サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
オカルト研究部を出た時、もう校舎の窓には夕方の色が薄く残るだけだった。
放課後の学園は、正門の方から見ればいつも通りだ。部活帰りの声が遠くで混じり、風が木を揺らし、街の方から車の音が遅れて届く。けど、リアス・グレモリーの後ろについて歩くと、その“いつも通り”の下に別の流れがあるのがよく分かる。
「今日は、神社や龍脈ほど大きな話ではないわ」
先を歩くリアスが言った。
「小さい異変か」
「ええ。でも、こういうものを放っておくと、あとで大きな話へ繋がるの」
朱乃が、リアスの少し後ろで続ける。
「駒王では、こういう“目立たない仕事”の方がむしろ多いんです」
「……積もる前に処理するんですね」
絶花が言うと、窓際を歩いていた小猫が短く返した。
「そうです。大きくなってからだと面倒なので」
言い方はぶっきらぼうだが、間違ってはいない。むしろ、そういう仕事ほど日常の裏に沈んで見えなくなる。
東郷が、周囲の空気を測るみたいに目を細めた。
「痕跡が少ないということは、今まで何度も処理されてきたのね」
「ええ」
リアスは振り返らないまま頷く。
「表へ出る前に消すのも、こちらの仕事よ」
俺はその背中を見る。
神社の節を見ていた時の朱乃は、守る側の一人だった。今前を歩いているリアスは、その守りの理そのものを背負っている。現場へ向かう足取りに迷いがないのは、そこがもう自分の領域の中だからだ。
学園を出て、住宅街の外れへ回る。古い公園だった。
昼間なら子供が走り回ってそうな場所だが、今は誰もいない。滑り台とブランコと、色の褪せたベンチ。見た目は何も変わらない。変わらないくせに、入った瞬間、空気の底に薄く濁りがあるのが分かった。
「ここです」
朱乃が立ち止まる。
絶花がすぐに目を細めた。
「……います。でも、敵というより、溜まりかけてる感じです」
「結界の綻びと、人の残り気配が噛み合ってるわね」
東郷が周囲を見る。
「夜になると寄りやすい形だわ」
「放っておくと、夜に増えます」
小猫が公園の端へ目を向けたまま言う。
「小さいうちなら散らせるけど、重なると面倒です」
「腐る前の段階」
式が短く落とした。
なるほど。龍脈みたいな大きな流れの乱れじゃない。もっと小さい。だが、小さいからこそ日常のすぐ横にある。人の感情の澱み、結界の端の薄れ、場に残った嫌な気配。それが少しずつ噛み合って、夜に形を持ち始める前の状態。
「こういうのを潰して回ってるわけか」
俺が言うと、リアスは公園の中央を見たまま答えた。
「“潰す”だけではないわ。散らして、整えて、次に溜まりにくくするの」
その言い方で分かる。こいつらは単に怪異退治をしてるんじゃない。駒王を保つための手入れをしているんだ。
リアスが、短く指示を出す。
「朱乃、右の流れを抑えて」
「はい、部長」
「小猫は左を」
「分かってます」
朱乃の周囲に、細い雷気が静かに広がる。派手じゃない。けど、場のざらついた空気だけを均していく雷だ。小猫は音もなく端へ入り、結界の綻びへ直接手を入れるみたいに低く身を沈めた。
見せるための動きじゃない。
普段からそうしてる形だ。
東郷も同じことを見たらしく、小さく息を吐いた。
「なるほど。部活動の顔をしていても、やっていることは完全に陣営戦ね」
「主と女王と近衛、か」
俺が言うと、リアスが少しだけ笑った。
「言い方はどうでもいいわ。でも、役割はだいたいそういうものね」
その時だった。
公園の奥、使われていない砂場のあたりで、空気がふっと広がった。
「……広がります」
絶花がすぐに言う。
「朱乃先輩、右じゃなくて奥です」
朱乃の目がわずかに細まる。
「部長、少しだけ残滓が混じっています」
「やっぱり簡単には終わらないわね」
リアスが踏み出す。
東郷が、ベンチの陰と砂場の端を見比べた。
「右奥に偏りがあるわ。そこだけ流れが噛んでる」
「切れば済む」
式が言う。
俺は絶花を見る。
「位置を見ろ。式、余計な線だけ落とせ」
「はい」
「分かった」
リアスがこちらを見た。
止める気配はない。むしろ、どう入るか見ている。
だったら遠慮はいらない。
絶花の視線が砂場の奥へ吸い込まれる。
「そこです。二重に重なってます」
式が一歩出る。刃が抜かれる音はほとんどしなかった。地面の上に溜まりかけていた嫌な線だけが、細く断たれる。
同時に、朱乃の雷がその上を走る。
俺は残った中心へ踏み込んだ。人の感情の澱みみたいに沈んでいた気配へ圧をかける。散らす。押し潰すんじゃない。寄る前に形を崩す。
空気が揺れた。
ざらつきが一度膨らみかけ、そこで止まる。小猫が左からその端を押さえ込んだ。
「……終わりです」
小猫が言う。
公園の底にあった濁りが、ようやく薄くほどけていく。
少しの沈黙のあと、リアスがこちらを見た。
「……止めなくてもよさそうね」
「止めるなら止めろ」
俺が言うと、リアスは肩をすくめた。
「いいえ。少なくとも、今の動きなら問題ないわ」
「部長」
朱乃が小さく呼ぶ。
「朱乃。この人たちは、思ったより“見てから入る”わ」
「……乱暴ではないです」
小猫がぽつりと言った。
東郷が少しだけ笑う。
「褒め言葉として受け取っていいのかしら」
「別に」
「たぶん、いい方です」
絶花が真面目に補足する。
小猫はそれに何も返さなかったが、否定もしなかった。
公園の空気は、さっきよりだいぶ軽い。まだ完全に澄み切ったわけじゃないが、夜に嫌なものが寄る形ではなくなっている。
「これで今日は十分ね」
リアスが言う。
「日常業務の見学にしちゃ、だいぶ面倒だったが」
「駒王の内側なんて、そんなものよ」
リアスはさらっと返す。
「小さいものほど、積もると面倒になりますから」
朱乃が続ける。
絶花は少しだけ考えるように、公園の端に残る静けさを見ていた。
「……でも、少し分かりました」
「何がかしら」
リアスが問う。
「朱乃先輩が、ずっと立っていた理由です」
絶花は真っ直ぐ答える。
「神社だけじゃなくて、こういうのも全部なんですね」
朱乃が、わずかに目を細めた。
「ええ。部長の領域の内側なので」
その言い方に、無理がない。重いのに、自然だ。
リアスは少しだけ笑った。
「次は、もう少し深いものを見せるわ」
「龍脈の残りか」
「それも含めて、ね」
そう言って、公園の出口へ向かう。
駒王の王は、机の上だけで話さない。自分の領域を、自分の足で見せる。その上で判断する。
神社の節、学園の重なり、こういう小さな綻び。
全部まとめて駒王の内側だ。
だったら次へ行く意味がある。今回見たのは、その入口にすぎない。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア