サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
夜はもう深かった。
海辺の村は寝るのが早い。灯りの落ちた家々のあいだを、潮の匂いを含んだ風だけが通っていく。太郎の家の縁側には、まだ薄い明かりが残っていた。
絶花は湯呑みを両手で包み、庭先を見ていた。
隣では、ランスロットが柱に背を預けて、鞘に収まった二振りの剣を膝へ置いている。
しばらくは、虫の音しかなかった。
先に口を開いたのは、ランスロットだった。
「不思議だね」
絶花が横を見る。
「何が、ですか」
「騎士になったばかりなのに、あんまり後悔してない」
言いながら、ランスロットは小さく笑う。
「もっとこう、勢いでやらかした感じになるかと思ったんだけど」
「ならなかったんですか」
「ならなかった」
即答だった。
「むしろ逆。ようやく収まるところに収まった感じ」
絶花は少しだけ目を伏せた。
「……分かります」
「あなたも?」
「太郎さんのところにいると、たまにそういう感じがあります」
ランスロットは面白そうに眉を上げる。
「へえ。聞きたいな、それ」
絶花は少し迷った。けれど、今日は隣にいる相手が同じ“騎士”になったばかりの少女だと思うと、いつもより言葉が出た。
「太郎さん、危ない人です」
「うん。それはもう、かなり分かる」
「たぶん、自分でも分かってると思います」
「それも分かる」
二人とも少しだけ笑った。
絶花は湯呑みの縁へ視線を落としながら続ける。
「でも、危ないから嫌という感じでは、なくて」
「うん」
「ちゃんと見てます。人も、剣も、立ち方も。……見た上で、必要なら伸ばすし、違うと思ったら、たぶんそのまま言います」
「容赦なくね」
「はい」
絶花は素直に頷いた。
「でも、あれで雑に決めてるわけじゃないです。ちゃんと見た後で、言ってます」
ランスロットが剣の鞘を軽く撫でる。
「私も、そこは思った。家も周りも、私を見る時は先に名前と剣を見る。でも太郎は、最初に見たのが“噛み合ってない”だった」
そこで、ほんの少しだけ口元が緩んだ。
「正直、あれは効いたな」
「嬉しかったんですね」
「かなり」
ランスロットは隠さなかった。
「だって、ずっと“こうあるべき”で押されてきたところに、“違う、そっちだ”って真正面から来るんだよ。しかも迷いなしで」
「……はい」
「厄介だけど、ああいう主は強い」
絶花は、その言葉を少し考えてから頷く。
「強い、です」
「剣が?」
「それもですけど」
絶花は庭の暗がりへ目を向ける。
「太郎さん、自分一人で何でもやる人じゃなくなってきてます」
ランスロットの目が細くなる。
「それ、面白い言い方」
「昔は、たぶん、もっと前に出てたんだと思います。でも今は、置きます」
「置く?」
「人をです。役割を。順番も」
「ああ」
ランスロットはすぐ理解したように頷いた。
「戦場を作る方に寄ってるんだ」
「はい。だからたぶん、王なんです」
そこでランスロットは小さく息を吐いた。
「なるほど。私が気に入った理由、それかもしれない」
「理由、ですか」
「強いからだけじゃないんだよね、たぶん」
ランスロットは夜空を見上げる。
「私、剣の強い相手は好き。でもそれだけじゃ足りない。自分の立ち方がある相手じゃないと、乗る気になれない」
それから、少しだけ笑う。
「太郎は、あれでちゃんと王の顔してる」
絶花はその言葉に、小さく「はい」と返した。
短い。だが、まっすぐだった。
「偉そうですし」
「うん」
「口も悪いですし」
「うん」
「たまに、すごく嫌な言い方もします」
「ものすごく分かる」
ランスロットが吹き出す。
絶花も、少しだけ困った顔で続けた。
「でも、あれで見捨てないです」
その一言で、空気が静かになる。
ランスロットも、今度はすぐに笑わなかった。
「……そうだね」
「返すべきものは返すし、必要な人にはちゃんと手を伸ばします。優しい人、とはちょっと違いますけど」
「違うね。まったく」
「でも、主として立つ人だと思います」
ランスロットはしばらく黙ってから、膝の上の二振りを見下ろした。
「私、たぶんあの人のそういうところに乗ったんだ」
「乗った?」
「うん。ついていく、より、乗る、の方が近い」
鞘を指先で軽く叩く。
「この剣を押し込めるんじゃなくて、役割として使うって分かったから。だったら、家より先にそっちへ賭けてもいいと思った」
絶花はその言葉を、少し嬉しそうに聞いていた。
「……分かります」
「あなたも?」
「はい。太郎さん、危ないですけど」
「まだ言うんだ」
「本当に危ないので」
絶花は真顔だった。
「でも、一緒に危ないところへ入るなら、あの人の横がいいです」
ランスロットは、今度こそはっきり笑った。
「それ、かなり重い信頼だよ」
「そう、なんでしょうか」
「そうだよ。私なら、かなり重い」
そこで不意に、背後で床板が鳴った。
二人が振り向く。
廊下の暗がりに、太郎が立っていた。片手に湯呑みを持ったまま、壁にもたれている。いつから聞いていたのか、顔にはなんとも言えない苦笑が浮かんでいた。
「……お前ら、人を好き勝手言いやがって」
ランスロットが目を丸くする。
「聞いてたの?」
「途中からな。危ないだの口が悪いだの、だいぶ好きに評価してくれて助かる」
絶花が少しだけ肩を縮めた。
「すみません」
「別に怒ってねえよ」
太郎はそう言って、縁側へ出る。二人の前で足を止め、庭を見た。
「事実も混じってたしな」
ランスロットがにやりとする。
「混じってた、じゃなくて、大体そうだったと思うけど」
「余計な一言が多いぞ、新入り騎士」
「新入りだからこそ言えることもある」
「図太いな」
「主が主だからね」
そう返されて、太郎は呆れたように息を吐く。だが、本気で嫌がっている顔ではなかった。
絶花がそっと言う。
「でも、本当にそう思ってます」
太郎が目だけで促す。
「何をだ」
「太郎さんは、主だと思います」
言葉は短い。けれど、今の絶花にしては珍しく、詰まらなかった。
「だから、私もいます」
ランスロットも、その横で頷いた。
「私も。乗る価値がある王だと思った。だから騎士になった」
太郎は少し黙った。
それから、湯呑みを持ったまま苦笑する。
「重いな、お前ら」
「今さら?」
ランスロットが言う。
「今さらです」
絶花も続ける。
太郎は二人を見て、もう一度だけ小さく息を吐いた。
「……分かったよ」
夜風が、三人のあいだを通る。
「そこまで言うなら、受け取っとく」
ぶっきらぼうな言い方だった。けれど、それで十分だった。
ランスロットが楽しそうに笑う。
「素直じゃないなあ」
「うるせえ」
「でも、ちゃんと受け取った」
「はい」
絶花の返事は静かだったが、どこか柔らかかった。
太郎は縁側の柱にもたれ、夜の庭を見る。その横顔は、苦笑いのままだった。だが、逃げる気も、はぐらかす気もない顔だった。
絶花は湯呑みを持ち直し、ランスロットは膝の上の二振りにそっと手を置く。
村の夜は静かで、潮の音だけが遠くで続いていた。
その静けさの中で、二人の騎士は、自分たちの主がちゃんとそこにいることを、改めて確かめていた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア