※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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裏側の介入

昼の光はまだ同じように広場へ落ちているのに、さっきから胸の奥へ刺さっている違和感だけが、時間と一緒にじわじわ輪郭を持ち始めていた。

人の流れはある。

笑い声も聞こえる。

それなのに、広場の端に立つ街路樹の影だけが、風の向きと合わない揺れ方をしている。

こういう小さな食い違いは、見つけた時点でだいたい面倒の入口だ。

 

「絶花、まだ分かるか」

 

声を落として訊くと、絶花は缶を持ったまま、ごく小さく頷いた。

その表情はもう、昼休みの雑談に付き合っていた時のものじゃない。

胸元へ寄った指先が、触れる寸前で止まっている。

天聖を呼ぶほどじゃない。

でも、何もないとは言い切れない。

その中間が一番厄介だと、最近は嫌でも分かるようになった。

 

「薄いけど、変な感じが広がってる、ここだけじゃなくて、奥の通りまで続いてる気がする」

 

言葉にした瞬間、噴水の向こうで甲高い音が鳴った。

自転車のブレーキを無理に握り潰したみたいな、短くて硬い音だった。

振り向くと、通り沿いの電光掲示板が一瞬だけ白く明滅し、その下を歩いていた人たちが不思議そうに顔を上げている。

ただの故障ならいい。

そう思った次の瞬間、掲示板の支柱の一本が、内側からきしむみたいに揺れた。

 

「……まただ」

 

思わず呟く。

自然に壊れる音じゃない。

目に見えない手で、変な角度へねじられている時の音だ。

 

少し離れた場所で、柚木友奈もそれに気づいたらしい。

さっき荷車を助けた時と同じで、考えるより先に足が動きかけているのが、肩の入り方だけで分かった。

その横で芙蓉が、通りの先と掲示板と子どもの位置を一度で見ようとしている。

二人とも、まだ何が起きているのかまでは分かっていない。

でも、危ないことだけは分かっている顔だ。

 

「おい、まだ行くな」

 

声を飛ばす。

柚木友奈が振り向く。

不満そうな顔だった。

不満そうなのに、完全には反発してこない。

昨日から今日までで、こっちの声を少しだけ“聞く価値のあるもの”として扱い始めているのかもしれない。

 

「行くなって言うけど、あれ落ちるかもしれないだろ」

 

「分かってる、だから順番を間違えるなって言ってる」

 

言いながら、掲示板の支柱を見る。

揺れは止まらない。

止まらないどころか、白く明滅する表示の中に、文字じゃない何かが混じり始めていた。

広告の文面が崩れ、ノイズみたいな線へ変わり、その線が広がるたびに支柱の歪みが強くなる。

見覚えがある。

病院で見た縫いの気配とも、港で感じた圧とも違うが、同じ穴に繋がっている嫌さだ。

 

「絶花、あれの下に何人いる」

 

「子どもが二人と、大人が一人、でも動いてない、たぶんまだ気づいてない」

 

「最悪だな」

 

言った時には、もう身体が前へ出ていた。

俺だけじゃない。

柚木友奈も、ほとんど同じタイミングで走り出している。

まったく、止まれないやつだ。

でも、その止まれなさが嫌いじゃないと思ってしまう自分も、だいぶどうかしている。

 

芙蓉がその後ろから声を飛ばす。

走りながらなのに、声がぶれない。

 

「真下へ入っちゃだめ、右側の支柱の方が先に折れるから、左へ抜けさせて」

 

その言葉で、柚木友奈の進行方向が少しだけ変わる。

本人は考えているつもりがなくても、芙蓉の声はちゃんと身体へ届いているんだろう。

前へ出る子と、止める子。

その組み合わせが、今この瞬間だけは妙に頼もしく見えた。

 

俺は掲示板の真下へ入り込み、まだ状況を飲み込めていない子どもの肩をつかんで横へ押し出す。

軽い。

軽すぎる。

だからこそ、こういう時に世界の方が勝手に壊れるのが腹立たしい。

 

「走れ、そっちだ!」

 

叫ぶと、子どもは半泣きの顔のまま、ようやく足を動かした。

柚木友奈がその背中を押す。

芙蓉が大人の腕を引いて、転ばない角度へ体をずらす。

その全部が噛み合った、次の瞬間だった。

 

掲示板の支柱が、本当に折れた。

 

悲鳴より先に、金属が裂ける音が空を切る。

眩しい昼の光の中で、巨大な板がゆっくり倒れてくる。

倒れ方が変だ。

重力だけじゃなく、途中で誰かがもう一度押したみたいに、不自然に加速している。

見えない何かがいる。

そう確信するには十分だった。

 

「太郎!」

 

絶花の声が飛ぶ。

振り向く。

広場の端、木陰の境目に、昼の影とは思えない濃さが一瞬だけ立った。

人の形には見えない。

けれど、ただの影でもない。

それがこちらを見て、笑った気がした。

 

「……出たか」

 

口の中でそう呟いた時には、もう次の面倒は始まっている。

柚木友奈は折れた支柱の前に入りかけ、芙蓉はその進路を変えようと手を伸ばし、絶花は胸元を強く押さえていた。

昼の広場から裏の世界へ落ちる、その一歩目としては、だいぶ分かりやすい最悪だった。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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