サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
海が、牙を剥いた。
波が押し寄せる――その比喩では、生ぬるい。
黒い水面から、溺霊たちが一斉に這い上がってくる。
一体、二体じゃない。
十、二十、数えようとした瞬間に意味を失う。
「来るぞ、絶花!」
叫ぶと同時に、俺は斬月をあの構える。
俺自身、剣術などない。
だからこそ、今できる事は。
「月牙天衝」
迫る奴らに向けて、俺自身の力を刃に喰わせ、三日月の斬撃を放つこの技しかない。
海面が割れ、溺霊の群れがまとめて吹き飛ぶ。
――だが、次の瞬間には、もう埋まっていた。
「おいおい、どれだけここに多くの人が襲われたんだよ」
『古の時代から多くの者達が犠牲になって来たのだろう』
『塵も積もればと言って良いかもな。昔は、それこそ、人が死んだ事が当たり前の時代だったかもしれないからな』
「物騒な事を言わないでよ!」
切っても、切っても。
沈めても、沈めても。
泡の奥から、同じ顔が浮かび上がる。
『……戻れ』
『……沈め』
耳じゃない。
頭の内側に、直接流れ込んでくる声。
足首に、冷たい感触。
「っ!」
掴まれた。
腕じゃない。
“水そのもの”に、捕まった感覚。
引きずられる。
陸なのに、肺に水が入る錯覚。
「太郎!」
絶花の声。
天聖が光を放ち、俺の周囲を弾くように輝く。
それでも、押し返しきれない。
数が、違いすぎる。
「……くそっ!」
斬月を振るう。
切れる。確かに切れる。
でも、減らない。
溺霊は斬られるたび、砕けて、
砕けた数だけ、別の場所から浮かび上がる。
「……これ、キリがないよ!」
絶花の声が、少しだけ揺れた。
天聖の光が、押されている。
守れている。だが、削られている。
俺は歯を食いしばる。
王様になると決めた。
守ると決めた。
それなのに――
「数で……押し潰す気かよ……!」
海面が盛り上がる。
溺霊たちの奥、
さらに大きな影が、蠢いた。
――海坊主。
まだ、完全には姿を現していない。
だが分かる。
あれが出たら、終わる。
「絶花……!」
言いかけて、言葉が止まる。
天聖の光が、一瞬、揺らいだ。
その隙を、溺霊が逃さない。
一斉に、こちらへ殺到する。
上下も、前後もない。
ただ、沈めるという意思だけが、押し寄せる。
視界が、暗くなる。
息が、苦しい。
――ここまでか。
そう思った、その瞬間。
空気が、切れた。
音が遅れて届く。
水が、裂ける。
影が、斬られる。
溺霊が――
数ごと、断たれた。
一体ではない。
一列でもない。
“成立そのもの”を切り落とされたみたいに、
溺霊の群れが、まとめて崩れ落ちる。
俺は、息を吸った。
肺が、水を拒絶する感覚が消える。
波が、一瞬だけ静まる。
「……?」
絶花も、動きを止めている。
俺たちの前に、
いつの間にか――“影”が立っていた。
黒い外套。
無駄のない立ち姿。
溺霊の残滓が、近寄ろうとして――近寄れない。
影は、振り返らずに言った。
「遅れたな」
その声で、分かった。
――両儀式だ。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア