サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
「なあ、エレン。ちょっと街に出ないか?」
俺が声をかけると、布団にくるまっていたエレンが顔だけを出した。サメの尻尾がだらりと垂れ、機嫌悪そうに揺れている。
「めんどい。寝る」
「昼過ぎだぞ。いつまで寝てるつもりだ」
「永遠に」
「お前はプリンセスかよ」
俺は布団を剥ぎ取り、エレンの腕を引っ張った。彼女は「うー」と唸りながら、しぶしぶ起き上がる。寝癖で跳ねた黒髪と、半分閉じた赤い瞳が、いかにも不機嫌そうだ。
「王様のくせに、強引すぎ」
「王だから強引なんだよ。ほら、さっさと着替えろ。街で仕事を探すぞ」
「はいはい」
エレンは気だるげに返事をしながら、のろのろと着替えを始めた。俺はその間に、今日の作戦を頭の中で組み立てる。建設現場はガーフィールとマンモスマンで手一杯だ。スナックはレオーネが独占している。ならば、エレンには別の分野を開拓してもらう必要がある。
十分後、俺たちは駒王街の繁華街を歩いていた。休日の午後とあって、通りは多くの買い物客で賑わっている。エレンは俺の半歩後ろを歩きながら、興味なさそうに周囲を見回していた。彼女のサメの尻尾は今は隠しているが、時折スカートの裾が不自然に揺れる。
「で、どんな仕事を探すの」
「お前に向いてる仕事だ。接客は無理、肉体労働は嫌、愛想笑いもできない。なら、何が残る?」
「…寝る仕事」
「そんなもんあるか」
俺がため息をついたその時だった。エレンの足がぴたりと止まった。彼女の視線は、通りに面した一軒の店のウィンドウに釘付けになっている。黒を基調にしたメイド服が、マネキンに着せられて展示されていた。フリルがあしらわれた白いエプロン、短めのスカート、レースのカチューシャ。
「どうした、エレン?」
「…別に」
エレンはそう言いながらも、メイド服から目を離さない。普段は無表情な彼女の瞳が、ほんの少しだけ輝いているように見えた。
「お前、メイド服に興味があるのか?」
「ない」
「嘘つけ。さっきからずっと見てるじゃねぇか」
「見てない」
「見てた」
「見てない」
「いや、ガン見だったぞ。あのフリルのところとか、エプロンの刺繍とか、スカートの丈とか、じーっと」
「…うるさい」
エレンは顔を赤くして俺を睨んだ。どうやら図星らしい。彼女は普段、ヴィクトリア家政のメイド服を着ているが、それは戦闘用の実用的なデザインだ。こういう可愛らしいメイド服とは別物なのだろう。
「そうか、メイド服か…」
俺は顎に手を当てて考え込んだ。エレンはメイドとしての経験がある。ヴィクトリア家政で培ったスキルは、人間の世界でも通用するはずだ。問題は、彼女の気だるげな性格が接客業に向いているかどうかだが――。
「あ、いいこと思いついた」
俺は近くの電柱に貼ってあった求人チラシを剥がし、エレンの眼前に突きつけた。
『メイド喫茶「にゃんにゃんぱらだいす」アルバイト募集中!未経験者歓迎!時給千二百円!まかない付き!』
「…は?」
エレンの顔から表情が消えた。いや、正確には驚愕と嫌悪と困惑が混ざり合った、非常に複雑な表情だ。
「これだ、エレン。お前、メイド服を着たいんだろ?なら、メイド喫茶で働けばいい。一石二鳥じゃねぇか」
「なにが一石二鳥なの。意味わかんない」
「だって、お前メイド服好きなんだろ?」
「好きじゃない」
「でも、さっきあの服をじっと見てた」
「あれは、ただの観察」
「観察?」
「そう。人間のメイド服のデザインを分析してただけ」
「ふーん、分析ねぇ…」
俺はニヤリと笑いながら、チラシをひらひらと揺らした。
「なら、その分析を活かせる仕事がメイド喫茶だ。完璧だろ?」
「完璧じゃない。全然完璧じゃない」
「なんでだよ。お前、メイドの経験あるだろ。ヴィクトリア家政で働いてたじゃねぇか」
「あれは戦闘メイド。接客とは別物」
「でも、メイドはメイドだろ」
「違う。全然違う」
エレンは大きくため息をつき、こめかみを押さえた。どうやら本気で嫌がっているらしい。しかし、俺は引かなかった。
「いいか、エレン。お前のスキルを活かせる仕事は、メイド喫茶しかないんだよ。他の仕事は全部お前に向いてない」
「それは私がダメ人間みたいな言い方」
「ダメ人間じゃねぇか。寝てばっかりで、働くの嫌がって、愛想笑いもできない。そんな奴が他に何の仕事ができるってんだ」
「…王様に言われたくない」
「俺は王だから働かなくていいんだよ」
「それ、ただの屁理屈」
「屁理屈じゃねぇ。王の特権だ」
「最悪」
俺たちはしばらく睨み合った。通りすがりの人々が、喧嘩するカップルを見るような生暖かい目で俺たちを見ていく。しかし、やがてエレンが根負けしたように肩を落とした。
「…わかった。面接だけなら」
「よし、決まりだな」
「でも、受かるとは限らない」
「大丈夫だ。お前なら絶対受かる」
「根拠は?」
「お前が可愛いからだ」
「…は?」
エレンが固まった。次の瞬間、彼女の顔がボッと赤くなる。サメの尻尾がスカートの下でバタバタと暴れ始めた。
「な、なに言ってんの、急に」
「事実を言っただけだ。お前は無愛想だけど、見た目は悪くない。むしろ、そのクールな雰囲気がウケるんじゃねぇか?」
「…ばか」
エレンは俯き、俺の脛を軽く蹴った。痛くはない。むしろ、照れ隠しのそれが妙に可愛らしくて、俺は思わず笑ってしまう。
「なに笑ってんの」
「いや、別に」
「むかつく」
「そう言うな。ほら、さっさと面接に行くぞ」
俺はエレンの手を引っ張り、チラシに書かれた住所へと歩き出した。彼女は「めんどい」「無理」「帰りたい」と呟きながらも、俺の手を振りほどこうとはしなかった。
「なあ、エレン」
「なに」
「もし受かったら、俺が初めての客になってやるよ」
「…それ、セクハラ」
「王の命令だ」
「最悪の王様」
そう言いながらも、エレンの口元が微かに緩んだのを、俺は見逃さなかった。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア