サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
姫島朱乃が、自分のことを少し話した。
それだけで、この神社の見え方は変わった。
誰が見ているのか。どう管理されているのか。そこも問題ではある。だがもう、それだけを聞いて帰る段階じゃない。神社の静けさの裏に何があるのか。その神社の真ん中に、姫島朱乃がどう立っているのか。そっちの方が大きくなっていた。
「じゃあ次は、誰が見てるかじゃねえな」
俺が言うと、朱乃は静かにこちらを見た。
「ええ」
「この神社が、何を押さえてるかだ」
夕方の空気が少しだけ冷える。木々の擦れる音が、一段はっきり耳に入った。
朱乃は、前の二話みたいに長く間を置かなかった。
「……龍脈です」
絶花がわずかに息を止める。
「龍脈」
「やはり、そこへ繋がるのね」
東郷が言った。
式は神社の裏へ視線を向けたまま、ぽつりと落とす。
「下に流れてる」
それなら筋が通る。
境内の静けさが一枚多い感じ。管理の記録だけが妙に整っていて、継ぎ手が見えない感じ。守られているようで、別のものも通っている感じ。全部、地の下を流れるものを見張る場所だと思えば綺麗に繋がる。
「この神社は、龍脈の上に立ってるのか」
「正確には、流れを見張る位置にあります」
朱乃が答える。
「押さえるというより、乱れないよう見ている場所ですね」
東郷が鞄から折り畳んだ紙を取り出した。簡易の地図だ。神社、坂道、学園、住宅街、林、駅前までの地形が細かく書き込まれている。
「地形だけ見ても少し不自然だったの」
地図を開きながら言う。
「この神社だけ、周囲との繋がり方が“守る場所”じゃなくて“節を見る場所”に近い。駒王の中を抜ける見えない流れがあると仮定すれば、ここはその確認点になる」
「流れの曲がり目か」
「ええ。浅く浮く位置、と言い換えてもいいわね」
朱乃がその紙を見て、小さく笑う。
「よく見ていらっしゃいますね」
「情報が綺麗すぎる時は、土地の形を見た方が早いのよ」
東郷はさらりと返した。
絶花が境内を見回す。
「ここだけ、静かすぎる理由もそれですか」
「はい」
朱乃が頷く。
「流れが安定していれば、神社は静かです。でも今は、その静けさの作り方が少し不自然なんです」
「押さえ方が硬い」
式が言う。
その一言が妙にしっくり来た。
自然に静かなわけじゃない。下から伝わる乱れを、外に漏らさないよう無理に均している。そういう硬さだ。
「話だけ聞いて終わる気はねえ」
俺が言った。
朱乃は、やっぱりそう来るか、という顔をしただけだった。
「でしょうね」
「案内しろ」
少しだけ間があく。
断るかと思ったが、絶花が先に口を開いた。
「……一人で見ていたんですか」
朱乃の視線が絶花へ移る。
「ある程度までは」
「でも今は、それでは足りなくなった」
東郷が重ねる。
朱乃は短く息をついた。
「……そうですね」
「もう漏れてる」
式が言う。
「はい」
朱乃はそれを否定しなかった。
それで十分だ。
拝殿の脇へ回る。普段、人目につかない方の道だ。表の整った境内とは空気が違う。掃き清められてはいるが、見せるための綺麗さじゃない。支えるための静けさがある。
裏手へ入ると、そこには古木と石組みと、小さな祠があった。地面にはほとんど消えかけた線が残っている。術式の跡だ。かなり古い。けれど、死んではいない。
「ここが一番分かりやすい場所です」
朱乃が言う。
表よりこっちの方が、よほど神社の本体に近い。
「駒王を抜ける流れは、ここで一度浅く浮きます」
朱乃は古木の根元の方を見た。
「ですから、異常があればここに出やすいんです」
絶花がゆっくり目を細める。
「……重いです」
「切れてない」
式が地面を見たまま言う。
「でも、擦られてる」
東郷はしゃがみ込んで、薄く残った線を指先でなぞった。
「流れそのものを断つほどではないわね。ただ、上から少し削っている感じ」
「誰かが触ってるな」
俺が言うと、朱乃は素直に頷いた。
「はい。強くではありません。でも、何度も確かめるみたいに」
俺は地面へ意識を落とす。
龍脈そのものは見えない。けれど、何かがこの下を通っているのは分かる。地の深いところを流れる、大きくて鈍いもの。その表面だけを、誰かが何度も爪で引っかいているような違和感があった。
「壊したいわけじゃねえな」
「ええ」
東郷が言う。
「奪うとか断つとか、そこまで大きい動きではない」
「探ってる」
式が短く切る。
「入っていいか、試してる感じです」
絶花が続けた。
その見立てに、朱乃は前よりはっきりと笑った。
今度の笑いは、誤魔化しじゃない。こちらの見立てを認める側の笑みだった。
「皆さん、思ったよりずっと早いですね」
「お前が隠してる割には、痕が素直だからな」
俺が言うと、朱乃は少しだけ肩をすくめた。
「そこは反省点かもしれません」
「あなたがやったわけではないのね」
東郷が問う。
「ええ。ただ、気づいていて見ていたのは事実です」
「なぜ黙ってた」
俺が聞く。
朱乃は少しだけ黙った。風が木を鳴らす。さっきまでより、静けさの硬さがはっきり分かる。
「……まだ、こちら側だけで処理できる範囲だと思っていたからです」
「お前一人の判断じゃないな」
そう言うと、朱乃の目が静かに上がった。
「……どうしてそう思われますか」
「一人で抱えるにしては、線の引き方が綺麗すぎる」
俺は答える。
「ここまで見せる、ここから先は見せない、その切り方が個人じゃねえ」
東郷も頷いた。
「“報告しない個人”ではなく、“まだ外へ出さない側”の動き方ね」
「上がいる」
式が言う。
「はい」
絶花も小さく続けた。
「姫島先輩は、見てる人の一人です」
朱乃は否定しなかった。視線だけが少し柔らかくなる。
「……鋭い方ばかりですね、本当に」
「で、いるのか」
俺が聞く。
「はい」
朱乃は短く答える。
「ただ、その方たちのことを今ここでお話しするのは、まだ早いです」
なら十分だ。
朱乃一人じゃない。駒王の内側を見ている側が、他にもいる。それだけ分かれば、この神社の話は一段深くなる。
東郷が地図を畳みながら言う。
「神社は入口にすぎないわね」
「流れの途中」
式が言う。
「はい」
絶花も頷く。
「ここだけ見ても、たぶん終わりません」
「ああ」
俺は裏手の石組みから顔を上げた。
「次は、龍脈の先を見る」
朱乃がその言葉で、ほんの少しだけ立ち止まった。
「……そこまで行かれるんですね」
「止めるか」
「いいえ」
答えは早かった。
少し間を置いて、朱乃は続ける。
「ただ、次からはもう、神社の見学では済まないと思ってください」
その言い方で分かった。
ようやく本題に入るつもりになったんだろう。
神社の管理者が誰か、じゃない。駒王の下を流れるものに、誰がどう触っているのか。そして姫島朱乃が、その内側のどこに立っているのか。
もう神社の表を見る段階じゃない。
流れの先と、そこへ立つ側の顔を見る段階に入っていた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア