※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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騎士達の語らい

 夜はもう深かった。

 

 海辺の村は寝るのが早い。灯りの落ちた家々のあいだを、潮の匂いを含んだ風だけが通っていく。太郎の家の縁側には、まだ薄い明かりが残っていた。

 

 絶花は湯呑みを両手で包み、庭先を見ていた。

 隣では、ランスロットが柱に背を預けて、鞘に収まった二振りの剣を膝へ置いている。

 

 しばらくは、虫の音しかなかった。

 

 先に口を開いたのは、ランスロットだった。

 

「不思議だね」

 

 絶花が横を見る。

 

「何が、ですか」

 

「騎士になったばかりなのに、あんまり後悔してない」

 

 言いながら、ランスロットは小さく笑う。

 

「もっとこう、勢いでやらかした感じになるかと思ったんだけど」

 

「ならなかったんですか」

 

「ならなかった」

 

 即答だった。

 

「むしろ逆。ようやく収まるところに収まった感じ」

 

 絶花は少しだけ目を伏せた。

 

「……分かります」

 

「あなたも?」

 

「太郎さんのところにいると、たまにそういう感じがあります」

 

 ランスロットは面白そうに眉を上げる。

 

「へえ。聞きたいな、それ」

 

 絶花は少し迷った。けれど、今日は隣にいる相手が同じ“騎士”になったばかりの少女だと思うと、いつもより言葉が出た。

 

「太郎さん、危ない人です」

 

「うん。それはもう、かなり分かる」

 

「たぶん、自分でも分かってると思います」

 

「それも分かる」

 

 二人とも少しだけ笑った。

 

 絶花は湯呑みの縁へ視線を落としながら続ける。

 

「でも、危ないから嫌という感じでは、なくて」

 

「うん」

 

「ちゃんと見てます。人も、剣も、立ち方も。……見た上で、必要なら伸ばすし、違うと思ったら、たぶんそのまま言います」

 

「容赦なくね」

 

「はい」

 

 絶花は素直に頷いた。

 

「でも、あれで雑に決めてるわけじゃないです。ちゃんと見た後で、言ってます」

 

 ランスロットが剣の鞘を軽く撫でる。

 

「私も、そこは思った。家も周りも、私を見る時は先に名前と剣を見る。でも太郎は、最初に見たのが“噛み合ってない”だった」

 

 そこで、ほんの少しだけ口元が緩んだ。

 

「正直、あれは効いたな」

 

「嬉しかったんですね」

 

「かなり」

 

 ランスロットは隠さなかった。

 

「だって、ずっと“こうあるべき”で押されてきたところに、“違う、そっちだ”って真正面から来るんだよ。しかも迷いなしで」

 

「……はい」

 

「厄介だけど、ああいう主は強い」

 

 絶花は、その言葉を少し考えてから頷く。

 

「強い、です」

 

「剣が?」

 

「それもですけど」

 

 絶花は庭の暗がりへ目を向ける。

 

「太郎さん、自分一人で何でもやる人じゃなくなってきてます」

 

 ランスロットの目が細くなる。

 

「それ、面白い言い方」

 

「昔は、たぶん、もっと前に出てたんだと思います。でも今は、置きます」

 

「置く?」

 

「人をです。役割を。順番も」

 

「ああ」

 

 ランスロットはすぐ理解したように頷いた。

 

「戦場を作る方に寄ってるんだ」

 

「はい。だからたぶん、王なんです」

 

 そこでランスロットは小さく息を吐いた。

 

「なるほど。私が気に入った理由、それかもしれない」

 

「理由、ですか」

 

「強いからだけじゃないんだよね、たぶん」

 

 ランスロットは夜空を見上げる。

 

「私、剣の強い相手は好き。でもそれだけじゃ足りない。自分の立ち方がある相手じゃないと、乗る気になれない」

 

 それから、少しだけ笑う。

 

「太郎は、あれでちゃんと王の顔してる」

 

 絶花はその言葉に、小さく「はい」と返した。

 

 短い。だが、まっすぐだった。

 

「偉そうですし」

 

「うん」

 

「口も悪いですし」

 

「うん」

 

「たまに、すごく嫌な言い方もします」

 

「ものすごく分かる」

 

 ランスロットが吹き出す。

 

 絶花も、少しだけ困った顔で続けた。

 

「でも、あれで見捨てないです」

 

 その一言で、空気が静かになる。

 

 ランスロットも、今度はすぐに笑わなかった。

 

「……そうだね」

 

「返すべきものは返すし、必要な人にはちゃんと手を伸ばします。優しい人、とはちょっと違いますけど」

 

「違うね。まったく」

 

「でも、主として立つ人だと思います」

 

 ランスロットはしばらく黙ってから、膝の上の二振りを見下ろした。

 

「私、たぶんあの人のそういうところに乗ったんだ」

 

「乗った?」

 

「うん。ついていく、より、乗る、の方が近い」

 

 鞘を指先で軽く叩く。

 

「この剣を押し込めるんじゃなくて、役割として使うって分かったから。だったら、家より先にそっちへ賭けてもいいと思った」

 

 絶花はその言葉を、少し嬉しそうに聞いていた。

 

「……分かります」

 

「あなたも?」

 

「はい。太郎さん、危ないですけど」

 

「まだ言うんだ」

 

「本当に危ないので」

 

 絶花は真顔だった。

 

「でも、一緒に危ないところへ入るなら、あの人の横がいいです」

 

 ランスロットは、今度こそはっきり笑った。

 

「それ、かなり重い信頼だよ」

 

「そう、なんでしょうか」

 

「そうだよ。私なら、かなり重い」

 

 そこで不意に、背後で床板が鳴った。

 

 二人が振り向く。

 

 廊下の暗がりに、太郎が立っていた。片手に湯呑みを持ったまま、壁にもたれている。いつから聞いていたのか、顔にはなんとも言えない苦笑が浮かんでいた。

 

「……お前ら、人を好き勝手言いやがって」

 

 ランスロットが目を丸くする。

 

「聞いてたの?」

 

「途中からな。危ないだの口が悪いだの、だいぶ好きに評価してくれて助かる」

 

 絶花が少しだけ肩を縮めた。

 

「すみません」

 

「別に怒ってねえよ」

 

 太郎はそう言って、縁側へ出る。二人の前で足を止め、庭を見た。

 

「事実も混じってたしな」

 

 ランスロットがにやりとする。

 

「混じってた、じゃなくて、大体そうだったと思うけど」

 

「余計な一言が多いぞ、新入り騎士」

 

「新入りだからこそ言えることもある」

 

「図太いな」

 

「主が主だからね」

 

 そう返されて、太郎は呆れたように息を吐く。だが、本気で嫌がっている顔ではなかった。

 

 絶花がそっと言う。

 

「でも、本当にそう思ってます」

 

 太郎が目だけで促す。

 

「何をだ」

 

「太郎さんは、主だと思います」

 

 言葉は短い。けれど、今の絶花にしては珍しく、詰まらなかった。

 

「だから、私もいます」

 

 ランスロットも、その横で頷いた。

 

「私も。乗る価値がある王だと思った。だから騎士になった」

 

 太郎は少し黙った。

 

 それから、湯呑みを持ったまま苦笑する。

 

「重いな、お前ら」

 

「今さら?」

 

 ランスロットが言う。

 

「今さらです」

 

 絶花も続ける。

 

 太郎は二人を見て、もう一度だけ小さく息を吐いた。

 

「……分かったよ」

 

 夜風が、三人のあいだを通る。

 

「そこまで言うなら、受け取っとく」

 

 ぶっきらぼうな言い方だった。けれど、それで十分だった。

 

 ランスロットが楽しそうに笑う。

 

「素直じゃないなあ」

 

「うるせえ」

 

「でも、ちゃんと受け取った」

 

「はい」

 

 絶花の返事は静かだったが、どこか柔らかかった。

 

 太郎は縁側の柱にもたれ、夜の庭を見る。その横顔は、苦笑いのままだった。だが、逃げる気も、はぐらかす気もない顔だった。

 

 絶花は湯呑みを持ち直し、ランスロットは膝の上の二振りにそっと手を置く。

 

 村の夜は静かで、潮の音だけが遠くで続いていた。

 

 その静けさの中で、二人の騎士は、自分たちの主がちゃんとそこにいることを、改めて確かめていた。

 

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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