※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

342 / 484
どのような王になるか

夜気を含んだ風が障子を鳴らす音だけが響く。荒かった互いの呼吸もようやく落ち着きを取り戻し、汗ばんだ肌の密着だけが生々しい現実として残っていた。肩に預けられた银髪の重み。胸板に押し付けられたままの豊かな感触。八坂は離れる気配すら見せず、指先で俺の鎖骨を無為になぞっている。

 

「……貴方様の中に『王』がおいでになる」

 

唐突な囁きに、思考がまだ霞んでいる頭を持ち上げる。彼女は伏し目がちに、しかし確信を持って続けた。

 

「其方は招くのでしょう。荒波も、嵐も、そして叛乱すらも。……我が身に宿るは森羅を統べる理。けれど王座は常に孤独。其方が断ち切るものは多く、手に入れるものはあまりにも重い」

 

指が鎖骨から首筋へ滑り、脈打つ動脈の上で止まる。まるでそこから命を吸い取るかのような、あるいは慈しむかのような弱い力加減だった。

 

「されど……この身はきっと、其方の温もりを求めましょう。幾度でも、幾度でも」

 

八坂は身じろぎ、更に深く俺の懐へと潜り込んできた。艶やかな肢体が再び熱を取り戻し、ふたりの間の空白を埋めていく。拒絶する理由などどこにもない。彼女の言う通りなら、俺はこれからも戦い、奪い、そして守り抜くことになる。その果てに待つ孤独を知っているからこそ、今この温もりに縋ることを否定できなかった。

 

「……勝手にしろ」

 

短く吐き出し、俺は背に回した腕に力を込めた。滑らかな肌の感触、心臓に届く体温。それらを確かめるように強く引き寄せれば、耳元で満足げな吐息が零れた。

 

「ええ……勝手にいたしますとも」

 

彼女は再び目を閉じ、俺の首筋に唇を寄せる。それは口付けともつかない、ただそこにあることを確かめるような接触だった。

 

「……どのような王になられるのかしらね」

 

静寂を破ったのは、夢現の囁きだった。八坂は俺の胸に頬を預けたまま、どこか遠くを見る眼差しで呟く。その声音は期待と憐憫が不思議な調和を保ち、暗闇に溶けていった。

 

「覇道を往くのか、仁道を選ぶのか。それとも……全てを焼き尽くす業火となるのか」

 

指先が胸板をゆっくりと這う。その感触は心地よくも、どこか警告のようだった。俺は答えを持たず、ただ彼女の体温を感じることしかできない。だが、それでいいのだろう。彼女が楽しみにしているのは、完成された答えではなく、その過程なのだから。

 

「いずれにせよ……貴方様は変わってゆく。人としての殻を破り、何か別のものへと」

 

その言葉は重く、しかしどこか甘美な響きを持っていた。彼女の予言が正しいなら、俺の歩む道は平坦ではないだろう。だが、その果てに待つのが絶望だろうと栄光だろうと、今は知る由もない。

 

「今から楽しみですわ」

 

八坂は小さく笑い、さらに深く腕の中へと潜り込んできた。滑らかな肌が密着し、互いの心音が重なり合う。心地よい疲労感が意識の端々を侵食し、瞼が重くなっていく。

 

彼女の予言が正しかろうと間違っていようと、今はただこの温もりに身を委ねるだけだ。俺の手は自然と彼女の背を抱きしめ、その華奢な体躯を守るように力を込めた。

 

「……おやすみ」

 

短く呟くと、耳元でふふっと笑う気配がした。それが最後の記憶となり、意識は深い闇へと沈んでいった。波の音だけが、遠くで響いている。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。