サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
病院の1件から数日後、いつもの日常が戻っていた。
昇降口を抜けたあとの空気は、教室のそれより少し軽い。
夕方の匂いがある。乾いた土と、部活帰りの汗と、どこかの家の夕飯が混ざった匂いだ。なのに、隣を歩く絶花の肩だけ、妙に固かった。
「……ほんとに行くのか」
声をかけると、絶花は前を向いたまま、ほんの少しだけ顎を上げた。
「行くよ。ここでやめたら、たぶん後で後悔する」
短い返事だった。けれど、その短さの奥に、ためらいをごまかす硬さがある。
天聖が余計なことを言い出さないようにか、胸元を押さえる指先にも力が入っていた。こういう時の絶花は、強く見せようとしている時ほど、逆に分かりやすい。
視線の先。
校門の少し手前、植え込みの影に背を預けて、一人で立っている女子がいた。黒い髪。だるそうに肩へかけた鞄。周りの連中が、わざと一歩分だけ距離を空けて通っていく。
あれが、絶花が最近気にしていた相手――纏流子だ。
「今なら、まだ引き返せるぞ」
冗談半分で言ったつもりだった。けど、絶花は振り向きもしない。
「太郎は、そういう時に止めるふりして背中押すから信用できない」
「よく分かってるじゃん」
「分かりたくて分かったんじゃないの」
それでも、口元が少しだけ緩んだ。
その緩みを見て、俺も肩の力を抜く。こいつが本気で怖がってる時は、冗談にも乗らない。つまり、怖いのは本当でも、逃げる気はない。
絶花が立ち止まった。
流子まで、あと数歩。たったそれだけの距離が、やけに遠く見える。話しかけるだけだ。ただ、それだけが、意外と難しい。
「……あのさ」
絶花の声は、思っていたより普通だった。作った明るさじゃない。無理に柔らかくもしない、そのままの声。
流子が顔を上げる。
目つきは鋭い。睨んでいるようにも見える。けど、よく見れば、先に身構えているだけだ。噛みつくためじゃなく、噛みつかれる前の顔。
「……なんだよ」
ぶっきらぼうな返し。
愛想はない。けど、追い払うほどの棘でもない。たぶん、本気で嫌ならもっと露骨に切る。
「一緒に帰らない?」
あまりにも真っ直ぐで、思わず俺の方が目を瞬いた。
遠回しも様子見もなく、それをそのまま言うのか。絶花らしいと言えば、らしい。けど、らしすぎて、見てるこっちの喉が妙に乾く。
流子の眉がぴくりと動いた。
「は?」
「方向、たぶん少し同じでしょ。だったら、別に変じゃないかなって」
「……いや、変だろ」
「そう?」
「そうだよ。急に話しかけてきて、一緒に帰るかって。なんだそれ」
もっともな反応だった。
俺でも知らないやつにやられたら、一回は引く。絶花はそこで慌てるかと思ったのに、しなかった。少し考えるみたいに首を傾げて、それから小さく頷く。
「うん、たしかに。変かも」
そこで引かないのが、こいつの妙なところだ。
認めるなら、そのまま退けばいいのに、認めたうえで前に出る。
「でも、友達になりたいなら、話しかけるしかないでしょ」
夕方の音が、一瞬だけ遠くなった気がした。
流子の目が、さっきよりもはっきり絶花を見る。その視線に刺々しさはある。けれど、戸惑いの方が強い。
「……おまえ、変なやつだな」
「よく言われる」
「自慢みたいに言うなよ」
そのやり取りに、少しだけ空気が緩んだ。
流子の肩から、張っていた力がほんのわずか落ちる。たったそれだけの変化なのに、見ているこっちにはよく分かった。絶花も気づいたんだろう。目の奥の色が、少しだけ柔らかくなる。
そこで、俺はようやく口を挟んだ。
「で、絶花。俺はいつまで置いてかれるわけ?」
流子の視線が、今度はこっちへ向く。
値踏みというほど露骨じゃない。けど、一瞬で「なんだこいつ」と思われたのは分かる。
「……誰だよ、こいつ」
「幼馴染」
絶花が即答する。
俺が名乗るより早い。ちょっと雑だなと思ったが、間違ってはいない。
「おい、もうちょい紹介の仕方あるだろ」
「太郎は太郎でしょ」
「それで全部済ませるなよ」
流子が、ふっと鼻で笑った。
ほんの短い笑いだ。でも、それで十分だった。さっきまで“話しかけてくる他人”だった絶花が、少なくとも“変な連中”の片割れになった。
「……まあ、勝手にしろよ。あたしは一人でも帰れる」
言い方はそっけない。けど、完全な拒絶なら、ここで歩き出している。
立ち止まったまま、返事を待っている時点で、もう少しだけ違う。
絶花が俺を見る。
その目は、どうする? じゃない。行くよ、の目だ。昔からそうだ。こういう時、こいつは確認の形をして、実際は先に決めている。
「じゃあ、勝手にする」
そう言って、絶花が流子の隣へ並ぶ。
ほんの半歩ぶん、間を空けて。近すぎず、遠すぎず。踏み込みすぎないくせに、引きもしない距離だ。見ていて、妙に感心する。
流子は露骨にため息をついた。
「……ほんとに来るのかよ」
「うん」
「別に、友達になったわけじゃねえからな」
「分かってる。まだ、でしょ?」
その返しに、流子が一瞬だけ言葉を失った。
強い言葉を投げた相手が、それをまともに受け止めて、しかも少しだけ先の形に言い換えてくる。たぶん、そういう相手に慣れていない。
俺は二人の少し後ろを歩きながら、その背中を見た。
絶花の肩の力は、さっきより抜けている。流子の歩幅はまだ固い。でも、完全に一人で歩く速さじゃない。隣を意識して、わずかに合わせている。
たったそれだけだ。
並んで歩き出した。それだけのことなのに、見えている景色が、少しだけ変わる。
校門の外へ出る。
夕陽が長く影を伸ばして、三つの影が道に並んだ。
流子は前を向いたまま、ぼそっと言う。
「……変なやつら」
その声は、もう最初ほど固くなかった。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア