サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
「太郎殿……! まさか、本当に太郎殿でござるか!?」
ユキカゼの声は驚きと歓喜がせめぎ合うように震えていた。大きな狐尻尾がブンブンと音が聞こえるほど激しく振られて、彼女の感情の高まりを全身で表している。青緑色の瞳が見る見るうちに潤んでいく。
俺が返事をするより早く、彼女は一歩を踏み出していた。
「太郎殿! 太郎殿! やっと会えたでござる……!」
その勢いは、もはや跳躍と言った方が近い。紫の衣がひらりと舞い金色のポニーテールが放物線を描く。次の瞬間、胸元に柔らかな弾力としなやかな四肢が飛び込んできた。
「ぐえっ!?」
思わず変な声が出た。椅子ごと後ろへひっくり返りそうになってどうにか踏みとどまる。背中が壁にぶつかって、鈍い音が部屋に響いた。ユキカゼの腕が俺の背中に回りぎゅうっと力が篭もる。狐の耳が、俺の顎の下でピクピクと動いている。尻尾が俺の足に絡みついてまるで離すまいとするかのように巻き付いてきた。
豊満な体は見た目以上に柔らかく暖かくそして彼女の心臓の鼓動がびっくりするほど強く伝わってくる。彼女の安堵が、体温と鼓動を通して流れ込んでくるようだ。
「ちょ、おま、ユキカゼ……! おちつ、けって……!」
両腕を中途半端に広げたまま俺はどうにか体勢を保つ。机の上の書類や筆記用具がまた派手に散らばって、壁に掛けられた時計が斜めに傾いていた。頭蓋骨の周りを彼女の髪と耳がくすぐってくしゃみが出そうになるのを必死に堪える。
「見知らぬ世界に来た時は、どうなるかと思ったでござる。でもこうして太郎殿がいる。それだけで、もう何だって出来る気がするでござるよ」
「いや、それはいいんだが。悪いもうちょっと離れてくれないか。首が、おまえの耳でくすぐったい」
「拙者、嬉しさのあまり加減が出来ぬでござる。少しだけこのままで」
ああ、もう。困った奴だ。だが不思議と悪い気はしない。
ユキカゼの、かつての冒険で見せたらしい明るく天真爛漫な振る舞い。だが今は声の端にわずかな不安とそれを覆い隠すほどの歓喜が溢れていた。俺は両腕をゆっくりと彼女の背中に回した。
「……こっちに来ていたのか。ユキカゼ」
「勿論でござる。拙者を誰だと思っておるでござるか。オンミツ部隊筆頭、ユキカゼ・パネトーネ。少しの世界渡りで音を上げるような柔な狐ではないでござるよ」
強がりに見せかけて、その声は少しだけ震えている。
狐耳がまたピクピクと動いた。
彼女は俺の胸元に顔を埋めたまま深い、深い安堵の息を吐いた。俺は何も言わずに、彼女が起き上がるのを黙って待つことにした。今はそれでいい。王としての言葉は彼女の呼吸が落ち着いてからで十分だ。
再会の余韻が、静かな部屋をゆっくりと満たしていった。
抱擁を解いた後、ユキカゼの顔を覗き込んだ。
その表情は、まるで梅雨の合間の晴天のように劇的に変わっていた。先ほどまでの不安に揺れていた瞳は、今はもう、晴れ渡っている。
「…ふぅ。すまぬでござる、太郎殿。拙者、つい気が緩んでしまったでござるよ」
狐耳がぺたんと寝そべった。照れ隠しだろうか。尻尾の動きも少しだけ穏やかになっている。
「構わないさ。それより、ユキカゼ。お前、こっちに来たばかりなんだろ?」
俺の問いに、ユキカゼは目をぱちりと瞬かせた。
「…何でそれを」
「顔に書いてある」
実際、書いてあるも同然だった。服の裾に泥がついている。脚衣にはどこかの草木の破片が絡んでいる。旅装を解く暇もなく、ここへ辿り着いたことが見て取れる。
「拙者、気がついたら見知らぬ場所におったでござる。空も違う。匂いも違う。空気の質まで違う。どこへ行けばいいかも分からず、ただひたすらに歩いておった」
「…それで、俺を見つけたのか」
「狐の鼻でござるよ。太郎殿の匂いは、どれだけ世界が変わっても忘れるものでござらぬ」
ニッと笑って親指を立てるユキカゼ。その笑顔が、妙に眩しかった。
(こいつ、本当によく笑う奴だな)
かつての冒険でもそうだった。どんな状況でも、ユキカゼは笑っていられた。不器用な笑顔だったが、それが周囲を明るくした。今も同じだ。見知らぬ世界に放り出されたというのに、仲間の顔を見つけた途端にこの明るさだ。
俺は腕を組み、わざとらしく鼻を鳴らした。
「いいか、ユキカゼ。ここは俺の世界だ。俺の家だ。お前が俺の仲間である以上、ここはお前の居場所でもある」
「…太郎殿」
「王として迎え入れる、なんて格好つけた言い方は趣味じゃない。ただの事実だ。ここにお前の居がない理由はない。以上」
言い切ってから、自分で思った。なんて尊大な物言いだろう。だが、これが俺のやり方だ。きれいごとを並べるより、事実だけを叩きつける方が、ユキカゼには通じる。
「拙者…!」
狐耳がぴんと立った。尻尾が再びブンブンと振られ始める。
「感謝するでござる、太郎殿! 拙者、太郎殿の仲間でよかったでござるよ!」
「よかったじゃない。当然だろ。俺が認めた奴に、あとから文句をつける奴はいない」
「ふふっ。相変わらずでござるな、太郎殿は」
ユキカゼが嬉しそうに狐耳を揺らすのを見て、俺の胸の奥で何かがふっと軽くなった。
(ああ、そうだ)
さっきまで机に向かって、情報がない、手掛かりがない、と頭を抱えていた俺がいた。迷路の出口が見えないと嘆いていた俺がいた。
だが、目の前にいる。かつて共に命を懸けた仲間が、ここにいる。
情報が足りないなら、集めればいい。道が見えないなら、切り開けばいい。一人心細かった背中に、もう一人の気配が加わった。それだけで、世界の見え方が変わる。
王として、どうするか。
決まっている。仲間を迎え入れ、共に歩く。それだけだ。
「さて。座り込んでばかりもいられない。ユキカゼ、こっちだ」
俺は椅子から立ち上がった。固い木の床を踏みしめる足に、いつの間にか力が戻っていた。
ユキカゼが弾むような足取りで、俺の後ろに続く。狐の尻尾が揺れる気配が、背中越しに伝わってくる。
部屋の静寂が、少しだけ賑やかになった。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア