※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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神社と龍脈

 姫島朱乃が、自分のことを少し話した。

 

 それだけで、この神社の見え方は変わった。

 

 誰が見ているのか。どう管理されているのか。そこも問題ではある。だがもう、それだけを聞いて帰る段階じゃない。神社の静けさの裏に何があるのか。その神社の真ん中に、姫島朱乃がどう立っているのか。そっちの方が大きくなっていた。

 

「じゃあ次は、誰が見てるかじゃねえな」

 

 俺が言うと、朱乃は静かにこちらを見た。

 

「ええ」

 

「この神社が、何を押さえてるかだ」

 

 夕方の空気が少しだけ冷える。木々の擦れる音が、一段はっきり耳に入った。

 

 朱乃は、前の二話みたいに長く間を置かなかった。

 

「……龍脈です」

 

 絶花がわずかに息を止める。

 

「龍脈」

 

「やはり、そこへ繋がるのね」

 

 東郷が言った。

 

 式は神社の裏へ視線を向けたまま、ぽつりと落とす。

 

「下に流れてる」

 

 それなら筋が通る。

 

 境内の静けさが一枚多い感じ。管理の記録だけが妙に整っていて、継ぎ手が見えない感じ。守られているようで、別のものも通っている感じ。全部、地の下を流れるものを見張る場所だと思えば綺麗に繋がる。

 

「この神社は、龍脈の上に立ってるのか」

 

「正確には、流れを見張る位置にあります」

 

 朱乃が答える。

 

「押さえるというより、乱れないよう見ている場所ですね」

 

 東郷が鞄から折り畳んだ紙を取り出した。簡易の地図だ。神社、坂道、学園、住宅街、林、駅前までの地形が細かく書き込まれている。

 

「地形だけ見ても少し不自然だったの」

 

 地図を開きながら言う。

 

「この神社だけ、周囲との繋がり方が“守る場所”じゃなくて“節を見る場所”に近い。駒王の中を抜ける見えない流れがあると仮定すれば、ここはその確認点になる」

 

「流れの曲がり目か」

 

「ええ。浅く浮く位置、と言い換えてもいいわね」

 

 朱乃がその紙を見て、小さく笑う。

 

「よく見ていらっしゃいますね」

 

「情報が綺麗すぎる時は、土地の形を見た方が早いのよ」

 

 東郷はさらりと返した。

 

 絶花が境内を見回す。

 

「ここだけ、静かすぎる理由もそれですか」

 

「はい」

 

 朱乃が頷く。

 

「流れが安定していれば、神社は静かです。でも今は、その静けさの作り方が少し不自然なんです」

 

「押さえ方が硬い」

 

 式が言う。

 

 その一言が妙にしっくり来た。

 

 自然に静かなわけじゃない。下から伝わる乱れを、外に漏らさないよう無理に均している。そういう硬さだ。

 

「話だけ聞いて終わる気はねえ」

 

 俺が言った。

 

 朱乃は、やっぱりそう来るか、という顔をしただけだった。

 

「でしょうね」

 

「案内しろ」

 

 少しだけ間があく。

 

 断るかと思ったが、絶花が先に口を開いた。

 

「……一人で見ていたんですか」

 

 朱乃の視線が絶花へ移る。

 

「ある程度までは」

 

「でも今は、それでは足りなくなった」

 

 東郷が重ねる。

 

 朱乃は短く息をついた。

 

「……そうですね」

 

「もう漏れてる」

 

 式が言う。

 

「はい」

 

 朱乃はそれを否定しなかった。

 

 それで十分だ。

 

 拝殿の脇へ回る。普段、人目につかない方の道だ。表の整った境内とは空気が違う。掃き清められてはいるが、見せるための綺麗さじゃない。支えるための静けさがある。

 

 裏手へ入ると、そこには古木と石組みと、小さな祠があった。地面にはほとんど消えかけた線が残っている。術式の跡だ。かなり古い。けれど、死んではいない。

 

「ここが一番分かりやすい場所です」

 

 朱乃が言う。

 

 表よりこっちの方が、よほど神社の本体に近い。

 

「駒王を抜ける流れは、ここで一度浅く浮きます」

 

 朱乃は古木の根元の方を見た。

 

「ですから、異常があればここに出やすいんです」

 

 絶花がゆっくり目を細める。

 

「……重いです」

 

「切れてない」

 

 式が地面を見たまま言う。

 

「でも、擦られてる」

 

 東郷はしゃがみ込んで、薄く残った線を指先でなぞった。

 

「流れそのものを断つほどではないわね。ただ、上から少し削っている感じ」

 

「誰かが触ってるな」

 

 俺が言うと、朱乃は素直に頷いた。

 

「はい。強くではありません。でも、何度も確かめるみたいに」

 

 俺は地面へ意識を落とす。

 

 龍脈そのものは見えない。けれど、何かがこの下を通っているのは分かる。地の深いところを流れる、大きくて鈍いもの。その表面だけを、誰かが何度も爪で引っかいているような違和感があった。

 

「壊したいわけじゃねえな」

 

「ええ」

 

 東郷が言う。

 

「奪うとか断つとか、そこまで大きい動きではない」

 

「探ってる」

 

 式が短く切る。

 

「入っていいか、試してる感じです」

 

 絶花が続けた。

 

 その見立てに、朱乃は前よりはっきりと笑った。

 

 今度の笑いは、誤魔化しじゃない。こちらの見立てを認める側の笑みだった。

 

「皆さん、思ったよりずっと早いですね」

 

「お前が隠してる割には、痕が素直だからな」

 

 俺が言うと、朱乃は少しだけ肩をすくめた。

 

「そこは反省点かもしれません」

 

「あなたがやったわけではないのね」

 

 東郷が問う。

 

「ええ。ただ、気づいていて見ていたのは事実です」

 

「なぜ黙ってた」

 

 俺が聞く。

 

 朱乃は少しだけ黙った。風が木を鳴らす。さっきまでより、静けさの硬さがはっきり分かる。

 

「……まだ、こちら側だけで処理できる範囲だと思っていたからです」

 

「お前一人の判断じゃないな」

 

 そう言うと、朱乃の目が静かに上がった。

 

「……どうしてそう思われますか」

 

「一人で抱えるにしては、線の引き方が綺麗すぎる」

 

 俺は答える。

 

「ここまで見せる、ここから先は見せない、その切り方が個人じゃねえ」

 

 東郷も頷いた。

 

「“報告しない個人”ではなく、“まだ外へ出さない側”の動き方ね」

 

「上がいる」

 

 式が言う。

 

「はい」

 

 絶花も小さく続けた。

 

「姫島先輩は、見てる人の一人です」

 

 朱乃は否定しなかった。視線だけが少し柔らかくなる。

 

「……鋭い方ばかりですね、本当に」

 

「で、いるのか」

 

 俺が聞く。

 

「はい」

 

 朱乃は短く答える。

 

「ただ、その方たちのことを今ここでお話しするのは、まだ早いです」

 

 なら十分だ。

 

 朱乃一人じゃない。駒王の内側を見ている側が、他にもいる。それだけ分かれば、この神社の話は一段深くなる。

 

 東郷が地図を畳みながら言う。

 

「神社は入口にすぎないわね」

 

「流れの途中」

 

 式が言う。

 

「はい」

 

 絶花も頷く。

 

「ここだけ見ても、たぶん終わりません」

 

「ああ」

 

 俺は裏手の石組みから顔を上げた。

 

「次は、龍脈の先を見る」

 

 朱乃がその言葉で、ほんの少しだけ立ち止まった。

 

「……そこまで行かれるんですね」

 

「止めるか」

 

「いいえ」

 

 答えは早かった。

 

 少し間を置いて、朱乃は続ける。

 

「ただ、次からはもう、神社の見学では済まないと思ってください」

 

 その言い方で分かった。

 

 ようやく本題に入るつもりになったんだろう。

 

 神社の管理者が誰か、じゃない。駒王の下を流れるものに、誰がどう触っているのか。そして姫島朱乃が、その内側のどこに立っているのか。

 

 もう神社の表を見る段階じゃない。

 

 流れの先と、そこへ立つ側の顔を見る段階に入っていた。

 

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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