※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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ダチョウの兵士

「ぐっ…!」

 

光の槍が俺の左肩を掠めた。装甲が削れ火花が散る。痛みが走るが構っていられない。レイスの前に立ち、二体の堕天使の攻撃を受け止め続ける。一体は光の槍を遠距離から投擲し、もう一体は剣で接近戦を挑んでくる。二方向からの同時攻撃。鷹の視力で軌道は読めるが、レイスを庇いながらでは満足に動けない。

 

「王様…私のことは…!」」

 

「黙ってろ! お前は下がってろ!」

 

俺は叫びながらイーグライザーで剣の攻撃を受け流した。金属が悲鳴を上げる。男の剣技は予想以上に重い。一体だけでも手強いのに、背後から槍が飛んでくる。俺は空中へ退避し槍を回避するが、その隙に剣の男が間合いを詰めてきた。

 

「守るので精一杯か、獣の王?」

 

男がせせら笑う。イーグライザーで斬りかかるが、男は軽やかに後退する。まるで俺の動きを全て知っているかのような反応速度だ。

 

「クソッ…!」

 

舌打ちをした時だった。

 

「王様」

 

レイスの声が聞こえた。弱々しい声ではない。震えてはいるが、どこか芯のある声だった。

 

「私は…王に守られるだけの存在じゃありません」

 

俺は振り返った。レイスが壁に手をつき立ち上がっていた。血まみれの翼が震えながらも広がっている。その褐色の瞳に涙はまだ浮かんでいるが、別の光が宿り始めていた。

 

「レイス無理するな! 怪我が――」

 

「無理じゃありません」

 

彼女は言い切った。声が震えていない。いや、震えている。だがその震えは恐怖ではない。闘志だ。

 

「私はダチョウのジューマンです。走ることが私の生きがいです。そして…兵の駒を頂いた者です。王の盾になるだけが、私の役目じゃない」

 

その瞬間だった。レイスの胸の駒が激しく明滅した。オレンジ色の光が脈打ち、彼女の全身を包み込んでいく。

 

「これは…!」

 

俺の王国の駒が反応した。王の駒が熱を帯び、レイスの駒と共鳴し始める。今まで感じたことのない感覚。レイスの力が、俺の中に流れ込んでくる。

 

「兵の駒…覚醒するんですかね」

 

レイスは翼を広げた。オレンジの光が翼の羽毛一枚一枚に染み込み、輝かせる。彼女の瞳が変わった。怯えが消え、鋭い光だけが残った。ダチョウの本能が目覚めつつある。

 

「王様、私に合わせてください」

 

「合わせるって何をだ」

 

「私の風を読んでください。鷹の目ならできるはずです」

 

風を読む? 俺は一瞬理解しかけたが、レイスはすでに走り出していた。

 

速い。

 

いや、速いなどという言葉では足りない。彼女のダチョウの脚がアスファルトを蹴るたびに爆発的な推進力が生まれる。だがそれだけではない。彼女が走るたびに、空気が変わるのだ。風が生まれ、流れが変わり、周囲の気圧が揺らぐ。

 

俺の鷹の視力がそれを捉えた。レイスが走るたびに生まれる微風の軌道。それがまるで意思を持ったかのように、堕天使たちの動きを予測し、誘導している。

 

「これが…兵の駒の力か」

 

集団戦術。兵の駒が持つ能力の一つ。だがレイスは一人だ。一人なのに、彼女の走りが生み出す風の流れは、まるで複数の存在が連携しているかのような情報を含んでいた。

 

「来るよ!」」レイスが叫んだ。

 

その声と同時に、俺は理解した。風が教えてくれたのだ。右側の剣の男が、次の瞬間に左へ迂回して俺の背後を取ろうとしていることを。

 

「読めた!」

 

俺は即座に反転し、背後からの斬撃をイーグライザーで受け止めた。男が驚愕の声を上げる。

 

「なぜ俺の動きが――!」

 

「風が教えてくれたんだよ」

 

俺は男の剣を弾き飛ばし、カウンターの蹴りを腹に叩き込んだ。男が吹き飛び壁に激突する。

 

「次は左だ! 槍を投げてくる!」

 

レイスの声が響くと同時に俺は左へ跳んだ。次の瞬間光の槍が俺のいた場所を貫いた。アスファルトが溶ける。

 

「なっ…避けたのか!?」

 

槍の男が信じられないという顔をしている。当然だ。自分の攻撃が読まれたなどと思っていないのだから。

 

「お前の投擲モーションは風でわかる。右肩の筋肉が収縮する時に特定の気流が発生する。それを読めば次の軌道は一目瞭然だ」

 

レイスが走りながら叫ぶ。彼女のダチョウの脚が地面を蹴るたびに風が巻き起こり、その風が堕天使たちの微細な動きを俺に伝えていた。

 

鷹の視力とダチョウの風読み。空の王者と大地の走者。二つの能力が一つになった時、俺たちは完全に敵の動きを掌握していた。

 

「くそっ! たかが鳥一匹と獣一匹に!」

 

剣の男が立ち上がり怒りに任せて突っ込んでくる。だが俺には見えている。彼の次の一歩が右足になることを。踏み込みの角度が十五度左に傾くことを。そしてその結果、彼の剣が俺の左側面を狙うことが。

 

「そこだッ!」

 

俺は男の踏み込みに合わせて一歩踏み込みイーグライザーを突き出した。刀身が男の剣腕を貫く。男が絶叫し剣を落とす。

 

「ぎゃあっ!?」

 

「終わりだ」

 

俺は男を蹴り飛ばし次の敵に向き直った。その時、新たな気配を感じた。

 

「増援か!」

 

空からさらに五体の堕天使が降りてきた。黒い翼を広げ光の槍を構えた姿は先日の教会での戦いを思い出させる。だが今回は違う。俺にはレイスがいる。

 

「王様上からです! 風が…三体が右二体が左! 中央の一体は正面から突っ込んできます!」

 

レイスの声と風が同時に俺に情報を伝える。鷹の視力で確認するまでもない。彼女の風読みは既に敵の配置と動きを完全に把握していた。

 

「右三体は俺がやる! 左二体はレイスお前が走って撹乱しろ!」

 

「了解です!」

 

レイスが走り出した。オレンジの残像が路地裏を駆け抜ける。ダチョウの脚力が生み出す風が堕天使たちのバランスを崩していく。彼女は直接攻撃しない。だがその走りが生み出す風圧と気流の変化が敵の動きを狂わせる。

 

「何だこの風! 視界が――!」

 

堕天使たちが混乱する。その隙を突いて俺は急降下した。イーグライザーが赤い弧を描き最初の堕天使の翼を斬り裂く。黒い羽根が舞い散り男が墜落していく。

 

「次ッ!」

 

俺は空中で反転し二体目に突っ込んだ。ジュウオウバスターを連射し動きを封じたところへイーグライザーの一閃。男の身体が真っ二つになり黒い粒子となって消滅する。

 

「くくそっ! こいつら何者だ!」

 

残りの堕天使たちが恐怖に染まり始めた。俺とレイスの連携は完璧だった。俺が見てレイスが走る。俺が斬りレイスが風で導く。空と大地二つの王者の連携に堕天使たち為す術がない。

 

「撤退だ! 引けッ!」

 

指揮官格の堕天使が叫ぶ。残った堕天使たちが一斉に空へ逃げようとした。だがレイスの風がそれを許さない。

 

「逃がしません!」

 

レイスが全速力で路地裏を駆け抜けると巨大な突風が巻き起こった。風が堕天使たちの飛行を阻害し彼らを地上に引きずり落とす。

 

「今です王様!」

 

「ああ! まとめて叩く!」

 

俺は最高高度まで上昇し翼を折り畳んだ。急降下。イーグライザーが赤熱し空気を切り裂く轟音が響く。

 

「必殺!ライザースピニングスラッシュ!!」

 

イーグライザーの刀身がムチ状に伸び地上に堕ちた堕天使たちを一気に巻き込み斬り裂く。赤い閃光が夜の闇を切り裂き五体の堕天使が同時に爆散した。

 

路地裏に静寂が戻った。俺は着地し変身を解除した。全身の痛みがぶり返すが深い安堵感がそれを上回っていた。

 

「レイス大丈夫か?」

 

俺が振り返るとレイスは壁にもたれかかりへたり込んでいた。血まみれの翼が力なく垂れ下がっている。だがその顔には確かな笑みが浮かんでいた。

 

「やりましたね王様…私たちだけで…」

 

「ああ。お前のおかげだ。お前の風がなかったら俺一人じゃ勝てなかった」

 

「本当ですか?」

 

「本当だ。お前は守られるだけの存在じゃない。俺の兵だ。俺の戦術の要だ」

 

レイスの目から涙がこぼれた。今度は恐怖の涙ではない。嬉しさの涙だ。彼女は翼で顔を隠し声を殺して泣いた。

 

「ありがとうございます…王様…」

 

「泣くなよ王の前で泣くと国が湿気るって前に言っただろ」

 

「湿気ませんよぉぅ…!」

 

俺は苦笑しながらも彼女の頭を撫でた。ふわふわの羽毛が掌に伝わる。だが感傷に浸っている暇はない。

 

「さてレイス。あいつらから何か聞き出せそうか?」

 

レイスは涙を拭い顔を上げた。

 

「あ…はい。配下の一人が走りながら何か言ってました。コカビエル様の計画は駒王学園で…校庭に集まるって」

 

「駒王学園の校庭?」

 

「はい。全ての聖剣と悪魔を集めて決着をつけるって。満月の夜にやるって言ってました」

 

満月の夜。今日は満月だ。つまり今夜。俺は拳を握りしめた。

 

「急ぐぞ。仲間たちに連絡して駒王学園へ向かう」

 

俺はスマホを取り出し全員に連絡を入れた。レオーネエレンガーフィールマンモスマン。全員が出る。コカビエルの計画。聖剣エクスカリバーと悪魔。すべてが駒王学園で交差する。

 

「レイスお前は帰って休め。怪我をしてるんだ」

 

「嫌です」

 

即答だった。レイスは翼を広げよろめきながらも立ち上がった。

 

「私は兵の駒を持つ者です。王と一緒に走ります。それに私の風読みが必要でしょ?」

 

「…怪我が悪化しても知らねぇぞ」

 

「知りませんよ私も」

 

「強情だな」

 

「ダチョウは強情なんです」

 

俺はため息をついた。だがその強情さに助けられたのは事実だ。

 

「よし行くぞレイス。俺の国を守るために」

 

「はい王様!」

 

二人は夜の駒王街を駆け出した。風が背中を押す。満月が二人の道を照らす。駒王学園でコカビエルとの決戦が待っていた。

 

王の戦いはまだ終わらない。だが仲間がいる限り俺は進み続ける。それが王というものだ。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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