サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
シャッターの向こうで、金属がきしむ音がした。
乾いた擦過音。病院の規則が削られていく音。上へ駆ける足の裏が、段差の角を一つずつ確かめる。急いでいるのに、踏み外せない。踏み外した瞬間に、巻き込む。
背中側で、東郷の息が浅くなる。
さっきまで日常の顔で立っていたのに、今は肩が固い。階段の冷たさが、彼女の呼吸を細くしているのが分かった。
「大丈夫だ、前だけ見ろ」
そう言った自分の声が、薄い反響になって戻ってくる。励ましのつもりでも、命令みたいに響くのが嫌だった。けれど、ここで言葉を柔らかく整えている余裕はない。
次の踊り場へ出た瞬間、空気が裂けた。
白い線が、壁沿いに走る。光の槍が“回り込んだ”。真っ直ぐだけじゃない。隙間を嗅ぎ分ける針の動き。狙いは東郷――視線を向けた、その瞬間に確信が刺さった。
「伏せろ!」
叫ぶより先に身体が動く。
斬月を引き抜くという感覚じゃない。掌に落ちてくる重さを、そのまま前へ差し出す。刃の腹で受ける角度。床も壁も割らない角度。光が当たった瞬間、白い火花が弾け、目の奥が焼けるように痛んだ。
ぶつかった衝撃が腕を伝って胸に来る。
骨の内側が熱い。握りのさらしがきしみ、指がずれる。ずれたら終わる。背中の誰かが、終わる。
『持て』
斬月の声が胸の底で落ちた。短い。切り捨てるみたいに。
「持ってる……!」
歯を噛む。光の槍が刃を押し、刃が光を押し返す。力比べじゃない。角度を変え、光を“滑らせる”。火花が散り、階段の手すりに当たって消える。焦げた匂いが鼻に刺さった。
東郷が伏せた気配が、背後で揺れる。
紙コップが転がり、水が一筋、段に沿って落ちていく。その水に光が映り、踊り場が一瞬だけ昼みたいに明るくなった。明るさが怖い。見えるということは、見られるということだ。
槍が引かれた。
引かれたのに、終わっていない。次が来る間が短い。あいつは狭い場所を嫌がらない。むしろ好きだ。切り分ける材料が多いから。
「……っ、東郷、動けるか」
振り返ると、東郷が膝をついたまま俺を見ていた。
その目が、さっきまでの“病院の人”の色じゃない。視線の焦点が、俺じゃなくて、俺の後ろ姿――刃を構えた背中に刺さっている。まるで、そこに何かの合図が隠れているみたいに。
瞬きが一つ遅れた。
喉が鳴り、唇が小さく開く。言葉にならない息が漏れる。次の瞬間、彼女の肩が震えた。怖さだけの震えじゃない。身体の奥で何かが噛み合い、引き金が引かれるときの硬さに似ている。
東郷の視線が一度だけ遠くへ跳ぶ。
白い廊下でも、灰色の階段でもない場所。見えないはずの風景を見た人の目。胸の内側を押さえるように手が動き、指先が空を掴んだ。掴んだのは記憶の端だ。封じられていたものが、痛みと光でこじ開けられていく。
『来る』
斬月が囁く。
次の槍が、今度は二本。踊り場の角から斜めに滑り込み、東郷の逃げ場を切り取ろうとしている。
「……くそっ」
俺は一歩前へ出て、刃を横に払う。払うというより、線を引く。光が線に触れた瞬間、槍先がわずかに迷った。迷った迷いの隙間に、もう一本が滑り込む。これじゃ守り切れない。守る“だけ”では足りない。
そのとき、東郷が立ち上がった。ふらつかない。さっきまでの硬直が嘘みたいに、膝が正しい角度で伸びる。視線は俺の刃の角度、光の進み方、水の流れ――全部を一瞬で拾って、答えだけを置く。
息を吸い、吐く。
声が、やけに静かに通った。
「太郎さん、私の言葉、信じてくれませんか」
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア