サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
リアス・グレモリーの部屋は、静かだった。
神社の静けさとは違う。あれは土地の下を流れるものを押さえるための静けさだ。こっちはもっと、人の理に近い。誰かがそこへ座ることで、空気そのものが自然に従う静けさだった。
オカルト研究部の部室を見回す。
見た目だけなら、拍子抜けするほど普通だ。机があり、棚があり、書類があり、放課後の部室らしい形をしている。けど、その整い方の中心に、赤い髪の少女がいるだけで、全部の意味が変わる。
「では、話の続きをしましょうか」
リアスが言った。
声は柔らかい。けれど、その柔らかさのままで主導権を握っている。そこでようやく、朱乃が神社や学園裏で見せていた“守る側の理”が、どこから来ていたのか少し分かった気がした。
「こっちを見せる番、だったな」
俺が返すと、リアスは小さく頷いた。
「ええ。神社の節や龍脈の流れだけでは、駒王の内側は半分も見えないわ」
絶花が部屋の空気を読むように目を細める。
「……ここが、その中心ですか」
「中心の一つ、というところね」
言い切り方に無理がない。
強い言葉を使っているのに、威張っている感じがしない。最初からそのくらいの位置にいる人間の言い方だ。
「この部屋は、表向きはただの部室です」
朱乃が、俺たちの少し前に立ったまま言う。
「でも、部長にとってはそれだけではありません」
“説明している”というより、“通している”言い方だった。
ここは自分のいる場所であり、同時に自分だけの場所ではない。そういう線引きが、朱乃の一言にきっちり入っている。
「駒王学園の中で、私たちはオカルト研究部として存在しているわ」
リアスが続ける。
「隠しているというより、表に置いているのね」
東郷が言った。
「ええ。見せないために隠すより、見せ方を決めて置いた方が安定することもあるの」
「主のやり方だ」
式が短く言う。
リアスがそっちを見る。目だけで、少し面白がったみたいだった。
「そうかもしれないわね」
「部長は、昔からそういう方です」
朱乃が自然に補足した。
「表札つきの拠点ってわけか」
俺が言うと、リアスは「そう思ってもらって構わないわ」と返した。
神社は節だった。龍脈は流れだった。ここはもっとはっきりしている。人がいて、意思があって、管理と統治の線が通っている。駒王の内側を守る理が、やっと“部屋”になって見えた。
その時、部室の奥で小さな気配が動いた。
窓際。白い髪。小柄な身体。座っているというより、静かにこちらを見ている。
「……います」
絶花が言う。
「ええ」
リアスが振り返りもせずに答えた。
「こちらも、あなたたちを見ておくべきだと思ったの」
「……別に、見たかったわけじゃないです」
小さな声が落ちる。
塔城小猫だった。
前に見た時より、今は明らかに“こっち側”の席に座っている。外から白い気配として見た時とも、黒歌の傷の続きを感じた時とも違う。ここではちゃんと、リアスの内側にいる顔をしていた。
「小猫ちゃんは少し素直ではありませんけれど、気にしないでくださいね」
朱乃が柔らかく言う。
「朱乃先輩」
小猫が少しだけ眉を寄せる。
リアスがふっと笑う。
そのやり取りだけで、この部屋の空気の一端が見える。緊張はある。けれど、ただ張り詰めているだけじゃない。ちゃんと日常もある。その日常ごと、リアスの領域に組み込まれている。
「神社、学園、龍脈」
リアスが指先を軽く組んだ。
「あなたたちはそれを別々に見たかもしれないけれど、私たちにとっては全部ひとつの話よ」
「駒王の内側、ってことか」
「ええ」
リアスは頷く。
「土地も、人も、境界も、全部まとめて“守るべき領域”として見ているわ」
「管理、というより統治ね」
東郷が言う。
「その方が近いわ」
絶花がリアスと朱乃を順に見る。
「だから、朱乃先輩が神社にも学園にも立っていたんですね」
「はい。どちらも部長の領域の内側ですから」
「……朱乃先輩は、抱え込みすぎです」
小猫がぽつりと言った。
「あらあら」
朱乃は笑うだけだったが、小猫の方は本気で言っているのが分かる。
リアスはそれを止めなかった。止めないということは、部の中ではもう十分通じている言葉なんだろう。
「では次に聞くわ」
リアスの声で、空気が少し締まった。
まだ終わっていないらしい。
「まだあるか」
俺が言うと、リアスは「ええ」と迷わず返した。
「あなたたちは、駒王を“無関係ではない場所”と言った」
「言ったな」
「なら、どこまでなら自分の問題として背負うのかしら」
重い問いだ。
絶花の呼吸がわずかに止まる。東郷は「試しというより、線引きの確認ね」と小さく言った。式は何も言わない。だが、見ている。
リアスは俺だけを試しているわけじゃない。この場で、太郎個人と、その後ろにある形と、その形がどこまで伸びるつもりかを見ている。
「全部とは言わねえ」
俺はすぐに返した。
リアスの目が細くなる。
「だが、拠点を置いて、見て、関わった以上、火が入った場所だけ切り離して“そっちの問題”とは言わねえよ」
少しの沈黙。
部室の窓の外で、夕方の光が少しだけ色を落とす。
「……分かったわ」
リアスが言った。
「何がだ」
「あなたたちが、少なくとも“面倒だから助けた”程度の軽さではここへ来ていないことよ」
「最初からそう見えましたけど」
小猫が言う。
東郷が少しだけそっちを見た。
「あなたはだいぶ早い段階で見ていたものね」
「別に」
素っ気ない。だが、完全な拒絶でもない。
「信用したわけではないわ」
リアスがはっきり言う。
「でも、軽く扱っていい相手でもない」
「それで十分」
式が言う。
「ありがとうございます、部長」
朱乃が静かに頭を下げた。
「礼を言うのはまだ早いわ、朱乃」
その言い方は厳しくない。けれど甘くもなかった。
朱乃は「はい」とだけ返す。
部長と部員。主と女王。親しいのに、そこに線が残っている。さっきまで会話の温度で見えていたものが、その短いやり取りでさらに輪郭を持った。
しばらくして、リアスが立ち上がった。
ただ立っただけなのに、部室の空気が少し動く。
「今日はここまでにしておきましょう」
「またここで話すのか」
「いいえ」
リアスが俺を見る。
「次は、実際に見てもらうわ。こちら側の理が、机の上だけで済まないことを」
「……現場、ですね」
絶花が言う。
「はい」
朱乃が頷く。
「おそらく、その方が早いです」
「つまり次は、共闘の前段階」
東郷が整理するように言う。
「見る」
式は短い。
「……勝手に死なないでください」
小猫がぽつりと落とす。
「そっちもな」
俺が返すと、小猫は少しだけ顔を逸らした。
リアスがふっと笑う。
「では、次は駒王の“内側の仕事”で会いましょう」
その言葉で、この話は終わった。
礼だけではない。確認だけでもない。次は現場で、駒王の内側を守る理そのものを見る。そう言われた以上、もう俺たちは客として呼ばれただけじゃない。
まだ味方じゃない。だが、少なくとも理を見せる相手としては認められた。
それで十分だ。
俺は部室を出る前に、一度だけ振り返る。
赤い髪の王。静かに立つ女王。白い視線でこちらを見る小さな騎士。部屋そのものがもう、一つの国みたいにまとまっていた。
駒王の内側は、神社や龍脈だけじゃ終わらない。
女王は誰にする?
-
アルファ
-
ララ·サタリン·デビルーク
-
エミリア