無理もない。これは、この世界のどの図鑑にも載っていない…いや、“載っていてはいけない”怪物だ。

 

 ガンQの中心にある巨眼が、不気味に蠢いた。

 全員の意識を舐め回すように、冷たい視線が空気を這う。

 

(……ガンQ、か)

 

 名前が、俺の頭に自然と浮かぶ。

 いや、浮かんだんじゃない。この身体の奥――“エンペラ星人の血”が、知識として押し付けてきた。

 

(ウルトラの世界の“妖怪怪獣”。本来、こことは無関係の存在)

 

 なぜここに?

 誰が、どうやって?

 

 その答えは、すぐに“気配”として掴めた。

 

 視線の届かない遥か彼方。

 霧のように薄いが、禍々しく冷笑を含んだ“存在の残滓”。

 姿を見せるつもりはないらしい。

 ただ暗闇の中からカードを切り、俺の反応を静かに見ている。

 忠誠でも敵意でもなく、ただ試すような……そんな意図を秘めた気配。

 

「た、太郎さん! あれは何なのです?」

 天使が縋るように俺を見上げた。

 

「……この世界の怪物じゃない。外から来た“もの”だ」

 

「外……? 世界の外など――ッ!?」

 

 説明する暇もなく、ガンQが低く唸り、巨眼が天界の光を吸い込むように収縮した。

 その視線は、まっすぐ俺へ向けられている。

 

(試す気かよ)

 

 胸の奥が熱を帯びる。

 エンペラ星人の血が、獲物を前に牙を研ぐように脈動した。

 

「いいぜ……やってやる。お前が見たいってんなら、全部見せてやるよ」

 

 ガンQの巨眼が開ききり、世界がひとつ震えた。

 混乱の中で、俺は一歩、前へ踏み出した。

 

 天界の守護天使たちは、混乱しながらもすぐに行動を開始した。

 訓練された兵たちが円陣を作り、光の槍を生成する。

 

「全隊、展開! あの怪物を包囲します!」

「魔力反応……いや、これは魔力ではありません! 警戒を――」

 

 いや、遅い。

 

 俺がそう思った瞬間だった。

 

 ガンQの“視線”が、世界そのものをねじ曲げた。

 

「……ッ!?」

 

 空間が歪む、というのは、こういうことを言うのだろう。

 天使たちの姿が、影絵のように平面化し、一瞬だけ“べり”と剥がれたように見えた。

 

「な、何だ……身体が、動か……!」

「視界が……ぐるぐる……!? これ、幻惑……なのか……?」

 

 ガンQの周囲の無数の眼が、一斉に“こちらを見た”。

 

 次の瞬間、天使たちは頭を押さえて膝をつき、呻き声を上げた。

 

「う、あ……ああああ!?」

「や、やめろ……視界に干渉されている……! 本能が壊される……!」

 

 ガンQの能力――“認識破壊”。

 

 見たものの形、意味、距離、位置……

 そういった当たり前を全部バラして、再構築して、また壊していく。

 

 脳が、自分の知っている“世界”を保てなくなる。

 

(これ……ウルトラ世界でも嫌われてる厄介なやつじゃねぇか)

 

 エンペラ星人の血が教えてくる。

 これにまともに対抗できる生物など、そもそもそう多くない。

 

「全員、視線を切れ! 目を閉じろ、そいつは“見るだけで”やられる!」

 

「見えなければ……攻撃が……!」

「音で位置を……でも揺らぎが……!」

 

 天使たちは苦しみながらも後退ろうとするが、ガンQの多眼が追撃するように輝く。

 

 そのたびに、彼らの世界認識がさらに崩れ、足元の大地すら水平に保てなくなる。

 

(――これ以上やらせるわけにはいかねぇ)

 

 胸の奥の血が、熱く、暗く、脈打つ。

 

 この怪獣を操っている奴がどこで見ているかは知らない。

 ただ、あの男の意図はひとつだ。

 

 ――見せろよ、太郎。

 ――お前の底を。

 

(……望むところだ)

 

 ガンQの中央の巨大な眼が、俺ひとりにロックオンする。

 天使たちが倒れ、周囲が静寂に沈む中――

 俺は、ゆっくりと歩き出した。

 

「さて……相手してやるよ、“異界の妖怪”」

 

 ガンQの眼孔がひくりと歪み、世界がまた震えた。

 

 ガンQの巨眼が、ぐにゃりと歪んだ。

 それは笑っているようにも、怒っているようにも見える――いや、どっちでもいい。

 とにかく、俺を“見て”いる。

 

(……なら、返礼してやるよ)

 

 深呼吸をひとつ。

 肺の奥に沈んでいた暗い熱――普通の人間なら存在すら許されない“灼熱の闇”――それを、指先ほどだけ解放する。

 

 その瞬間、世界が色を失った。

 白黒ではない。

 黒と“深紅”だけが世界を塗りつぶす。

 

 胸の奥が、脈動する。

 

 ──ドクン。

 

 皮膚の下で、何かが蠢く。

 筋肉が軋み、骨が鳴き、血管が膨れ、心臓が一拍ごとに“暴君の鼓動”へと変わっていく。

 

 エンペラ星人の血だ。

 

 天使たちが倒れ伏す中、俺だけが平然と立ち上がる。

 ガンQの認識破壊の視線は、俺の脳に干渉する前に“燃やされて”いる。

 

(あぁ……これだ。

 これが俺の中にある、“暴君の遺産”。)

 

 ガンQが巨眼を震わせる。

 まるで、嫌なものを見つけたように。

 

「どうした? 続けろよ。

 お前の“視線遊び”なんかじゃ、俺は揺らがねぇよ」

 

 声が低く、重くなっている。

 俺の声帯が、もう人間だけのものじゃない証拠だ。

 

 ガンQの周囲の無数の眼が一斉に閃き、天界の地面がぐにゃりと陥没した。

 

 しかし。

 

 俺の足元だけが揺れない。

 

(そうだよな……“怪獣”が怪獣で怯むわけにはいかねぇよな)

 

 身体の奥から、漆黒の装甲の幻影がゆらりと立ち昇る。

 アーマード・ダークネスだ。

 ただし“本体”ではなく、血が見せる影だ。

 

 それだけでも、天界の空が震えた。

 

「……ッ、太郎さん……!?」

 遠くで天使たちの誰かが息を呑む声がした。

 

 だが今は振り返らない。

 

「来いよ、ガンQ。

 せっかく俺を試す気なら……

 半端な怪獣じゃ満足できねぇだろ?」

 

 ガンQが咆哮した。

 音ではなく、“認識を揺さぶる悲鳴”だ。

 

 世界が歪む。

 空も地も、天も地獄も溶けて混ざる。

 

 だがその中心で、俺は歩く。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 足元に広がる影が、深紅に染まっていく。

 

(安心しろよ。

 お前の期待は裏切らねぇ)

 

 胸の奥で、暴君の血が嗤った。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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