※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

227 / 484
京都の戦争の誘い

 京都駅の構内は、観光客のざわめきで満ちていた。修学旅行生の姿も多く、浮ついた空気が街全体を覆っている。だが、その中に紛れ込むには、どうしても異質すぎる気配があった。雑踏の中に立っているはずなのに、周囲から一歩だけ距離を置いているような存在感。視線を向けた瞬間、それが“人混みの一部ではない”と分かる。

 

 背は高めで、すらりとした体格。赤いジャケットを無造作に羽織り、下はラフなパンツスタイル。派手というほどではないが、妙に目を引く色合いだ。長い黒髪は肩口で揺れ、整った顔立ちは大人びているのに、どこか学生のような軽さも残している。だが何より印象的なのは、その目だった。鋭いわけでも、威圧的なわけでもない。ただ、こちらを“観測する”ためだけに存在しているような視線。

 

「――へえ。京都の妖怪たちが“人間の少年”を頼る時代か」

 

 初対面のはずなのに、まるで前から知っていたような口ぶりだった。

 

「盗み聞きとは、あまり感心しないな」

 

「はは、気づいてた? さすがだね」

 

 距離感が妙だ。敵意も警戒も見せず、かといって馴れ馴れしすぎるわけでもない。ただ自然体で、俺の反応を確かめるように笑っている。

 

「誰だ」

 

 短くそう問うと、彼女は肩をすくめた。

 

「蒼崎青子。ま、通りすがりの魔法使い……みたいなもん」

 

 “魔法使い”という単語が、冗談のように軽く投げられた。だが、その瞬間、空気がほんのわずかに軋んだ気がした。理屈じゃない。直感だ。この女は、冗談でそんな言葉を使う立場にいない。

 

「“みたい”って言い方が一番信用できない」

 

「正解。疑えるなら大丈夫そうだ」

 

 青子は楽しそうに笑いながら、俺と京都の街並みを交互に眺める。その視線の動きが、まるで地図をなぞっているように見えた。

 

「用件は?」

 

「二つある」

 

「多いな」

 

「一つ目。この京都、世界線が歪み始めてる」

 

 軽い口調とは裏腹に、言葉の中身は重い。俺は一瞬だけ息を整えた。

 

「……やっぱりか」

 

「二つ目。その中心に、アンタがいる」

 

 その言い方に、確信があった。推測ではなく、観測結果として告げている。

 

「光と闇の話か」

 

「うん。しかも“王になるかどうか”の分岐点」

 

「随分とはっきり言うな」

 

「はっきりしてるから来たんだよ。中途半端なら放っとく」

 

 止めに来たわけじゃない。排除する気もない。ただ、見届けるために立っている。彼女の立場が、ようやく見えてきた。

 

 蒼崎青子。

 この女は、京都の妖怪達とも、禍の団とも、神話勢力とも違う場所に立っている。世界の内側ではなく、少しだけ外側。だからこそ、今ここに現れた。

 

 そして俺は、そんな“外側の人間”に見られる位置に、もう立ってしまっているらしい。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。