※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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ぼっちの共鳴

 後藤ひとりを家臣にして、ようやく一息つけるかと思った。

 

 思っただけだった。

 

 王国の駒を受け取った直後の人間が、急に社交性を獲得するわけじゃない。そんな都合のいい進化があるなら、世の中はもう少し平和だ。

 

 居間へ戻ると、絶花がいた。

 

 いつもの位置。背筋を伸ばして、こっちを見る目だけ妙にまっすぐだ。そこへ、俺の半歩後ろからひとりが入ってきた。

 

 入ってきた、というか、できるだけ気配を薄くして壁と一体化しようとしたまま、なんとか室内へ侵入した、が正しい。

 

「……後藤さん」

 

 絶花が言った。

 

「あっ、は、はい……」

 

 ひとりの返事は、もうそれだけで半分くらい縮んでいる。

 

 まあ、分かる。絶花は悪気なく真正面から来る。対人経験値の低いやつには、あれはだいぶ効く。

 

「改めて、よろしくお願いします」

 

「よ、よろしくお願いします……あっ、いや、こっちこそ、その、よろしくで……」

 

 挨拶までは通った。

 

 問題は、その次だった。

 

 絶花がひとりを見たまま言う。

 

「同じ家臣です」

 

「は、はい……」

 

「なので、仲良くしたいです」

 

「あっ」

 

 早い。

 

 俺は心の中だけでそう言った。

 

 踏み込みが、早い。というか、前置きがない。絶花はこの手の時、妙な駆け引きをしない。できないとも言う。

 

 ひとりは目をぱちぱちさせたあと、明らかに処理落ちした顔になった。

 

「な、仲良く……」

 

「はい」

 

 絶花は頷く。

 

「後藤さんは、友達が欲しいですか」

 

 直球だった。

 

 俺は思わず黙る。そこを今、そう投げるのか。

 

 ひとりは完全に固まった。

 

「えっ」

 

「友達です」

 

「わ、分かります、単語の意味は……」

 

「私も欲しいです」

 

「そんな真正面から言えることあります……?」

 

「言わないと伝わらないので」

 

「つ、強い……」

 

 強いんじゃない。遠回しにできないだけだ。

 

 絶花は少しだけ首を傾げた。

 

「後藤さんは、一人が長かった感じがします」

 

「ひ、否定はできないです……」

 

「私も、そうでした」

 

「……あっ」

 

 そこで初めて、ひとりの顔が少し上がった。

 

 たぶん今、絶花を“年下の強いやつ”から、“ちょっと近い種類のやつ”へ認識し始めたんだろう。

 

「じゃ、じゃあ、その……ちょっとだけ、似てる……?」

 

「はい。かなり」

 

 そこまではよかった。

 

 本当に、そこまでは。

 

 絶花が少しだけ目を柔らかくした。こいつなりに、嬉しかったんだと思う。共通点を見つけて、友達になれるかもしれないと判断した時の顔だった。

 

「……後藤さん」

 

「は、はい」

 

「友達になれるかもしれません」

 

「あっ、えっ、そ、その……」

 

 問題は、その時の視線だ。

 

 絶花は悪気なく、真正面から、逃がさず、相手を見る。剣を向ける時と根本の集中力があまり変わらない。敵意はゼロだが、圧はある。

 

 ひとりの肩が目に見えて縮んだ。

 

「み、見ないでください……」

 

「え」

 

「ち、違うんです、嫌とかじゃなくて、あの、視線の圧が……なんか、すごくて……」

 

「圧」

 

 自覚がないのが一番厄介だ。

 

「私は、普通に見ているだけです」

 

「その“普通”が強いんですってぇ……!」

 

 ひとりの姿勢が崩れ始めた。

 

 最初は背中が丸くなる程度だった。次に、椅子の上で膝を抱え込むみたいに縮む。そこからが早かった。座面の端へずるずる寄っていき、最終的には、もはや人間の座り方じゃない何かになった。

 

「む、無理です……無理……そんな真っ直ぐ見られたら、存在の輪郭が保てないので……」

 

 声まで溶けている。

 

 ひとりは座布団の上でほとんど液状化していた。ギターケースだけが妙にきちんと横へ置かれているのが、逆に面白い。

 

 絶花が本気で困った顔になる。

 

「……え」

 

「そうなるのか」

 

 俺が言うと、ひとりがかろうじて返した。

 

「な、なります……すぐなります……」

 

「大丈夫ですか」

 

「大丈夫じゃないです……もう今、心がスライム寄りなので……」

 

「心が」

 

 肉体までだいぶ寄って見えるのが問題だ。

 

 絶花は少しだけ身を引いて、しかしまた気になって見てしまう。そのたびに、ひとりがぷるっと震える。

 

「どうすれば戻りますか」

 

「そっとしておいてもらえると……あと、あんまり真っ直ぐ見ないでほしいです……」

 

「見ない方がいいんですか」

 

「はい……でも無視はちょっと傷つきます……」

 

「難しいです」

 

「私もそう思います……」

 

 会話が進んでいるようで、全然進んでいない。

 

 絶花は真剣に悩み始めた。

 

「後藤さん」

 

「……はい……」

 

「私は、嫌ってはいません」

 

「は、はい……」

 

「でも、どう接すればいいのか分かりません」

 

「私も分からないです……」

 

「視線を弱くするべきですか」

 

「できるならお願いします……」

 

 絶花、少しだけ視線を逸らす。

 

 だが気になるのか、すぐまた見てしまう。

 

「ひゃっ」

 

「すみません」

 

「今のは刺さりました……」

 

「刺すつもりはなかったです」

 

「知ってます……知ってるから余計に逃げ場が……」

 

 俺はそのやり取りを見ながら、ようやく理解した。

 

 どっちも本気だ。

 

 絶花は本気で仲良くしたいと思っている。ひとりも本気で友達が欲しいと思っている。だが、どっちも距離の詰め方が壊滅的に下手だ。

 

 結果、片方は剣士みたいな目でまっすぐ見つめ、もう片方は精神から先にスライム化する。

 

 珍しいものを見た。

 

「太郎さん」

 

 絶花がこっちを見た。

 

「なんだ」

 

「どうすればいいですか」

 

 ひとりも、ほぼ溶けたままこっちを見る。

 

「た、太郎さん……この場合、答え持ってるんですか……?」

 

 知らん。

 

 知らんが、目の前の現象に名前をつけることくらいはできる。

 

 少しだけ間を置いて、俺は言った。

 

「……これが、ぼっちの科学現象か」

 

 沈黙。

 

 ひとりが、ぺしゃっとしたまま呟く。

 

「科学現象なんだ……」

 

「現象なんですね」

 

 絶花も妙に納得した声で言う。

 

「少なくとも、俺にはそう見える」

 

「すごく雑に分類された気がするんですけど……でも否定もしにくい……」

 

「私も少し納得しました」

 

「納得しちゃうんだ……」

 

 ひとりはまた少しだけ溶けた。

 

 けど、さっきよりはマシだ。完全液状化まではいっていない。

 

 絶花が、今度は少しだけ視線を弱めるよう努力しながら言った。

 

「後藤さん」

 

「……はい」

 

「今日は、ここまでにします」

 

「た、助かります……」

 

「でも、また話します」

 

「えっ」

 

「友達になりたいので」

 

 ひとりの肩がびくっと震える。

 

「ま、真正面から来る……」

 

 だが今度は完全には崩れなかった。少しだけ耐えた。

 

「……が、頑張ります……たぶん……」

 

「はい。私も頑張ります」

 

 絶花も真顔だ。たぶん本気で、今のやり取りを前進だと思っている。

 

 実際、間違ってはいない。

 

 前途はだいぶ多難だ。だが、ゼロではない。あの二人にしては、それだけでかなり上出来だった。

 

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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