※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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駒王の内側の仕事

 オカルト研究部を出た時、もう校舎の窓には夕方の色が薄く残るだけだった。

 

 放課後の学園は、正門の方から見ればいつも通りだ。部活帰りの声が遠くで混じり、風が木を揺らし、街の方から車の音が遅れて届く。けど、リアス・グレモリーの後ろについて歩くと、その“いつも通り”の下に別の流れがあるのがよく分かる。

 

「今日は、神社や龍脈ほど大きな話ではないわ」

 

 先を歩くリアスが言った。

 

「小さい異変か」

 

「ええ。でも、こういうものを放っておくと、あとで大きな話へ繋がるの」

 

 朱乃が、リアスの少し後ろで続ける。

 

「駒王では、こういう“目立たない仕事”の方がむしろ多いんです」

 

「……積もる前に処理するんですね」

 

 絶花が言うと、窓際を歩いていた小猫が短く返した。

 

「そうです。大きくなってからだと面倒なので」

 

 言い方はぶっきらぼうだが、間違ってはいない。むしろ、そういう仕事ほど日常の裏に沈んで見えなくなる。

 

 東郷が、周囲の空気を測るみたいに目を細めた。

 

「痕跡が少ないということは、今まで何度も処理されてきたのね」

 

「ええ」

 

 リアスは振り返らないまま頷く。

 

「表へ出る前に消すのも、こちらの仕事よ」

 

 俺はその背中を見る。

 

 神社の節を見ていた時の朱乃は、守る側の一人だった。今前を歩いているリアスは、その守りの理そのものを背負っている。現場へ向かう足取りに迷いがないのは、そこがもう自分の領域の中だからだ。

 

 学園を出て、住宅街の外れへ回る。古い公園だった。

 

 昼間なら子供が走り回ってそうな場所だが、今は誰もいない。滑り台とブランコと、色の褪せたベンチ。見た目は何も変わらない。変わらないくせに、入った瞬間、空気の底に薄く濁りがあるのが分かった。

 

「ここです」

 

 朱乃が立ち止まる。

 

 絶花がすぐに目を細めた。

 

「……います。でも、敵というより、溜まりかけてる感じです」

 

「結界の綻びと、人の残り気配が噛み合ってるわね」

 

 東郷が周囲を見る。

 

「夜になると寄りやすい形だわ」

 

「放っておくと、夜に増えます」

 

 小猫が公園の端へ目を向けたまま言う。

 

「小さいうちなら散らせるけど、重なると面倒です」

 

「腐る前の段階」

 

 式が短く落とした。

 

 なるほど。龍脈みたいな大きな流れの乱れじゃない。もっと小さい。だが、小さいからこそ日常のすぐ横にある。人の感情の澱み、結界の端の薄れ、場に残った嫌な気配。それが少しずつ噛み合って、夜に形を持ち始める前の状態。

 

「こういうのを潰して回ってるわけか」

 

 俺が言うと、リアスは公園の中央を見たまま答えた。

 

「“潰す”だけではないわ。散らして、整えて、次に溜まりにくくするの」

 

 その言い方で分かる。こいつらは単に怪異退治をしてるんじゃない。駒王を保つための手入れをしているんだ。

 

 リアスが、短く指示を出す。

 

「朱乃、右の流れを抑えて」

 

「はい、部長」

 

「小猫は左を」

 

「分かってます」

 

 朱乃の周囲に、細い雷気が静かに広がる。派手じゃない。けど、場のざらついた空気だけを均していく雷だ。小猫は音もなく端へ入り、結界の綻びへ直接手を入れるみたいに低く身を沈めた。

 

 見せるための動きじゃない。

 

 普段からそうしてる形だ。

 

 東郷も同じことを見たらしく、小さく息を吐いた。

 

「なるほど。部活動の顔をしていても、やっていることは完全に陣営戦ね」

 

「主と女王と近衛、か」

 

 俺が言うと、リアスが少しだけ笑った。

 

「言い方はどうでもいいわ。でも、役割はだいたいそういうものね」

 

 その時だった。

 

 公園の奥、使われていない砂場のあたりで、空気がふっと広がった。

 

「……広がります」

 

 絶花がすぐに言う。

 

「朱乃先輩、右じゃなくて奥です」

 

 朱乃の目がわずかに細まる。

 

「部長、少しだけ残滓が混じっています」

 

「やっぱり簡単には終わらないわね」

 

 リアスが踏み出す。

 

 東郷が、ベンチの陰と砂場の端を見比べた。

 

「右奥に偏りがあるわ。そこだけ流れが噛んでる」

 

「切れば済む」

 

 式が言う。

 

 俺は絶花を見る。

 

「位置を見ろ。式、余計な線だけ落とせ」

 

「はい」

 

「分かった」

 

 リアスがこちらを見た。

 

 止める気配はない。むしろ、どう入るか見ている。

 

 だったら遠慮はいらない。

 

 絶花の視線が砂場の奥へ吸い込まれる。

 

「そこです。二重に重なってます」

 

 式が一歩出る。刃が抜かれる音はほとんどしなかった。地面の上に溜まりかけていた嫌な線だけが、細く断たれる。

 

 同時に、朱乃の雷がその上を走る。

 

 俺は残った中心へ踏み込んだ。人の感情の澱みみたいに沈んでいた気配へ圧をかける。散らす。押し潰すんじゃない。寄る前に形を崩す。

 

 空気が揺れた。

 

 ざらつきが一度膨らみかけ、そこで止まる。小猫が左からその端を押さえ込んだ。

 

「……終わりです」

 

 小猫が言う。

 

 公園の底にあった濁りが、ようやく薄くほどけていく。

 

 少しの沈黙のあと、リアスがこちらを見た。

 

「……止めなくてもよさそうね」

 

「止めるなら止めろ」

 

 俺が言うと、リアスは肩をすくめた。

 

「いいえ。少なくとも、今の動きなら問題ないわ」

 

「部長」

 

 朱乃が小さく呼ぶ。

 

「朱乃。この人たちは、思ったより“見てから入る”わ」

 

「……乱暴ではないです」

 

 小猫がぽつりと言った。

 

 東郷が少しだけ笑う。

 

「褒め言葉として受け取っていいのかしら」

 

「別に」

 

「たぶん、いい方です」

 

 絶花が真面目に補足する。

 

 小猫はそれに何も返さなかったが、否定もしなかった。

 

 公園の空気は、さっきよりだいぶ軽い。まだ完全に澄み切ったわけじゃないが、夜に嫌なものが寄る形ではなくなっている。

 

「これで今日は十分ね」

 

 リアスが言う。

 

「日常業務の見学にしちゃ、だいぶ面倒だったが」

 

「駒王の内側なんて、そんなものよ」

 

 リアスはさらっと返す。

 

「小さいものほど、積もると面倒になりますから」

 

 朱乃が続ける。

 

 絶花は少しだけ考えるように、公園の端に残る静けさを見ていた。

 

「……でも、少し分かりました」

 

「何がかしら」

 

 リアスが問う。

 

「朱乃先輩が、ずっと立っていた理由です」

 

 絶花は真っ直ぐ答える。

 

「神社だけじゃなくて、こういうのも全部なんですね」

 

 朱乃が、わずかに目を細めた。

 

「ええ。部長の領域の内側なので」

 

 その言い方に、無理がない。重いのに、自然だ。

 

 リアスは少しだけ笑った。

 

「次は、もう少し深いものを見せるわ」

 

「龍脈の残りか」

 

「それも含めて、ね」

 

 そう言って、公園の出口へ向かう。

 

 駒王の王は、机の上だけで話さない。自分の領域を、自分の足で見せる。その上で判断する。

 

 神社の節、学園の重なり、こういう小さな綻び。

 

 全部まとめて駒王の内側だ。

 

 だったら次へ行く意味がある。今回見たのは、その入口にすぎない。

 

 

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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