サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
居間の襖を開けた瞬間、空気の温度が一段だけ変わったのが分かった。
別荘の中は昼の光が柔らかく差しているのに、人が増えた場所だけはいつも少しだけ熱を持つ。
それが今は、ただ賑やかというより、互いの距離を測るための熱になっていた。
後ろを振り返れば、柚木友奈は妙に堂々とした顔で立っているくせに、足先だけはわずかに落ち着かない角度へ動いている。
芙蓉はその半歩後ろで、初めて来た場所の間取りや座っている人間の配置を一度に覚えようとしている顔だった。
「連れてきた」
そう言うと、先に反応したのは流子だった。
座布団の上へ胡坐をかいたまま、こちらをじろりと見て、それから新顔の二人へ視線を移す。
遠慮という言葉を最初から持っていない目だ。
「また増えたのかよ」
「増えたね」
ライザが面白そうに笑う。
その声の軽さに対して、東郷は湯呑みを置く手つきをほとんど変えず、静かにこちらを見上げた。
見上げ方だけで分かる。
すでに顔や歩き方や、今の一言の空気まで含めて、全部まとめて整理し始めている。
式だけは窓際で座ったまま、視線もほとんど動かさなかった。
けれど見ていないわけじゃない。
むしろ一番見ているのは、たぶんあの人だ。
「紹介する」
俺がそう言うと、柚木友奈が小さく息を吸った。
名乗るくらいで構えるなよと言いたくなったが、初対面の相手がこれだけ並んでいたら、さすがに無理もない。
「柚木友奈、こっちは芙蓉・リリエンソール・友奈」
名を出した瞬間、流子の眉がぴくりと動いた。
興味を持った時の顔だ。
気が強いのが自分だけじゃないと分かった時、こいつはだいたいこういう顔をする。
「……なんか、そっちの騒がしそうな方、ちょっと見覚えある感じするな」
「はぁ? 会ったことないだろ」
柚木友奈が即座に返す。
返しの速さと声の大きさで、流子の口元が少しだけ上がる。
面白がっている。
嫌な予感しかしない。
「会ったことはなくても、そういうタイプは分かるんだよ」
「どういうタイプだよ」
「考える前に前へ出るやつ」
その一言に、柚木友奈の顔がほんの少しだけ固まった。
図星なんだろう。
絶花が俺の横で小さく息を吐く。
止めるべきか様子を見るべきか迷っている時の息だ。
芙蓉が一歩だけ前へ出る。
柚木友奈が噛みつき返す前に、空気を少しだけ柔らかくするための動き方だった。
「芙蓉・リリエンソール・友奈です、今日はよろしくお願いします」
礼儀の形としてはごく普通だ。
けれど、声の置き方が丁寧すぎて、逆にこの場の全員が少しだけ黙る。
東郷がその静けさの中で、ほんのわずかに笑った。
「東郷美森です、こちらこそよろしくお願いします」
柔らかい。
柔らかいのに、二人の間に流れる空気だけは妙に似ていた。
見てから動く側の人間同士の、無駄なぶつかりが起きにくい距離感だ。
その横でライザが、もう隠す気もなく二人を観察している。
柚木友奈の手首、芙蓉の立ち方、服のしわ、髪の流れ、そういう細かいところへ視線が忙しく動いているのに、不思議と嫌味には見えない。
見えないが、落ち着かないのは確かだった。
「ねえ、すごく気になるんだけど」
早かった。
絶花が額へ手を当てる。
たぶん、もう少し待てと思ったんだろう。
でもライザが待つわけがない。
「二人とも、駒を受け取った直後の感覚ってどんな感じだった?」
柚木友奈がきょとんとする。
芙蓉は一瞬だけ考える顔になった。
その違いが、そのまま二人の性格みたいで少し面白い。
「どんな感じって……重かった」
先に答えたのは柚木友奈だ。
即答だった。
迷う余地なく、身体から来た感想が先に出たらしい。
「それしかないのかよ」
流子が笑う。
笑うくせに、その目は少しだけ優しい。
同じようにいきなり力を渡された側だからかもしれない。
「重いし、うるさいし、変な力入るし、でも止められないし、最悪だった」
「分かる」
今度は流子が即答した。
即答したあとで、自分で少しだけ嫌そうな顔になる。
共感したことが悔しいんだろう。
芙蓉はその横で、少し遅れて口を開いた。
「私は、急に視界が増えた感じだった」
その言い方に、東郷がはっきりと反応した。
目だけが少し大きくなる。
「視界が増える……」
「はい、一つの方向を見るんじゃなくて、周囲の色とか流れとか、そういうものが一気に入ってくる感じで」
静かな説明だった。
説明なのに、机の上へ図を描くみたいな無機質さがない。
ちゃんと本人の感覚の言葉になっている。
東郷が頷く。
分かるところだけを拾って、自分の中へ置いていく時の頷き方だ。
式がそこでようやく口を開いた。
「前へ出る方と、場を見る方か」
短い。
その短さだけで、話を全部切り分けてしまう。
柚木友奈が少しだけ身構える。
芙蓉は逆に、ああこの人はこういう人なんだと理解した顔になる。
初対面でそこまで見抜くのは、やっぱりこの子も相当見ている。
「悪くない」
式がそう続けると、柚木友奈の肩から少しだけ力が抜けた。
認められたと分かる言葉には、やっぱり弱いらしい。
強そうな顔をしていても、そのへんは案外分かりやすい。
「……それ、褒めてるのか?」
俺が聞くと、式は窓の外を見たまま小さく返す。
「そう聞こえたなら、そうだ」
相変わらず不親切だ。
でも、不親切なりに場を収める言葉は分かっている。
ありがたいのかどうか、たまに判断に困る。
絶花がようやく肩の力を抜いて、柚木友奈と芙蓉の方を見た。
その目には警戒よりも、少しだけ安心の方が強く出ている。
「……大丈夫そう」
「何がだよ」
柚木友奈がすぐに聞き返す。
その返し方に、絶花が少しだけ笑った。
「太郎の周りって、変な人が増えると大体すぐ面倒になるから」
「否定しろよ」
「できる?」
そこを突かれると、さすがに黙るしかない。
ライザが吹き出し、流子が「だろうな」とでも言いたげに鼻を鳴らし、東郷は苦笑を隠しきれずに視線を落とした。
柚木友奈は何がそんなに可笑しいのか分からない顔をしたあとで、最後に芙蓉まで小さく笑ったのを見て、ようやく肩をすくめる。
「……なんか、思ってたより面倒なとこに来た気がする」
「今さら?」
アリナの時と同じことを思って、少しだけ口元が緩んだ。
けれど、その面倒くささが嫌じゃないのも、たぶんこの場の全員が同じなんだろう。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア