サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
出る朝は、思っていたより静かだった。
もっとこう、いかにも区切りらしい空気があるかと思っていたが、実際にはいつもの朝に荷物が増えただけだ。台所の音も、戸を開ける音も、外から入ってくる潮の匂いも変わらない。ただ、玄関の横に積まれた箱と鞄だけが、今日が普段と違う日だと示していた。
「忘れ物、ないです」
絶花が言う。
荷物の横に立ったまま、こいつはもう何度目かの確認を終えた顔をしていた。自分の分だけじゃなく、俺の分まで見たんだろう。そういうやつだ。
「そうか」
「はい」
短い返事のあと、少しだけ間が空く。
「……行きますか」
「ああ」
戸を閉める前に、一度だけ家の中を見た。
空いた棚。片づいた机。昨夜まであった箱の跡。何もなくなったわけじゃない。けど、前より確かに広い。その広さが、ここで過ごした時間を逆に濃く見せていた。
ここで始まった。
それで十分だ。
始まりを見失わないなら、先へ持っていける。
戸を閉める。鍵の音は、いつもと同じだった。
駅へ向かう道も、別に変わらない。見慣れた坂、見慣れた店、朝の低い空。なのに今日は、その一つ一つが妙にはっきり見えた。もう見納め、なんて感傷じゃない。ただ、今日ここを出るから、視界に入るもの全部が少しだけ輪郭を持つ。
絶花は道の途中で、何度か振り返りそうになって、結局しなかった。
振り返らない方がこいつらしい。見ていないわけじゃない。ただ、前に進むと決めた以上、わざわざ足を止めないだけだ。
列車に乗ると、景色は少しずつ切り替わった。
海の色が遠ざかる。低い家並みが流れる。窓の外を横へ逃げていく電柱の間に、見慣れた地元の輪郭が細くなっていく。
「……本当に、離れていきます」
絶花が小さく言った。
「そうだな」
「でも、変な感じです」
「何が」
「まだ、戻れる気がするので」
その感覚は分かる。
出ると言っても、世界の果てへ行くわけじゃない。必要があれば戻る。戻れなくなるわけでもない。だからこそ、別れというより移動なんだろう。
「戻るだろ。必要なら」
「はい」
絶花は窓の外を見たまま頷く。
「でも、今は進む方ですね」
「そうだ」
それで会話は切れた。
こういう時、無理に何かを足さない方がいい。見ている景色が変わっていく、その事実だけで十分だ。
駒王へ着く頃には、空の色もだいぶ高くなっていた。
降りてすぐ分かる。地元とは音の密度が違う。人の数も、店の並びも、道路の広さも、全部が少しだけせわしない。海の匂いの代わりに、アスファルトの熱と、人の生活が混ざった街の空気がある。
「地元と、全然違います」
絶花が言う。
「だろうな」
「少し……落ち着かないです」
「そのうち慣れる」
「太郎さんは?」
「慣れる前提で見てる」
そう返すと、絶花が少しだけ息を吐いた。
「そういうところです」
「何が」
「太郎さん、です」
よく分からんが、否定するほどでもない。
新しい家は、駅から少し歩いた先にあった。
鍵を開ける。戸を引く。まだ人の匂いが薄い。掃除はされているが、生活の跡はない。だから逆に、これから何を置くかの方がよく見える。
「……広いです」
絶花が、入ってすぐ言った。
「そうだな」
「今までより、かなり」
「それだけ要る」
靴を脱いで中へ上がる。玄関から廊下、居間、奥の部屋。どこもまだ空いている。空いているからこそ、誰がどこを使うか、どこへ人が集まるか、自然と頭の中で線が引かれた。
居間は中心になる。人が来る。話もする。たぶんライザは勝手に物を広げる。アカネが来るなら、明るすぎない部屋が一つ要る。ランスロットは動ける空間を欲しがるだろう。絶花は、俺から遠すぎない位置に落ち着くはずだ。
「もう、考えてますね」
絶花が言った。
「当たり前だ」
「部屋のこと、ですか」
「それもある」
居間の真ん中で立ち止まり、窓の位置を見る。
「誰が来て、どこに置くかもな」
「王国の方ですね」
「今後はこっちが本拠地になる」
そう言うと、絶花は家の中をもう一度見回した。
少し落ち着かない顔はまだ残っている。けど、その中に、ちゃんと自分の立ち位置を探す目も入っている。
なら十分だ。
荷物を運び込み、最低限の形だけ整えた頃には、外はもう夕方から夜へ移り始めていた。地元とは違う夜だ。遠くの音も、街灯の色も、どこか薄く新しい。
窓を開けると、涼しい風が入ってくる。
絶花が少し離れたところで立っていた。
「太郎さん」
「なんだ」
「ここでも、やることは同じですね」
「そうだ」
「なら、大丈夫です」
短い言葉だった。けど、それで十分だった。
俺は窓の外の駒王を見る。
地元とは違う街だ。だが、もう他人の場所でもない。ここへ来た。荷物を置いた。これから人も集まる。生活も戦いも、ここから組み上がる。
国は、広がるだけじゃ足りない。
集めたものを置く場所が要る。戻るための家じゃなく、これから先を組むための拠点が。
「ここから先は、駒王で組む」
そう言うと、絶花が静かに頷いた。
「はい」
地元で始まったものを、ここへ持ってきた。
なら次は、ここで根を張るだけだ。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア