※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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揃った2人

七天弓の白い霧が薄れていくにつれて、広場にこびりついていた嫌な歪みは少しずつ形を失っていった。

けれど、消えたわけじゃない。

散っただけだ。

だからこそ分かる。

今まで一つに見えていた異形の気配は、最初から一体じゃなく、昼の影へ薄く広がりながら何度もこちらを試していたんだと。

その散り方の中心が、今はようやく見える位置へ降りてきている。

 

「絶花、まだ終わってないな」

 

俺が低く言うと、絶花は胸元へ手を添えたまま、息を整えてから頷いた。

さっきまでの警戒は細く鋭かったが、今はそれが面になって広がっている。

一つを見る感覚じゃない。

二人が入ったことで、見えてくる危険の輪郭まで変わったんだろう。

 

「うん、今は一つじゃなくて、四方から薄く寄ってきてる感じ、でも……中心は真ん中」

 

その言葉に、芙蓉がすぐ反応する。

薙刀を持った姿はまだ馴染みきっていないはずなのに、立ち位置だけはもう戦う者のものだった。

前へ出る柚木友奈の半歩後ろ、でも隠れるには遠すぎる位置。

支えるための距離感というのは、たぶんこういうことなんだろう。

 

「柚木、正面だけ見ないで、今は真ん中へ寄せる」

 

「分かってるって、でもこっちは動いてる方を見たくなるんだよ!」

 

ぼやきながらも、柚木友奈の視線がちゃんと正面から中央へ戻る。

さっきまでなら勢いのまま飛び出していたはずなのに、今は芙蓉の言葉を一度通してから足を出す。

その変化が、戦いの中で起きている。

人間ってのは、案外こういう場面でしか変われないのかもしれない。

 

広場の中央、噴水の影が急に濃くなる。

ただの影じゃない。

光を食って膨らんだみたいな黒が、水面の揺れを足場にして持ち上がり、人の形にも獣の形にもなりきらないまま歪んだ輪郭を作る。

さっきまで散っていた気配が、今度は最初からここへ帰るために散っていたように見えて、背中の奥が冷えた。

 

「来る!」

 

絶花の声が飛んだ瞬間、影の塊が噴水の縁ごと弾け、黒い裂け目みたいなものがこちらへ走る。

正面だけじゃない。

左右、足元、頭上、全部から同時に来る。

一人なら厄介だった。

二人いても、ただ力が足された程度じゃ捌ききれない。

だが今は違う。

前へ出るやつと、戦場の形を変えるやつがいる。

 

「柚木、上!」

 

「分かってる!」

 

乱刃車が唸る。

エンジン音が昼の広場を裂き、上から落ちてくる影を真正面から噛み砕く。

けれど、その一撃で刃の熱が明らかに上がるのが見ていて分かった。

乱刃車は万能じゃない。

重いし、荒いし、長く振ればそのぶん鈍る。

だから、ずっと一人で押し切る形には向いていない。

 

「芙蓉、次!」

 

「七天弓・緑」

 

光輪が緑へ染まり、突風が広場の中央へ集まる。

ただ吹き飛ばすんじゃない。

散りかけた黒を、また一つの場所へ押し戻すための風だ。

広がるものを寄せる。

逃げるものをまとめる。

あの薙刀は、戦うための武器というより、戦場を一枚の盤へ戻す道具みたいだった。

 

「太郎!」

 

絶花の声が刺さる。

考えるより先に斬月を振るう。

集められた黒の中心へ、刃の重さをそのまま押し込む。

切る。

切るというより、裂け目の芯へ楔を打ち込む感じに近い。

影が震えた。

だが、まだ終わらない。

終わらないから、柚木友奈が踏み込む。

 

「だったら、もう一回だ!」

 

乱刃車の回転がさらに高くなる。

歯の回る音が少し乱れた。

オーバーヒートの兆候だ。

それでも止まらない。

止まれないんじゃない。

止まる気がない。

 

「柚木、切りすぎると熱を持つ、次で止めて!」

 

芙蓉が叫ぶ。

心配より判断が先に来る言い方だ。

それが柚木友奈にはちょうどいいらしい。

感情で止めようとされるより、必要だから止まれと言われた方が飲み込める。

 

「……一発で終わらせる!」

 

返事と同時に、乱刃車が中央へ叩き込まれる。

同時に、芙蓉の光輪が黄へ変わり、電撃が裂け目の輪郭を縫いとめた。

逃げ場を消され、形を固定された黒の中心へ、俺の斬月が最後に落ちる。

三つの方向の違う意志が、同じ一点へ重なった瞬間だった。

広場の中央で、黒い歪みが音もなく裂ける。

昼の光がそこへ流れ込み、水面がようやく本来の反射を取り戻した。

 

終わった。

今度こそ、本当に。

その感覚が広場へ戻るより先に、柚木友奈の乱刃車がぶすっと不機嫌な音を立てて止まる。

熱を持ちすぎたらしい。

本人は大きく息を吐いて、その場へへたりこみそうになりながら、なんとか柄を支えた。

 

「……重いし、うるさいし、手は痺れるし、何なのこれ」

 

「似合ってたよ」

 

俺がそう言うと、柚木友奈は明らかに照れたくせに、すぐに眉を寄せた。

 

「今それ言うの、ずるいだろ」

 

「さっきも聞いたな、それ」

 

「だって本当だし!」

 

そのやり取りの横で、芙蓉が小さく息をついた。

疲れてはいる。

でも、崩れてはいない。

視線だけはまだ周囲を見ている。

最後まで確認しないと終われない、その性分が分かりやすすぎた。

 

「もう……こうなったら、引けないね」

 

静かな声だった。

誰へ言うでもないはずなのに、ちゃんと俺たちへ届く。

その言葉に、柚木友奈が顔を上げた。

少し考えてから、悔しそうな、でも妙にすっきりした顔で笑う。

 

「そっちがそう言うなら、もうそうなんだろうな」

 

二人を見る。

一人は前へ出る。

一人は支える。

でも、もうどちらか片方だけじゃ足りないのも、本人たちが一番よく分かったはずだ。

 

掌を開く。

王国の駒の熱は、もう二人の中へ渡っている。

形式として改めて告げるべきことは、たぶん一つしかない。

 

「お前ら、二人まとめて来い」

 

言うと、柚木友奈が笑って、芙蓉が小さく目を細める。

返事の仕方は違う。

でも、その頷きのタイミングだけは揃っていた。

 

昼の広場は何事もなかった顔へ戻りつつあった。

けれど、俺たちの方はもう少しだけ騒がしくなる。

その面倒さが、少しだけ心地よかった。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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