※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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好奇心

壊れた扉の向こうで、消えかけた線がもう一度だけ脈を打って、それきり静かになった。

風が抜ける。

薬品と焦げの匂いが薄れたぶん、逆にライザってやつの存在感だけが妙に残る。

明るい。軽い。けど、軽さの奥にあるものが軽くない。そこが厄介だった。

 

「仲間に入れる前提の言い方じゃない?」

 

そう言って笑う顔は悪びれていない。

悪びれていないくせに、人を見下ろす感じもしなかった。

ただ純粋に面白がっている。自分の前に転がってきた未知を、まず触って確かめたいとでも言いたげな目だ。

 

俺はその目を見て、妙に納得してしまった。

この女は、危険だから手を出すんじゃない。危険でも、その先に何かがあるなら手を伸ばす。

その順番が、少しだけ俺に似ていた。

 

王様になる、なんて言葉を口にしてきたのも、結局は同じだ。

誰も見たことのない場所を作ると決めた時点で、まともな道からは外れている。

だから、目の前で平気な顔して爆発を起こす女を見ても、ただ引くだけじゃ済まない。

引くより先に、興味が立ってしまう。

 

「……お前」

 

俺が口を開くと、ライザは待ってましたみたいに首を傾げた。

金髪が揺れて、煤のついた頬の横で光を拾う。

 

「なに?」

 

「そういうの、いつも一人でやってんのか」

 

たぶん、俺が聞きたかったのはそこだった。

何を作るつもりだったのか、どういう理屈で爆発したのか、そういう説明より先に、一人で危ない場所へ潜るその癖が気になった。

 

ライザは少しだけ目を丸くした。

問いの向きが予想と違ったらしい。

でも、すぐに肩をすくめる。

 

「まあ、だいたいはね」

 

「止めるやついねえのかよ」

 

「いたら、たぶんもう少し小さい爆発で済んでたかも」

 

言い方が軽い。

軽いのに、そこに寂しさは混ざっていなかった。慣れてるだけだ。自分で決めて、自分でやって、自分で片づけることに。

 

絶花が、横で小さく息を吐く。

呆れてるのか、心配してるのか、その両方か。たぶん両方だ。

 

「笑って言うことじゃないと思う」

 

「うん、そうなんだけどね」

 

ライザはあっさり頷いた。

そこで誤魔化さないのが、余計に調子を狂わせる。

 

「でも、止める方法を考えるのって、見てるだけじゃ分からないでしょ」

 

その言葉に、俺の胸の奥が小さく鳴った。

見てるだけじゃ分からない。

それは、たぶん俺が斬月を握った時にも思ったことだ。海の底で、病院の階段で、俺は見るだけの側ではいられなかった。

前へ出るしかなかった。出なきゃ、自分の答えが見えない気がした。

 

「……分かるけど」

 

口にした瞬間、絶花がこっちを見た。

その視線に、少しだけ苦いものが混ざる。分かると言った時点で、俺がライザに近い側へ寄ったのが伝わったんだろう。

 

「分かるけど、それで吹っ飛ばされる側はたまったもんじゃない」

 

言い足すと、ライザが吹き出した。

声を殺しきれない笑い方だった。

 

「そこはほんとにごめんって」

 

「反省してる顔に見えない」

 

「してるよ、ちゃんと次の配合は変えようって思ってる」

 

「反省の向きがおかしいだろ」

 

絶花がつっこんで、俺もそれには同意したくなった。

けど、笑いながら配合を変える方へ思考が飛ぶのも、この女の本質なんだろう。

失敗したからやめるんじゃない。失敗したから、次はどこを直すか考える。

その執念みたいな好奇心が、やけに眩しく見えた。

 

ライザが、今度は俺の方をまっすぐ見た。

さっきまでと同じ明るさなのに、少しだけ温度が変わる。観察する目だ。

試薬を垂らす前の目に近い。

 

「でも、そっちもだいぶ変だよね」

 

「は?」

 

「その“そっち”って、剣のことだけじゃないよ」

 

そう言いながら、ライザは俺の胸のあたりを指した。

斬月を出しているわけじゃない。王国の駒も今は見せていない。

なのに、見抜くみたいにそこを指す。

 

「人が集まる感じがするの、無理やり縫い合わせたのとは違う、もっと自然に流れが寄ってくるみたいな」

 

絶花の指先が、胸元でぴくりと動く。

俺の背中にも、ぞわりと熱が走った。

見えているんだ。こいつには、別の角度から。

 

「普通は、力ってもっと尖るのに、あなたのは広がってる」

 

言葉を選びながら喋っているのが分かる。

軽い女に見えて、こういう時だけ妙に慎重だ。

 

「だから、気になる」

 

その一言が、思っていたより真っ直ぐ胸に入った。

強いとか、便利そうとか、そういう言い方じゃない。気になる。

未知に向かう目のまま、俺自身を“分からないもの”として見ている。

 

俺は少しだけ笑いそうになって、でも喉の奥で止めた。

気に入った。

そう思ってしまったのを、自分で隠しきれない。

 

「……お前、ほんとに変なやつだな」

 

「知ってる」

 

即答だった。

そこに迷いがないのが、また妙に面白い。

 

「太郎もだけど」

 

「俺もかよ」

 

「うん」

 

ライザは頷いて、それから絶花を見る。

絶花はまだ警戒を解ききっていない。けれど、完全に拒んでもいない。俺がこういう顔をしてる時は止まらないと知っているから、先にため息をつく顔になっている。

 

「だって、普通なら引くでしょ」

 

ライザが言う。

その言葉に、俺は少しだけ首を傾げた。

 

「爆発した倉庫の前で、知らない相手にそんな目しないよ」

 

「どんな目だよ」

 

「面白いもの見つけた、って目」

 

言われた瞬間、自分の顔がどうなってるのか少しだけ気まずくなる。

でも、否定はできなかった。

 

絶花が小さく眉を寄せる。

寄せたまま、呆れ半分で口を開く。

 

「……太郎、今ちょっと嬉しそう」

 

「そんなことない」

 

「あるよ」

 

「あるね」

 

ライザまで乗ってきて、俺は思わず額を押さえた。

二人に同時に言われると逃げ場がない。

 

けれど、逃げたくもなかった。

目の前の女が危ないことをしているのは確かだ。けど、その危なさは壊すためじゃない。

ほどくために、作るために、先を見たいから踏み込む危なさだ。

それなら――俺の国の中に置く意味がある。

 

まだ口にはしない。

けど、胸の奥の王国の駒は、もう静かに反応していた。

 

ライザも、それに気づいたみたいに、ほんの少しだけ目を細める。

笑う前の顔だった。

 

「ねえ」

 

「なんだよ」

 

「あなた、たぶんまだ、私のこと放っておかないでしょ」

 

問いかけの形をしているのに、半分くらい確信している声だ。

俺はその顔を見て、ようやく口元を緩めた。

 

「……お互い様だろ」

 

その返しに、ライザが嬉しそうに笑った。

絶花はまたため息をついた。今度のため息は、完全な呆れだけじゃない。たぶん、これから面倒になるぞって分かってしまった人のため息だ。

 

壊れた扉の向こうで、最後の錬成の線が消える。

けれど、俺の中では逆に、何かが始まりかけていた。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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