※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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ダチョウの群れ

「ただいま。それと、連れ帰ったぞ」

 

俺がアパートのドアを開けると、部屋の中から漂うポテトチップスとビールとサメの気配の混ざった空気が、一瞬にして凍り付いた。いや、正確には時が止まったのだ。読者諸君、信じがたい光景を目の当たりにした時、人間というものは思考を停止させるものである。だが、ジューマンとてそれは同じことらしい。

 

ソファでビールを煽っていたレオーネの手が止まり、床で寝転がっていたエレンのサメの尻尾がピタリと静止し、ポテトチップスを貪っていたガーフィールが口を大きく開けたまま固まり、窓の外から顔を突っ込んでいたマンモスマンでさえ、その巨大な鼻の動きを止めたのだ。

 

彼らの視線が、俺の背後の影、すなわち薄暗い路地裏でゴミを漁っていたダチョウ獣人、レイスに釘付けになった。

 

「……え?」」

 

レオーネが間の抜けた声を上げた。

 

「レイス…か? お前、レイスだよね?」

 

「は、はい! レイスです! お久しぶりです、みなさん!」

 

レイスが俺の背中からひょっこりと顔を出し、翼をパタパタさせて挨拶をする。その姿は、かつてジューマンワールドで群れを率いていた威厳あるリーダーというよりは、親に見つかってしまった問題児のそれであった。口元にはまだキャベツの千切りがついている。

 

「なんでお前がここにいんだよ!?」

 

ガーフィールがようやく口を閉じ、代わりに驚愕の叫び声を上げた。ポテトチップスの袋が床に落ち、カサカサと音を立てる。

 

「それは私も聞きたいですねぇ。まさか、ゴミ箱の住人になったとか?」

 

エレンが冷ややかな視線でレイスを見つめる。サメの尻尾がゆらりと揺れ、嫌味と好奇心が入り混じった波動を放っていた。

 

「ち、違います! それはその…腹が減って…いや、人間の世界の食糧事情を調査してたんです!」

 

レイスが顔を真っ赤にして反論するが、説得力のかけらもない。

 

「調査って、ゴミ箱を? 漁ってただけじゃない」

 

「めんどい言い訳だねぇ」

 

レオーネとエレンの冷徹なツッコミが突き刺さる。レイスはシュンと翼を縮こまらせた。だが、ここで最も重要な疑問が投げかけられることとなる。

 

「待てよ」マンモスマンが低い唸り声で言った。「お前は群れのリーダーだったはずだ。なのに、なぜ一人でこんなところにいる?」

 

その言葉に、部屋の空気が再び緊張した。リーダー。ダチョウ獣人の群れを統べる者。それがレイスだ。だが、今の彼女は、どう見ても頼りなげな一人の少女に過ぎない。

 

「それが…気がついたらここにいたんです。他のみんなはどうなったのか、私もわからなくて…」

 

レイスの声が震え、褐色の瞳に再び涙が浮かぶ。リーダーとしての威厳は、見知らぬ世界に放り出された恐怖の前では無力だったのだ。

 

「なるほどな。お前も俺たちと同じってわけか」

 

俺は腕を組み、レイスの前に立った。彼女は不安そうに俺を見上げる。

 

「安心しろ。ここは俺の城だ。お前の群れじゃないが、ここにいれば安全は保証する。飯も食わせてやる。ゴミ箱の残飯じゃなく、ちゃんとしたな」

 

「王様…」

 

レイスの目が輝いた。涙が引っ込み、代わりに信頼と安心の光が宿る。

 

「というわけだ。こいつも今日から俺の家臣だ。文句あるか?」

 

俺は全員を見渡した。レオーネはビールを一口飲み、ニヤリと笑った。

 

「いやね、王サマがそう決めるなら異議はないよ。それに、賑やかなのは嫌いじゃないしね」

 

「めんどいけど、まあいいわ。鋏の手入れの相手が増えただけ」

 

エレンがぼそりと言い、布団に潛り直す。

 

「俺様のポテトチップス勝手に食うなよ!?」

 

ガーフィールがレイスに指を突きつける。

 

「それは約束できないな…」

 

「約束しろよ!」

 

「時間がない。我々はこれからどう動くかだ」

 

マンモスマンが静かに言った。その言葉に、俺は頷いた。

 

「ああ。レイスが来たってことは、他のジューマンもこの世界に来ている可能性がある。探索の範囲を広げるぞ。それに、こいつの脚力は伊達じゃない。配達業も人手不足だ」

 

「配達? 私が?」

 

レイスが目を丸くする。

 

「ああ。お前のダチョウの脚なら、バイクより速く走れるだろ。ウーバーイーツ、始めるぞ」

 

「ウーバー…イーツ? なにそれ、美味しいの?」

 

「仕事だ。働かざる者食うべからずだ。ゴミ箱漁りはもう終わりだぞ」

 

俺はレイスの肩を叩いた。彼女は驚きつつも、やがて強く頷いた。

 

「わかりました! 私、リーダーとして、王様の期待に応えてみせます! 絶対に!」

 

「よし。なら歓迎する。ようこそ俺の国へ、レイス」

 

こうして、俺の家にまた一人、厄介で、食費のかさむ、だが頼れる家臣が加わったのだった。窓の外からマンモスマンが「狹くなるな」と呟き、エレンが「うるさい」と言い、ガーフィールが「俺様のベッドは死守する!」と叫び、レオーネが笑い転げる。

 

王の城は今日も騒がしい。だが、その騒がしさこそが、俺の国の証だ。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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