サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
オーディン様の話が一段落した後、俺はロスヴァイセの方を見た。
彼女は少し迷うように視線を伏せてから、静かに口を開く。
「……ロキは、北欧神話の中でも特に厄介な存在です」
声音は低く、さっきまでの感情的な様子は微塵もない。
完全に“ヴァルキリー”の顔だ。
「力そのものはオーディン様ほどではありません。
ですが、策略と欺瞞、そして人の心を乱す才に関しては……神々の中でも群を抜いています」
「混乱を好む、って話だったな」
「はい。ただし、無秩序ではありません。
ロキは“自分が面白いと思う形”に世界が壊れていく過程を楽しむのです」
それは、戦争屋よりも質が悪い。
「敵を直接叩くより、疑心暗鬼を撒き、同盟を崩し、
守るべき者同士を争わせる……そういうやり方を取ります」
「……厄介だな」
俺がそう呟くと、ロスヴァイセは小さく頷いた。
「ええ。
だからこそオーディン様は、あなたのような存在を危惧し、同時に期待しているのです」
その言葉の重みが、じわりと胸に残った。
(ロキは、戦いそのものより“選択”を見てくる……か)
どうやらこの試練、単純な力比べでは終わらなさそうだ。
ロスヴァイセから聞いたロキの話は、どれも納得がいった。
力で押し潰す相手じゃない。
秩序を疑わせ、信頼を壊し、選択を誤らせる神。
(……真正面からの戦力じゃ、たぶん意味がない)
俺は顎に手を当て、静かに考える。
王として試されるなら、ここで必要なのは“強さ”じゃない。
想定外に対抗できる存在だ。
「……なるほどな」
思わず小さく呟いた瞬間、自分の中で一つの答えが固まった。
常識外れ。
この世界の枠にも、神話の理屈にも、きれいに当てはまらない存在。
ロキが混沌を楽しむなら――
その混沌を“理解している側”を呼ぶしかない。
「ロスヴァイセ」
「はい?」
彼女がすぐに反応する。
「少し、時間をもらえるか。
俺、家臣を一人呼ぶ」
「……家臣、ですか?」
その声音に、困惑が混じる。
無理もない。今の話の流れで、そんな発想が出てくるとは思わないだろう。
「しかも、かなり想定外のやつだ」
俺は苦笑しながら、視線を遠くへ投げた。
(ロキ。お前が混乱を撒くなら――
俺は“混乱の中で立っていられる駒”を置く)
この一手が、吉と出るか凶と出るか。
だが、選ばないという選択肢はなかった。
「呼ぶ家臣の名前は――謎のヒロインXXだ」
言い切った瞬間、空気が一拍、止まった。
「…………は?」
ロスヴァイセが、完全に思考停止した顔で俺を見る。
次いで、ゆっくりと眉が寄った。
「な、謎……?
それが、名前……なのですか?」
「一応、正式名称だ。たぶん」
「たぶん!?」
即座にツッコミが飛んできた。
「家臣を呼ぶと言っておきながら、
“謎の”とはどういうことですか!
しかもヒロイン!?
さらにXXとは何なのですか!
符号ですか!? 階級ですか!? それとも暗号ですか!?」
一息でそこまで言うか普通。
「落ち着け。俺も全部は把握してない」
「把握していない人物を呼ぶのですか!?」
「正確には、“存在自体が想定外”だから意味がある」
俺は腕を組み、淡々と続ける。
「彼女は、人類史の外側から来た存在だ。
神話にも、信仰にも、世界の理屈にも縛られない。
ロキみたいに“混乱を楽しむ神”に対して、
同じ土俵に立てる数少ない存在だ」
「……なおさら危険ではありませんか!」
「危険だな。間違いなく」
即答すると、ロスヴァイセは頭を抱えた。
「なぜそんな人物を……!」
「ロキは選択を狂わせる。
なら、最初から“狂ってる選択肢”を一つ置いておく」
俺の言葉に、ロスヴァイセははっとした。
「……混乱に、混乱をぶつける……?」
「そういうことだ」
しばらく沈黙が落ちる。
やがて彼女は、深いため息をついた。
ロスヴァイセは一度深呼吸をしてから、改めて俺を見た。
さっきまでの怒りや呆れとは違う、純粋な疑問の目だ。
「……太郎さん。その“謎のヒロインXX”とは、具体的にどのような存在なのですか?」
「宇宙から来た賞金稼ぎだ」
「宇宙……?」
眉がぴくりと動く。
「神でも、悪魔でも、天使でもありません。
人類史の外側で、人類史を守るために戦ってる」
「……余計に分かりません」
至極もっともな反応だ。
「聖書の神話圏にも、北欧神話にも属さない。
ロキの“神話を壊す遊び”に、ルールの外から干渉できる存在だ」
ロスヴァイセは少し考え込み、やがて静かに言った。
「つまり……神々の争いを“外野席”から見ている戦士、ということですか?」
「かなり近い」
「では……その名前は……?」
「本人が名乗ってる」
「名乗っているのですね……」
納得したようで、まったく納得していない顔だった。
「……オーディン様。
この方、本当に“想定外”を連れてきますね」
背後で、オーディン様が楽しそうに笑った。
「ふぉっふぉ、よいではないか。
ロキにぶつけるには、これ以上ない異物じゃ」
ロスヴァイセは小さくため息をつき、俺を見た。
「太郎さん……あなたは、本当にどこへ向かおうとしているのですか」
「さぁな」
俺は肩をすくめる。
「少なくとも、ロキの思い通りにはさせない方向だ」
ロスヴァイセは困ったように、だがどこか覚悟を決めた表情で頷いた。
「……言葉だけでは納得できません」
ロスヴァイセは腕を組み、きっぱりと言った。
「その“謎のヒロインXX”という方の姿を確認させてください。
どのような存在か、視覚情報が必要です」
「まぁ、そうなるよな」
俺は懐から端末を取り出し、保存してあった一枚を表示する。
説明するより早い。
「これだ」
ロスヴァイセは画面を覗き込み――
次の瞬間、言葉を失った。
「………………」
数秒の沈黙。
銀色の装甲。
無機質なボディライン。
赤いマフラーのような布と、明らかに人型ではあるが“生身とは言い切れない”外見。
「……太郎さん」
「なんだ?」
「これは……ロボットではありませんか?」
「正確には宇宙由来の戦闘用アーマーだな」
「言い換えても状況は変わりません!!」
即座にツッコミが飛んだ。
「家臣に迎えると言っておいて、
まさか鋼鉄製の存在とはどういうことですか!?
しかも“ヒロイン”と名乗る割に、
完全に戦闘兵器ではありませんか!!」
「見た目で判断するな。中身は割と情緒ある」
「情緒の問題ではありません!」
ロスヴァイセは画面を指差し、勢いよく続ける。
「そもそも!
女性なのですか!?
性別は!?
年齢は!?
そして何より――この格好で日常生活は可能なのですか!?」
「普段は普通の女の子形態もある」
「余計に情報が混乱します!!」
後ろでオーディン様が肩を揺らして笑っている。
「ふぉっふぉ……どうじゃロスヴァイセ。
これ以上ないほど“想定外”であろう?」
「ええ!!
北欧の未来が本気で心配になってきました!!」
そう言いながらも、ロスヴァイセは写真から目を離さなかった。
困惑と警戒、その奥に――ほんのわずかな興味が滲んでいる。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア