サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
荷物をまとめると、人間は嫌でも今の自分を見ることになる。
朝から段ボールを広げて、持っていくものと置いていくものを分けていく。やること自体は単純だ。使うなら入れる。使わないなら置く。迷うようなら、その迷ってる理由ごと一回切る。そういう作業のはずなのに、実際に手を動かしてみると、単純な話では終わらない。
物には、使う使わないとは別に、いつからそこにあるかって情報がくっついている。
机の引き出しから、古いノートが出てきた。端が少し潰れている。使いかけのペンと、読み返すほどでもない授業のメモ。そういうのは迷わない。必要なものだけ抜いて、あとは閉じる。
その横に、見覚えの薄い髪留めが転がっていた。
「絶花」
「はい」
「これ、お前のか」
少し離れた場所で箱を整理していた絶花が、振り向く。俺の手元を見るなり、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「……たぶん」
「たぶんって何だ」
「置いた覚えはあります。でも、忘れてました」
「そうか」
言って、そのまま小箱へ入れる。
絶花が小さく言う。
「捨てないんですね」
「使うなら持つだろ」
「……そうですね」
それだけのやり取りだ。けど、それだけで今の家が、前の家とは違う場所になってるのが分かる。俺一人の物だけじゃない。絶花が何気なく置いていったもの、誰かが持ち込んでそのままになったもの、増えた食器、増えた気配。物の量は大したことがなくても、生活の形は確実に変わっていた。
絶花は自分の箱の前で、しばらく手を止めていた。
「どうした」
「少し、ありました」
「何が」
「昔のものです」
そう言って見せられたのは、小さな布袋と、使い込まれた木札、それからだいぶ端の擦れた本だった。俺より、こいつの方がそういうのをちゃんと残してるらしい。
「太郎さんは、少ないですね」
「元から溜める方じゃない」
「そうだと思ってました」
絶花は少しだけ笑う。
「でも、少なすぎる気もします」
「必要なものだけで足りるなら、それでいい」
「……私は、少し足りませんでした」
「知ってる」
「見たんですか」
「箱の大きさで分かる」
そう返すと、絶花は困ったみたいに目を伏せた。けど本気で嫌がっている感じじゃない。
昼前には、部屋の一角がだいぶ空いた。
棚の上も、机の下も、前より見通しがいい。床へ置かれていたものが減っただけで、家の中の音の響き方まで少し変わる。前は当たり前で数えもしなかった空間が、空いたせいで逆に目につく。
絶花が、箱へ布を詰めながら言った。
「これは、置いていくんですか」
指したのは、古い時計だった。壊れてはいないが、最近ほとんど使っていない。
「ああ」
「少し、意外です」
「必要ならまた取りに戻ればいい」
「執着、しないんですね」
「するものにはする」
そこで少しだけ手が止まる。
「ただ、場所に執着するのと、始まりを忘れないのは別だ」
絶花がその言葉を受け止めるみたいに、静かに瞬く。
「……地元は、持っていくものではないですか」
「持ち物じゃない。基礎だ」
「基礎」
「ここで始まったって事実は、駒王へ持っていかなくても消えねえ」
大事なのは、家を丸ごと抱えていくことじゃない。ここで始まった理を、自分の中で切らないことだ。始まりを忘れなきゃ、場所が変わっても芯は残る。
午後、ひと段落ついたところで、絶花が自然に外へ出た。
たぶん、最後に見たいんだろう。そういう言い方をしないだけで、分かりやすい。
俺もついていく。
海辺まで出ると、風が強かった。石垣に当たって返る波の音。錆びた手すり。見慣れた坂。最初の頃は、ここしか知らなかった。世界はこの辺りの道と家と学校だけで、十分閉じていた。
今は違う。
港も、神社町も、京都も、駒王も、もう全部一本の線の先にある。広がった。だからこそ、やっぱりここが最初だって感覚だけが、妙にくっきり見える。
「ここ、最初の頃と同じですね」
絶花が言った。
「そうか?」
「はい」
絶花は海を見る。
「風も、匂いも、道も」
「だろうな」
「でも、私たちは少し変わりました」
「だろうな」
「友達も、仲間も、増えました」
「面倒も増えた」
「はい」
そこで絶花が少しだけ笑った。
「でも、嫌じゃないです」
「知ってる」
「太郎さんは?」
「悪くない」
そう返すと、絶花がこっちを見た。
「その言い方、好きです」
「安いな」
「安くないです」
海風が髪を揺らす。
この町を嫌いになったわけじゃない。むしろ逆だ。ここで始まったからこそ、今がある。だから出るのは裏切りじゃない。ただ、ここだけでは収まらなくなったものを、次の場所へ運ぶだけだ。
夜、家へ戻ると、部屋は昨日よりずっと広く感じた。
棚の上が空き、机の端が見え、畳の上を歩く足音が前より軽く響く。何もなくなったわけじゃない。けど、物が減ったぶんだけ、この家で過ごした時間の方が逆に濃く見える。
「少し、広いです」
絶花が言う。
「明日にはもっと空く」
「はい」
こいつは箱の横へ座り込んで、まとめた荷物を見ていた。どれも大した量じゃない。けど、その大したことのないものの中に、地元で過ごした時間がそれなりに詰まっている。
「太郎さん」
「なんだ」
「ここで始まったものは、駒王へ行っても変わりませんか」
少し考えてから、答える。
「変わるところはある」
絶花が顔を上げる。
「でも、終わらねえ」
静かな部屋の中で、その言葉は思ったよりはっきり響いた。
「ただ、次の場所へ運ぶだけだ」
絶花はしばらく黙っていた。
それから、小さく頷く。
「……はい」
夜は静かだった。前より静かだ。物が減った家は、音まで整理されるらしい。
俺は壁にもたれたまま、空き始めた部屋を見る。
ここで始まった。そこは変わらない。変わらないなら、先へ持っていける。
王国ってのは、集めるだけじゃ足りない。抱えたものを置く場所がいる。地元は始まりだ。駒王は、その先を組むための場所になる。
なら、やることはもう決まってる。
明日、出る。
地元を捨てるんじゃない。ここで始まったものを、そのまま次の拠点へ運ぶだけだ。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア