サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
絶花の悲鳴がやっと途切れた頃、頭の上の重みがふっと軽くなって、視界の端を金髪が跳ねるみたいに横切った。
俺の上から飛び降りた少女は、砂埃の中でくるりと半歩まわって着地すると、まるでこっちが驚くのを待っていたみたいな顔で腰に手を当てた。
さっきまで爆発していた倉庫の前だってのに、その立ち方だけ妙に明るい。明るいくせに、目の奥だけは妙に冴えていて、何かを見つけた子どもと、見つけてはいけないものを掘り当てた研究者が、同じ顔をしていた。
「えっと、まずはごめんね、たぶん今のはちょっと派手すぎたわ」
謝っているのに、声の端に楽しさが残っている。
悪気がないのは分かる。分かるけど、だから許せるかっていうと、そこは別の話だ。
「ちょっとで済むかよ……」
背中の痛みをごまかすみたいに吐き出すと、少女は「あはは」と短く笑った。
その笑い方が軽いせいで、逆にこっちの警戒が抜けない。軽い人間ほど、たまに一番深いところまで平気で潜る。
絶花はまだ半歩下がった位置で、胸元を押さえたまま俺と少女を見比べていた。
天聖が騒ぎ出さないように押さえてるのもあるだろうけど、それ以上に、この相手がどういう種類の“危ない人”なのか測りかねている顔だ。
「……誰」
短い問いだった。
けれど、あれだけの爆発のあとで余計な前置きを挟まないあたり、絶花もだいぶ慣れてきてる。
少女はその問いを待っていたみたいに、胸を張った。
「ライザリン・シュタウト、ライザでいいよ」
そう名乗ってから、倉庫の中を親指で示す。
ひしゃげた扉の奥では、まだ床に残った光の線がじりじりと消えきらず、金属と薬品の匂いが混ざり合っていた。
さっきの爆発は事故だ。事故には違いない。けど、ただの失敗じゃない。あの線は、狙って描かれたものだ。
「見ての通り、ちょっと実験してたの」
「ちょっと、って言葉の意味を辞書で引いてこい」
「そこまで怒る?」
「人の頭の上に着地しといて、怒らない方がおかしいだろ」
言い返した俺に、ライザは一瞬だけ目を丸くして、それから妙に納得したように頷いた。
「うん、たしかにそれはそうかも」
変に素直だ。
素直なやつほど、話が早いか、面倒かのどっちかだ。今のところ、半々くらいに見える。
絶花が、まだ警戒を解かない声で続ける。
「実験って、何をしてたの」
そこで、ライザの目の色が少しだけ変わった。
明るさは消えない。けれど、焦点が合う。さっきまで散らばっていた好奇心が、一点に集まる感じだ。
「町の中で、変な揺れが増えてるでしょ」
その言葉に、俺と絶花の視線が揃った。
風の流れでも、地震でもない、もっと別の“揺れ”だ。海坊主、病院、黒い羽根、縫い跡。最近の俺たちは、そういう揺れの中ばかり歩いている。
「見えない糸みたいなのが、土地の流れに引っかかってる感じがしたの」
ライザはしゃがみ込み、床の消えかけた線を指先でなぞった。
指は触れる寸前で止まる。怖さを知らないわけじゃない。知ったうえで、どこまで近づけるか測っている手だ。
「だから、それを炙り出す触媒を試してた」
「……触媒」
「うん、簡単に言うと、目に見えない歪みを“反応するもの”に変えるための薬」
簡単に言うと、で出てくる内容じゃない。
でも、言い方に変な格好つけがないせいで、分からないなりに“本気でやってる”のは伝わってくる。
「本当はもっと小さく済むはずだったんだけど、途中で思ってたより深く繋がっちゃって」
そこでライザは、悪びれるような、悪びれていないような笑みを浮かべた。
「爆発した」
「した、じゃないよ!」
絶花が思わず声を張って、それから自分で少し驚いたみたいに目を瞬いた。
ライザはその反応を受けて、ほんの少しだけ肩をすくめる。
「でもね、無意味じゃなかったの」
その一言で、また空気が締まった。
さっきまでの軽さのまま話していたくせに、肝心なところだけは外さない。そういう人間は危ない。危ないけど、嫌いじゃない。嫌いじゃないから、余計に面倒だ。
「この町の歪み、自然発生じゃない」
ライザが言う。
薬品の匂いの向こうで、夕方の風が冷たくなった気がした。
「外から入ってきた力が、地脈みたいな流れに引っかかってる」
地脈。流れ。縫い跡。
単語が違うだけで、言ってることの芯は俺たちが掴んできたものと近い。
近いからこそ、背筋が冷える。偶然でここにいたんじゃない。この女は、自分のやり方で、もう同じ穴に指を突っ込んでいた。
「……それを見つけて、どうするつもりだったんだ」
俺が訊くと、ライザは立ち上がって、埃を払うみたいに手をはたいた。
その仕草ひとつで、危うさが少しだけ人間くさくなる。
「止める方法を作る」
即答だった。
迷いがない。だから、逆に信じにくい。
「壊すでも、消すでもなくて、ちゃんとほどく方法」
その言い方に、俺は少しだけ息を止めた。
ほどく。縫い留められたものを切るんじゃなく、ほどく。
乱暴に壊せば早い。けど、それだと一緒に壊れるものがある。病院で見た。学校でも見た。俺はまだ、それを全部見きれていない。
絶花が、慎重に言葉を置く。
「……危ないことをしてる自覚はあるんだよね」
「あるよ」
ライザはあっさり頷いた。
「だから、一人で試してたし、爆発したのも外に被害が出ないように調整してた」
「調整して、あれ?」
俺が倉庫の扉を顎で示すと、ライザはほんの少しだけ視線を泳がせた。
ここで初めて、年相応のばつの悪さが出る。
「……思ったより反応が良すぎたの」
「言い換えてるだけだろ、それ」
「そうとも言う」
絶花が俺の横で、呆れたように小さく息を吐いた。
でも、その息の奥には、完全な拒絶はなかった。怖い相手ではある。けど、害意だけで動いてる人じゃないと分かってしまった時の、あの困る感じだ。
俺も、たぶん同じ顔をしていたと思う。
危ない。軽い。妙に楽しそう。なのに、やろうとしてることの芯だけは、俺たちの側に近い。
「つまり、お前は」
言いかけてから、喉の奥で言葉を選ぶ。
敵か味方か、なんて二つに切るには、こいつは少し面倒すぎる。
「……最近の“変なもの”を、自分で調べて、自分でどうにかしようとしてたってことか」
ライザは、今度こそ少し誇らしそうに笑った。
「うん、そういうこと」
その笑い方が妙に無邪気で、俺は頭痛がするみたいに額を押さえたくなった。
たぶん、厄介なやつに会った。しかも、かなり使える類の厄介さだ。
絶花はまだ胸元を押さえたまま、それでも一歩だけ前へ出る。
「……ライザ」
「なに?」
「次からは、爆発する前に言って」
ライザは目をぱちぱちさせてから、くすっと笑った。
「それ、仲間に入れる前提の言い方じゃない?」
その言葉に、今度はこっちが黙った。
風がひとつ、倉庫の中を抜けていく。
壊れた扉の向こうで、消えかけた錬成の線が最後に一度だけ光った。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア