サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
扉が、静かに開いた。
オカルト研究部の部室は、見た目だけなら拍子抜けするほど普通だった。机があり、椅子があり、学校の部屋らしい整い方をしている。けれど、一歩目を踏み入れた瞬間に分かる。
ここは、ただの部屋じゃない。
神社の静けさとも違う。龍脈の重さとも違う。もっと人の理に近い、けれど人だけでは作れない空気。誰かがここへ座ることで、部屋そのものが自然にその人のものになっている。そういう収まり方をしていた。
「部長。お連れしました」
朱乃が一歩脇へ退く。
その先、部屋の奥に赤があった。
最初に目に入るのは髪の色だ。夕焼けをそのまま束ねたみたいな赤。けれど、見た目の華やかさより先に来るものがある。座っているだけなのに、この場の中心がそこだと分かる気配だ。
「あら」
少女がこちらを見る。
柔らかい声だった。だが、迎える側の声だった。客を受け入れる言い方をしているのに、場を握っているのは完全に向こうだ。
「ようこそ、というべきかしら」
絶花が、隣でほんの少しだけ息を止める気配がした。
分かる。
朱乃とは違う。柔らかいのに、一歩も退く気がない。押しつけてくる圧じゃない。ただ、最初からここが自分の場所だと知っている人間の静けさだ。
俺は部屋の中央まで進み、足を止めた。
赤髪の少女――リアス・グレモリーが、静かにこちらを見返している。その視線は俺ひとりで終わらなかった。絶花、式、東郷へと流れ、また戻る。
順に見ているようでいて、違う。
最初から俺たちを一つの形として見ている。
「こちらが、八剣太郎さん」
朱乃が言う。
「そして、宮本絶花さん、両儀式さん、東郷美森さんです」
「……なるほど」
リアスが小さく頷く。
「あなたが、太郎くん」
「そうだ」
「朱乃から話は聞いているわ」
東郷が小さく息を吐くのが分かった。たぶん俺と同じことを見ている。
この女は、人数を確認しているんじゃない。どういう国かを見ている。
式は無言のままだったが、視線だけが少し細い。強いものが自然に座っている時の顔だ。
「朱乃を助けてくれたことについては、感謝しているわ」
リアスが言った。
礼は早い。
だが、そのあとに間があった。
「けれど、それとこれとは別よ」
「だろうな」
俺が返すと、リアスの口元がわずかに緩んだ。面白がったのか、納得したのか、その両方か。
「では聞くわ」
声の温度は変わらない。けれど、部屋の空気が一段締まる。
「なぜあなたたちは、神社の節から学園の内側まで踏み込んだのかしら」
来たな、と思った。
礼より先にそこを問う。だったらやっぱり、この女は王だ。
助かったことを認めても、領域へ踏み込んだ理由は別で測る。
絶花の呼吸が少しだけ浅くなる。東郷は逆に静かだ。式は椅子の背を見ているようで、ちゃんとリアスの言葉の刃先を見ている。
「朱乃に頼まれたから、では答えにならないわ」
リアスが続ける。
俺は少しだけ肩の力を抜いた。
「善意だけで動いたわけじゃねえ」
リアスの目が、少しだけ深くなる。
「神社の節を見た。龍脈が触られてた。学園の裏まで線が伸びてた」
部屋の中の静けさに、俺の声だけが真っ直ぐ落ちる。
「駒王に拠点を置いてる以上、あれを“そっちの都合”で切る理由はない」
「つまり?」
「国の外で火が上がってるなら見物で済む」
一拍置く。
「だが、国の中まで火種が入ってるなら別だ」
リアスは何も言わなかった。ただ視線だけが動かない。
「だから見た。見た結果、朱乃個人の話じゃ済まなくなった。それでここまで来た」
言い切る。
礼に寄せる気はない。恩で動いたことにしてもいいが、それじゃ足りない。俺たちは駒王へ拠点を置いている。だったら神社だろうが学園だろうが、内側まで火が入った時点で無関係ではいられない。
東郷が横で、わずかに口元を上げた気配があった。たぶん、答え方が悪くないと思ったんだろう。
「駒王を、もう“他人の街”とは見ていないのね」
リアスが言う。
「少なくとも、無関係な場所じゃない」
俺が返すと、リアスはそこで初めて少しだけ背を椅子へ預けた。
「宮本さん」
今度は絶花へ視線が向く。
「あなたはどう思ったのかしら」
絶花が少しだけ目を伏せる。緊張していないわけじゃない。だが逃げる気配はない。
「……放っておけないと思いました」
「朱乃が?」
「それもあります」
絶花は息を整えてから続けた。
「でも、それだけじゃないです。神社も、学園も、空気が変でした」
リアスが静かに聞いている。
「あのままだと、駒王の中の通り方そのものが変になる感じがしました」
「空気の変化、ね」
「はい」
絶花は頷く。
「先輩個人を助ける、だけじゃなくて。駒王の中の変なものを止める感じでした」
真っ直ぐだ。
飾らないし、上手くもない。だが、だから嘘がない。
朱乃が、ほんの少しだけ目を細めた。たぶんこの場で一番、その言葉のまっすぐさを知っているのはこいつだ。
「なるほど」
リアスが指先を軽く組む。
「朱乃の報告だけでは、まだ判断しきれなかったけれど」
視線が、また俺たち全体へ向く。
「少なくとも、あなたたちが駒王を壊すために動いているわけではないことは分かったわ」
「そりゃどうも」
「でも、それで安心するほど簡単でもない」
東郷がそこで口を開く。
「外から拠点を持ち込んだ勢力、という見方は変わらないものね」
「ええ」
リアスは迷わず頷いた。
「駒王の中へ根を下ろし始めている以上、無視していい存在ではないわ」
「正しい」
式が短く言った。
リアスが式を見る。
「でしょう?」
「そういう場所だ」
それだけ言って、式は黙った。
優しくはある。だが甘くはない。
朱乃と似ているようで、もっとはっきり主の側だ。朱乃は守る側の一人として立っていたが、リアスは守る側そのものの判断を下す位置にいる。
しばらくの沈黙のあと、リアスが言った。
「今日はここまでにしましょう」
「引くのか」
「ええ」
リアスは少しも急がない。
「私が見るべきものは見えたから」
絶花が、小さく問う。
「……次は、ありますか」
「あるわ」
リアスは即答した。
「次は、あなたたちに“こちら側”を見せる番よ」
「見せる番、か」
「ええ」
リアスの目が、少しだけ鋭くなる。
「駒王の内側に関わるなら、神社や龍脈だけでは足りないもの」
「……部長」
朱乃が小さく呼ぶ。
「そうでしょう、朱乃」
「はい」
朱乃は静かに頭を下げた。
礼だけで終わらない。測って終わりでもない。次は向こうの理を見せる。そう言うなら、やっぱりこの女は駒王の王だ。
俺は立ったまま、リアスを見た。
赤い髪。整った顔。だが、そのどれより先に残るのは、座っているだけで場を自分のものにしている気配だ。神社の節とも、龍脈の重さとも、朱乃の雷とも違う、人の王の領域。
王と会うってのは、こういうことなんだろう。
相手がどれだけ笑おうが、どれだけ穏やかだろうが、一歩も譲らない線が最初からそこにある。
「分かった」
俺は言う。
「なら次は、そっちを見る」
リアスがわずかに笑う。
「ええ。それでいいわ」
その笑みは柔らかい。けれど、歓迎だけではない。確認の上に置かれた笑みだ。
それで十分だった。
俺たちはまだ味方じゃない。敵でもない。ただ、同じ駒王の内側へ踏み込み始めた別々の王だ。
だったら次は、向こうの理を見る番だ。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア