サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
狭間の冷気は肺に優しいふりをして、実際は体温と集中力だけを削っていく。部分展開しているだけなのに、装甲の縁が鉛みたいに重く、息を吸うたびに胸の奥が焼け、吐くたびに“黒い何か”が喉の奥までせり上がってくる。燃費が悪い。力そのものが減るというより、制御に払う代償が跳ね上がっている。踏ん張るほど、鎧が勝手に「全部纏え」と迫ってくる。ここで全身を許せば、確かに楽になる。楽になる代わりに、俺が俺でなくなる。
「……くそ」
刀の柄を握る指が汗で滑り、左腕の装甲がわずかに脈打った。脈打つたびに、鎧の内側から“槍”の衝動が突き上げてくる。アーマード・ダークネスの本質は槍だ。貫いて支配するための武器だ。だけど俺は、槍より刀を選んできた。斬って、退けて、押し返して、守るために距離を作る。俺の戦い方は、貫くより、制御する方に寄っている。だからこそ今、この空間の燃費の悪さが、俺の戦い方を真っ向から否定してくる。
「太郎、呼吸が乱れてる。無理しないで」
青子の声が背中越しに届く。縫い止めを続けながら、目だけで俺の変化を追っているのが分かる。九重の小さな手は、俺の服を掴んだまま震えている。守るべきものが背中にある。それだけが、俺を椅子に縛り付ける紐になる。
闇が囁く。全部纏え。槍を取れ。貫け。支配しろ。いつもの命令だ。だが今日は、その命令が妙に“焦って”いる。英雄派の視線が近いからじゃない。この空間が、鎧にとって居心地がいいからだ。居心地がいい場所では、鎧は主導権を取りたがる。取りたがるから制御が難しくなる。悪循環。なら、やるべきは一つしかない。
押さえ込むんじゃない。慣れる。飲み込まれるんじゃない。馴染ませる。鎧と俺の間にある“摩擦”そのものを減らす。燃費が悪いなら、燃費に合わせた回転数へ身体を調整するしかない。俺は息を吸った。肺が痛い。痛いまま、もう一つ吸った。心臓が速い。速いまま、一定に整えた。闇がざわつく。ざわついたまま、座らせた。
「……聞け、アーマード・ダークネス」
言葉にした瞬間、鎧が一度だけ静かになった。生き物みたいに。敵みたいに。王座みたいに。
「お前は鎧だ。俺の上に立つな。俺の下に黙っていろとも言わない。……俺の“横”に来い」
熱が走った。痛みじゃない。変化だ。鎧の縁が、勝手に増えるのをやめた。代わりに、形が“整い始めた”。今までのアーマード・ダークネスは、力を出すほど武骨になった。重く、刺々しく、貫くための輪郭に寄った。だが今、輪郭が反対へ寄っていく。余計な突起が削げ落ち、流線形に近づき、刃の動線に沿った角度へ変わっていく。
顔の周りに黒が集まり、次の瞬間、骨のように白い面が浮いた。覆うのではなく、“噛み合う”ように頬と顎に沿って嵌まり、口元だけがわずかに裂けている。裂け目の奥で息が白く、吐くたびに歯のような影が覗いた。仮面ではない。鎧の一部だ。視界の端に角のような突起が生まれたが、それは誇示のための角ではなく、刀の軌道を邪魔しないために後方へ流れる形だった。髪が風もないのに逆立ち、次いで落ち着いて、まるで「戦う時だけ立つ」癖を覚えたみたいに収まる。
「太郎……それ……」
九重の声が細くなる。怖がっている。怖がっているのに、手は離さない。離さないなら、俺は見せ方を間違えられない。
「大丈夫だ。……これは暴走じゃない」
言いながら、自分の声が少し低く響くのに気づいた。鎧の共鳴が喉に乗っている。でも、乗っ取られてはいない。俺の意思が、鎧の意思を“曲げた”のではなく、鎧が俺の意思に“合わせて”形を変えた。これが慣れだ。燃費の悪さに慣れるというのは、力を我慢することじゃない。力の方をこちらに合わせさせることだ。
次に変わったのは武器だった。背中側で、槍の気配がほどけて、金属音にも似た沈黙が生まれる。腕に沿って黒い線が走り、掌の中に柄が“生える”。槍の長さではない。刀の長さだ。重心は前ではなく、握りの中心に寄っている。貫く武器じゃない。斬って制御するための武器。俺が好んだ形に、鎧が寄ってくる。寄ってくるということは、俺の戦い方が鎧の中にも刻まれたということだ。
「……来たな」
刀身は黒光りしているのに、縁だけが薄く白い。骨みたいな白ではなく、月光みたいな白。闇の刃のはずが、光を食ってなお、光の輪郭を残している。エンペラの血の闇と、メビウスの光が、ここでは“混ざらずに並んでいる”ように見える。並べばいい。混ぜれば濁る。並べれば選べる。選べるなら制御できる。
「青子、俺は……今なら長くは持たないが、短くは持つ」
「燃費が悪いのは変わらない?」
「変わらない。……ただ、“燃やし方”が変わった。無駄が減った」
「いい。なら数秒で終わらせる段取りに寄せる」
俺は一歩踏み出した。床がずれる。慣性が狂う。だが今の鎧は、それすら計算に入れてくる。膝下の装甲が、踏み込みの角度を微修正し、重心が滑らない場所へ勝手に寄る。今までの俺は“堪えて”制御していた。今の俺は“従わせて”制御している。違いは大きい。堪える制御は、長引くと折れる。従わせる制御は、短い間なら刃になる。
仮面の裂け目から息を吐くと、冷気が白く散った。闇の声が囁く。だがその声は、命令じゃなくなっている。要求に変わっている。要求なら、拒める。拒めるなら、俺は俺だ。
「……英雄派」
見えない視線へ向けて言った。観客席を作りたいなら作ればいい。俺は怪物の証拠にならない形で、お前らの台本を壊す。
「次は、俺の手順だ」
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア