サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
机の上は、まさに戦場跡だ。
いや、比喩でもなんでもなく、ただ単に俺の脳みそが煮えたぎって出した結果がこれなのだ。プリントアウトしたネットの怪しげなオカルト情報、手書きのメモ書き、どこかの古書店で叩き売られていた魔術体系の概略図。それらが、まるで捨てられたトランプのように散乱している。
「……チッ」
深いため息と共に、思わず舌打ちが漏れる。
指先でこめかみを押しながら、乱雑に広がった紙の群れを睨みつけた。視線が熱を帯びているのは、きっと怒りのせいだ。いや、情報不足に対する焦燥感といった方が正しいか。
デスガリアン残党がばら撒いたコンテニューメダル。
あれを破壊し尽くすのが、今の俺たちに課された使命だ。だが、メダルの出所や出現パターンが掴めない。まるで闇雲に蚊を叩くような作業に、俺の忍耐はとっくに限界を超えている。
それだけじゃない。
この世界には、俺たちがまだよく知らない、もっと厄介な連中がいるらしい。三大勢力、とか言ったか。悪魔に天使に堕天使。冗談じゃない。まるで某ファンタジー小説の設定資料集をひっくり返したような連中が、この街のどこかに息を潛めているというのだ。
「俺は王になる男だ。だからこそ、情報は命綱だ。なのに……!」
苛立ちのまま、髪をかき上げる。前髪が逆立って、まるで俺の心の中を映したみたいにはね上がった。
俺の知りたいことは、どこにも書いていない。
いや、あるのかもしれない。だが、それは俺の手の届かない、さらに深い闇の奥底だ。今の俺には、かつての冒険で手に入れた「王者の資格」と、それと融合した神器「王国の駒」がある。だが、駒があっても、盤面が見えなければ指し手は決まらない。王が盲目でどうする。王が迷ってどうする。
「クソッ……行き詰まりました、って顔で家臣たちに会いたくないんだよ」
ボソリと呟くと、その声は予想以上に弱々しく響いた。
エレン、レオーネ、マンモスマン、ガーフィール、レイス。彼らは俺の家臣だ。俺を信じてついてきた。絶花だって、俺の最強の侍として隣に立ってくれている。俺が弱音を吐けば、彼らの顔色が曇る。王が不安を見せれば、国は揺らぐ。それは絶対に嫌だ。
だから、こうして深夜の自室で一人、頭を抱えるしかない。
窓の外からは、遅い時間帯の車の走行音がたまに聞こえるだけ。静寂が、俺の孤独感を際立たせる。まるで世界中で俺だけが、取り残されているような錯覚だ。
(情報不足が俺の首を絞めている。三大勢力の連中が何を考えているのか、コンテニューメダルがどうやって生成されているのか……全部がブラックボックスだ)
グラスに残った冷めた麦茶を一気に煽る。舌に広がる渇きは、喉の渇きだけじゃない。
王として、どう動くか。それを決めるのが俺の役目だ。だが、今の俺は手掛かりなき迷路の中で、出口を探してぐるぐると回っているだけの迷子だ。
「……まあ、迷子のうちなら、まだやり直しが効くか」
自分に言い聞かせるように独り言を漏らす。
情けない。だが、ここで投げ出すわけにはいかない。俺は王になる男なのだから。
椅子の背もたれに、ドサリと深く体を預けた。
視線が、天井の染みへと吸い込まれていく。
深い、深いため息が、静かな部屋に重く沈んでいった。
天井の染みを数えるのにも飽きた頃だった。
思考が泥の中を歩くように重い。意識がふわふわと浮遊して、現実の輪郭が少しだけ滲んでいる。疲労というやつだろうか。いや、違う。これは情報という名の迷宮を彷徨った挙句、出口が見つからずに行き場を失った脳の悲鳴だ。
(……ああ、クソ)
目を閉じると、まぶたの裏に散らばった紙片の文字が残像として浮かぶ。三大勢力の概要。コンテニューメダルの破壊履歴。どれも断片的で、繋がらないパズルのピースだ。
静寂が耳鳴りのように響く。
時計の秒針が、ただひたすらに時を刻んでいる。
その静寂の中に――
ふわり、と。
何かが、混じった。
空気が、変わった。
それが何なのか、すぐには分からなかった。ただ、部屋の空気の質感がほんの少しだけ違う。まるで春風が隙間から滑り込んできたような。いや、もっと具体的に言えば、どこか甘い、花のような香りが鼻先を掠めた。
(……え)
思考がまだ泥の中にあった。警戒心という名の防波堤は、とっくに波にさらわれている。それでも――いや、だからこそか。背中の感覚が、遅れて反応した。
誰かが、いる。
背後から。
すぐ背後から。
何もないはずの空間に、確かな気配が存在している。ドアの開く音なんて聞こえていない。窓が開いた音もない。それなのに、そこに誰かが立っている。生き物の体温と呼吸が、背中越しに伝わってくる。
全身の毛が逆立った。
「――!」
椅子がガタガタと音を立てた。勢いよく振り返った拍子に、肘が机の端に当たり、散らばった書類が空中でバサリと舞う。まるで紙吹雪だ。恰幅のいい大事な資料たちがヒラヒラと優雅に落下していくのを、俺の目は追わなかった。
追う必要が、なかった。
そこに、いた。
金色のポニーテールが、赤いリボンで高く結わえられている。部屋の薄い照明を受けて、まるで夕陽を溶かして糸にしたように輝く髪。それが、ふわりと揺れた。
ポニーテールの根本から、ぴんと立った二つの耳。金色の、毛に覆われた――狐の耳。
視線が下げられる。
紫を基調とした和装風の衣服。淡い花模様。金色の縁取り。露出の多い軽装だが、隠密行動を思わせる実用的な装い。黒い腕当て、脚衣。
そして、背後には――大きく、柔らかな尻尾。金色の毛並みを持つ狐の尻尾が、ゆっくりと揺れている。
青緑色の瞳が、俺を見ていた。
若々しい、だがどこか深い時間を感じる顔立ち。豊満な体格が紫の衣に包まれ、それがまた不思議な色気を放っている。
全部が、合致する。
一つ残らず、記憶の底から引っ張り出された情報と合致する。
あの耳。あの尻尾。あの髪。あの服。あの瞳。
夏休みの、あの一夏。ジューマンの世界で出会った、数多くの仲間の中でもひときわ印象深かった――いや、正直に言えば、相当油断ならない奴だと思っていた。明るくて天真爍漫で人懐っこいのに、正体は天狐の土地神。ブリオッシュと共に諸国を巡り、魔物や妖刀を封じる封魔の狩人。
オンミツ部隊筆頭。
拙者、と自分を呼ぶ、あの狐ジューマン。
喉が、動いた。
声が出そうで、出ない。空気が喉の奥で詰まっている。
だが、口は勝手に動いた。
「――ユキカゼ!?」
素っ頓狂な、我ながら情けないほど驚愕に満ちた声が、静かな部屋に響き渡った。
狐の耳が、ぴくりと動いた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア