※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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こちら側の理

 リアス・グレモリーの部屋は、静かだった。

 

 神社の静けさとは違う。あれは土地の下を流れるものを押さえるための静けさだ。こっちはもっと、人の理に近い。誰かがそこへ座ることで、空気そのものが自然に従う静けさだった。

 

 オカルト研究部の部室を見回す。

 

 見た目だけなら、拍子抜けするほど普通だ。机があり、棚があり、書類があり、放課後の部室らしい形をしている。けど、その整い方の中心に、赤い髪の少女がいるだけで、全部の意味が変わる。

 

「では、話の続きをしましょうか」

 

 リアスが言った。

 

 声は柔らかい。けれど、その柔らかさのままで主導権を握っている。そこでようやく、朱乃が神社や学園裏で見せていた“守る側の理”が、どこから来ていたのか少し分かった気がした。

 

「こっちを見せる番、だったな」

 

 俺が返すと、リアスは小さく頷いた。

 

「ええ。神社の節や龍脈の流れだけでは、駒王の内側は半分も見えないわ」

 

 絶花が部屋の空気を読むように目を細める。

 

「……ここが、その中心ですか」

 

「中心の一つ、というところね」

 

 言い切り方に無理がない。

 

 強い言葉を使っているのに、威張っている感じがしない。最初からそのくらいの位置にいる人間の言い方だ。

 

「この部屋は、表向きはただの部室です」

 

 朱乃が、俺たちの少し前に立ったまま言う。

 

「でも、部長にとってはそれだけではありません」

 

 “説明している”というより、“通している”言い方だった。

 

 ここは自分のいる場所であり、同時に自分だけの場所ではない。そういう線引きが、朱乃の一言にきっちり入っている。

 

「駒王学園の中で、私たちはオカルト研究部として存在しているわ」

 

 リアスが続ける。

 

「隠しているというより、表に置いているのね」

 

 東郷が言った。

 

「ええ。見せないために隠すより、見せ方を決めて置いた方が安定することもあるの」

 

「主のやり方だ」

 

 式が短く言う。

 

 リアスがそっちを見る。目だけで、少し面白がったみたいだった。

 

「そうかもしれないわね」

 

「部長は、昔からそういう方です」

 

 朱乃が自然に補足した。

 

「表札つきの拠点ってわけか」

 

 俺が言うと、リアスは「そう思ってもらって構わないわ」と返した。

 

 神社は節だった。龍脈は流れだった。ここはもっとはっきりしている。人がいて、意思があって、管理と統治の線が通っている。駒王の内側を守る理が、やっと“部屋”になって見えた。

 

 その時、部室の奥で小さな気配が動いた。

 

 窓際。白い髪。小柄な身体。座っているというより、静かにこちらを見ている。

 

「……います」

 

 絶花が言う。

 

「ええ」

 

 リアスが振り返りもせずに答えた。

 

「こちらも、あなたたちを見ておくべきだと思ったの」

 

「……別に、見たかったわけじゃないです」

 

 小さな声が落ちる。

 

 塔城小猫だった。

 

 前に見た時より、今は明らかに“こっち側”の席に座っている。外から白い気配として見た時とも、黒歌の傷の続きを感じた時とも違う。ここではちゃんと、リアスの内側にいる顔をしていた。

 

「小猫ちゃんは少し素直ではありませんけれど、気にしないでくださいね」

 

 朱乃が柔らかく言う。

 

「朱乃先輩」

 

 小猫が少しだけ眉を寄せる。

 

 リアスがふっと笑う。

 

 そのやり取りだけで、この部屋の空気の一端が見える。緊張はある。けれど、ただ張り詰めているだけじゃない。ちゃんと日常もある。その日常ごと、リアスの領域に組み込まれている。

 

「神社、学園、龍脈」

 

 リアスが指先を軽く組んだ。

 

「あなたたちはそれを別々に見たかもしれないけれど、私たちにとっては全部ひとつの話よ」

 

「駒王の内側、ってことか」

 

「ええ」

 

 リアスは頷く。

 

「土地も、人も、境界も、全部まとめて“守るべき領域”として見ているわ」

 

「管理、というより統治ね」

 

 東郷が言う。

 

「その方が近いわ」

 

 絶花がリアスと朱乃を順に見る。

 

「だから、朱乃先輩が神社にも学園にも立っていたんですね」

 

「はい。どちらも部長の領域の内側ですから」

 

「……朱乃先輩は、抱え込みすぎです」

 

 小猫がぽつりと言った。

 

「あらあら」

 

 朱乃は笑うだけだったが、小猫の方は本気で言っているのが分かる。

 

 リアスはそれを止めなかった。止めないということは、部の中ではもう十分通じている言葉なんだろう。

 

「では次に聞くわ」

 

 リアスの声で、空気が少し締まった。

 

 まだ終わっていないらしい。

 

「まだあるか」

 

 俺が言うと、リアスは「ええ」と迷わず返した。

 

「あなたたちは、駒王を“無関係ではない場所”と言った」

 

「言ったな」

 

「なら、どこまでなら自分の問題として背負うのかしら」

 

 重い問いだ。

 

 絶花の呼吸がわずかに止まる。東郷は「試しというより、線引きの確認ね」と小さく言った。式は何も言わない。だが、見ている。

 

 リアスは俺だけを試しているわけじゃない。この場で、太郎個人と、その後ろにある形と、その形がどこまで伸びるつもりかを見ている。

 

「全部とは言わねえ」

 

 俺はすぐに返した。

 

 リアスの目が細くなる。

 

「だが、拠点を置いて、見て、関わった以上、火が入った場所だけ切り離して“そっちの問題”とは言わねえよ」

 

 少しの沈黙。

 

 部室の窓の外で、夕方の光が少しだけ色を落とす。

 

「……分かったわ」

 

 リアスが言った。

 

「何がだ」

 

「あなたたちが、少なくとも“面倒だから助けた”程度の軽さではここへ来ていないことよ」

 

「最初からそう見えましたけど」

 

 小猫が言う。

 

 東郷が少しだけそっちを見た。

 

「あなたはだいぶ早い段階で見ていたものね」

 

「別に」

 

 素っ気ない。だが、完全な拒絶でもない。

 

「信用したわけではないわ」

 

 リアスがはっきり言う。

 

「でも、軽く扱っていい相手でもない」

 

「それで十分」

 

 式が言う。

 

「ありがとうございます、部長」

 

 朱乃が静かに頭を下げた。

 

「礼を言うのはまだ早いわ、朱乃」

 

 その言い方は厳しくない。けれど甘くもなかった。

 

 朱乃は「はい」とだけ返す。

 

 部長と部員。主と女王。親しいのに、そこに線が残っている。さっきまで会話の温度で見えていたものが、その短いやり取りでさらに輪郭を持った。

 

 しばらくして、リアスが立ち上がった。

 

 ただ立っただけなのに、部室の空気が少し動く。

 

「今日はここまでにしておきましょう」

 

「またここで話すのか」

 

「いいえ」

 

 リアスが俺を見る。

 

「次は、実際に見てもらうわ。こちら側の理が、机の上だけで済まないことを」

 

「……現場、ですね」

 

 絶花が言う。

 

「はい」

 

 朱乃が頷く。

 

「おそらく、その方が早いです」

 

「つまり次は、共闘の前段階」

 

 東郷が整理するように言う。

 

「見る」

 

 式は短い。

 

「……勝手に死なないでください」

 

 小猫がぽつりと落とす。

 

「そっちもな」

 

 俺が返すと、小猫は少しだけ顔を逸らした。

 

 リアスがふっと笑う。

 

「では、次は駒王の“内側の仕事”で会いましょう」

 

 その言葉で、この話は終わった。

 

 礼だけではない。確認だけでもない。次は現場で、駒王の内側を守る理そのものを見る。そう言われた以上、もう俺たちは客として呼ばれただけじゃない。

 

 まだ味方じゃない。だが、少なくとも理を見せる相手としては認められた。

 

 それで十分だ。

 

 俺は部室を出る前に、一度だけ振り返る。

 

 赤い髪の王。静かに立つ女王。白い視線でこちらを見る小さな騎士。部屋そのものがもう、一つの国みたいにまとまっていた。

 

 駒王の内側は、神社や龍脈だけじゃ終わらない。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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