サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
スマホが震えた瞬間、病院の静けさがひときわ薄っぺらく感じた。
蛍光灯の白さ、空調の乾いた風、遠くで鳴る電子音――どれも「日常」の顔をしてるのに、指先だけが先に戦場の温度へ戻っていく。
絶花は少し離れた待合の椅子に座っていて、俺の表情を見た途端に背筋を伸ばした。胸元を押さえる手が強くなる。天聖が余計なタイミングで口を開かないように、というより、彼女自身が落ち着くための癖みたいな動きだ。
俺は廊下の端に寄って、誰にも聞こえない角度でスマホを耳に当てた。
心臓が、秒針みたいに規則正しく打っている。さっきまでの検査の音より、ずっと大きい。
「んっ、もしもし?どうしました、式さん」
自分の声が、思ったより軽く出た。軽く出さないと、今いる場所が場所だけに、俺まで変に浮く。病院の空気ってのは、声の温度ひとつで人を選別する。
『聞こえるか、太郎?』
式さんの声はいつも通り、乾いていて、余計な響きがない。
その平坦さが逆に嫌だった。こういう時の式さんは、言葉を削って核心だけを投げてくる。
「いきなりどうしたんですか?良い問うは俺、言われた通り、病院にいますけど?」
冗談めかして返しながら、俺の視線は勝手に動いていた。
受付のカウンター。廊下の曲がり角。非常口の表示。
人の流れ。死角。距離。
さっき会った“東郷”って人が自然に見ていたものを、俺も真似するみたいに拾ってしまう。
そうして、俺が言うと。
『医者が殺された』
「っ」
喉が鳴った。息がひっかかった。
病院という場所で「医者が殺された」って言葉は、現実味がありすぎて、想像の逃げ道を塞いでくる。
同時に、俺は周囲を見渡してしまう。
白衣の医師が通る。看護師がカルテを抱えて歩く。
すれ違う誰もが無関係に見えて、無関係だと断言できない。
さっきまで“守られる側”の空気に浸かっていたはずなのに、皮膚の下に棘が戻ってくる。
「どういう事ですか?」
声を低くした。
絶花が俺の方を見て、目だけで「何?」と訊いてくる。俺は首を横に振った。今は、ここで余計な説明をしてる場合じゃない。
『こっちの仕事で、ある場所へと向かった。そこでお前達の病院にいる医者の死体があった』
「……この病院の?」
言いかけて、やめた。確認の言葉が、喉の奥で引っかかる。
“ここ”が巻き込まれている。
そう思っただけで、床が一段冷たく感じた。
「犯人は分かるんですか?」
自分でも意外なくらい、言葉は平静だった。
たぶん、平静じゃないと崩れる。崩れたら、絶花が崩れる。
それは、最悪だ。
『さぁな、けれど、現場に残っている物から、推測は出来る』
推測。現場。残っている物。
式さんがそんな言い方をする時は、答えがほぼ出てる時だ。
俺の中で、斬月の気配が静かに身を起こす。実体はないのに、刃の重さだけが手の内に蘇ってくる。
緊張感がある最中で式さんから告げられたのは。
『堕天使だ』
空調の風が、一瞬だけ止まった気がした。もちろん止まってない。ただ、俺の身体がそれを“止まったことにした”。
危険を受け取った瞬間、人間は世界を勝手に編集する。
「……堕天使?」
その言葉に俺は首を傾げる。
知識としては聞いたことがある。けど、それは遠い世界の話のはずだった。悪魔とか天使とか、そういう存在は“あっち側”の物語で、田舎町の病院の廊下とは結びつかない――そう思いたかった。
『天使から墜ちた存在だ。奴らに関しては私も詳しい事は知らない。けれど、人間を狙う理由が一つだけ心当たりがある』
式さんが「詳しく知らない」と言う時点で、嫌な予感しかしない。
知らない=油断できない。
知っている敵より、ずっと厄介だ。
「心当たり、それは」
言いながら、俺は絶花の方へ視線を投げた。
彼女は俺の目を見て、すぐに察したのか、胸元を押さえる手に力を込めた。天聖の光は出ていない。それが逆に怖い。静かな時ほど、突然跳ねる。
『神器だ』
その一言が、胸の奥に落ちた。
王国の駒。斬月。天聖。
俺たちが“普通の病院”に持ち込んでしまった異物の一覧が、勝手に頭の中に並ぶ。
俺はその言葉に心当たりはある。
「それは俺が持つ王国の駒や絶花の天聖とか?」
言いながら、喉が乾く。
認めたら、狙われる。狙われるなら、守る。
思考が勝手にそこまで滑っていく。
『そうなるな。だからこそ、お前達を狙う可能性がある。それに』
「それに?」
言葉の続きを、俺は無意識に待っていた。
“それに”の後に来るものは、いつも面倒だ。
逃げられない面倒。
その言葉に疑問に思っていると。
『とにかく、気をつけろ。堕天使は今はその病院にいるはずだ』
耳の奥が、じん、と鳴った。
“いるはずだ”という言い方は、ほぼ断定だ。式さんの断定は、外れない。
それと共に電話が切られる。
通話終了の画面が、妙に明るい。
俺は数秒そのまま固まって、スマホを下ろした。
掌に汗が滲んでいる。病院の冷房が、汗を冷やしていく。
絶花が静かに近づいてきた。声は出さない。出せない。
その代わり、俺の袖口をそっと掴む。小さい力。だけど、これだけで呼吸が整う。
「……この中に堕天使がいるか」
呟いた瞬間、さっきまで無害に見えた白い廊下が、急に“舞台”へ変わった。
誰かの靴音が近づく。
カートの車輪が軋む。
その全部が、敵の前兆に聞こえる。
斬月の気配が、胸の奥で静かに笑った気がした。
笑い声は聞こえない。ただ、そういう圧だけがある。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア