サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
新学期ってのはどうしてこうも体力を吸い取るんだろうな。
ホームルームが終わっただけで肩が重い。廊下を歩きながら欠伸を噛み殺していたら、不意に背中へ声が飛んだ。
「おい若いの、そんなに疲れた顔をするでない。人生、まだ始まったばかりじゃぞ?」
振り向くと、杖をついた白髭のおっさんが立っていた。
和装とも洋装とも言えない奇妙な服で、妙に存在感がある。
「……あの、どちら様ですか?」
率直に聞くと、おっさんは腹を抱えて笑った。
「はっはっは! 知らんのか! まぁよい。儂はただの旅の老人よ。見たところ、お主……なんぞ“訳あり”じゃな?」
「他人に言われる筋合いはないと思うんですけど」
「む、辛辣。だが嫌いではないのう」
この初対面のおっさん、距離感がおかしい。
でも不思議と悪意を感じない。
「新学期というのはどこも忙しいものじゃ。お主も色々背負っていそうじゃからな、少し気になっただけよ」
俺はため息をつきつつ、壁にもたれる。
「まぁ……色々、な。おっさんこそ何者だよ」
「だから旅人じゃと言っとるだろう? むふふ、しかし面白いのう、お主は」
この“旅人”が、のちに大問題を運んでくるとは、その時はまだ知らなかった。
妙な老人だと思っていたが、話してみると案外テンポが合う。
俺が雑に返しても、全部笑い飛ばす余裕があるというか……騒がしいけど嫌いじゃない。
「しかし若いの、見たところ力も度胸もある。結婚相手の一人や二人、おらんのか?」
「話が急すぎるだろ……結婚なんて考えたことないよ。というか女性関係は、その……色々あってな」
「ほほぅ。色々、とな?」
オーディンの目が、急に獲物を見つけた老人の顔になる。
「まぁ……気づいたら周りが騒がしいというか……意図せず巻き込まれるというか……」
「ふむふむ。で、具体的にはどれほどの娘と関係を?」
「……正直、自分でも把握してない」
老人は杖をつきながら腹を抱えて笑い出した。
「はっはっは! お主、面白すぎるわい! 若いのに王の器すら感じるのう! 女難は英雄の証じゃ!」
「証明されても困るんだけどな……」
「いやいや! 人生は騒がしい方が良い。儂も若い頃はな――」
そこから先は、聞いていいのか迷うような老人の武勇伝が始まった。
「にしても、日本人ではそういうのは浮気と言うんじゃないのか?」
「まぁ、そうなんだけどなぁ、でもなぁ」
「しかしのう太郎、日本では“浮気”とは言わんのじゃろ?」
オーディンが唐突にそんな爆弾を投げてきた。
「まぁ……浮気じゃないって言われれば、そう……かもしれない、けど」
「ほれ見たことか! なら問題ないではないか!」
なにが“問題ない”のか、俺にはまったく分からない。
「英雄にはな、複数の嫁がつきものなのだ。嫉妬も混乱も全部愛の味わいじゃ。儂の若い頃も――」
「その話は聞かなくていい。いや聞きたくない」
思い切り遮ると、オーディンはニヤリと笑った。
「ならば太郎。どうせなら、もう一人くらい嫁を増やさんか?」
「いや増やす前提で話すなよ!」
「よい娘がおるんじゃ。真面目で、強くて、騙されやすいが良い子でな……」
嫌な予感が背筋を走った。
「名前は――」
「言うな、分かったから言うな!」
だが老人は嬉々として続ける。
「ロスヴァイセというのじゃが!」
「なんで勝手に俺の結婚相手を決めてんだよ!?」
「面白い組み合わせじゃろう?」
本気で悪気がないところが一番タチが悪い。
妙な爺さんだと思っていたが、話が妙に弾む。
しかし問題は――その爺さんがロスヴァイセの話になると、なぜか急にテンションが上がることだ。
「太郎よ、ロスヴァイセはのう、性格が“くそ真面目”じゃ。お主のような無茶をする男には、それぐらい堅い性格の娘が丁度よい」
「いや、俺無茶なんて――まぁしてるか。けど、爺さんが言うと説得力ねぇんだよな」
「爺さんとは失礼な! ……まぁよい。でな、性格だけでなく身体も実に優れておる」
「……身体って言い方に悪意あるだろ」
「あるとも!」
即答かよ。
「まず胸じゃ。あの娘、見た目は控えめにしとるが、実際はしっかり“ある”。鎧を着ていても分かるほど張りがよい。触れれば弾むぞ」
「触れたことあんのか!?」
「儂ほどの男ならな!」
男としてどんな経験積んでんだよ、この爺さん。
「腰もよいぞ。細いが芯があって、あれは戦士の身体じゃ。抱きしめれば必ず心地よい形をしておる。ああいう娘はな、見た目の硬さと裏腹に、非常に柔らかい」
「情報量が多いしリアルだし黙れ!!」
「さらに太もも! あれは反則じゃ。鎧の下に隠れているが、鍛えられておってな……ほんの少し力を込めるだけで、肉の形が――」
「ストップストップ! 爺さん、それ以上は本当にダメだろ!」
俺が慌てて静止しながらも、内心ちょっと聞きたくなってしまうあたり、この老人の話術は罪深い。
「ロスヴァイセは恥ずかしがり屋じゃからな。自分の魅力に気づいとらん。だからこそ、嫁にすると――」
「嫁って言葉を軽々しく使うな!」
「何を言う! 太郎よ、良い女だぞロスヴァイセは。性格良し! 身体良し! 家事は壊滅的じゃがそこも可愛い!」
「欠点を可愛さに変換すんな!」
そんなやり取りをしていた時だ。
――背後から、ひんやりした気配が迫っていた。
ゆっくり振り向くと、銀髪の美女が顔を真っ赤にして震えていた。
(……あれがロスヴァイセか?)
鬼気迫る表情で、今にも爺さんの命を刈り取ろうとしている。
「なあ爺さん……今、後ろで殺気だしてるのってロスヴァイセ……だよな?」
「うむ、そうじゃ」
「なんで肯定すんだよ!!!!」
次の瞬間、ロスヴァイセの拳が爺さんの後頭部に振り下ろされた。
「オ、オーディン様ぁぁぁぁぁッ!!」
ロスヴァイセの拳が爺さんの後頭部に炸裂した瞬間、空気が爆ぜた。
普段は真面目そのものの彼女が、完全にキレていた。
「なんだべその話ぁ!? うちの身体のことをベラベラしゃべって……恥じらいも何もねぇんですか!? このどスケベじじい!!」
語尾が一気に怪しくなる。
聞いたことのない濁点の破壊力。
普段の騎士のような言葉遣いどこ行った。
「ロ、ロスヴァイセ? 方言出てるぞ……」
爺さんは頭を押さえながら笑っている。
この状況で笑えるのはある意味尊敬する。
「べてぇ! こっちは恥ずかしくて死ぬかと思ったんだべ!! オーディン様でもなんでも許せねぇですからなぁ!? なんでこんな子の前であんな――!」
いや、こっちに飛び火すんなよ。
怒りがとんでもない方向へ膨らみ、周囲がビリビリ震えている。
……なんか、彼女の怒りって魔力混ざるんだな。
俺は呆気に取られてその光景を見ていた。
だって想像以上なんだよ。
真面目な人ほどキレると怖いってよく言うけど、ここまでとは思わなかった。
「な、なんだよその顔! 見んでけろ! 忘れろ!」
「え、いや、無理だろ……」
俺がぽかんと見ていると、ロスヴァイセはハッと息を飲み――
「み、見られた……!? わ、私の……地が……で、出で……っ!?」
その瞬間、羞恥が怒りを上回ったらしい。
彼女は顔を真っ赤にし、耳まで真っ赤にし、そのまま力が抜けたように膝から崩れ落ちて座り込んだ。
「む、無理……恥ずかしくて……死ぬ……」
「いや死ぬなよ!?」
爺さんは腹を抱えて笑っている。
俺はどうフォローすればいいかわからず立ち尽くしていた。
まさか、こんな美人から“かわいい方言怒り”を聞く日が来るとはな……。
ロスヴァイセはまだ地面に座り込み、顔を覆ったまま小刻みに震えていた。
怒りじゃない。恥ずかしさが限界突破した時の震えだ。
見ているこっちが心配になってくる。
「……ロスヴァイセ、大丈夫か?」
ゆっくりしゃがみ込み、真正面から声をかける。
威圧するんじゃなく、驚かせないように。
できるだけ柔らかく。
「さっきのは……その、爺さん――いや、オーディン様が悪い。
あんな勝手なこと言われたら誰だって怒るし、恥ずかしくもなる。普通だよ」
「ふ、普通……?」
指の隙間から見える瞳が揺れた。
「うん。ロスヴァイセの反応が真っ当なんだ。だから気にする必要ない。
それに……方言、可愛かったし」
「か、か、か……っ!?」
ロスヴァイセが息を呑み、肩を跳ねさせた。
みるみるうちに顔が熱に浮かされたように赤くなる。
あ、やべ。言い過ぎたか?
「べ、別に……可愛くなんて……! わ、私はただ……!」
言葉が続かない。
涙ではなく羞恥で目が潤んでいる。
その反応が、なんというか――年下の俺が言うのも変だが、とても“守りたくなる”感じだった。
「立てるか? 無理なら手、貸すけど」
そっと手を差し出すと、ロスヴァイセは一瞬だけ固まり――
おずおずと俺の手を取った。
「すっすいません…」
めちゃくちゃ控えめな声。
さっきの怒号とは別人のようだ。
立ち上がるとき、彼女の体重がわずかに手へかかり、その感触に一瞬だけ“女性らしさ”を感じてしまう。
ロスヴァイセはそのことに気づいたのか、さらに赤くなり視線を逸らした。
(……本当に真面目だな、この人)
後ろでは――
「ふぉっふぉ……若いというのは良いものじゃのう」
爺さん――いや、オーディン様が腹を抱えて笑っていた。
まるで全て計算済みだったかのような顔だ。
「……爺さん、本当は最初から俺に何か用があったんだろ?」
「む、ついに“爺さん”で通す気か……まぁよい。察しがよいのう、太郎よ」
オーディンは急に笑みを薄め、杖を軽く地に突いた。
先程までのふざけた雰囲気が消え、神らしい圧が漂う。
「そうじゃ。儂がここに来た理由……そして“お主を見つけた”理由も、話しておく必要がある」
空気が変わった。
俺の背筋も自然と伸びる。
(やっぱり……俺に何かあるんだな)
真横では、ロスヴァイセが緊張した面持ちで佇んでいる。
泣きそうだった顔が、すっと護衛の表情へ戻っていった。
……切り替え早いな。プロだ。
「いいぜ、爺さん。話してみてくれ」
「よかろう。“ラグナロク”にまつわる面倒ごとじゃ」
爺さんの口から出たその言葉が、やけに不穏に聞こえた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア