サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
扉を開けた。
それだけで、空気が変わった。
その日、俺は王国の駒である三人が会う事になる。
「……なんだよ、この空気」
隣で、流子が小さく吐いた。
強がる時の声だ。低いくせに、少しだけ上ずる。無理もない。窓際に座る式は、相変わらず人を寄せつけない顔をしているし、向かいの東郷は背筋を伸ばしたまま、言葉を選ぶみたいに静かにこちらを見ていた。絶花の柔らかさとも違う。病院の時より、さらに整った空気だ。流子みたいな、まず拳から入るやつには、たしかに居心地が悪いだろう。
「入れよ。立ったままだと余計に落ち着かないぞ」
そう言うと、流子は俺をじろりと見た。
「お前んとこ、こういうのばっかりなのか?」
「どういうのだよ」
「どういうの、って……」
言いかけて、流子は式と東郷を見比べた。
それから、わざとらしく肩をすくめる。
「妙に上品っていうか、近づきにくいっていうか。お嬢様空間みたいで、調子狂う」
「うるさい」
式が短く切った。
それだけで、流子の眉が跳ねる。
「ほら、そういうとこ!」
「騒ぐな。耳障りだ」
ぴしゃりと落ちた言葉に、流子の口元が引きつった。噛みつき返す寸前、東郷が困ったように小さく笑う。
「驚かせたなら、すみません。そんなつもりはなかったんですが」
「……いや、お前はお前で丁寧すぎんだよ」
「そう、ですか?」
「そこ、“そうですか?”で返すのがもうそうなんだって」
噛みついているようで、流子の勢いはさっきより少し弱い。東郷みたいに、柔らかく受けられる相手には、うまく怒鳴りきれないらしい。そこが、いかにもこいつだ。
俺は椅子を引いた。
わざと大きな音は立てない。今の部屋には、それだけで余計な緊張が増える。
「座れ。今日は顔合わせだけじゃない」
流子はひとつ息を吐き、乱暴に椅子へ腰を下ろした。背もたれには寄りかからない。すぐ立てる座り方だ。式はそこを見ていたし、東郷も気づいている。たぶん、俺も同じ顔をしていた。
「……で?」
流子が言う。
短い。けど、さっきまでの茶化しとは違う。もう、聞く気はある声だ。
「昨日の路地裏のことだ」
そう言った瞬間、部屋の空気がもう一段だけ締まった。
「お前が前に出た件を、ここで揃える」
「またその話かよ」
「また、じゃない。ここで決める」
言い切ると、流子は舌打ちしかけて、飲み込んだ。
式が先に口を開く。
「放っておけなかった、は理由にならない」
「なるだろ」
「ならない。死ぬだけだ」
まっすぐだった。
遠回しがないぶん、刺さり方も容赦がない。流子の目が細くなる。けれど、今はそこで爆発しない。相手の言葉が正しいと、自分でも分かっている時の顔だった。
「……分かってるよ。危ねえのは」
「分かっていて、先に突っ込む」
「目の前でやられてんのに、順番なんか考えてられるか」
低い声だった。
怒鳴らない分、本音だけが残る。聞いてるこっちの胸に、妙に重く落ちた。
東郷が静かに口を挟む。
「流子さんの動き自体が駄目、という話ではありません」
その一言で、流子の視線が東郷へ向く。
反発しきれなかったのは、その言い方に否定がなかったからだ。
「ただ、順番です。まず庇う。次に止める。それでも足りない時に、前へ出る」
「……同じようで、全然違うな」
「違います。突っ込むと、相手が流子さんを使う可能性が上がる」
その言葉に、流子の肩がわずかに強張った。
自分が足を引っ張る側に回る、という想像だけは、たぶん一番嫌なんだろう。
「だから、ルールを作る」
俺はそこで、三人を順に見た。
「流子が前に出るのは前提にする。止める気はない」
「……おい」
流子が眉を上げる。
意外だったらしい。そこは、少しだけ口元が緩んだ。
「その代わり、順番を揃える。まず庇う。次に止める。東郷か俺が合図を出したら、その時に突っ込め」
「単独追跡は禁止だ」
式が被せる。
冷たい声だ。けれど、今のは釘というより、線引きだった。
「破ったら切る」
「物騒すぎんだろ!」
ようやく、流子が声を荒げた。
その反応に、東郷が小さく息を漏らす。笑いそうになって、堪えた顔だ。
俺は、そこで少しだけ肩の力を抜いた。
「切られるのが嫌なら、言え」
「何を」
「行く前に、行くって」
流子が黙る。
言い返しそうで、言えない。意地の強いやつが、本当に考えてる時の間だ。
やがて、視線を逸らしたまま、ぼそっと吐く。
「……分かったよ」
短い。
でも、それで十分だった。
「合図が遅かったら、あたしは行く。それだけは変えねえ」
「その時は、俺が受け止める」
俺がそう返すと、流子は一瞬だけこっちを見た。
照れた時みたいに、すぐ逸らす。そのくせ、さっきよりは座り方が少しだけ深くなっていた。完全には馴染んでいない。でも、さっきみたいな“いつでも喧嘩できる形”じゃない。
「……ほんと、調子狂う連中だな」
その呟きは、もう最初の“なんだこのお嬢様空間”とは少し違っていた。
やりにくい。けど、嫌いじゃない。そんな温度だ。
窓の外で、最後の赤が沈んでいく。
女王は誰にする?
-
アルファ
-
ララ·サタリン·デビルーク
-
エミリア