サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
英雄派が前に出てきた瞬間、狭間の空気そのものが「観客」を欲しがる顔に変わった。空間が静かであるほど、正しさの声はよく響く。響くから、彼らは声を張らない。張らなくても届くと知っている。曹操の槍先がこちらへ向いた時点で、俺の胸の奥が勝手に熱を持った。燃費が悪い、というより燃えやすい。燃えやすいのに、燃え方を選べない。この空間はアーマード・ダークネスにとって居心地がよく、居心地の良さは制御の敵だ。鎧が「全部を出せ」と迫ってくる圧が、踏み込み一歩ごとに増していく。
「君は危険だ。だから止める」
曹操の言葉は短い。短い言葉ほど、他人の人生を簡単に切り捨てる。
「止めるなら、救出の邪魔をするな」
「救出は正義ではない。危険を放置することになる」
「危険を“作って”止める気だろ」
俺が吐き捨てた瞬間、槍が動いた。速い。だが真っ直ぐに来ない。来たと思った瞬間に外へ逃げる。距離を詰めさせない。こちらの間合いに入らない。刺し合いをしない。時間稼ぎだ。槍の理想は貫くことのはずなのに、彼は貫かない。貫かないことで、俺に貫かせようとしている。焦って前へ出させ、踏み込みを乱させ、鎧を膨らませ、暴走の一歩手前まで連れていく。討伐劇のための演出としては、あまりにも整いすぎている。
ジャンヌが横から入ってくる。斬り込むのではなく、こちらの視線を奪う位置に立つ。白い光の気配を押し付けてくるだけで、俺の中の闇が「反発」で膨らむ。闇は光を嫌う。嫌うから強くなる。強くなれば制御が難しくなる。英雄派はそこまで計算している。断罪型の正義は、相手の心の反射まで材料にする。
「あなたは闇に引かれている。今も、引かれている。止めねばなりません」
「引かれてるのは事実だ。だが引かれたまま立ってる」
「立っている? 立っているのは傲慢です。倒れる前に救われるべきです」
救うという言葉で殴ってくる。殴られるほど、闇が甘くなる。甘くなるほど、鎧の縁が勝手に広がる。左腕に出していた装甲が、肘から肩へ伸びようとする。胸の内側の黒が、鎖骨の下へ這い上がろうとする。俺は呼吸で押し戻し、意思で押し戻し、刀の握りで押し戻す。押し戻すたびに燃費が悪くなる。維持するだけで削られる。削られたところに、正義の言葉が突き刺さる。
ゲオルクはさらに酷い。彼は戦いをしない。戦いの舞台装置を作る。床の縫い目へ指を滑らせ、狭間の壁へ印を刻み、こちら側では見えない“窓”を開けようとする。見られる場を用意しようとする。英雄派が英雄である証明には、観客が必要だからだ。
「青崎青子、魔術師。君も危険だ。ここで止める」
「危険かどうか決めるのがあなたなの? 随分と便利な職業ね」
青子は膜の縫い止めに集中しながら、最低限の魔弾で牽制する。スナップ一発。影を叩き、窓の縁だけを釘で留める。だが彼女の手は膜から離せない。離した瞬間、八坂の座標が揺れる。揺れた瞬間、俺の闇が吸われる。吸われた瞬間に、英雄派は「暴走した」と言える。ここで求められているのは勝利ではない。手順の維持だ。手順を維持するには、俺が前線を保つしかない。保つほど燃費が悪くなる。悪くなるほど、鎧が勝手に膨らむ。膨らむほど、英雄派は喜ぶ。地獄の循環。
「太郎、呼吸。深く」
青子の声が背中越しに届く。九重の手がさらに強く掴む。小さい力が、今は鎖より強い。俺は息を吸う。吸った瞬間、狭間の冷気が肺に刺さり、熱が胸の奥で跳ねた。鎧が一瞬だけ、俺の意思を無視して増えた。視界の端に黒が滲み、耳の奥で「全部纏え」と囁く声が大きくなる。
「……っ」
ジャンヌが、今度は距離を詰めずに祈るように構えた。光の圧だけが増す。圧が増せば増すほど、闇は反発で出たがる。出たがるほど、俺の意識は薄くなる。薄くなるほど、鎧は主導権を取る。つまり彼女は斬っていない。斬らずに、俺の中を裂いている。断罪型の正義の最も汚いところは、本人がそれを汚いと思っていないところだ。
「あなたのためです。あなたが壊れる前に止めます」
「俺のため? 違うな」
曹操の槍が、また当たらない位置で突きを繰り返す。俺の踏み込みだけを誘う。踏み込めば鎧が増える。増えれば暴走の証拠になる。証拠になれば、討伐は英雄になる。なるほど、時間稼ぎの戦い方だ。勝つための戦い方ではなく、勝った後に語るための戦い方だ。
「お前らのためだ。英雄の証明のためだ」
「英雄とは、正しさを示す者だ」
「示すために、相手を怪物にするのか」
「怪物は最初から怪物だ。君はそれを隠しているだけだ」
言葉が刃になる。刃が胸に刺さる。刺さった刃を抜こうとすると、闇がその穴に入りたがる。穴が空けば空くほど、鎧は伸びる。伸びた鎧は確かに強い。強いから、楽になる。楽になるから、意識が手放せる。手放した瞬間に、英雄派は勝つ。勝つのは俺じゃない。鎧だ。鎧が勝てば、俺は負ける。
俺は刀を振るった。だが斬りに行かない。押し返す。受け流す。距離を保つ。最小被害。最小衝突。だがその「最小」の積み重ねが、最悪に繋がりそうになる。燃費が悪い空間では、最小を重ねるほど削られる。削られた分だけ、闇が立つ。立てば楽になる。楽になれば手放す。手放せば終わり。
視界の端が、黒く染まった。耳の奥の囁きが、命令に変わる。「纏え」。声が俺の声に似てきたのが一番怖い。似てきたということは、境目が薄いということだ。境目が薄いところへ、英雄派は時間を稼いで追い込む。自分たちの大義名分のために。
「……まだだ」
俺は歯を食いしばった。九重の手が引く。青子が縫う。三人で、俺を俺に留める。だが留めるほど、燃費は悪くなる。悪くなるほど、意識は削れる。削れた先――ほんの一瞬、世界の輪郭が遠のき、刀の重さが他人事になる。その瞬間こそが、英雄派が欲しがっている「証明」だと理解した。
次の瞬間、俺の中で何かが切れかけた。切れかけたのは理性ではない。理性を支えていた“余裕”だ。余裕が消えれば、制御は崩れる。崩れる前に、俺は選ばなければならない。手放して怪物になるか。手放さずに、別の形に慣れるか。狭間の冷気が肺を刺し、闇が笑った。英雄派は静かに構えた。時間稼ぎのまま、俺が崩れるのを待っていた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア