※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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海の死者

海が、牙を剥いた。

 

波が押し寄せる――その比喩では、生ぬるい。

黒い水面から、溺霊たちが一斉に這い上がってくる。

 

一体、二体じゃない。

十、二十、数えようとした瞬間に意味を失う。

 

「来るぞ、絶花!」

 

叫ぶと同時に、俺は斬月をあの構える。

俺自身、剣術などない。

だからこそ、今できる事は。

 

「月牙天衝」

 

迫る奴らに向けて、俺自身の力を刃に喰わせ、三日月の斬撃を放つこの技しかない。

 

海面が割れ、溺霊の群れがまとめて吹き飛ぶ。

――だが、次の瞬間には、もう埋まっていた。

 

「おいおい、どれだけここに多くの人が襲われたんだよ」

『古の時代から多くの者達が犠牲になって来たのだろう』

『塵も積もればと言って良いかもな。昔は、それこそ、人が死んだ事が当たり前の時代だったかもしれないからな』

「物騒な事を言わないでよ!」

 

切っても、切っても。

沈めても、沈めても。

 

泡の奥から、同じ顔が浮かび上がる。

 

『……戻れ』

 

『……沈め』

 

耳じゃない。

頭の内側に、直接流れ込んでくる声。

 

足首に、冷たい感触。

 

「っ!」

 

掴まれた。

 

腕じゃない。

“水そのもの”に、捕まった感覚。

 

引きずられる。

陸なのに、肺に水が入る錯覚。

 

「太郎!」

 

絶花の声。

 

天聖が光を放ち、俺の周囲を弾くように輝く。

それでも、押し返しきれない。

 

数が、違いすぎる。

 

「……くそっ!」

 

斬月を振るう。

切れる。確かに切れる。

 

でも、減らない。

 

溺霊は斬られるたび、砕けて、

砕けた数だけ、別の場所から浮かび上がる。

 

「……これ、キリがないよ!」

 

絶花の声が、少しだけ揺れた。

 

天聖の光が、押されている。

守れている。だが、削られている。

 

俺は歯を食いしばる。

 

王様になると決めた。

守ると決めた。

 

それなのに――

 

「数で……押し潰す気かよ……!」

 

海面が盛り上がる。

 

溺霊たちの奥、

さらに大きな影が、蠢いた。

 

――海坊主。

 

まだ、完全には姿を現していない。

だが分かる。

あれが出たら、終わる。

 

「絶花……!」

 

言いかけて、言葉が止まる。

 

天聖の光が、一瞬、揺らいだ。

 

その隙を、溺霊が逃さない。

 

一斉に、こちらへ殺到する。

 

上下も、前後もない。

ただ、沈めるという意思だけが、押し寄せる。

 

視界が、暗くなる。

 

息が、苦しい。

 

――ここまでか。

 

そう思った、その瞬間。

 

空気が、切れた。

 

音が遅れて届く。

 

水が、裂ける。

影が、斬られる。

 

溺霊が――

数ごと、断たれた。

 

一体ではない。

一列でもない。

 

“成立そのもの”を切り落とされたみたいに、

溺霊の群れが、まとめて崩れ落ちる。

 

俺は、息を吸った。

 

肺が、水を拒絶する感覚が消える。

 

波が、一瞬だけ静まる。

 

「……?」

 

絶花も、動きを止めている。

 

俺たちの前に、

いつの間にか――“影”が立っていた。

 

黒い外套。

無駄のない立ち姿。

 

溺霊の残滓が、近寄ろうとして――近寄れない。

 

影は、振り返らずに言った。

 

「遅れたな」

 

その声で、分かった。

 

――両儀式だ。

女王は誰にする?

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