サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
「あぁぁぁぁぁ……死ぬぅぅぅぅ……」
俺はベッドの上で、まるで脱殻した蝉のように大の字になっていた。いや蝉の方がまだマシだ。蝉は少なくとも筋肉痛なんて感じないはずだ。だが今の俺は全身の筋肉が悲鳴を上げていて指一本動かすことすらできなかった。
原因は明白だ。ジュウオウゴリラへの変身である。
あの戦いで俺はゴリラの筋力を限界まで引き出した。結果としてコカビエルを打ち倒すことには成功したのだが代償はあまりにも大きかった。ゴリラの筋肉は鷹のそれとは根本的に違う。瞬発力ではなく純粋な暴力の塊。それを無理やり人間の身体で再現した結果がこれだ。全身の筋繊維が一根残らず泣いている。
「動け…動いてくれ俺の体…」
俺は右腕を動かそうとした。脳から指令が発せられる。しかし筋肉が「嫌です」と答えたかのようにピクリとも動かない。まるで全身が石膏で固められたようだ。
「王サマぁ大丈夫かい?」
ドアが開きレオーネが入ってきた。手にはボトル入りのマッサージオイル。何やら物騒な笑みを浮かべている。
「大丈夫じゃない。動けない」
「ふふんそうだろうねぇ。ゴリラの変身は初めてだったろ? 筋肉痛になるのは当然さ。アタシらジューマンじゃ考えられないけど人間の身体には負荷がかかりすぎるんだよ」
レオーネはそう言うとベッドの端に腰を下ろした。オイルを手に取り掌で温めるように揉み合わせる。その動作は手慣れたものだ。どこで覚えたのかは聞かないでおこう。
「ささ、寝返りをうってくれ王サマ。アタシが特製マッサージをしてあげるよ。筋肉痛にはこれが一番なんだから」
「本当にか? あまり激しくするなよ。今の俺はガラス細工みたいなもんだ」
「任せなさい。アタシは獣の扱いには長けてるんだから」
その言葉の意味を俺は深く考えるべきだった。
「じゃあ、まずは背中からいくよ」
レオーネが俺の背中に掌を当てた。温かいオイルの感触が肌に広がり一瞬心地よいと感じた。だがその安らぎは束の間だった。
「ほいっ」
レオーネの掌が俺の肩甲骨のあたりにめり込んだ。
「ぎゃあああああああ!!?」
俺の口からありったけの悲鳴がほとばしきた。まるで hot iron を押し当てられたかのような激痛が背中を駆け巡る。目から星が見えた。いや星じゃない。星雤だ。宇宙が俺の背中の中でビッグバンを起こした。
「いだだだだだ!? おまレオーネお前何をした!?」
「マッサージだよ。筋肉の凝りをほぐしてるんだ。ここ、すごい凝ってるねぇ」
レオーネは涼しい顔で言いながらさらに掌を押し込んだ。指が僧帽筋の深部に到達した瞬間俺の身体がビクンと跳ねた。
「ぎゃああああ!! そこそこそこ! 肩甲骨が割れる割れる割れるぅぅ!!」
「大げさだねぇ。まだ軽く触れてるだけだよ」
「これが軽いだと!? お前の軽いは別の言語だ!」
俺は枕をかき抱え顔を埋めた。悲鳴が枕に吸い込まれくぐもった音になる。だが痛みは消えない。むしろレオーネの手が動くたびに増幅されていく。
「さあ次は腰だよ」
「待て待て待て! 三秒待て! 三秒だけ!」
「三秒? 何言ってんの。さあ、い・く・よ」
レオーネの掌が俺の腰に到達した。その瞬間俺の脳内で白い閃光が走った。
「ぎゃあああああああああ!!」
俺はベッドの上で海老反りになった。いや反ろうとした。しかし筋肉痛で動けないのでただの拘束された海老になった。
「ここ一番のとこだねぇ。ゴリラの変身で腰に一番負荷がかかるんだ。しっかりほぐさないと明日になっても動けないよ」
レオーネは笑いながら腰の深部に指を食い込ませた。腸腰筋。そこは人間の身体の核心であり筋肉の要でありそして俺の理性の最後の砦だった。
「ああああああ…! 腰が…腰が…!」
「いい声だねぇ王サマ」
「褒められて嬉しくない! いたたたた!」
俺は枕を噛みしめた。涙が出てきた。これは痛さの涙だ。情けないが止められない。筋肉痛の極みに指を食い込ませるのは火傷の上からさらに熱湯をかけるようなものだ。
「レオーネ…頼む…優しく…」
「優しくやってると治らないんだよ。筋肉の深部まで到達しないと意味がないのさ。さあ次は脚だよ」
「脚!? 待ってくれ脚はだめだ! 脚だけは!」
「だめだね。王サマの脚はアタシのものさ」
レオーネは俺の右脚を抱え込み太ももの内側に掌を押し当てた。内転筋。ここは鷹の変身では使わないがゴリラの変身では全力で地面を蹴るために酷使される筋肉だ。
「ほいっ」
「ぎゃあああああああ!!?」
俺は叫んだ。いや叫びを通り越して悲鳴が音にならなかった。喉から空気が漏れる音だけが部屋に響く。
「あれ王サマ声出なくなったねぇ。そんなに気持ちいいのかい?」
「気持ちよくない! 死ぬ! 本当に死ぬ!」
「死なないよ。アタシがついてるからね」
「ついてるから死ぬんだよおおおお!」
レオーネは笑いながらマッサージを続けた。太ももの前側横側後側。すべての筋肉を容赦なく解きほぐしていく。そのたびに俺はベッドの上で鯉のように跳ねた。
「次はふくらはぎだね」
「もう許してくれぇぇ…」
「許さない。さあ、力を抜いて」
「力を抜く余裕がない!」
レオーネの指がふくらはぎの奥深くに到達した。腓腹筋の深部。そこには人間の身体のあらゆる痛覚が集中しているのではないかと疑うほどの激痛が走った。
「ああああああああ!!」
俺の悲鳴はアパートの壁を貫き近所の住人にまで届いたかもしれない。いや届いただろう。次の瞬間壁の向こうから「うるさい!」という怒声が聞こえたからだ。
「王サマ少し声大きすぎるよ。近所迷惑だ」
「お前のせいだろぉぉ!」
「さあ最後だ。首と肩をほぐして終わりにするよ」
レオーネは俺の首に手を回した。その瞬間俺の全身が凍りついた。首だ。首にあの力強い掌を当てられたら本当に死ぬかもしれない。
「レオーネ…まさか…」
「安心して。首は優しくするよ。首の筋肉は繊細だからね」
レオーネは確かに優しく触れた。最初は。最初はだ。だが次の瞬間、彼女の指は首の奥深くにある斜角筋を正確に捉えた。
「ぎゃああああああああああ!!」
俺は叫んだ。いやもう叫びすら出なかった。声にならない声が口から漏れる。あまりの痛みに視界が白くなり一瞬意識が飛びそうになった。
「はい終わり!」
レオーネは手を離し満足げに微笑んだ。俺はベッドの上でぐったりとしている。心も体も砕け散った。
「どうだい王サマ。だいぶ軽くなったろう?」
「軽く…ない…。死んだ…俺は死んだ…」
「死んでないよ。さあ動いてみな」
「動けない…。いや待て…」
俺は恐る恐る右腕を動かした。動いた。痛い。だが先ほどよりは動く。さらに左腕。右脚。左脚。全身がまだ痛むが確かに可動域が広がっている。
「…効いてるな」
「当たり前だろ。アタシのマッサージは特別製さ。ジューマンの技術と人間のオイルを合わせたハイブリッドマッサージだよ」
「ハイブリッドマッサージって名前つけんな」
「名前はどうでもいいけどさ、王サマ明日は動けるようになるよ。感謝しな」
レオーネはそう言うと俺の額にキスをした。
「…ありがとう。痛かったけど効いたよ」
「へへっ。王サマからお礼を言われると照れるね」
「だがなレオーネ」
「ん?」
「次はもっと優しくしてくれ。じゃないと俺本当に死ぬから」
「はははは! 次も全力でやるよ。それがアタシ流だからね」
「聞けよ!」
レオーネは豪快に笑いながら部屋を出ていった。後に残されたのはボロボロの俺とマッサージオイルの香りだけ。だが確かに体は軽くなっていた。あの激痛の甲斐があったということだろう。
「…あいつ本気で殺す気だったろ」
俺は天井を見つめながら呟いた。だが口元は微かに緩んでいた。痛かった。だが彼女の温かい掌の感触は覚えている。王の身体は家臣の手で守られている。それが何よりの慰めだった。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア