サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
神社の裏手で龍脈の節を見たことで、話はようやく神社そのものから外へ出た。
管理者が誰か、誰が様子を見ているか、そういう問いが無意味になったわけじゃない。だが今はもう、その問いだけを抱えていても足りない。神社で擦られていた流れが、そこで終わっていないと分かった以上、見るべきは先だ。
「神社の節だけ見ても足りねえ」
石段を下りながら、俺は言った。
「削られてるなら、先にも痕が出る」
東郷が、街灯の下で地図を広げ直す。紙の上には、神社から駒王学園へ向かう地形の流れが細く書き込まれていた。
「神社から抜ける流れ、ここで一度分かれているわ」
「学園か」
「ええ」
東郷は指先で線をなぞる。
「駒王の中で一番、人が集まっているのに、妙に霊的な負荷に耐えている場所へ向かってる」
「学校です」
絶花が小さく言った。
「寄せてる」
式が、感情のない声で続ける。
俺は地図から顔を上げ、朱乃を見る。
「知ってるな」
朱乃はすぐには答えず、一度だけ目を伏せた。
「駒王学園は、表から見える以上に、色々なものが重なっている場所です」
「やっぱりね」
東郷が言う。
「だから、あそこまで流れを触られるのは見過ごせません」
見ている、じゃない。
見過ごせない。
その言い方で、こいつの立ち位置がまた一段はっきりした。姫島朱乃は、事情を知っている側の人間ではある。だが、それだけじゃない。少なくとも、駒王の内側を守る側へ足をかけている。
「行くぞ」
俺が言うと、朱乃は止めなかった。
「本当に、そこまで行くのですね」
「止める理由があるなら聞く」
「ありません」
答えは早かった。
「ただ、次からは“駒王の裏”に入ると思ってください」
「最初からそのつもりだ」
夜の学園は、昼間より輪郭が細い。
生徒の気配が引いて、建物だけが静かに残る。林に近い裏手まで回ると、校舎の壁と木々の間を抜ける風が、わずかに冷たくなった。
神社の裏手と同じだ。
静かだが、ただ静かなわけじゃない。地面の下で何かが薄く上擦っている。龍脈そのものを見ているわけじゃない。けれど、見えない水脈の表面だけを、何度も爪で引っかいているみたいなざらつきがある。
「……神社より強いです」
絶花が言った。
「こっちは深い」
式が短く返す。
「同じ手口だけど、回数が多いわね」
東郷が校舎の外壁へ触れながら言う。
「何度も位置を確かめてる」
「しかも少しずつ前に出てる」
俺も壁に手を当てる。冷たい。その冷たさの奥に、細く嫌な振動が噛んでいる。
朱乃が、林の奥を見たまま言う。
「ここは、学園へ入る前の確認点なんです」
「だったら次は、ここを抜く気だな」
「ええ」
朱乃は認めた。
「まだ本気ではありません。でも、“入れるかもしれない”と見始めています」
壊したいわけじゃない。
奪いたいわけでもない。
ただ、入れるかどうか、通れるかどうかを、何度も小さく確かめている。大きな敵意ではない。だからこそ嫌らしい。
その時だった。
地面の下で、ざらりと流れが揺れた。
絶花がすぐに顔を上げる。
「来ます」
「反応してる」
東郷が声を落とす。
校舎裏の空気が、細く震えた。外壁に残っていた見えない痕が、一瞬だけ浮き上がる。林の葉が風もないのにざわついた。
朱乃が一歩、前へ出る。
その動きに迷いはなかった。さっきまで隣に立っていた人間が、そこで一段深いところへ降りる。そんな一歩だった。
「下がっていてください」
声は柔らかい。
だが、命令として十分に通る。
次の瞬間、朱乃の指先から細い雷光が走った。
大きくはない。派手でもない。けれど、狙いは異様なほど正確だった。荒れかけた流れの上だけをなぞるように雷が走り、ざらついた共鳴を一瞬で裂く。
空気が静まる。
さっきまで校舎裏にへばりついていた嫌な振動が、跡形もなく消えた。
「……速いです」
絶花が言う。
「しかも無駄がない」
東郷が続ける。
「上手い」
式が、ほとんど感心したみたいに落とした。
俺は朱乃の背を見た。
あれは見せる戦い方じゃない。何度も同じことを繰り返してきた人間の動きだ。見つけて、判断して、最小限で斬る。そういう側の手並みだった。
「神社を見るだけの人間じゃねえな」
俺が言うと、朱乃は振り返った。
「今さらですか?」
「確認だ」
朱乃は、少しだけ笑った。
「ええ。見るだけで済むなら、それが一番でしたけれど」
「そうもいかない段階まで来ているのね」
東郷が言う。
「はい。ですから、こうして立っているんです」
「守ってる」
式が言う。
「少なくとも、そのつもりです」
はっきり言った。
ようやく出たな、と思う。
見ている、じゃない。様子を見ている、でもない。守るために、ここへ立っている。それならもう、姫島朱乃は神社の案内役じゃない。駒王の内側を背負う側の一人だ。
けれど、式はそこでさらに一歩踏み込んだ。
「無理してる」
朱乃がわずかに目を細める。
「どういう意味でしょう」
「上手い」
式は淡々と言う。
「でも、上手いのと自然なのは別」
少しの沈黙。
絶花も、小さく頷いた。
「……はい。柔らかいのに、ずっと張ってます」
「力の出し方が綺麗すぎるのよ」
東郷も続ける。
「必要以上に崩さない」
朱乃は困ったように笑う。だが、その笑みの奥で少しだけ呼吸が浅くなったのを、たぶん俺だけじゃなく、全員が見ていた。
「皆さん、本当に見ていらっしゃるんですね」
「隠す気がある割には、今日はよく出るな」
「出さないと、もう足りませんから」
その言い方で、だいたい分かる。
駒王の内側は、もう表向きの整った顔だけで押さえられる段階を越えかけている。少人数か、一人か、それはまだ見えない。だが、朱乃は綺麗な顔のまま、かなり無理をして立っている。
「神社、学園、その間」
東郷が地図を畳みながら言う。
「線はもう見えたわね」
「次は相手」
式が言う。
「はい」
絶花も頷いた。
「痕じゃなくて、触っている方です」
「ああ」
俺は林の奥を見る。
「次はそっちを見る」
朱乃が、そこで少しだけ立ち止まった。
「……そうなるでしょうね」
「まだ止める気はあるか」
「いいえ」
朱乃は首を振る。
「ただ、次は本当に戦いになるかもしれません」
「ならちょうどいい」
龍脈は見えた。
神社の違和感も、学園裏のざらつきも、全部同じ線の上にあった。そして姫島朱乃が、その線の内側に立っていることも。
次に見るのは痕じゃない。
流れを削っている側、そのものだ。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア