※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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卑怯な奇襲

 ロキが再び姿を現したのは、撤退からさほど時間を置かないうちだった。今度は幻影ではない。空間そのものを舞台装置のように使い、見せつける気で来ている。聖書圏の外縁、結界と結界の隙間に、北欧の神話的気配が幾重にも重なり、空気が重く沈んだ。

 

「さっきは失礼。あまりに“予想外”でね」

 

 軽い調子の声とは裏腹に、背後の空間が裂ける。黒い裂け目の向こうから、異様な存在感が溢れ出した。巨大な影。鎖の擦れる音。低く唸る咆哮が、地面を震わせる。

 

「……フェンリル……!」

 

 ロスヴァイセが息を呑んだ。北欧神話を知る者なら、知らぬはずがない。神々を滅ぼすために生まれ、終末で解き放たれる怪物。まだ完全ではないにせよ、その片鱗だけで、空間が悲鳴を上げている。

 

「そうそう。うちの優秀な戦力だよ。まだ“本番”じゃないけどね」

 

 ロキが指を鳴らすと、フェンリルの影の周囲に、さらに幾つもの気配が浮かび上がる。北欧の魔獣、歪められた英霊の残滓、神話に名を連ねる者たちの“欠片”。どれも単体で一国を脅かしかねない存在ばかりだ。

 

「……これほどの戦力を……」

 

 ロスヴァイセの声が震える。彼女は剣を握り直し、魔力を高めるが、目の前の規模に判断が追いついていない。無理もない。これは護衛や局地戦の話じゃない。終末の“準備”だ。

 

 一方で、俺は視線を巡らせながら、淡々と状況を整理していた。数は多いが、統制は甘い。ロキは“披露”しているだけで、今すぐ全面投入する気はない。威圧と選別。こちらの反応を見るための舞台だ。

 

『……想定内ですね』

 

 隣で、XXが平然と言った。アーマーのセンサーが淡く光り、各個体を自動的に分類していく。

 

『大型神話獣。危険度は高。ですが、戦力配置が自己顕示的です。効率は良くありません』

 

「評価、辛口だな」

 

『事実です。数を見せるのは、余裕がある時か、不安な時のどちらかです』

 

 ロキがこちらを見て、楽しげに眉を上げた。

 

「へえ。宇宙の警察さんは、随分と冷静だね」

 

『感情は任務効率を下げます』

 

「つまらないなあ」

 

 そう言いながらも、ロキの視線は一瞬、フェンリルから俺へと戻る。期待と苛立ちが混じった目だ。

 

「どうだい、太郎。怖くなった?」

 

「いや」

 

 短く答える。

 

 ロキが披露した戦力は、威圧としては十分すぎるほどだった。フェンリルを中心に、北欧神話の名を冠する魔獣や歪んだ存在が空間を埋め尽くし、その圧だけで周囲の結界が悲鳴を上げている。ロスヴァイセが息を呑むのも無理はない。これは戦争ではなく、終末の予告だ。

 

 だが、その空気を壊したのは宣言ではなかった。

 

 次の瞬間、空が焼けた。正確には、空の“外側”から光が突き刺さった。無数の光条が降り注ぎ、フェンリルを初めとした一団を容赦なく叩きつける。神話由来の防御も、威嚇のために広げられた陣形も関係ない。純粋な物理と宇宙規格のエネルギーが、まとめて薙ぎ払った。

 

「――なっ……!?」

 

 ロスヴァイセが声を上げる。ロキですら反応が遅れた。宣言も、挑発も、前振りもない。撃つべき瞬間に、撃った。それだけで戦場の主導権がひっくり返る。

 

『援護射撃、実施中』

 

 XXの声は淡々としていた。宇宙船は姿を見せない。ただ、必要な角度と威力で、必要な対象を撃ち抜く。フェンリルの巨体が衝撃で揺れ、咆哮が空気を震わせるが、それは怒りというより困惑に近い。

 

「ちょ、ちょっと待って! いきなりそれは反則じゃない!?」

 

 ロキの軽口は、完全に虚を突かれた声だった。混沌を操るはずの神が、理解不能な混沌に殴られて呆けている。その隙を、俺は逃さない。

 

 胸の奥で重たい鼓動が鳴り、背中に熱が走る。エンペラ星人の血が目を覚まし、黒い気配が凝縮されていく。アーマード・ダークネス。その刀を迷いなく引き抜く。闇は静かだ。暴れたがっているのを、力で押さえ込む。

 

「卑怯汚いは、敗者の戯れ言だ」

 

 俺が短く言い切ると、間髪入れずにXXが続いた。

 

『同意します。戦場評価において“卑怯”は無効語です』

 

 二人分の答えが、同じ温度で突き刺さる。

 

「……え?」

 

 ロキが、素で間の抜けた声を出した。

 

「ちょっと待って。そこ、ハモるところ?」

 

 その瞬間、俺は踏み込んだ。XXの援護射撃がロキの注意を完全に逸らしている。神話の盤面に投げ込まれた予想外に、さらに予想外を重ねる。刀が闇の軌跡を描き、空間を切り裂く。

 

 ロキの目がこちらを捉えた時には遅かった。驚愕が浮かぶ。その感情が、俺にとっての“当たり”だった。狙いは致命ではない。神を斬るつもりはない。ただ、距離を奪い、主導権を叩き落とす。

 

「――っ!?」

 

 衝撃が走り、ロキの体勢が崩れる。同時に、別方向からXXの追撃が入る。宇宙規格の光が、神話的存在を“現実”へ引きずり下ろす。

 

 その光景を、ロスヴァイセは呆然と見ていた。ヴァルキリーとして数多の戦場を知る彼女ですら、理解が追いつかない。北欧神話の終末が、こんな形で横合いから殴られるなど、想像の埒外だ。

 

「……お二人とも!?」

 

 ようやく声を取り戻し、ロスヴァイセが叫ぶ。

 

「今の発言、完全に悪役の台詞ではありませんか!?」

 

「事実だ」

 

『事実です』

 

 再び、同時だった。

 

「なぜまたハモるのですか!?」

 体勢を立て直したロキが距離を取り、フェンリルの咆哮が一段落したところで、戦場に一瞬の“間”が生まれた。混沌と破壊の只中にあって、その静けさだけが異様だった。俺は刀を下ろさず、視線をロキに向けたまま口を開く。

 

「そもそもだ」

 

 自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。

 

「戦争を始めようとしてる側がいるのに、それを止める側が“手段を選べ”って言われる方が、どう考えてもおかしい」

 

 ロキの眉が、わずかに動く。

 

「始めた時点で、もう綺麗な話じゃない。だったら、あとはどれだけ被害を抑えられるかだけだ」

 

 それだけ言って、俺は肩をすくめた。

 

「理想論で神話は止まらない」

 

『同意します』

 

 XXの声が、即座に重なった。

 

『戦争発生後における最優先事項は、勝敗ではなく被害規模の抑制です。手段の是非は事後評価であり、現場判断には含まれません』

 

「……ほらな」

 

 俺がそう言うと、ロスヴァイセが一拍遅れて言葉を失った。

 

「……待ってください。

 それでは……正義や騎士道は……」

 

 彼女の声には、戸惑いが混じっている。北欧の戦士として、護衛として、彼女が大切にしてきた価値観が揺さぶられているのが分かった。

 

「ロスヴァイセ」

 

 俺は視線だけを向ける。

 

「正義を語れるのは、戦争を起こさない時だけだ」

 

 彼女は言葉に詰まり、唇を噛んだ。

 

『補足します』

 

 XXが淡々と続ける。

 

『現在の介入によって、聖書圏・北欧圏双方の被害予測値は三七%低下しています。これは“きれいな戦い”を選ばなかった結果です』

 

「数字で言われると、なおさら重いですね……」

 

 ロスヴァイセが小さく呟く。

 

 そのやり取りを、ロキは興味深そうに眺めていた。嘲笑ではない。値踏みするような視線だ。

 

「……なるほど」

 

 ロキが、ゆっくりと拍手した。

 

「君は本当に王向きだね、太郎。

 綺麗事を信じないくせに、被害を減らそうとする」

 

 俺は答えない。褒め言葉かどうかなんて、どうでもいい。

 

(戦争を止めるために、戦うことを躊躇わない)

 

 それが正しいかどうかは分からない。

 ただ、今この場では、それが一番マシな選択だった。

女王は誰にする?

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