サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
壊れた扉の向こうで、消えかけた線がもう一度だけ脈を打って、それきり静かになった。
風が抜ける。
薬品と焦げの匂いが薄れたぶん、逆にライザってやつの存在感だけが妙に残る。
明るい。軽い。けど、軽さの奥にあるものが軽くない。そこが厄介だった。
「仲間に入れる前提の言い方じゃない?」
そう言って笑う顔は悪びれていない。
悪びれていないくせに、人を見下ろす感じもしなかった。
ただ純粋に面白がっている。自分の前に転がってきた未知を、まず触って確かめたいとでも言いたげな目だ。
俺はその目を見て、妙に納得してしまった。
この女は、危険だから手を出すんじゃない。危険でも、その先に何かがあるなら手を伸ばす。
その順番が、少しだけ俺に似ていた。
王様になる、なんて言葉を口にしてきたのも、結局は同じだ。
誰も見たことのない場所を作ると決めた時点で、まともな道からは外れている。
だから、目の前で平気な顔して爆発を起こす女を見ても、ただ引くだけじゃ済まない。
引くより先に、興味が立ってしまう。
「……お前」
俺が口を開くと、ライザは待ってましたみたいに首を傾げた。
金髪が揺れて、煤のついた頬の横で光を拾う。
「なに?」
「そういうの、いつも一人でやってんのか」
たぶん、俺が聞きたかったのはそこだった。
何を作るつもりだったのか、どういう理屈で爆発したのか、そういう説明より先に、一人で危ない場所へ潜るその癖が気になった。
ライザは少しだけ目を丸くした。
問いの向きが予想と違ったらしい。
でも、すぐに肩をすくめる。
「まあ、だいたいはね」
「止めるやついねえのかよ」
「いたら、たぶんもう少し小さい爆発で済んでたかも」
言い方が軽い。
軽いのに、そこに寂しさは混ざっていなかった。慣れてるだけだ。自分で決めて、自分でやって、自分で片づけることに。
絶花が、横で小さく息を吐く。
呆れてるのか、心配してるのか、その両方か。たぶん両方だ。
「笑って言うことじゃないと思う」
「うん、そうなんだけどね」
ライザはあっさり頷いた。
そこで誤魔化さないのが、余計に調子を狂わせる。
「でも、止める方法を考えるのって、見てるだけじゃ分からないでしょ」
その言葉に、俺の胸の奥が小さく鳴った。
見てるだけじゃ分からない。
それは、たぶん俺が斬月を握った時にも思ったことだ。海の底で、病院の階段で、俺は見るだけの側ではいられなかった。
前へ出るしかなかった。出なきゃ、自分の答えが見えない気がした。
「……分かるけど」
口にした瞬間、絶花がこっちを見た。
その視線に、少しだけ苦いものが混ざる。分かると言った時点で、俺がライザに近い側へ寄ったのが伝わったんだろう。
「分かるけど、それで吹っ飛ばされる側はたまったもんじゃない」
言い足すと、ライザが吹き出した。
声を殺しきれない笑い方だった。
「そこはほんとにごめんって」
「反省してる顔に見えない」
「してるよ、ちゃんと次の配合は変えようって思ってる」
「反省の向きがおかしいだろ」
絶花がつっこんで、俺もそれには同意したくなった。
けど、笑いながら配合を変える方へ思考が飛ぶのも、この女の本質なんだろう。
失敗したからやめるんじゃない。失敗したから、次はどこを直すか考える。
その執念みたいな好奇心が、やけに眩しく見えた。
ライザが、今度は俺の方をまっすぐ見た。
さっきまでと同じ明るさなのに、少しだけ温度が変わる。観察する目だ。
試薬を垂らす前の目に近い。
「でも、そっちもだいぶ変だよね」
「は?」
「その“そっち”って、剣のことだけじゃないよ」
そう言いながら、ライザは俺の胸のあたりを指した。
斬月を出しているわけじゃない。王国の駒も今は見せていない。
なのに、見抜くみたいにそこを指す。
「人が集まる感じがするの、無理やり縫い合わせたのとは違う、もっと自然に流れが寄ってくるみたいな」
絶花の指先が、胸元でぴくりと動く。
俺の背中にも、ぞわりと熱が走った。
見えているんだ。こいつには、別の角度から。
「普通は、力ってもっと尖るのに、あなたのは広がってる」
言葉を選びながら喋っているのが分かる。
軽い女に見えて、こういう時だけ妙に慎重だ。
「だから、気になる」
その一言が、思っていたより真っ直ぐ胸に入った。
強いとか、便利そうとか、そういう言い方じゃない。気になる。
未知に向かう目のまま、俺自身を“分からないもの”として見ている。
俺は少しだけ笑いそうになって、でも喉の奥で止めた。
気に入った。
そう思ってしまったのを、自分で隠しきれない。
「……お前、ほんとに変なやつだな」
「知ってる」
即答だった。
そこに迷いがないのが、また妙に面白い。
「太郎もだけど」
「俺もかよ」
「うん」
ライザは頷いて、それから絶花を見る。
絶花はまだ警戒を解ききっていない。けれど、完全に拒んでもいない。俺がこういう顔をしてる時は止まらないと知っているから、先にため息をつく顔になっている。
「だって、普通なら引くでしょ」
ライザが言う。
その言葉に、俺は少しだけ首を傾げた。
「爆発した倉庫の前で、知らない相手にそんな目しないよ」
「どんな目だよ」
「面白いもの見つけた、って目」
言われた瞬間、自分の顔がどうなってるのか少しだけ気まずくなる。
でも、否定はできなかった。
絶花が小さく眉を寄せる。
寄せたまま、呆れ半分で口を開く。
「……太郎、今ちょっと嬉しそう」
「そんなことない」
「あるよ」
「あるね」
ライザまで乗ってきて、俺は思わず額を押さえた。
二人に同時に言われると逃げ場がない。
けれど、逃げたくもなかった。
目の前の女が危ないことをしているのは確かだ。けど、その危なさは壊すためじゃない。
ほどくために、作るために、先を見たいから踏み込む危なさだ。
それなら――俺の国の中に置く意味がある。
まだ口にはしない。
けど、胸の奥の王国の駒は、もう静かに反応していた。
ライザも、それに気づいたみたいに、ほんの少しだけ目を細める。
笑う前の顔だった。
「ねえ」
「なんだよ」
「あなた、たぶんまだ、私のこと放っておかないでしょ」
問いかけの形をしているのに、半分くらい確信している声だ。
俺はその顔を見て、ようやく口元を緩めた。
「……お互い様だろ」
その返しに、ライザが嬉しそうに笑った。
絶花はまたため息をついた。今度のため息は、完全な呆れだけじゃない。たぶん、これから面倒になるぞって分かってしまった人のため息だ。
壊れた扉の向こうで、最後の錬成の線が消える。
けれど、俺の中では逆に、何かが始まりかけていた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア