※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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北欧の使者

 新学期ってのはどうしてこうも体力を吸い取るんだろうな。

 ホームルームが終わっただけで肩が重い。廊下を歩きながら欠伸を噛み殺していたら、不意に背中へ声が飛んだ。

 

「おい若いの、そんなに疲れた顔をするでない。人生、まだ始まったばかりじゃぞ?」

 

 振り向くと、杖をついた白髭のおっさんが立っていた。

 和装とも洋装とも言えない奇妙な服で、妙に存在感がある。

 

「……あの、どちら様ですか?」

 

 率直に聞くと、おっさんは腹を抱えて笑った。

 

「はっはっは! 知らんのか! まぁよい。儂はただの旅の老人よ。見たところ、お主……なんぞ“訳あり”じゃな?」

 

「他人に言われる筋合いはないと思うんですけど」

 

「む、辛辣。だが嫌いではないのう」

 

 この初対面のおっさん、距離感がおかしい。

 でも不思議と悪意を感じない。

 

「新学期というのはどこも忙しいものじゃ。お主も色々背負っていそうじゃからな、少し気になっただけよ」

 

 俺はため息をつきつつ、壁にもたれる。

 

「まぁ……色々、な。おっさんこそ何者だよ」

 

「だから旅人じゃと言っとるだろう? むふふ、しかし面白いのう、お主は」

 

 この“旅人”が、のちに大問題を運んでくるとは、その時はまだ知らなかった。

 

 妙な老人だと思っていたが、話してみると案外テンポが合う。

 俺が雑に返しても、全部笑い飛ばす余裕があるというか……騒がしいけど嫌いじゃない。

 

「しかし若いの、見たところ力も度胸もある。結婚相手の一人や二人、おらんのか?」

 

「話が急すぎるだろ……結婚なんて考えたことないよ。というか女性関係は、その……色々あってな」

 

「ほほぅ。色々、とな?」

 

 オーディンの目が、急に獲物を見つけた老人の顔になる。

 

「まぁ……気づいたら周りが騒がしいというか……意図せず巻き込まれるというか……」

 

「ふむふむ。で、具体的にはどれほどの娘と関係を?」

 

「……正直、自分でも把握してない」

 

 老人は杖をつきながら腹を抱えて笑い出した。

 

「はっはっは! お主、面白すぎるわい! 若いのに王の器すら感じるのう! 女難は英雄の証じゃ!」

 

「証明されても困るんだけどな……」

 

「いやいや! 人生は騒がしい方が良い。儂も若い頃はな――」

 

 そこから先は、聞いていいのか迷うような老人の武勇伝が始まった。

 

「にしても、日本人ではそういうのは浮気と言うんじゃないのか?」

 

「まぁ、そうなんだけどなぁ、でもなぁ」

 

「しかしのう太郎、日本では“浮気”とは言わんのじゃろ?」

 

 オーディンが唐突にそんな爆弾を投げてきた。

 

「まぁ……浮気じゃないって言われれば、そう……かもしれない、けど」

 

「ほれ見たことか! なら問題ないではないか!」

 

 なにが“問題ない”のか、俺にはまったく分からない。

 

「英雄にはな、複数の嫁がつきものなのだ。嫉妬も混乱も全部愛の味わいじゃ。儂の若い頃も――」

 

「その話は聞かなくていい。いや聞きたくない」

 

 思い切り遮ると、オーディンはニヤリと笑った。

 

「ならば太郎。どうせなら、もう一人くらい嫁を増やさんか?」

 

「いや増やす前提で話すなよ!」

 

「よい娘がおるんじゃ。真面目で、強くて、騙されやすいが良い子でな……」

 

 嫌な予感が背筋を走った。

 

「名前は――」

 

「言うな、分かったから言うな!」

 

 だが老人は嬉々として続ける。

 

「ロスヴァイセというのじゃが!」

 

「なんで勝手に俺の結婚相手を決めてんだよ!?」

 

「面白い組み合わせじゃろう?」

 

 本気で悪気がないところが一番タチが悪い。

 

 妙な爺さんだと思っていたが、話が妙に弾む。

 しかし問題は――その爺さんがロスヴァイセの話になると、なぜか急にテンションが上がることだ。

 

「太郎よ、ロスヴァイセはのう、性格が“くそ真面目”じゃ。お主のような無茶をする男には、それぐらい堅い性格の娘が丁度よい」

 

「いや、俺無茶なんて――まぁしてるか。けど、爺さんが言うと説得力ねぇんだよな」

 

「爺さんとは失礼な! ……まぁよい。でな、性格だけでなく身体も実に優れておる」

 

「……身体って言い方に悪意あるだろ」

 

「あるとも!」

 

 即答かよ。

 

「まず胸じゃ。あの娘、見た目は控えめにしとるが、実際はしっかり“ある”。鎧を着ていても分かるほど張りがよい。触れれば弾むぞ」

 

「触れたことあんのか!?」

 

「儂ほどの男ならな!」

 

 男としてどんな経験積んでんだよ、この爺さん。

 

「腰もよいぞ。細いが芯があって、あれは戦士の身体じゃ。抱きしめれば必ず心地よい形をしておる。ああいう娘はな、見た目の硬さと裏腹に、非常に柔らかい」

 

「情報量が多いしリアルだし黙れ!!」

 

「さらに太もも! あれは反則じゃ。鎧の下に隠れているが、鍛えられておってな……ほんの少し力を込めるだけで、肉の形が――」

 

「ストップストップ! 爺さん、それ以上は本当にダメだろ!」

 

 俺が慌てて静止しながらも、内心ちょっと聞きたくなってしまうあたり、この老人の話術は罪深い。

 

「ロスヴァイセは恥ずかしがり屋じゃからな。自分の魅力に気づいとらん。だからこそ、嫁にすると――」

 

「嫁って言葉を軽々しく使うな!」

 

「何を言う! 太郎よ、良い女だぞロスヴァイセは。性格良し! 身体良し! 家事は壊滅的じゃがそこも可愛い!」

 

「欠点を可愛さに変換すんな!」

 

 そんなやり取りをしていた時だ。

 

 ――背後から、ひんやりした気配が迫っていた。

 

 ゆっくり振り向くと、銀髪の美女が顔を真っ赤にして震えていた。

 

(……あれがロスヴァイセか?)

 

 鬼気迫る表情で、今にも爺さんの命を刈り取ろうとしている。

 

「なあ爺さん……今、後ろで殺気だしてるのってロスヴァイセ……だよな?」

 

「うむ、そうじゃ」

 

「なんで肯定すんだよ!!!!」

 

 次の瞬間、ロスヴァイセの拳が爺さんの後頭部に振り下ろされた。

 

「オ、オーディン様ぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ロスヴァイセの拳が爺さんの後頭部に炸裂した瞬間、空気が爆ぜた。

 普段は真面目そのものの彼女が、完全にキレていた。

 

「なんだべその話ぁ!? うちの身体のことをベラベラしゃべって……恥じらいも何もねぇんですか!? このどスケベじじい!!」

 

 語尾が一気に怪しくなる。

 聞いたことのない濁点の破壊力。

 普段の騎士のような言葉遣いどこ行った。

 

「ロ、ロスヴァイセ? 方言出てるぞ……」

 

 爺さんは頭を押さえながら笑っている。

 この状況で笑えるのはある意味尊敬する。

 

「べてぇ! こっちは恥ずかしくて死ぬかと思ったんだべ!! オーディン様でもなんでも許せねぇですからなぁ!? なんでこんな子の前であんな――!」

 

 いや、こっちに飛び火すんなよ。

 

 怒りがとんでもない方向へ膨らみ、周囲がビリビリ震えている。

 ……なんか、彼女の怒りって魔力混ざるんだな。

 

 俺は呆気に取られてその光景を見ていた。

 だって想像以上なんだよ。

 真面目な人ほどキレると怖いってよく言うけど、ここまでとは思わなかった。

 

「な、なんだよその顔! 見んでけろ! 忘れろ!」

 

「え、いや、無理だろ……」

 

 俺がぽかんと見ていると、ロスヴァイセはハッと息を飲み――

 

「み、見られた……!? わ、私の……地が……で、出で……っ!?」

 

 その瞬間、羞恥が怒りを上回ったらしい。

 

 彼女は顔を真っ赤にし、耳まで真っ赤にし、そのまま力が抜けたように膝から崩れ落ちて座り込んだ。

 

「む、無理……恥ずかしくて……死ぬ……」

 

「いや死ぬなよ!?」

 

 爺さんは腹を抱えて笑っている。

 俺はどうフォローすればいいかわからず立ち尽くしていた。

 

 まさか、こんな美人から“かわいい方言怒り”を聞く日が来るとはな……。

 

 ロスヴァイセはまだ地面に座り込み、顔を覆ったまま小刻みに震えていた。

 怒りじゃない。恥ずかしさが限界突破した時の震えだ。

 

 見ているこっちが心配になってくる。

 

「……ロスヴァイセ、大丈夫か?」

 

 ゆっくりしゃがみ込み、真正面から声をかける。

 威圧するんじゃなく、驚かせないように。

 できるだけ柔らかく。

 

「さっきのは……その、爺さん――いや、オーディン様が悪い。

 あんな勝手なこと言われたら誰だって怒るし、恥ずかしくもなる。普通だよ」

 

「ふ、普通……?」

 

 指の隙間から見える瞳が揺れた。

 

「うん。ロスヴァイセの反応が真っ当なんだ。だから気にする必要ない。

 それに……方言、可愛かったし」

 

「か、か、か……っ!?」

 

 ロスヴァイセが息を呑み、肩を跳ねさせた。

 みるみるうちに顔が熱に浮かされたように赤くなる。

 

 あ、やべ。言い過ぎたか?

 

「べ、別に……可愛くなんて……! わ、私はただ……!」

 

 言葉が続かない。

 涙ではなく羞恥で目が潤んでいる。

 

 その反応が、なんというか――年下の俺が言うのも変だが、とても“守りたくなる”感じだった。

 

「立てるか? 無理なら手、貸すけど」

 

 そっと手を差し出すと、ロスヴァイセは一瞬だけ固まり――

 おずおずと俺の手を取った。

 

「すっすいません…」

 

 めちゃくちゃ控えめな声。

 さっきの怒号とは別人のようだ。

 

 立ち上がるとき、彼女の体重がわずかに手へかかり、その感触に一瞬だけ“女性らしさ”を感じてしまう。

 

 ロスヴァイセはそのことに気づいたのか、さらに赤くなり視線を逸らした。

 

(……本当に真面目だな、この人)

 

 後ろでは――

 

「ふぉっふぉ……若いというのは良いものじゃのう」

 

 爺さん――いや、オーディン様が腹を抱えて笑っていた。

 まるで全て計算済みだったかのような顔だ。

 

「……爺さん、本当は最初から俺に何か用があったんだろ?」

 

「む、ついに“爺さん”で通す気か……まぁよい。察しがよいのう、太郎よ」

 

 オーディンは急に笑みを薄め、杖を軽く地に突いた。

 先程までのふざけた雰囲気が消え、神らしい圧が漂う。

 

「そうじゃ。儂がここに来た理由……そして“お主を見つけた”理由も、話しておく必要がある」

 

 空気が変わった。

 俺の背筋も自然と伸びる。

 

(やっぱり……俺に何かあるんだな)

 

 真横では、ロスヴァイセが緊張した面持ちで佇んでいる。

 泣きそうだった顔が、すっと護衛の表情へ戻っていった。

 

 ……切り替え早いな。プロだ。

 

「いいぜ、爺さん。話してみてくれ」

 

「よかろう。“ラグナロク”にまつわる面倒ごとじゃ」

 

 爺さんの口から出たその言葉が、やけに不穏に聞こえた。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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