※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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先代を越えて

 枠線の内側は、世界の余白が削られたみたいに狭い。青子の縫いが引いた“ここまで”の線が、圧力を線の内側へ押し戻しているのに、黒金の雷を纏った塊――エンペラ星人の残響は、その線そのものを噛み砕こうとするみたいに脈打っていた。俺は光と闇が混ざったアーマード・ダークネスを纏いながら、残量が減っていく直感を舌の裏で確かめる。伸びた。確かに伸びた。けど無限じゃない。伸びた時間は猶予じゃなく、手順を選ぶための“責任”だ。

 

「唯我太郎殿。誠にお待たせいたしました。先代のお迎えが整いましたので――どうぞ、存分にお相手なさってくださいませ」

 

 メフィラスは執事みたいに頭を下げて、執事みたいに残酷なことを言う。俺はその丁寧さに返事をしない。こいつの礼儀に乗った瞬間、俺の戦いが“試験”になるからだ。俺の戦いは試験じゃない。救助と日常の延長だ。だから、決める。

 

「青子。枠は維持。絶花、声を頼む。英雄派は近づくな。邪魔するなら、俺が先に止める」

 

 影――俺の闇の具現が、同じ構えで踏み込んでくる。顔のない裂け目が笑っている。笑いの中身は単純だ。楽になれ。全部出せ。壊せ。あの甘い命令に従えば、剣は軽くなる。勝利は早い。でも早い勝利の先で、街が死ぬ。誰かの帰る場所が消える。俺はその“早さ”が一番嫌いだ。

 

「太郎、枠が――押されてる!」

 

「押し返す。押し返し方は、斬るんじゃない。終わらせる」

 

 俺は刀を置いた。振るんじゃない、置く。影の刃が置いた線に触れた瞬間、俺は一歩だけずらして、影の体勢を崩す。崩れた影が塊の引力に引かれ、足元が沈む。その沈みに合わせて塊が脈打ち、皇帝の圧が視界を潰しにくる。影が俺を乗っ取ろうと伸ばした手が、今度は塊に引かれて引き裂かれそうになる。俺の闇は俺の闇だ。だから、餌の流れを変える。痛い算数を、俺の手で解く。

 

「……賢明でございます。殿は“斬る”より先に、“配置”をなさる」

 

 メフィラスの感想は要らない。俺は呼吸を短くし、刃の背に金色の線を走らせた。メビウスの光は闇を否定しない。否定しないから混ざれる。混ざれるから、俺の手が震えない。影の裂け目が一瞬だけ歪む。光は影に効く。でも塊も光に反応する。つまり、光を振るうほど先代が強くなる。矛盾が喉を締める。だから使い方を変える。見せるために使わない。焼くために使う。

 

 塊が“命令”してきた。言葉じゃない命令。王として跪け、という圧の形。膝が曲がりそうになる。足の裏が剥がれる感じがする。俺の中の闇が、その命令に快感を覚えそうになる。最悪だ。俺の血が、先代の声に共鳴しようとしている。

 

「太郎――戻って。置いていかないで」

 

 絶花の声が、胸の奥に刺さる。刺さって痛い。でもその痛みが、俺を俺に戻す。戻った瞬間、光が増す。増した光が闇を押しつぶさない。闇を“鎧の内側”に押し込める。暴れる場所を限定する。暴れたければ俺の中で暴れろ。外へは出すな。王になるってのは、たぶんそういうことだ。

 

「絶花、ありがとう。……青子、縫いを一拍だけ外してくれ」

 

「正気? 今外したら――」

 

「外す。外して、決める。俺が引き取る」

 

 青子が一瞬だけ迷って、でも縫いを緩めた。その一拍で、影が笑う。塊が喜ぶ。俺の胸の縫い目がひらく。入口。乗っ取りのための入口。最悪の扉。俺はその扉を“自分の意思で”開けた。開けた瞬間に、影が突っ込んでくる。俺の闇が俺に帰ろうとする。帰るという名の侵入だ。

 

 ――帰れ。

 

 俺はそう命令した。王としてじゃない。管理者としてだ。帰るべき場所は俺の中だ。外で暴れるな。帰って暴れろ。帰って、俺の責任になれ。

 

 影が胸の縫い目へ流れ込み、俺の内側で嵐になった。視界が一瞬白くなる。白の中で、黒金の雷が十字に走る。先代が笑う気配がした。笑っているのは、俺が自分から扉を開けたからだ。俺はその笑いに乗らない。乗らないために、光を使う。光は見せるためじゃない。切断のためだ。

 

「――終わらせる。俺の血の話は、俺が締める」

 

 俺は刀を、塊へ向けた。刀で斬るんじゃない。刀を“杭”にする。闇と光が混ざった刃を、塊の中心へ通す。貫いた瞬間、塊が悲鳴みたいに脈打った。黒金の雷が枠線へ飛び散り、青子の縫いが悲鳴を上げる。英雄派が外で叫ぶ。叫んでも届かない。枠がある。枠は正義より強い。被害の最小が、正義の声より強い。

 

「殿、よろしければ――そのまま。お止めにならぬことを、お勧めいたします」

 

 メフィラスの声が、初めて少しだけ低くなった。愉悦が混じった。俺が“皇帝の器”として完成する瞬間を見たい声だ。だから、俺は逆をやる。皇帝の器にはならない。皇帝の残響を“責任として処理する器”になる。

 

 貫いた刃に、光を流す。メビウスの光は温度じゃない。境界だ。意志と力を切り分ける境界。俺は塊の中に残っている“先代の意志”だけを焼く。焼くと言っても燃やすんじゃない。輪郭を消す。命令の形を消す。王権の圧を、ただの魔力へ戻す。

 

 塊が揺れた。揺れて、縮む。縮むと同時に、俺の中で嵐になっていた闇が暴れた。暴れて、暴れて、俺の骨を叩く。破壊衝動が叫ぶ。壊せ。全部壊せ。今なら壊せる。ここで壊せば、お前は“最強”になれる。最強になれば、誰も逆らわない。最強は王だ。最強は正義だ。

 

 その誘惑が一番嫌いだ。

 

「最強なんて要らない。正義の看板も要らない。俺が要るのは……誰かの明日の予定だ」

 

 絶花の声が、また背中を押す。青子の縫いが枠を保つ。俺の刃が、塊の中心を固定する。固定された塊は、もう“皇帝”じゃない。ただの濃い魔力だ。濃い魔力は危険だ。危険だからこそ、処理する。処理の方法は一つ。外へ出さない。誰にも渡さない。俺が引き取る。

 

 俺は貫いた刃を引かず、逆に胸へ引き寄せた。塊を“刀の線”で畳む。畳んで、縫い目の内側へ落とす。落とした瞬間、胸が焼ける。闇が喜ぶ。光が痛む。痛むのに、視界は澄む。先代の命令が消えたからだ。圧が消えたからだ。塊はもう“王”の形をしていない。俺の中の闇が暴れても、それは俺の問題だ。外を壊さない限り、俺が背負う。

 

 枠線の内側が静かになった。静かになりすぎて怖い。青子が息を吐く音が聞こえる。絶花が名前を呼びそうになって、言葉を飲み込む気配がする。英雄派は外で呆然としている。断罪の女は、正しさを言う口を失っている。メフィラスだけが、丁寧に拍手をした。

 

「見事にございます、唯我太郎殿。先代を超えるのではなく、先代を“終わらせる”。誠に――上品な決着でございました」

 

「上品じゃない。痛い。苦い。吐き気もする。……でも、これでいい」

 

「はい。どちらが生き残っても結論は出る、と思っておりましたが……これは少々、私めの想定を超えております」

 

 メフィラスが執事みたいに微笑む。その微笑みが、初めて少しだけ歪んだ。悔しさか、興味か、どちらでもいい。俺はこいつを追わない。今は戦う相手じゃない。今は日常を戻す相手だ。俺がやるべきことは勝利の誇示じゃない。後始末と、呼吸と、立ち上がること。

 

 俺は枠線の外を見た。街がまだ息をしている。誰かがまだ帰れる。誰かがまだ笑える。そのために、俺は闇を引き取った。引き取って、終わらせた。終わらせたのに、終わりじゃない。俺の中で闇がまだ暴れるからだ。残量がまだ減っていくからだ。最悪は、いつでも俺の足元にある。最高は、いつでも俺の頭上にある。どっちも簡単に落ちる。簡単に落ちる道を、俺は選ばない。

 

「……宣言しておく」

 

 俺は誰に向けてでもなく、でも確かに声を出した。絶花に。青子に。ここにいる誰かに。何より、俺の中の闇と光に。

 

「俺は最悪にもならない。最高にもならない」

 

 胸の奥で、闇が笑った。光が揺れた。揺れたけど、折れなかった。

 

「最悪と最高を越える。越えて――誰かの幸せを守る王になる」

 

 その言葉で終わりにする。終わりじゃないのは分かってる。でも、ここで終わらせることが、次を始める手順だ。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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